TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー   作:(╹◡╹)

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40.獣

 無事にアリエッタの協力を取り付けた一行は、セントビナーを出発した。

 各々が彼女の用意した巨大な鳥型の魔物、フレスベルグに乗り込む。

 

 ……というわけにも行かず、互いをフォローするために二人一組が提案された。

 無論セレニィによって。

 

「(これで旅の間美少女とイチャイチャできるぜ… くっくっく、コイツらチョロい!)」

 

 とはいえ、あまり大群で飛んでいても目立つ。出来れば数羽程で移動したいのも事実だ。

 セレニィの邪悪な本性はさておき、言っていることはもっともなのでその案は採用された。

 

 なお「二人でペア組んで」で余ったティアのためにミュウが貸し出されたことを追記する。

 セレニィも流石に哀れで見ていられなかったのだが、本人的にはそれなりに幸せな模様。

 

「一緒に頑張りましょうね、ミュウ!」

「ですの!」

 

「(まぁ、喜んでるようだしよしとしよう… うん)」

 

 そして最終的に、ルーク&ガイ、ジェイド&トニー、ティア&ミュウ、イオン&アニス…

 荷物運び専用の1羽に加えて、セレニィ&アリエッタという組み合わせの合計6組となった。

 

 この組み合わせにはセレニィとしても大満足だ。女性だったら誰でも良かったのだが。

 男同士、女同士でペアを組んだ以上は重量の差が凄いことになるにはなるが、そこはそれ。

 

 フレスベルグの体格の良い個体を優先的に男に割り振ることで解決させた。

 そもそもガイが女性に触れられない以上、このペア割りは半ば以上必然とも言えたのだが。

 

 かくしてそれなりに仲の良い者同士で、気持ちの良いフライトと相成った。

 

「大丈夫、セレニィ? 寒くない?」

 

「あはは、大丈夫ですよー。ありがとうございます、アリエッタさん」

「とーぜん。アリエッタはセレニィのお姉さんだモン!」

 

 お姉さんぶる、ちょっと背伸びしたアリエッタさんが可愛すぎて生きるのが辛い。

 え? ティアさん? ティアさんは、その、嫌いじゃないんですけどね…

 

「えーと… その、そういえばですね。アリエッタさん…」

 

 そんなことを考えつつ、セレニィはふと気になっていたことについて話を切り出した。

 

「ん? なに、セレニィ」

「えっと、イオン様と二人で話をしたいって言ってたじゃないですか」

 

「ん、言ってたです」

「さっきの組み合わせでもアニスさんに遠慮してたみたいですし、大丈夫だったのかなって」

 

「………」

「あ、いや、私はアリエッタさんと一緒で嬉しいんですけどね! もし辛いなら私から…」

 

「……フフッ」

 

 ひょっとして地雷を踏んでしまったんじゃないか、としどろもどろになるセレニィの表情。

 それを見てアリエッタは思わず笑みをこぼす。

 

 初対面の時から何かとこちらを気にかけてくれて、今も自分よりもこちらを優先している。

 そのお人好しな友達が、何故か自分以上に自分のことを気にしているのがおかしかったのだ。

 

 ……まぁセレニィの方は一貫して美少女に萌えていただけだったのだが。

 

 ひとしきり笑った後、アリエッタは口を開く。

 

「大丈夫、ですよ。我慢してないって言ったら、嘘になるですけど… いいんです」

「えっと… いいんですか?」

 

「えへへ… いいんです」

 

 そう言いながら照れたように微笑むアリエッタに萌えつつ、セレニィは内心で思った。

 何この子すげぇ、と。

 

 自分は我慢するのも努力するのもしんどいのも大嫌いだ。自堕落な人間なのだ。

 今のこの立ち位置とて、状況が許さないから嫌々やっているだけに過ぎない。

 

 そもそもそうなったのも主に巨乳やドSのせいで、好き好んで作り出した状況ではない。

 彼らがいなければ、恐らくニートよろしく養われる道を全力で選択していたであろう。

 

 そんな生粋のダメ人間からすれば、今のアリエッタは眩しいほど輝いて見えたのだ。

 

「イオン様、アリエッタとの思い出… なくしちゃってたです。前と、変わってたです」

「ちょっと待って下さい。そんな大事なこと、私に聞かせていいんですか?」

 

「? イオン様、『セレニィにだったら聞かせても構いません』って… 言ってた、です」

「えっ、なにそれ… こわい」

 

 なんか不意打ちで教団のトップシークレットについて聞かされてしまった気がする。

 あ、あれ… なんで危険から距離とってたつもりなのに巻き込まれてるのかな?

 

 そもそも『セレニィにだったら聞かせても構いません』ってなんなんですか、マジで。

 え? なに? 「どうせ近い将来死にますから冥土の土産ですよ」ってことなのかな?

 

 セレニィ、死んでしまうん? いやいやいや、死んでたまるか。絶対生き延びてやる。

 あ、胃がキリキリ痛んできたぜ… うん、恒例行事だね。ちょっとばかり油断してたぜ。

 

 そんなセレニィの内心など知る由もないアリエッタは言葉を続ける。

 

「今のイオン様の一番大事は、アニスです。……もうアリエッタじゃない、です」

「………」

 

「だから、ちょっとだけ寂しいですけど… これから、また仲良くなっていくです!」

「アリエッタさん…」

 

「イオン様もアニスも『それで良い』って言ってくれたです。……だから、いいんです」

 

 ほんの少しの寂寥感を滲ませつつ、健気に微笑んでみせるアリエッタ。

 その笑顔はセレニィのハートをいつもどおりに撃ち抜いた。

 

 なんてええ子なんや。天使はここにいたんだね。目頭を抑えながら内心でそう呟く。

 

 アリエッタの驚きの白さに、腹黒さと自己保身で構成されたセレニィも浄化される勢いだ。

 ……問題はセレニィから黒さを排除すると何も残らなくなる点だが、些細な問題だろう。

 

「……アリエッタさんは本当に優しい方ですね」

「? 別にアリエッタ、普通です」

 

「いや、本当に…」

「ん… だとしたら、全部セレニィのおかげです!」

 

「……はい?」

 

 どうしよう、アリエッタさんがなんかおかしなことを口走り始めてしまったでござる。

 やっぱり、イオン様との思い出が消去(デリート)されちゃったのがショックだったのだろうか。

 

 自分は胃薬しか持ってないが分けてあげるべきか? そもそも効果があるのだろうか?

 いや、待てよ。自分より下の存在がいることで他人に優しくなれる心理という可能性も…

 

 そんなことを静かに考えこんでいるセレニィを余所に、アリエッタは更に言葉を続ける。

 

「セレニィのおかげでママが助かって、イオン様と話せて、アリエッタ、ここにいるです」

「え? は? いや、まぁ… そうと言えなくも…」

 

「……ひょっとしたら、ママがティアやジェイドに殺されてたかもしれないです。そしたら」

 

 思わず目に涙を浮かべるアリエッタを慌てて慰める。

 いやいや、いくらあの巨乳とドSでも流石にあの事件でライガさんを一方的に殺めたりは…

 

 うん、しないと信じたい。一応、なんだかんだとこれまで一緒に旅をしてきた仲間だしね!

 

 何故か早鐘を鳴らし続ける心臓のあたりを抑えながら、セレニィはそう信じこむことにした。

 

「だから、誰がなんて言っても… セレニィは恩人、です。……胸はってほしい、です」

「……あ、はい」

 

「約束ですよ? 誰かにいじめられたらアリエッタに言うです。お姉さんが守ってあげるです」

 

 そう言って、満面の笑みを浮かべるアリエッタ。

 

 ……嫌々やってきたことであるが、自分はこの子の笑顔を守れたと思っていいんだろうか?

 ほんの少しだけ、セレニィは自分を取り巻く現状を前向きに受け入れようかと考え始める。

 

 そして、小さく拳を握り締めて心の中で密かに決意する。

 

「(うん… 明日から頑張ろう!)」

 

 ……ここで変わりそうで変わりきれないあたりが、セレニィのセレニィたる所以(ゆえん)かもしれない。

 

 

 

 ――

 

 

 

 それから一行は、カイツールに向けた空の旅を続ける。

 

 朝起きて、朝食と昼食用の弁当を作って、キャンプの片付けをして飛び立ち、昼に食事休憩。

 休憩後、午後飛び立って、夕暮れまで飛んで、キャンプと夕食の用意をして、夕食後に就寝。

 

 基本的にはその繰り返しである。途中からは飛行の際のペアを変えたりして中々に楽しんだ。

 

 セレニィとしては美少女とのペアはどれも楽しかったのだが、意外な楽しみも発見できた。

 ルークと一緒に飛んだ時にふと美少女談義をしたのだが、それが思いの外楽しめたのだ。

 

 同年代… とは言えないかもしれないが、男同士でこういう下らない話をするのは実に良い。

 

「やっぱり、イオン様が一押しだと思うんですけど… ルークさんはどう思いますか?」

「お、おう… そうだな(ガイが怖がってないし、イオンは男だと思うんだけどな…)」

 

「あ、でもでも! アニスさんやアリエッタさんも、すっごく可愛いですよねー!」

「まー、そうだよな。んじゃさ、ティアとかはどうなんだ? 見た目は美人だと思うけど」

 

「そうですよね… 見た目は美人なんですけどね… どうしてああなったんだ、マジで…」

 

 そうセレニィが頭を抱えれば、ルークも苦笑いを浮かべながら同意する。

 

「ははは… やっぱそういう評価になっちまうよなー…」

「ルークさんはティアさんが気になるんですか? もしそうだったら失礼だったかな…」

 

「いや、全然。ただ名前あがってないからどーなんかなーってな」

 

 とまぁ、そんなこんなで大いに話が弾んだ。

 

 なんか自分が一方的に喋っていた気がしないでもないが、きっとルークさんも楽しんでたはず。

 晩の用意をしながらセレニィはそう振り返る。

 

 いよいよ明日はカイツールに到着するのだ。

 

 ここ数日、いろんな交流をしたり料理のレシピを交換したりで大いに充実した旅行が楽しめた。

 

 食材に関してもアリエッタの魔物が適当に狩ってきてくれて、ミュウが山菜などを発見する。

 アリエッタの汎用性がとにかく凄い。もう全部彼女に任せて良いんじゃないかなレベルである。

 

 こんなことならもう少し続いてくれても良かったのだが、楽しい時間はすぐに終わるものだ。

 

「はーい、みなさんお待たせしましたー。今日は鹿肉と山菜の包み焼きに卵スープですよー」

 

 ここ数日の付き合いで仲間の好き嫌いもある程度は把握した。問題はないはずだ。

 特に家事は疎かにできないスキルであるといえる。セレニィも捨てられないために必死なのだ。

 

「おっ、うめー! うん、セレニィはやっぱ料理上手だよなー!」

「えぇ、アニスも料理上手ですがセレニィも負けてませんねぇ」

 

「確かにコイツは旨い… 二人とも将来は良いお嫁さんになれるぞー?」

「ガイさん… あんまりふざけたことを抜かしてると抱き着きますよ」

 

「褒めたのになんで!?」

 

 ただ料理のスキルが上がる度に女扱いされるのが、セレニィ的にいかんともしがたい点である。

 脅されたガイが慌てて話題を変えるために口を開く。

 

「あ、そういえば言いそびれてたが… 実はヴァン謡将もルークを探しててな」

「ヴァン師匠(せんせい)が? おいガイ、なんだって黙ってたんだよ!」

 

「悪かったよ。で、旅券のこともあってカイツールで落ち合うことになってたんだが…」

「自分たちには既に旅券がありますし。こう言ってはなんですが無理に待つ必要は…」

 

「伝言を残しておくだけで充分なんじゃないですかー? ってアニスちゃんは思いまーす」

 

 トニーやアニスの言葉に「ま、そうなんだよなー」と苦笑いしながら頷くガイ。

 思い出したから言ってみただけで、無理に彼を待つ方向に推し進めるつもりもないようだ。

 

 だが落ち着かない人物が2名いる。「ヴァン…」と呟いて瞳に剣呑な光を宿したティア。

 そして尊敬する師匠に会いたい、会って一緒にバチカルまで帰りたいと願うルークであった。

 

「俺はヴァン師匠(せんせい)と一緒に帰りたい! なー、いいだろ? イオン、ジェイド!」

「えぇ、僕は別に構いませんが… どうでしょうか? ジェイド」

 

「困りましたねぇ… 私としては出来れば一刻も早く、バチカルに到着したいのですが…」

「協力してやってるだろ。それにホラ… タルタロス脱出する時の貸し、忘れてないよな?」

 

「おや、それを言われてしまうと弱いですねぇ。ふーむ…」

 

 ルークがジェイドを口説いているようなので、セレニィはティアに話しかける。

 

「なんか知ってるような雰囲気ですけど、ヴァンさんって方はティアさんのお知り合いで?」

「彼は… ヴァン・グランツは私の兄なの」

 

「へー… お兄さんなんですか。ではティアさんは、ヴァンさんを待ちたい感じですか?」

「えぇ、そうね… 私は、彼を殺さなければならないから」

 

「なるほどなるほどー… はい?」

 

 そのまま食事を再開しようとした手が止まる。

 

 え? なんでこの夕食時の団欒の場でいきなり兄をぶっ殺すって宣言しちゃうの、この人。

 あ、いやいや… きっと聞き間違いに違いない。あるいは言葉の綾とかそんな感じで。

 ベッドの下のお宝を暴かれたぜー! 畜生アイツ殺すしかねー! とかそんなノリだよね。

 

 ……ですよね?

 

 なんかみんな固まってティアさんに注目してますけど、そういうアレだと信じていいよね?

 セレニィは青褪めつつ、片手で胃薬を探し始める。

 

 ティアは俯きながら… しかし、ハッキリとした口調で語り始めた。

 

「私は彼を討たなければならない。……そのために旅をしていたの」

 

「おいオメー! 少しはイイヤツだって思ってたけど師匠(せんせい)を殺すつもりなら容赦しねーぞ!」

「ル、ルーク… 落ち着いて下さい! ……ティア、理由を聞かせていただけますか?」

 

 当然のことながら激昂したルークを抑えつつ、トニーが尋ねる。

 しかし、それに対するティアの回答は素気ないものであった。

 

「それは言えないわ。……私の故郷、その秘密に関わることだもの」

「オメー、ふざけんなよ! いきなり現れて師匠(せんせい)を殺そうとしやがって! 挙句にそれかよ!」

 

「ルーク、落ち着くんだ。しかしなぁ、ティア… ルークの気持ちも分かるってもんだぜ?」

 

 トニーさんに加勢してルーク様を抑えつつ、ガイさんがやんわりとティアさんを窘める。

 アニスさんはさり気なくイオン様の手を引いて騒ぎから距離をとっている。……仕事早いな。

 

 しかし中々に根が深そうな問題だ。

 どうしたものかとセレニィは考える。……その一瞬の油断が命取りとなった。

 

「大体オメー、勝手に屋敷に入ってきたこともそうだけど! 無茶苦茶なんだよ!」

「それは…」

 

「ちょい待って」

 

 思わず挙手してしまう。

 え? なになに? どういうこと? 今ちょっと信じられない発言があった気がする。

 

 きっと聞き間違いだ。そうであって欲しい。そう思いつつ、確認を取る。

 胃が… 胃が痛い。そんな混乱中のセレニィの傍に寄り添いつつアリエッタが優しく尋ねる。

 

「セレニィ… 大丈夫?」

「あ、はい。その… 今少し信じられない言葉が聞こえまして」

 

「な、なんだよ? セレニィ」

「その、公爵様のお屋敷にティアさんが殴り込んだって… 冗談、ですよね?」

 

「冗談じゃねぇ! コイツ、例の眠くなる譜歌で勝手に上がり込んできたんだよ!」

 

 オワタ。よりによって王族にも連なる公爵家でなんてことを…

 

 身体の力が抜け、目の前が真っ暗になる。

 慌ててアリエッタさんが支えてくれたおかげで倒れてないようなものだ。……ええ子や。

 

 胃の奥から迫り上がってくる『ナニカ』を感じるが、まだ倒れるわけにはいかない。

 

「ティアさん…」

「な、何かしら? セレニィ」

 

「言うまでもありませんが、人様の家に譜歌を使って勝手に入り込むのは悪いことです」

「……はい」

 

「なんでそんなことをしたんですか?」

 

 よし、良かった。話は通じる。時間はかかるかもしれないが、ゆっくりと言って聞かせ…

 

「……言えないわ。ただ、ヴァンが全て悪いの。私は追い詰められた獣だったのよ!」

 

 意訳すると『ついカッとなってやった。理由は言えないが私は悪くない。全部ヴァンが悪い』。

 

 その言葉にセレニィはニッコリと笑顔を浮かべる。

 

「分かってくれたのね! セレニィ!」

 

「………」

「セ、セレニィ…?」

 

「ゴフッ…」

 

 吐血して倒れた。二度目である。セレニィ以外の視点から見れば三度目だろうか?

 

「セ、セレニィーーーーーーーーーー!?」

 

 慌てて駆け寄る仲間たちを余所に、ジェイドとトニーは言葉を交わす。

 

「ふむ… いずれにせよ、セレニィが回復するまではカイツールに留まる形になりますか」

「……ティアはどうしましょうか?」

 

「セレニィが回復次第、彼女に任せましょう。彼女ならきっとなんとかしてくれるはずです」

「それは流石に気の毒では…」

 

「というより彼女以外に『可能性』はありません。……私や貴方、導師イオンも含めてね」

 

 ジェイドが眼鏡のブリッジを持ち上げつつそう言えば、トニーとて返す言葉もなく俯いた。

 

 かくして変態ロン毛巨乳残念美人改め、変態ロン毛巨乳残念美人テロリストとなったティア。

 彼女の未来はセレニィの手にむちゃ振りされることと相成った。

 

「うふふー… おうちかえるー… かえるのー… ポンポンいたいのー…」

 

 がんばれセレニィ… 仲間のためにその胃を擦り減らし、いつか幸せな未来を掴むその日まで。

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