TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー   作:(╹◡╹)

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49.会談

 カイツール軍港のキムラスカ軍基地… その待合室に一行は案内されていた。

 但し、その中にルーク、ジェイド、そしてセレニィの姿はない。

 

 基地司令であるアルマンダイン伯爵との会談の代表として、向かったためである。

 そんな中、両腕を組みつつ待合室の壁に背をもたれていたガイがふと口を開く。

 

「しかしちょっと心配だな。ルークのやつ、やらかしてないと良いけど…」

 

「んー? まぁ、大丈夫でしょ。セレニィも大佐もいるし… ティアじゃあるまいし」

「フフッ… あまり褒めないで、アニス。照れてしまうじゃない」

 

 穏やかに微笑むティアに「や、褒めてないんだけど…」と返すアニスを見て吹き出す。

 そして彼は、そんなやり取りに幾分か落ち着いた表情で一つ頷くと言葉を続ける。

 

「ま、そうだな。……きっと大丈夫だよな、ティアじゃあるまいし」

「喧嘩を売っているのかしら、ガイ。……ぶん殴るわよ?」

 

「……なんでティアは、俺に対してそんなセメント対応なのかね」

「答えるまでもないわね。どうしてもというなら、可愛く生まれ変わって出直して来なさい」

 

「フフッ… ですが今の僕たちには待つことしか出来ません。彼らを信じて待ちましょう」

 

 ガイとティアの掛け合いを微笑ましく眺めつつ、椅子に腰掛けていたイオンが言葉を継ぐ。

 トニーも「バチカルに着けば我々の方は嫌でも忙しくなりますしね」とそれに同意する。

 

 それらを受けて… という訳でもなかろうが、これまで沈黙を保ってきたヴァンが口を開く。

 

「しかし、イオン様がご臨席されないのも… せめて私だけでも出席すべきだったのでは」

「ヴァン… 先ほど説明したはずですよ? 教団は今回の件で表立って動くべきではないと」

 

「ですがイオン様…」

「総長ったら… ティアだって一度説明を受けたら理解して、大人しくしてるんだよー?」

 

「アニス、それは仕方ないわ。……だってヴァンだもの」

 

 ティアのにべもない言葉に、ガイは再度吹き出す。ミュウが不思議そうな表情をしている。

 一方で彼女にそう言われたヴァンの方は、「ぐぬぬ…」と低い声で不満気に呻いている。

 

 もともとティアは聡明な少女だ。一度説明を受ければ、大抵のことは理解することが出来る。

 彼女の問題点は、それらを理解した上で必要なら躊躇いなく即座に無視できることにある。

 

 更に彼女はその実行に他者の意見を必要としない。一度こうと決めれば断固としてやり遂げる。

 理解を得られないことを寂しいと思うことはあれど、それに対して弱音を吐くこともない。

 

 ある種セレニィと対極にある思考回路をしており、彼女の常の苦労が偲ばれるというものだ。

 

「しかし事は和平に関します。しかも当事者の一人は我が弟子ルーク… 心配にもなります」

「ヴァンは相当ナーバスになってるようですね… ダアトに戻った際は休暇を勧めますよ」

 

「イオン様、それって『君には休暇を与えよう。そう、長い休暇をな』ってヤツですかぁ?」

「? まぁヴァンが望むなら、アニスが言うとおり長い休暇を与えても構わないと思いますが」

 

「イ、イオン様… 私が悪かったです! (ゆえ)、それ以上この話はどうかご容赦いただきたい」

 

 ヴァンがなおも諦め悪く言い募ろうとしたところ、進退問題にまで話が飛び火しそうになる。

 結局彼自身が慌てて前言を翻したため話は終わりとなり、その場に彼を除く笑い声が響き渡る。

 

 

 

 ――

 

 

 

 一方、ここは軍基地の応接室。ルークらが通されて暫くして、アルマンダイン伯が入室した。

 事前にガイに作法を教えられていたルークを含めて、三人が揃って席を立ち彼を出迎える。

 

 鷹揚に手を上げてそれを制しつつ、アルマンダイン伯は頭を下げて三人に手を差し出してきた。

 

「私がアルマンダインです。こちらがお呼び立てしておきながら待たせてしまい申し訳ない」

「いや、さほど待ってないから気にしないでくれ。……俺がルーク・フォン・ファブレだ」

 

「! 赤い髪と聞いて、よもやとは思っておりましたが… ご無事で何よりです。ルーク様!」

 

 精悍な顔立ちに秘められた鋭い目付きを緩め、基地司令たるその男は喜びを全面に押し出す。

 続いて跪いて先の無礼を詫びる彼をルークは慌てて立たせて、話の本題へと入ろうとする。

 

「超振動ってのでマルクトに飛ばされちまったものの、運良くこのジェイドに保護されてな」

「マルクト帝国軍第三師団所属ジェイド・カーティス大佐です… よろしくお願いします」

 

「ほう… まさかあの『死霊使い(ネクロマンサー)』ジェイドその人であらせられるか?」

「えぇ、そう呼ばれる方も中にはいらっしゃるようで」

 

「そうか。噂とは当てにならんものだ… 貴公らマルクトの尽力に心から感謝の意を表明する」

 

 厳しい印象を受ける壮年の男性ではあるが、その笑顔は意外なほど人懐っこさを感じさせる。

 彼の寄せるあけっぴろげな好意に流石のジェイドも表情をほころばせ、礼をしつつ答える。

 

「私は貴国との和平を求めるピオニー陛下の部下。先の行動は至極当然のことでございます」

「そうか… 和平が成立するかは本国の決定次第であるが、私はその成立を心より願おう」

 

「えぇ。そう仰っていただけただけでも、私としては万の味方を得たに等しい心持ちですよ」

「差し支えなければこれからの我らの友好を祈念して握手を求めたいのだが、どうだろうか?」

 

「こちらから是非お願いしたいくらいです。……無論、喜んで」

 

 その言葉とともに、両者は固く握手を交わす。

 そんな光景を、セレニィは落ち着かない様子で眺めていた。

 

「(誰だ、コイツ…)」

 

 無論、ドSの変貌ぶりについてである。彼は現在、キラキラと輝く白い笑顔をみせている。

 違うだろ… おまえの笑顔はもっとこう、どす黒い感じだろ。内心セレニィはそう呟く。

 

 すごく胡散臭そうな表情でジェイドを見詰める彼女に、アルマンダイン伯が気付いて尋ねた。

 

「ところでカーティス大佐、そちらの彼女は…?」

「え、はい! ……わ、私ですか!?」

 

「彼女の名はセレニィ。私の縁者ですが此度の使命に相談役として同行していただいてます」

 

 笑顔を浮かべたまま、ジェイドはしれっととんでもないことをほざいた。

 色々と突っ込みたい点をなんとかポーカーフェイスで耐えるセレニィ。

 

 その様子にますます笑顔を輝かせながら、ドSなジェイド… ジェイドSは言葉を続ける。

 

「雪の街ケテルブルグで生まれ育った私は、彼女とは所謂幼馴染でしてね」

「(それはマイソウルフレンドのディストさんとの設定だー!?)」

 

「そうであったのか。しかし貴公との幼馴染という割りには大分年齢が若く見えるが…?」

「まぁ、私もこれでも35歳ですからねぇ。彼女の本当の年齢は私にも分かりませんが」

 

「(おまえ三十路超えてるとは言ってたけど、その見た目で35歳だったんかいー!?)」

 

 散々ジェイドに振り回されてしまっているセレニィを見て、思わず小さく吹き出すルーク。

 そんなルークの様子に気付いたアルマンダイン伯は、慌ててルークに向き直って謝罪をする。

 

「これはルーク様… 御前に身を置きながら、私としたことがとんだご無礼を」

「いや、気にしないでくれ。俺個人もマルクトとの友好を望んでいるしな」

 

「ありがたきお言葉。しかしマルクト軍と同行しているとはいえ、此度の件、何故(なにゆえ)…」

「助けられる人間を少しでも助けるために行動するのは、貴族として当然だろ?」

 

「誠ごもっとも! 幼少の(みぎり)よりご聡明であらせられたが… 更に素晴らしく成長された」

 

 その言葉にルークは僅かに目を見開いて驚きを表すと、口を開いた。

 

「アルマンダイン伯爵は、昔の俺と会っていたのか? ……悪いな、覚えてなくて」

「お気になさらず。つい先日の事のように口にしてしまった私こそ不敬でした」

 

「そう言われると助かるよ。あとコーラル城にいたえーと… 賊を追い払っておいたぞ」

「えぇ、伺っております。救出された整備士長が皆様に助けられたと感謝しておりました」

 

「あそこ、ウチの別荘だからな。ファブレ家の責任って言えるかもしれねーし、別にいーよ」

 

 そう言ってしきりに恐縮するアルマンダイン伯に手を振ると、苦笑いを浮かべた。

 

「ただ、えーと… その、賊は取り逃がした。わりーけど連中は『正体不明』のままだ」

「……なるほど、承知しました。賊が逃げ散り確証もない以上は致し方ありませんな」

 

「申し訳ありません、アルマンダイン伯爵。当方の都合でそちらにご迷惑をおかけします」

「気にするな。連中の仕打ちは業腹だが、その企みに乗って戦の火種を作るのも面白く無い」

 

「(滅茶苦茶スムーズに話が進んでるなー… これ、普通に私いらなかったじゃん…)」

 

 アルマンダイン伯とてキムラスカ軍で大将にまで出世を重ねた人間だ。政治は心得ている。

 ルークの言わんとするところを直ちに察し、自らの権限内で出来る情報規制を約束した。

 

 ルーク一行の中に、教団の制服を身にまとう者が数名同行しているのは報告で確認済みだ。

 恐らく教団内部で意見の対立があり、今回の強行手段に出たのだろうと当たりをつける。

 

 アルマンダイン伯は正確に事態を読み取り、ルークらへの情報面からの協力を心に決める。

 だがそれは彼にとって本意ではない行動だろう。故に、ジェイドは彼に向かって頭を下げる。

 

 そんなジェイドの行動に対して彼は頭を上げるように言い、苦笑いを浮かべながら応える。

 

「なぁに、下の者に恨まれているのは慣れているさ」

「誠に、軍人とは因果な商売ですね」

 

「違いない。だが、いずれ来る平和のためと思えばこそ泥を被れる… 期待しているぞ?」

 

 真っ直ぐ己を見詰めてくるその力強い瞳に正面から相対しつつ、ジェイドは頷いた。

 それを確認すると、アルマンダイン伯はルークへと振り返る。

 

「さて… であれば一刻も早くルーク様ご一行をバチカルへとお送りするのが肝要ですな」

「あぁ、ワガママ言うようでわりーけど出来るだけ急ぎたい。……頼めるか?」

 

「一言『手配せよ』とお命じ下さい。……無論、我が名に賭けてご用意させていただきます」

「……あぁ、分かった。それじゃ、和平の使者一行を乗せるための船を急ぎ手配してくれ」

 

「ハッ! 承知いたしました」

 

 敬礼をするアルマンダイン伯に、ルークが思い出したことをもう一つ伝える。

 

「それと叔父上… 国王陛下や家族に無事を知らせたい。鳩を一羽、貸してくれるか?」

「かしこまりました。陛下への先触れを運ばせるため、選りすぐりの鳩を用意させましょう」

 

「何から何まですまないな。……船はいつごろ用意できそうだ?」

「ハッ! 午後一番には間違いなく」

 

「分かった… じゃあ、それまで時間を潰しとくよ。ありがとうな、アルマンダイン伯爵」

 

 そう言って席を立つルークに、アルマンダイン伯は平伏して見送るのであった。

 かくして無事に会談は終わった。……今回、セレニィは何もしてない。置物と化していた。

 

 待合室に向かう廊下を進む道中でセレニィは口を開く。

 

「……ぶっちゃけ、私がいた意味ってありませんでしたよね?」

「ははははは… いや、アルマンダイン伯爵が有能すぎましたねぇ。アレが大将の器ですか」

 

「そう言うなって。セレニィがいてくれたから、俺も落ち着けてトチらなかったんだしさ」

「そうですよ。もしもの時の備えが仕事をしないで済むという状況こそ、理想なのですから」

 

「……いやまぁ、いいんですけどね」

 

 気が進まないのに無理やり引っ張りだされたと思ったら、ベンチウォーマーだったでござる。

 微妙に自分の存在意義について悩みつつ、彼女は待合室の仲間たちのもとへ向かうのであった。

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