TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー   作:(╹◡╹)

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54.特等席

 キムラスカ・ランバルディア連合王国が首都、“光の王都”バチカル宮殿最奥の玉座の間。

 謁見を許された者たちが、国王であるインゴベルト六世の前で頭を垂れて跪いている。

 

 居並ぶ重臣たちに物怖じせず、頭を垂れたままのルークが一歩前に進み出てその名を名乗る。

 

「ルーク・フォン・ファブレにございます。ただいまマルクトより帰還しました」

「その方がシュザンヌの息子のルークか! 堅苦しい挨拶は良い、面を上げよ」

 

「ハッ! 叔父上」

「その精悍な顔立ちに洗練された立ち居振る舞い。王族として立派に成長しているようだな」

 

「勿体なきお言葉です」

 

 堂々とした振る舞いのルークに、男児に恵まれなかったインゴベルト六世は殊の外喜んだ。

 

 しきたりにより、キムラスカの王位を継ぐ者は赤い髪と緑の瞳を持つ者に限られている。

 だが目に入れても痛くないほど可愛がっている娘には、残念ながらその特徴が現れなかった。

 

 ならばと、妹がその特徴を持つ子供を産んだことをこれ幸いにと許婚とすることに決めたのだ。

 七年前の誘拐事件以来、持病を患い良い噂を聞かなくなっていた甥に内心で落胆もしていた。

 

 しかし実際見れば、かすかに風格すら滲ませて堂々とした立ち居振る舞いのもとこの場にいる。

 彼を娘の許婚としたかつての自分の判断に狂いはなかった。そう思って上機嫌にすらなった。

 

 彼の帰還を喜ぶ気持ちを、改めて言葉に乗せて伝える。

 

「無事の帰還、誠に大儀。先触れによってある程度は把握しておるが、苦労したようだな」

「ハッ! ですが、彼らの尽力もありこの通り無事に戻れました」

 

「うむ、実に喜ばしきことよ。……では、ルークよ。その方の横にいる者たちが?」

「ハッ! マルクト帝国よりの和平の親書を携えた使者と、その仲介役にございます」

 

「なるほど… 我が甥が大変世話になったようだ。まずは感謝の意を述べさせていただこう」

 

 朗らかな笑みすら浮かべてインゴベルト六世はそう言った。

 ダアトのみならず、マルクトの使者にまでかような態度を示すのは極めて異例のことだろう。

 

 畏まる彼らを余所にルークが一人ずつ紹介していく。

 

「こちらがローレライ教団の導師イオンと、その守護役であるアニス」

「ご無沙汰しております、陛下。イオンにございます」

 

「久しいな、導師イオン。此度は我が国へ足をお運びいただき光栄である」

 

 アニスはイオンに従い一歩前に出るものの、声を発することはない。

 それが護衛の礼儀であるからだ。

 

 続けてルークは『その横の二人』を紹介する。

 

「こちらがマルクト帝国のジェイド・カーティス大佐」

「………」

 

 無言で一歩前に出て頭を垂れたジェイドの姿に、謁見の間はざわめき出す。

 

 それもそのはず、マルクト帝国にその人ありと恐れられた『死霊使い(ネクロマンサー)』にして皇帝の懐刀。

 それがジェイド・カーティスという男の評判なのだ。

 

 だが、不可解なことに彼はいつまで経っても声を発する気配がない。

 まるでただの護衛か何かのように。

 

 そんな周囲の疑念を裏付ける言葉を、ルークが続けて発した。

 

「そしてこちらがピオニー九世陛下の名代、セレニィ・バルフォアにございます」

「お初にお目にかかります、陛下。セレニィ・バルフォアでございます」

 

「なんと… 『死霊使い(ネクロマンサー)』ではなく、その方が真の和平の使者だと申すのか」

 

 異国風の見慣れぬ… だが上等な素材によって作られた衣装に包まれた少女である。

 彼女は一歩前に進み出ると、年齢を感じさせぬ艶やかな笑みを一つ浮かべ跪いた。

 

 唖然としたのは王ばかりではない。謁見の間に集った重臣一同にも混乱を呼んでいる。

 御前での無礼も忘れ、皆それぞれの憶測を勝手気ままに囁き合う始末だ。

 

「なんと、あんな小娘を名代などと… マルクトは我らをバカにしているのか?」

「いやしかし、ならば皇帝の懐刀と名高い『死霊使い(ネクロマンサー)』を送り込むだろうか…」

 

「なるほど… 『死霊使い(ネクロマンサー)』をも目眩ましに使った本命ということなのか?」

「……ということは、見た目同様の年齢と侮るのは危険ということか」

 

「ううむ… いずれにせよマルクトの真意が読めぬ。額面通り受け取っていいものか」

 

 そんな彼らのざわめきを耳にしながら、セレニィは薄く微笑んでいた。

 

「(くっくっくっ… 何故私みたいな雑魚がいるのか分からずに混乱しているなぁ?)」

 

 バカめ、馬鹿め、莫迦め… 貴様らなどには分かろうはずもない!

 このセレニィが一体どんな想いでここにいるのかなど! 胸中でそう叫び、彼女は続ける。

 

「(……だって私自身がなんでここにいるのか分からないんだもん!)」

 

 その叫びは悲しき慟哭であった。

 

 なんか知らない間にドSに引っ立てられて、こんなところに並ばされているのである。

 いや、モースと対決するとなった以上はそれについてはまだ納得もしよう。

 

 なんですか、「真の和平の使者」って。いらないから。そういうサプライズはいいから。

 横目でドSを睨みつけると、爽やかにウィンクを返してきた。眼鏡叩き割るぞ、コラ。

 

 彼のいう「とっておきの席」とはマルクト帝国の和平の使者の座そのものだったらしい。

 その席は、そんな簡単に得体のしれない人間に貸したりしちゃっていいのでしょうか。

 

 淡い笑みを浮かべて遠い目をしていたセレニィの様子を見て、王が重臣一同を一喝する。

 

「たわけどもめ! 使者殿の前でなんたる醜態か… 少しはルークを見習ったらどうか!」

「………」

 

 恐縮し、静まり返るその場にかえって居心地の悪さを感じたセレニィは口を開く。

 

「偉大なるインゴベルト六世陛下に親書を預かって参りました」

「………」

 

「うむ、確かに… かくなる上は決して無碍には扱わぬと約束しよう。まずは」

 

 セレニィの言葉に応え、一歩前に進み出たアニスが親書を差し出し大臣がそれを受け取る。

 その動作に鷹揚に頷きつつ、王が何かを口に出そうとした時… 事件は起きた。

 

 突然謁見の間の扉が開き、ビヤ樽のように肥えた腹の法衣をまとった男が入室してきたのだ。

 

「陛下! 卑劣なマルクト帝国の口車に乗ってはなりませんぞ!」

 

「無礼者が! 誰の許しを得て謁見の間に…」

「良い、アルバイン。……モースは余が直々に呼んだのだ。ルークからの先触れの件でな」

 

 あまりの無礼を咎める大臣・アルバインを片手を上げて制しつつ、王はモースを見据える。

 その目は冬の木枯らしのごとく、冷たく凍てついていた。

 

 思わずたじろぐモースであったが、その隙を逃さない者が一人いた。

 彼の登場を待ち構え、その命脈を刈り取るために牙を研ぎ澄ませていた者… セレニィだ。

 

「恐れながら… 偉大なる国王陛下に、この場をお借りして申し上げたき儀がございます」

「ほう… マルクト帝国皇帝名代の言葉とあらば無視はできぬ。どんな話であろうか?」

 

「教団による数々の無法極まる振る舞い… その背後で糸を引く全ての黒幕たる男について」

 

 再びざわめき出す重臣一同… いや、中には露骨にモースに視線を向ける者すら出る始末だ。

 思わずモースは歯軋りとともに、声を漏らす。

 

「貴様か… 貴様のせいで、この私が! ユリアの教えを守るべき教団が… 悪魔め…!」

「フフッ…(うん、分かってたけどめっちゃ敵視されてますね… うん、知ってた…)」

 

「陛下、騙されてはなりませんぞ! こやつこそ… こやつらこそ、真の不穏分子なのです!」

 

 モースさんの怒り具合が半端ない。マジで怖い。

 対するセレニィは恐怖を表情に出さないだけで精一杯だ。

 

 だが、ここまで来た以上は後には引けないのだ。

 乗り越えなければ死あるのみ。ならば乗り越えるまでだ。

 

 彼女はそう考え、そしてそれを実現するため動く。

 大丈夫、自分は一人ではないのだから。

 

 瞳を閉じる。

 

 今一度これまでの仲間たちとの絆を振り返り、今再び友情パワーを糧とするために。

 

 

 

 ――

 

 

 

 連絡船が寄港した港は、交易都市ケセドニアの港であったらしい。

 砂漠に囲まれたその街は異国情緒漂うデートにピッタリの地である。

 

 しかし呼ばれてないのについてきた残念兄妹によって…

 正確には残念妹によって、セレニィさん着せ替え人形ショーに早変わりしたのだ。

 

 それもようやく終わり、服を買ってさぁデートの時間だ。

 そう思ったらなんかディストさんが襲いかかってきた。

 

 相手をしてあげたかったが疲れ果ててたので、ヴァンさんに丸投げしておいた。

 流石は主席総長。多少ボコられつつもキッチリとディストさんを撃退してた。

 

 ……スマンな、ソウルフレンド。次はちゃんと相手してあげるから。

 そしてデートに行こうと思ったら時間切れ。連絡船に逆戻りする羽目になった。

 

 戻ってきたルーク様たちは楽しそうだった。……いいなぁ。

 

 船はバチカルに進む。

 その洋上でガイさんに謁見の間での作法について尋ねてみた。

 

 折角だから指導してくれると言うので有り難くお受けすると半端なく厳しかった。

 バチカルに到着するまで不眠不休で訓練をするほどには。めっちゃ後悔した。

 

 孤独に耐え切れなかったのでルーク様を巻き添えにしました。

 これ、不敬罪になるのかな?

 

 バチカルに到着してようやく休めると思ったら、そのまま王宮に直行。

 で、ジェイドさんから「貴女はセレニィ・バルフォアです」ですよ。

 

 バカなの? 死ぬの? 電池切れたの? と言ったら無言で殴られるし…

 そのまま引っ張られるようにして謁見の間に無理やり通されて今に至ります。

 

 うん、聞いてないよ。全く聞いてないよ。

 そういえばルーク様とジェイドさん、なんか打ち合わせしてるっぽかったね。

 

 でもこっちは全然聞いてないですよ?

 ガイさんとトニーさんがめっさいい笑顔で手を振ってたのそのせいですか?

 

 

 

 ――

 

 

 

 これまでの出来事を振り返り、一つ溜息をつく。そしてセレニィは思った。

 

「(あれ… 絆は? 友情パワーは?)」

 

 そんなものはなかった。幻想だったのだ。

 そして目を開ける。

 

 淀んだ瞳を浮かべ、乾いた笑顔を貼り付ける。

 

「(拝啓、いるかどうか分からないお袋様)」

 

 胃がキリキリと痛み出す。

 なんてことはない日常だ。

 

 単なる平常運転に過ぎない。

 

「(やっぱり絆とか友情パワーって存在しないんじゃないかと思います)」

 

 このやるせなさを、倒すべき敵…

 ローレライ教団大詠師にぶつけるため、彼女は動き出すのであった。

 

 勘違いと逆切れと八つ当たりによる闘争が、今、幕を開ける。

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