TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー   作:(╹◡╹)

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62.希望

 キムラスカとマルクトの間において、和平の締結に関する話し合いは一先ずの合意を見た。

 

 あとはキムラスカがその和平に向けてどのような動きをするか、という議論が行われる。

 これについてはイオンは勿論、使者を引き継いだジェイドですらも介入できる問題ではない。

 

 この上は彼らに出来ることは何もなく、キムラスカの結論が出ることを待つこととなる。

 それは多忙だった日々の中に突然、ポッカリと自由な時間が空くことを意味していた。

 

 そんな中で旅をともにしたルークやガイらに会いに行くのは、極めて自然なことであった。

 

「なんだか随分と久し振りな感じがするよ。……会えて良かったが、大分疲れてるようだな」

 

 ガイが愛想よい笑顔で友人たちを応接室に通すも、その疲れた様子に心配顔を浮かべる。

 そんなガイの表情に、なんでもないという笑みを浮かべながらジェイドが口を開いた。

 

「ま、和平の使者をやっている以上は… 簡単な問題ではありませんしね。……そちらは?」

「ここは平和なもんさ。一時は教団の件で街が騒がしかったみたいだが… っと、すまん」

 

「いいのです、ガイ。教団が世間を騒がせているのは事実… 悪評は、甘んじて受けましょう」

 

 教団関係者であるイオンたちの前での失言に頭を下げるも、イオンの方は静かに首を振った。

 アニスもティアも気持ちはイオンと変わらない様子であった。

 

「そうか? そう言ってくれると助かるよ。ルークももうじき来るから、それまで… ん?」

 

 と、ここで彼はようやく違和感に気付いた。

 ジェイド、トニー、イオン、アニス、ティア… どうにも人数が足りない気がするのだ。

 

 思わず声に出して確認する。

 

「なぁ、みんな。セレニィは? ルークのやつ、久し振りに会えるって喜んでたんだが…」

「……聞かされていないのですか?」

 

「何を… あ、体調でも崩しちゃったのか? それでミュウが残って看病しているとか」

 

 暗い表情で聞き返すトニーに、努めて明るい表情を作って再度尋ねるガイ。

 

 バチカルに戻るまでの旅路でも、セレニィは何度か体調を崩していた。

 今回もそのケースなのかも知れない。ならば、見舞いにくらいは行ってやりたい。

 

 そう思ったガイが笑顔で言うも、居心地の悪い沈黙に場が支配される。

 それに対しティアが答えるのと、ルークが応接室に入ってくるのは同時であった。

 

「よぉ、みんな! 久し振り…」

「あの子は… セレニィは攫われてしまったのよ。『漆黒の翼』という連中にね」

 

「謝罪の言葉もありません… 彼女が僕の身代わりになってしまったばかりに」

 

 それを耳にしたガイも、そしてルークも思わず硬直してしまう。

 ややあって再起動を果たしたガイが口を開く。

 

「『漆黒の翼』… 確か『義賊』を気取る盗賊団、だったか。一体どういうことなんだ?」

「実は…」

 

 そこでイオンは、何度目になったかも分からない事件当夜の説明を繰り返した。

 

 ・セレニィの提案で自分と彼女の服を交換していたこと。

 ・謎の黒尽くめの集団に襲撃され、アニスとティアが必死に応戦したこと。

 ・それでも一歩及ばず、最後の最後でセレニィを攫われてしまったこと。

 

「そんなことがあったのか… 全く知らなかったよ」

「恐らく緘口令が敷かれていたのでしょう。……全く、迂闊でした」

 

「……旦那?」

 

 苛立たしげに眼鏡を直すジェイドの方を見るガイ。

 ジェイドは続けて言葉を口にする。

 

「到着当夜の襲撃なんて常道だったはずなのに… 警戒していたのはセレニィだけですか」

「……返す言葉もありません。自分も兵士としての本分を忘れてしまい恥辱の極みです」

 

「いえ、大佐たちのせいではありません。私が連中の襲撃に対して判断ミスをしなければ…」

「なんだよ… それ…」

 

「……ルーク?」

 

 ティアがそう言い掛けたところで、ルークが小声でつぶやく。

 差し伸べようとしたイオンの手を払い、彼は激発した。ジェイドの胸倉を掴み上げて叫ぶ。

 

「なんだよ、それ… どういうことだよ! 俺は… 俺は何も知らなかったぞ!?」

「ルーク様、落ち着いて! 悪いのはあたしなんだよっ! だから」

 

「ジェイド、オメェすっげぇ強いんだろ! トニーも俺なんかよりずっとしっかりしてて!」

「……申し訳ありません、としか言えませんね」

 

「セレニィとは… アイツとは、『また明日』って約束してたんだぞ? だってのにっ!」

 

 責められても一切反発を見せず、素直に謝罪をしてくるジェイドの態度にやるせなさが募る。

 ルークは手を離してジェイドを解放すると、机に自分の拳を叩きつけた。

 

 頑丈そうな机の表面が歪み、支える足にも亀裂が走る。彼の憤りを表しているようであった。

 

「そんなことも知らずに呑気に待ってた俺が… 馬鹿みたいじゃねぇかよ…」

「ねぇ、聞いてルーク様。大佐たちは軍人だけど、マルクトからのお客さんでもあったの」

 

「……それがなんだって言うんだよ」

「キムラスカの面子を潰さないためにも勝手に戦うわけにはいかなかった」

 

「………」

「それでも最大限に急いできてくれて、それでも間に合わなかったの。……私のせいで」

 

「……チッ」

 

 アニスの言葉に、ルークは舌打ちをして頭をガシガシと掻く。

 

「……わぁってるんだよ、そんなことは。これまでの旅で、嫌ってほど」

 

「ルーク! あなた、アニスがどんな気持ちで」

「いいの、ティア! やめて!」

 

「ジェイドもトニーもアニスもティアもイオンも精一杯やったなんてことは… わかってるさ」

「……ルーク様」

 

「わかってるけど… オメェらと違って何も出来なかった自分に腹が立って仕方ねぇんだ」

 

 深い溜息を吐いて気を鎮めると、力無くそうつぶやいた。

 机を思い切り叩いた時に傷付けたのだろう… 手からは鮮血が溢れ出ている。

 

「ルーク… それを言うなら俺も一緒だ」

「……ガイ?」

 

「いや、預言(スコア)で制限されていたおまえと違って何もなかった俺のほうがよっぽど罪深いさ」

「そんなことはねーよ。だって俺、旅に出るまで何も知らなかった… 知ろうとしなかった」

 

「俺もだよ。その気になればセレニィの現状を知る手段なんて幾らでもあったはずなのに」

「ガイ…」

 

「だから一緒に考えようぜ、ルーク。どうやったらセレニィを助けられるのか、その手段をな」

 

 そう言って肩を叩いてくるガイに救われたのか、ようやくルークも「そうだな」と微笑む。

 そしてガイは仲間たち… 特に気落ちしてたアニスに視線をやって、ウィンクを一つする。

 

 気にするなという彼なりの心配りだろう。アニスは赤くなって、ガイの腹をバスンと叩いた。

 

「ゲホッ! な、なんでだ…」

「おやおや… ガイ、あなたのさりげない心配りは美徳ですが些か気障に過ぎますねぇ」

 

「自分にはとても真似できません。日常的にそんな仕草では想いを寄せる人も多いでしょう」

「女性嫌いのようですから、男性が好きなのだと僕は思ってましたが… 違うのですか?」

 

「ご、誤解しないでくれ! 俺は女性は大好きだ!」

 

 そんな彼の言葉に、場の重い空気は払拭されて各人の表情に笑顔が戻り始める。

 そこでティアが一歩前に出て、ルークに向かって口を開く。

 

「ルーク… 私はアクゼリュスに向かうわ」

「アクゼリュス? それって…」

 

「キムラスカとマルクトの国境にある鉱山の街よ。そこに第七譜石があると知らされたの」

「第七譜石っていうと… 確かユリアの詠んだ預言(スコア)の七つ目、だったか?」

 

「えぇ、モース様の命令でね」

「モースの命令? それって…」

 

「勘違いしないで。別に戦争を望んでいるわけじゃないわ… セレニィを探すためよ」

 

 ティアは胸を張って、キッパリと言い張った。

 そして彼女は言葉を続ける。

 

「私が第七譜石の探索任務を受けたのも、ヴァンを殺すために都合が良かったから」

「あ、うん… おまえ仕事を利用して身内を殺そうとするのは良くないと思うぞ」

 

「探索のために自由裁量が認められるこの任務なら、セレニィを探すための力になるわ」

「……うん。おまえのそういう自由気侭過ぎるところ、ほんのちょっとだけ尊敬する」

 

「あなたはここで待ってて。セレニィは… あの子は、きっと私が連れて帰るから」

 

 そう言って、ルークには滅多に見せない穏やかな笑みを浮かべた。

 普段はエキセントリックな言動が目立つものの、黙っていればティアは清楚な美人である。

 

 思わず見惚れそうになるルークであったが、頭を振ってなんとかそれを堪える。

 そんな彼の仕草をどう解釈したのか… ティアは小首を傾げながら再度、言葉を続ける。

 

「……ここであの子を待つのは嫌?」

「それは…」

 

「………」

 

 嫌だけど… 自分が勝手をしては迷惑になる。父にも母にも… 屋敷のみんなにも。

 旅から帰ってきて僅か数日で、そのことは既に、いやというほどに実感していた。

 

 その事実を認識しているがために口は重くなる。ティアもそれを黙って見詰めている。

 互いに口を閉ざして、沈黙の時間が流れる。

 

 ややあって… ティアの方がその口を開いた。

 

「じゃあ、私と一緒に探す? あの子を」

「……え?」

 

「『また旅をして、一緒にあの子を探さない?』って聞いたの」

「で、出来るのかよ… そんなこと」

 

「多分。……大佐?」

 

 言葉少なにジェイドの方を見遣ると、彼の方はやれやれと肩をすくめた。

 眼鏡を直しながら言葉を漏らす。

 

「ティア… あまり機密に関わることを口走るのは感心しませんねぇ」

「大丈夫ですよ。私も優先順位というものは心得ていますから」

 

「貴女の場合、セレニィとそれ以外でまとめている恐れがあるのですが…」

「そうですけれど… いけませんか?」

 

「………」

 

 無言で溜息を吐くジェイドに、ルークが縋るように声を掛ける。

 

「どういうことだ、ジェイド。何か手があるっていうのか?」

「………。ルーク、私はキムラスカとの和平がまとまり次第、アクゼリュスに向かいます」

 

「え? ジェイドもか… それってどういう」

「今回の和平の目的の一つに、障気汚染が深刻なアクゼリュスの救助がありました」

 

「障気…?」

「稀に地面から噴き出てくる人体に有毒なガスのことだ。けど旦那… 話して良かったのか?」

 

「良くはありませんが… ま、役立たずなりのささやかな罪滅ぼしですよ」

 

 心配そうなガイの言葉に苦笑いで返しつつ、ジェイドは言葉を続ける。

 

「その際にキムラスカからも、救助隊とともに親善大使を立てる手筈となっています」

「なるほど、親善大使か! じゃあ、それにルークが選ばれれば…」

 

「俺も屋敷の外に出られる… セレニィを探せるってことか?」

「加えて功績を立てれば、軟禁は解かれずともある程度の裁量権は与えられる可能性が高い」

 

「セレニィを探すために人を使うことも出来るかもってことか。これは一石二鳥だな!」

 

 明るい表情を浮かべるガイとルーク。

 それとは対照的に懸念の残る表情でジェイドは口を開いた。

 

「ナタリア王女殿下で九分九厘決まりだと思ったのですが… どうやら揉めているようで」

「はい、僕もそう聞きました。障気溢れるかの街のこと… 慎重になっているのでは?」

 

「なんだっていいさ。今ならルークが立候補すれば親善大使に割り込めるかもなんだろう?」

「……まぁ、そういうことになりますね」

 

「だったら決まりだ。善は急げって言うし、早速行動しようぜ! ルーク!」

「……あ、あぁ」

 

「ルーク?」

 

 想像していたものと違うルークの煮え切れない返事に、ガイは何事かと彼を見詰める。

 ルークは迷っていた。確かに一刻も早くセレニィを探しに行きたい。できれば自分自身で。

 

 ただ、そのために家族や屋敷のみんなに心配をかけて良いのか。

 なにより、和平のための約束… それも救助を待つ人々がいる話を利用して良いのかと。

 

 同時に、師匠を待つためカイツールでジェイドたちを待たせたことも罪悪感を刺激していた。

 救助を待つ人間がいることを知らなかったとはいえ、自分の我侭で時間を浪費させたのだ。

 

 この上で、勝手な気持ちを綺麗に飾って行動してしまってもいいのだろうか? そう悩んだ。

 そんな彼の気持ちを見透かしたようにティアが口を開いた。

 

「……今動かないと、きっと、後悔するわ」

「な、なんでだよ…」

 

「あなたはそういう人だもの」

「………」

 

「……そうね。少しだけ、私の昔話をしてあげる」

 

 口を閉ざしたルークに、特に気分を害された様子もなくティアは口を開く。

 そして自分の過去を語り始めた。

 

「私の生まれはちょっと特殊でね。ご先祖様に偉い人がいたのよ」

「………」

 

「ヴァンも祖父も、口を開けば『正しくあれ』『清くあれ』と私に願望をぶつけてきた」

「え? ティア、ご両親は…」

 

「母は私を産んで程なく、父はその前に亡くなっているの。……気にしないでね? アニス」

「う、うん…」

 

 両親を喪う悲しみや孤独感など分からないアニスとしては、頷きつつ俯くしかない。

 さして気にした様子もなく、ティアは薄い笑みを浮かべながら話を続ける。

 

「……馬鹿な人たちよね。自分たちで出来もしなかったことを子供に託そうなんて」

「………」

 

「彼らは既に正しくもなければ清くもない。そんなこと、私には手に取るように分かった」

「ヴァン師匠(せんせい)が…」

 

「同時に、だからこそ強く願うことも理解できた… だから私はそうあろうと努力した」

 

 彼女の美しい声が、まるで旋律のように静かな応接室に響き渡る。

 それはまるで彼女が歌う譜歌のように心に伝わってくる。

 

「そのせいでちょっと歪んだ子に育ってしまった私は、街で避けられるようになったわ」

 

「(ちょっと…?)」

「(え? ちょっとなのか…)」

 

「言っても何も伝わらなかったわ。私の『当たり前』は多くの人には通用しなかった」

 

 仲間たちは一斉に首を捻るが敢えて話の腰を折ることもしない。

 感覚には個人差というものが適用されるゆえだろう。そう納得することにした。

 

「それでも私は変わらなかった。変わる必要性を感じなかったの… 正しいのは私だから」

「お、おう…」

 

「どうせ誰もが遠巻きに私を見るようになる。理解を諦めて上辺だけの付き合いになる」

「………」

 

「孤独はこの道を選んだ時から覚悟の上で… でも私は能力に恵まれて、評価は得られたわ」

 

 なるほど。確かにティアの能力ならば、どんな道でもある程度の成功は収められるだろう。

 第七音素術士(セブンスフォニマー)であることに加え強力なユリアの譜歌まで使え、体術まである程度こなす。

 

 マルクトに来ればどこの部隊であろうとも引っ張りだこであろう。ジェイドは内心そう思う。

 

「でも、あの子は… セレニィだけは違った」

「セレニィが?」

 

「あの子は、恐れながらも私から離れなかった。……理解しようとすることを諦めなかった」

「………」

 

「笑えるわよね。あの子と私、全然違うのに… そんなあの子だけが私自身を見てくれた」

 

 ティアは淡く微笑んだ。その笑顔には自嘲の色が濃く表れていた。

 そして顔を上げて、仲間たちを全員見詰めてから言葉を紡ぐ。

 

「だから、私はあの子を、諦めない」

「……ティア」

 

「この気持ちがなんなのか、私には分からない。けれど、あの子と一緒に世界を見たいの」

「………」

 

「そうすれば… 私を縛ろうとしたこの世界を、もう少しだけ好きになれると思うから」

 

 そう言ってルークに背を向ける。

 

「あの子は私の希望。……ただ正しさを実行する『歯車』だった私が『人間』になるための」

「ティア、どこへ…?」

 

「アクゼリュスへ… 親善大使と同行する必要はありませんし、これ以上は待てませんから」

「……待てよ」

 

「………」

 

 そこに声を掛けるルーク。ティアは背を向けたまま、振り返りもせず沈黙のままそこに佇む。

 

「俺も行くぜ… アクゼリュスに!」

「………」

 

「『セレニィを探す』『アクゼリュスを救う』… どっちもやるなんて無茶なのは分かってる」

「………」

 

「けど、オメェの言うとおりここで立たなきゃ俺は一生後悔する。……だったら、やってやる!」

「……足手まといになるようなら置いていくわ」

 

「その言葉、そっくりそのままおまえにも返してやるさ」

 

 ルークの啖呵に微笑むと、ティアは振り返り手を差し伸べた。

 

「じゃあ行きましょう… お城へ」

「あぁ!」

 

 その手を、今度は迷うことなくルークは握り締めた。

 

 

 

 ――

 

 

 

 一方、その頃タルタロスでは…

 

「えぇっ! リグレットさん、ティアさんの教官だったんですか…」

「あぁ… まぁな」

 

「言っちゃなんですが、よく『アレ』の教官なんて出来ましたね」

「私もそう思う。というか、あの事件がなければ無理だっただろうなぁ…」

 

「……あの事件?」

 

 ここはタルタロス内の高級士官用のBAR。カウンター席にセレニィとリグレットが並んでいる。

 リグレットはカクテル酒を飲むため… セレニィは彼女の愚痴を聞くために。

 

「士官学校の家畜舎の動物が惨殺される事件があってな…」

「あ、なんか聞いたことあるかもです」

 

「そうか? まぁ、ティアはあんな性格だろ。だから真っ先に疑われてな…」

「まぁ、付き合い深くないと誤解与える性格ですよね… アレは」

 

「ちょうど閣下に頼まれてティアの面倒を見に行く矢先の出来事でな…」

「(閣下? 誰のことだろ?)……それでかち合ったと。無事でしたか?」

 

「無事なわけがあるもんか。いきなり血みどろの殺し合いになったぞ… 死ぬかと思った」

 

 リグレットの言葉に思わずギョッとする。いくらティアさんとはいえ、そこまで…?

 そう思っているセレニィを余所に、彼女は話を続ける。

 

「しばしば可愛がっていた動物たちが死んだようでな。だから疑いも濃くなったんだが…」

「あー… それで頭に血が上ったと」

 

「うむ… 幸か不幸か、躊躇せずに首謀者を殺しに向かおうとしてたところに遭遇した」

「え? どうなったんですか、それ」

 

「不祥事だからな。当然止めようとしたのだが… そしたらアイツめ、私に攻撃してきた」

 

 凄く目に浮かぶ光景である。思わずセレニィは頭を抱えてしまう。

 

 ティアにとってはそこらの人間よりは可愛い動物のほうが愛着を抱けるだろう。

 それが惨殺され、挙句に自分を陥れるためだと知ったら…

 

 うん、事を起こしてもおかしくないよね。青褪めつつ、静かに頷いた。

 

「最初は言葉で説得しようとしていたのだが… 一向に聞く気配がない」

「あぁ、それで懲らしめようと…」

 

「うむ… 油断してたらマウントポジション奪われて、二度三度と顔面を殴られたけどな」

「どこのバーバリアンですか、それ…」

 

「そこで私もカッとなって… 気が付いたら、ボコボコになったティアが倒れていた」

「いや、普通に不祥事ですよね? それ。事件拡大させてどうするんですか」

 

「うむ… 私も青褪めた。必死に事件を調査して首謀者を捕まえて解決まで持ち込んだ」

 

 意外とこの人も、色々とアレだな。セレニィは内心でそう思う。

 流石はティアさんが尊敬する教官だぜ! まったく神託の盾(オラクル)は地獄だぜ、フゥーハハハー!

 

 そんな彼女の内心を知ってか知らずか、リグレットは言葉を続ける。

 

「まぁ、首謀者はティアの目した通りの人物だったんだが… なんで知ってたと思う?」

「……『勘』でしょ?」

 

「そのとおりだ。その一言で片付けられた時は泣きそうになったよ」

「で、なんでティアさんに尊敬されたんですか?」

 

「よく分からん。殴り飛ばしたらなんか尊敬された… 不都合はないから触れないでおいた」

 

 うわぁ… セレニィは内心で思わずドン引きした。マジで獣ですね、ティアさん。

 彼女が自分で言ってた『追い詰められた獣』… それは的を射た表現であったと言えよう。

 

 もし再会したら、ちょっと彼女との付き合い方を見直す必要があるかもしれない。

 そんなことを考えつつ、なおも続くリグレットの愚痴にうんざりしつつ溜息を吐くのであった。

 

 その合間にふと思い出したことを口にする。

 

「あ、そういえばティアさんと言えば…」

「ん?」

 

「実の兄を殺すために王族の屋敷襲撃しましたけど、リグレットさんはご存知でしたか?」

「ゲフォッ!?」

 

「ちょ、リグレットさん! リグレットさん! しっかり!?」

 

 ティアに尊敬される唯一の人間… “魔弾”のリグレットは胃痛に苦しんでいたという。

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