TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー   作:(╹◡╹)

66 / 112
63.親善大使

 さて、ここはキムラスカ王国の謁見の間。今日も今日とて果てぬ激論が交わされていた。

 マルクト帝国との和平についてはほぼ全員が同意しており、それについては問題ない。

 

 超振動で移動したファブレ公爵子息ルークの早期の保護や、カイツール軍港での救助活動。

 これらが評価される形となり、主戦派も「ひとまずの様子見」には理解を示したわけだ。

 

 ならば今、彼らの間で議論の対象となっているものは何であるのか?

 それは、アクゼリュスに派遣する『親善大使』についてであった。

 

 マルクト帝国が和平締結の際に要望してきた、鉱山の街アクゼリュス救助に関する支援要請。

 これについてキムラスカ側は、街道の使用許可は勿論、薬などの準備を着々と進めている。

 

 支援をする準備は整えられている。後は旗印となる『親善大使』さえ用意すれば万全だ。

 ならばその大役を誰に任せるのかという点で、議論は揉めに揉めているというわけだ。

 

 筋道を抑えるならば、マルクトとの実質的な橋渡し役もこなし使者との関係も深いルーク。

 経験を取るというのであれば、数々の公務に携わりキムラスカ内の国民人気も高いナタリア。

 

 どちらを選ぶにせよ、一部の理はある。しかし議論の激化の原因はそれのみではなかった。

 

「ふむ。クリムゾンにナタリアよ… その方ら、どうしてもわしの提案に頷けぬと申すか?」

 

「はっ! まことに恐れながら陛下… (せがれ)では此度の大役、荷が勝ち過ぎてございます」

「ルークが不満というわけではありませんが、経験の上では私を送るべきでございましょう?」

 

 ルークを派遣すべきという国王の意見に、クリムゾンとナタリアが真っ向反対をしたのだ。

 互いの意見は平行線のままに議論が激化して、居並ぶ諸侯らも趨勢を見極めかねていた。

 

「(ふむ… 予想の範疇であったナタリアはともかく、クリムゾンまでか)」

 

 大臣アルバインに視線をやれば、彼も自身同様に困ったような表情をしているのが伺える。

 ナタリアがルークをこそ親善大使にすべきという考えに反発を示すのは、まぁ、分かる。

 

 才気煥発で社交的だが同時に我の強い側面もある。この手の役を譲れる気性ではないだろう。

 だがクリムゾンのこの反抗は、彼らにとっても青天の霹靂と言えるまさに大事件であった。

 

 王にとってクリムゾンは、これまであらゆる命に異を唱えることなく従い続けた忠臣である。

 時にそれが汚れ仕事であろうと王家のためとあらば率先して動き、忠義を示し続けてきた。

 

 それがために可愛がっていた妹を嫁がせて、義弟という立場を与えることで信頼を示したのだ。

 

「(クリムゾンめの恐らく初めて見せる強硬な反対、か。出来れば考慮してやりたいが…)」

 

 だがインゴベルト六世としても、今回はキムラスカ王家の未来の為に退けぬ理由があった。

 

 大袈裟と言うなかれ… キムラスカは赤い髪と緑の瞳を持つその血を何よりも重んじる。

 それこそ、ルークがナタリアと結婚した暁には彼が王位継承権第一位になってしまうほどに。

 

 だが、預言(スコア)のためとはいえ彼は長きに渡り軟禁生活を強いられていた。知名度は高くない。

 触れ合えばその才気は伝わるものの、出回っている噂は耳障りの良くないものばかりだ。

 

 だからこそ本件で存在をアピールし、後に続く彼の治世を盤石なものとしたい狙いがあった。

 さらにそれが、キムラスカへ『未曾有の繁栄』を齎す結果へと繋がるのであればなお良い。

 

 民衆はこぞってルークを讃え、ナタリアや彼らの子供にも大いなる幸せが約束されるだろう。

 万が一ではあるが預言が外れたとしても、マルクトへの信義は充分に示せることであろう。

 

 国を想う国王としても、我が子の幸せを願う父としても、決して譲るわけにはいかない問題だ。

 ひとまずクリムゾンのことは置くと決定し、インゴベルト六世はナタリアに視線を合わせる。

 

「ナタリアよ、控えなさい。……いずれ王の妻になる者としての自覚を持つのだ」

「お父様! 自覚とはなんですか!?」

 

「王妃たる者は、夫である国王を支えて日陰より国に尽くすのが本分」

「そんな! 私は言われるまでもなく、そのとおりに…」

 

「そのとおりにした結果が、『親善大使には己こそが相応しい』と主張することか?」

 

 やや厳しい口調のまま問い詰めれば、返す言葉も無いのかナタリアは俯いて押し黙った。

 それなりの老齢ではあるが、彼女の持つ功名心を見抜けないほどに耄碌もしていない。

 

 思えばナタリアも哀れな娘だ… そう思いつつ、インゴベルト六世は静かに溜息を吐いた。

 彼女は王家の赤い髪どころか、母親である王妃の黒髪すら受け継がず生まれてきたのだ。

 

 国王である己の耳にすら入ってくる不義の子ではないかという噂、それに晒され生きてきた。

 守ってくれるはずの母親は既に死別している。自分の価値を示して居場所を作るしかない。

 

 キムラスカとマルクトが和解する歴史的な場に立ち会うことで、名を残したいのだろう。

 さすれば不義の子なる不名誉な噂は一掃され、自身の存在意義を揺るぎないものに出来る。

 

「(情けないことだ… 父として、これの寂しさを埋めることはついぞかなわなんだか)」

「お父様、私は…」

 

「……ナタリアよ。おまえの苦しい気持ち、分からぬでもない」

「………」

 

「だがそれをおまえが奪うことで、将来同じ苦しみをルークに背負わせることになるのだぞ」

 

 認められぬ苦しみを誰よりも理解しているだろうナタリアに、敢えて卑怯な言い方をした。

 ……その言葉にナタリアは黙って頷くと、最早口を開くことはなかった。

 

 そして続いてクリムゾンを見据えると、インゴベルト六世は国王として口を開いた。

 

「わしは出来ればその方に命令をしたくはない。……なんとか引き下がってはくれぬか?」

「たとえそれが繁栄に続くのだとしても、それまでの道のりが不明のままでは危険です」

 

「……繁栄?」

 

 思わずナタリアが聞き返す。まだ、それが預言(スコア)のことだとは気付いてはいない様子であるが。

 

 一部の者にしか明かされてない秘預言(クローズドスコア)について口走ったことで、謁見の間に動揺が走る。

 クリムゾン自身も秘密厳守を言い渡され、これまでルーク本人は勿論妻にすら秘密にしてきた。

 

 騒ぎが広がり出す諸侯らを、インゴベルト六世が一喝する。

 

「静まれ! ……クリムゾンよ。滅多なことを口走るものではないぞ」

「……御意」

 

「なにより、親善大使は送らぬ訳にはいかぬ。次期国王以上に相応しき者がいるか?」

 

 王がルークを次期国王と明言したことで、謁見の間のあちこちから感嘆の声が漏れ出る。

 クリムゾンは押し黙る。彼とて譲り難い理由があった。我が子ルークのことである。

 

 ルークは生まれて程なく、ユリアの預言(スコア)に詠まれた重要な人物であると判明した。

 のみならず、赤い髪に緑の瞳を持っているということでナタリア姫の婿として定められた。

 

 彼にとって我が子は、預言(スコア)により王家に… 世界(オールドラント)に捧げられるべき存在であったのだ。

 ことは秘預言(クローズドスコア)だ。秘密厳守が命じられ、我が子は勿論のこと妻にも打ち明けられなかった。

 

 クリムゾンは無骨な軍人である。隠し事をしたまま我が子を愛せるほど器用な人間ではない。

 距離を測りあぐねたまま時間ばかりが過ぎていた溝が、このほどようやく僅かに埋まったのだ。

 

 このまま流されるままに我が子に運命を強制したくはない。初めての親心の発露であった。

 それに加え、ローレライ教団はもとよりモースという男が齎す預言(スコア)に疑問を抱いていた。

 

「(戦場でしばしば感じた悪寒… 根拠はないが、私の『勘』が罠だと告げている…)」

 

 無論かようなことを口走れば、先のように王に窘められるか悪ければ牢送りとなってしまう。

 この国で… いや、この世界で『預言(スコア)を疑う』ということはそれほどに罪深いことなのだ。

 

 だが『詠めない部分』とやらが『意図的に削られた』のだとしたら? それこそが恐ろしい。

 モース… ユリアを神聖視するあの狂信者めが、意図的に秘預言(クローズドスコア)を違えるとも思えない。

 

 だが削った部分に重大な秘密が隠されていたら? あるいは命取りになりかねない。

 キムラスカに繁栄をもたらすという内容が詠まれている以上、国家に不利益はないのだろう。

 

 だが何かを見落としている気がする。考えねばならない。今、自分にしか出来ないことを。

 あの狡猾な狂信者の意図を掴み取って、王を説得するだけの材料を。その手立てを。

 

 だが絶望的に時間が足りない。手札が足りない。肝心のモースも既にダアトへ帰還している。

 

 だが、だが、だが、だが… 立ち塞がる問題、そればかりが続いていく。

 八方塞がりの状況の中でクリムゾンが再度口を開こうとした時、膠着した状況は動き出した。

 

「伯父上! ルーク・フォン・ファブレです! 急なお目通り、失礼します!」

「……ルークか。一体いかなる用であるか?」

 

「はっ! お願いしたいことがあって参りました!」

 

 父の横に並んで跪くルーク。

 

 この膠着した事態をなんとかしたいと思っていた大臣も、敢えて無礼を咎めない。

 インゴベルト六世もルークの無礼を赦し、その言葉に耳を傾けんとする。

 

「この度、アクゼリュスへの親善大使の任… 是非俺に預けていただきたく参りました」

「ほう… まことか?」

 

「はい。アクゼリュスには困ってる人が大勢いるんですよね? ならば助けたいです」

 

 迷いなく彼は言い切った。そして尚も言葉を続ける。

 

「ジェイドたち… えっと、マルクトの使者の連中はそのために来てたんですよね?」

「うむ、そのように申しておった」

 

「ならアイツらをここまで連れてきた人間として、俺は最後までその責任を全うしたい!」

「ふむ… よくぞ申した! それでこそこのキムラスカの次期国王である!」

 

「……へ? 次期国王って」

 

 王の思わぬ言葉にルークは驚きの表情を浮かべる。

 それを知ってか知らずか、嬉しそうな笑顔を浮かべて王はクリムゾンに目を向ける。

 

「クリムゾンよ。ルークはかように申しておるが… どうだ?」

「……ルークよ、その言葉は本心からのものであろうな?」

 

「はい!」

「ならばこの上は私からは何もございません、陛下。御前、長々とお騒がせしました」

 

「構わぬ。……しかしその方、意外と親バカであったのだな」

 

 先ほどまで張り詰めていた謁見の間に、和やかな空気が漂い始める。

 続けてルークが口を開く。

 

「あの! 攫われた皇帝の名代の女性… なんとか探せないでしょうか?」

「ふむ… あの娘か」

 

「旅の途中、俺の友達だったんです。マルクトとの友好には大事だと思いますし、その…」

「皆まで言うな。もとよりそのつもりであったが、ルークの頼み… 特に申し付けておこう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 そこにアルバイン大臣が口を挟む。

 

「であれば、いかがでしょうか? ヴァン・グランツ謡将を使うというのは」

「ふむ、いかなる心算か」

 

「アクゼリュスでの救助活動を行わせることで罪の減免を申し渡すのです」

「なるほど… もとより罪の減免をナタリアやルークにも求められておったしな」

 

「然様にございます。加えて、教団の印象回復にも一役買うのではないかと…」

 

 願ってもない提案だと、ルークは喜びの笑顔を浮かべる。

 これからの旅路にはやはり気心がしれた、しかも心強い味方が増えるのは嬉しいものだ。

 

 そんなルークに向かって、無理に笑顔を浮かべてナタリアが語りかける。

 

「良かったですわね、ルーク。……わたくし、あなたの成功と無事をお祈りしますわ」

「……ナタリア? なんか辛そうな顔してるけど、大丈夫か?」

 

「な、なんでもありませんわ! あなたは無事に帰ってくること。よろしくって?」

「それは、わかってるけど…」

 

「『けど』は余計です。『わかった!』と、ただ力強く約束すればよろしいのですわ!」

 

 誤魔化すように大声を出して、ナタリアは話を打ち切ろうとする。

 そんな彼女を暫し見詰めていたルークは、再び王に向き直る。

 

「あの… 陛下。もう一つだけ頼みがあるんですけど、いいでしょうか?」

「なんだ? なんなりと申してみよ」

 

「ナタリアを、俺の補佐にお願いできませんか?」

「なんと!」

 

「次期国王なんて言われましたけど、俺、そんな自覚はないし公務だって初めてです」

「ふぅむ…」

 

「色々知ってるナタリアに教えてもらえたら、正直、助かります。どうでしょう?」

 

 ルークの言葉に考え込むインゴベルト六世。

 まさかここまで忍耐強く、気遣いが出来る性格になっていたとは… そう密かに感心する。

 

 ……主にティアさんに鍛えられたせいなのだが。

 

「あいわかった。その言葉に甘えよう… だが、二人とも障気への備えは怠らぬよう」

「はい、ありがとうございます!」

 

「……ルーク、気を使わせてしまいましたわね。ごめんなさい」

「気にすんなって。大体、助けてもらうつもりなのは本当なんだ… 使い倒してやるぜ?」

 

「フフッ… こっちこそ立派な次期国王となれるよう、ビシバシ鍛えて差し上げますわ」

 

 穏やかな笑みを浮かべる娘の姿にインゴベルト六世は胸を撫で下ろすと、口を開いた。

 

「皆の者、我がキムラスカより派遣する親善大使はルークで決定した。異論ないな?」

「………」

 

「ではこの場を以って決定とする… 以後、各々はアクゼリュス救助支援の準備に励め!」

 

 一同は一糸乱れぬ様で跪くと、各々の仕事へと取り掛かっていく。

 

 謁見の間を出て、仲間たちと笑顔を見せ合うルークを眺めつつクリムゾンは思う。

 子供が道を決めたのであれば、それを守り支えてやるのが父の役目だろうと。

 

 そして信頼する腹心の部下を呼び寄せると、そっと耳元に囁いた。

 

「セシル少将… 君に救助隊の総指揮を任せるよう、陛下に奏上するつもりだ」

「しかと承りました。そのつもりで、準備に励みます」

 

「うむ… そこでだが、道中で君に一つ注意してもらいたいことがある」

「はっ、どういったことでしょうか?」

 

「……教団の動きに気を配って欲しい。ヴァン・グランツは勿論、導師らも含めてだ」

 

 彼女は声を潜めて伝えられた言葉に静かに頷くと、部隊の編成に取り掛かりに行った。

 

「(やれやれ… 我ながら疑い深いものだ。……何事も起きなければいいのだがな)」

 

 息子の無事を父親が静かに祈る。

 

 翌日、親善大使一行がアクゼリュスに向かうことが国民に向けて発表された。

 次期国王たるルークと、その補佐に絶大な人気を誇るナタリアが付くこと。

 

 これらの発表に、国民は揃ってお祭り騒ぎとなりここ数日の騒ぎなど収まってしまった。

 ……それは同時に、ヴァンが拘束されていた真の理由が明らかにされた事を意味する。

 

 

 

 ――

 

 

 

 ここはタルタロス内。

 

 情報収集から戻った部下から話を聞いたシンクが、深々と溜息をつく。

 怪訝な表情を浮かべてリグレットが尋ねる。

 

「どうした? また何か不審な情報でもあったというのか」

「不審な情報というか、不審人物の情報というか…」

 

「不審人物だと? 放っておけ。それより閣下の消息はまだ判明しないのか」

「その『閣下』が不審人物になっちゃったから溜息をついてたんだよ」

 

「ど、どういうことだ! 何かの間違いではないのか!?」

 

 慌ててシンクに詰め寄るリグレットであったが、当のシンクの表情は苦いままだ。

 といっても、その表情の大部分は仮面に覆われているのだが。……そして言葉を続ける。

 

「なんでも… 同性の王族への性的暴行未遂で捕まったんだってさ」

 

「襲われた王族ってのはまさか… なんつー真似しやがる。あのヒゲ!」

「嘘だ… そんなの、嘘だ…」

 

「んっと… 総長、男の人が好きなの?」

 

 激昂するアッシュに、今にも倒れそうなほど弱々しい声をあげるリグレット。

 そこに、アリエッタが無邪気に追い打ちをかける。

 

 流石に見かねたのか、ラルゴがやんわりとフォローに入る。

 

「そうではないと信じたいがな。……誰かに嵌められたという可能性も捨て難い」

「そ、そうだ! きっとそうに違いない! 閣下は嵌められたんだ!」

 

「うーん… だとしたら、謁見の間で告発したっていうマルクトの皇帝名代が怪しいかな?」

 

 セレニィは笑顔のまま青褪める。うん、それもしかしなくても自分のことですよね?

 どうする? ここは正直に言うべきか… 少し悩んでから、彼女は口を開いた。

 

「マジかよ皇帝名代サイテーだな!」

 

 いや、うん。無理です。

 殺気とか分からん自分にも伝わるほど禍々しいオーラをリグレットさんが発してますし。

 

 そのリグレットさんが笑顔を浮かべながら、口を開いた。

 

「もしそいつを見付けたら… 私、そいつを蜂の巣にしてやるんだ」

「精々がんばってね… そもそも、皇帝の名代って誰なのさ?」

 

「アリエッタ、しらないです。……セレニィ、しってる?」

 

 勿論答えは「NO」である。知ってようが知ってまいがこれ以外に答えはない。

 こんなことで藪蛇をしても意味が無い。さぁ、さっさと答えよう。

 

 そして口を開こうとしたところ…

 

「あ、そういやオメー… 確か和平の使者一行にいたよな。ようやく思い出したぜ」

「そういえばそうだったな。ということは、オマエは皇帝名代が誰か知っているのか?」

 

「え? あ、その… それは…」

「知っているのか。さっさと吐け… セレニィ」

 

「ちょっ、リグレットさん! 撃鉄上げたまま、太くて堅いもの押し付けないで!?」

 

 キレたリグレットにより眉間に譜銃を押し付けられ、両手を上げたまま動揺するセレニィ。

 いつしか他の六神将の注目まで集めてしまっていたようだ。

 

「まぁ、知ってるならさっさと教えてよ」

「捕虜として過分の待遇を与えているだろう。ここは素直に協力してくれないか?」

 

「いいからさっさと教えろ、カスが!」

「……吐け」

 

「んーと、んーと… 誰だろ?」

「ハーッハッハッハッ! まぁ、こんな悪知恵が働くのは一人でしょう?」

 

 プレッシャーに耐えかねて、セレニィは口走ることになる。

 

「じぇ… じぇいど・かーてぃす?」

「ハーッハッハッハッ! やはり、性悪ジェイドでしたか! 予想通りでしたね!」

 

「なるほど… 『死霊使い(ネクロマンサー)』めは奸智にも長けるということか」

「ジェイドだったんだ… アリエッタ、覚えたよ?」

 

「ちっ… そいつはぶっ殺す」

「なんかセレニィが不自然に目を逸らしてたのが、一周回って怪しいような怪しくないような」

 

「なんだっていい。そいつに地獄を見せてやるまでだ!」

 

 リグレットが一喝すると、場の空気が引き締まる。

 

「我らのやるべきことは実にシンプルだ」

「………」

 

「導師イオンを奪還し、皇帝の名代とやらを血祭りにあげて閣下の名誉を回復する」

「………」

 

「それだけだ!」

 

 彼女の檄に各々が頷く。……アリエッタとディストとセレニィ以外が。

 セレニィは小声でつぶやく。誰にも拾われないような声で。

 

「うん… 皇帝の名代って平気で仲間売るやつだし気を付けて下さいねー… あはは…」

 

 腹黒小市民が微妙に罪悪感を覚え、また、バレた時のことを考えて胃を痛めていたという。

よろしければアンケートにご協力ください。このSSで一番好きなキャラクターは?

  • セレニィ
  • ルーク
  • ティアさん
  • ジェイド
  • それ以外

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。