TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー   作:(╹◡╹)

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74.救助

 六神将ら一行が、タルタロスを駆ってアクゼリュス郊外に到着してから早数日。

 避難キャンプは大賑わいであり、仮設テントは増設に継ぐ増設を重ねている。

 

 トイレは念の為に3箇所作っていたものの、この分だと足りなくなることだろう。

 いや、足りなくなるとしたら衣類に毛布もそうか。衛生班にもう少し人回そう。

 

 そんな事を考えていると、ここ『食事配給テント』の喧騒が一際大きくなる。

 

「なんだこりゃ! うめぇぞ!」

「おおい、こっちにも追加を頼むよー!」

 

「セレちゃん、こっちにもお願いー!」

 

 ガヤる大声に名前を呼ばれて「はーい!」と返事をしながら、食事を配りに行く。

 別に御大層なものでもなく、単なる豚汁だ。避難所といえば豚汁。安直である。

 

 しかしこれが物珍しかったのか思った以上にウケた。連日連夜の満員御礼だ。

 どれくらいウケたかというと、当初避難所への移動を渋ってた人たちが頷くほど。

 

 好みもあるだろうな、と試供品を配ったら「コレがあるの? 行く行く!」だ。

 この世界の人間は、大人であっても食べ物に釣られホイホイついてくる模様。

 

 むしろ受け入れが間に合わなくて、まだ元気な人は街で待ってもらっている始末。

 ……まぁお陰でこうして多くの人を受け入れられたのだから、結果オーライか。

 

「ふぅ… ゴホンッ!」

 

 汗を拭いつつセレニィはそう振り返った。あれ以来マスクが手放せぬ日々が続いている。

 咳が止まらないためだ。要救助者に伝染(うつ)すわけにいかぬ以上、慎重にもなってしまう。

 

 親善大使一行の到着までは持たせないといけないが、セレニィが欠けるわけにもいかない。

 避難所の問題に対応しなければならないし、なにより料理に関して外せない戦力である。

 

 誤魔化しながら続けてきたが、お陰で体調は良くなったり悪くなったりの繰り返しだ。

 特に初日運びだした重症者たちの姿が衝撃的だったのか、セレニィは一気に体調が崩れた。

 

「ゲホゴホ… ゴホンッ! ……あぁー、だるぅ」

 

 倒れない程度に適度にサボりながらも、働いてるように見せる匠の技で乗り切ってきた。

 なんやかんやで、現状は小康状態といったところだろうか。快復の兆しも見えないが。

 

 フラフラのセレニィを見かねて、同じく食事配給を担当しているリグレットが声をかける。

 

「おい、セレニィ… ここは私に任せておまえはもう休んでこい」

「え? ですが、料理は私がしないと… コホン!」

 

「ここ数日で、この『豚汁』とやらの作り方はマスターした。おまえがいなくてもやれるさ」

「そうですか? それじゃお言葉に甘えて、ゴホン! ……少し休憩したら戻りますね」

 

「いや、今日はもうテントで休め。休んでいるか後で確認しに寄るから、そのつもりでな」

 

 そう言われては何も言えない。リグレットの優しさに甘えて、セレニィは休むこととなる。

 このあたりの気遣いがさり気なく出来るのが、六神将のまとめ役たる所以かもしれない。

 

 食事配給テントの面々に本日は下がる旨を伝えると、あちこちから不満の声が漏れ出てきた。

 なぜだかセレニィは、男連中からの人気を集めているのだ。本人的には全く嬉しくないが。

 

 どうせなら美女や美少女に言い寄られたいと思いつつ、彼女はお辞儀をして場を辞した。

 避難所の中を歩きながら割り当てられたテントへ向かう… と、そこで騒ぎが聞こえてきた。

 

「……コホッ。なんだろ?」

 

 テントに戻る前の寄り道に、顔を出してみるとアッシュと一人の神託の盾兵が揉めていた。

 

「どーしたんですか、アッシュさん。こちらの人は?」

「ん? なんだテメェか… いや、この屑が何もしねぇで坑道の中に突っ立っていやがってな」

 

「何もしないとは心外です! 自分はモース様の命令で第七譜石探索に関わる任務が…」

「るせぇ! たかが石っころのために、アクゼリュスの人間見捨ててるってこったろうが!」

 

「ほうほう、なるほど…」

 

 意外と熱い性格してたんだな、アッシュさん。セレニィは意外そうにアッシュを見詰める。

 そんな彼女の視線など気付かぬままに、一層激したアッシュが神託の盾兵を締め上げる。

 

「そんなあるかどうか分かんねーモンと重病人の命、どっちが大事だ? あぁ!?」

「そ、それは… しかし、第七譜石の確認は重要な任務でして…」

 

「まぁまぁ、アッシュさん。そう一方的に怒鳴りつけていては、溝は埋まりませんよ」

 

 怒り狂うアッシュを宥めつつ、間に割って入る。初対面の頃と違って気安くなったものだ。

 アッシュもセレニィに対して怒鳴るでもなく、なんとか矛を収めつつ口を開いた。

 

「チッ! ……だったら、どうしろってんだ?」

 

「えーと… 神託の盾兵さん。第七譜石らしきものは発見しているんですよね?」

「……ハイマンです。はい、あとはそれを確認する預言士(スコアラー)の到着を待つばかりなのです」

 

「じゃあ、さっさと掘り起こしちゃいましょうよ」

「えっ?」

 

「掘り起こしておいて、後から確認できる人に確認させればいいじゃないですか」

 

 なるほどな、と頷いているアッシュを尻目に硬直しているハイマンを見詰める。

 なんでこんなことも考えつかないんだろう? ……仕事疲れだろうか。

 

 そう思いつつ、セレニィはハイマンの反応を待つ。どうにも反応が芳しくないが。

 

「いや、えっと、その…」

「あぁ、なるほど。すみませんでした、こんな簡単なことも気付かずに…」

 

「わ、分かってくれましたか!」

「えぇ。アッシュさん、一人じゃ掘り起こすの大変でしょうし…」

 

「特務師団の兵を回せってか? ンなことより今は救助活動の方が先だろうが」

「仰ることはごもっともですけどね。預言(スコア)が大事な人の方が多いのも事実ですし…」

 

「しょうがねぇな。おいテメェ、これでハズレだったらマジでぶっ殺すぞ!」

「……は、はい」

 

「めでたしめでたし、ですね。……コホッ!」

 

 何故か、今にも死にそうな声で返事をしたハイマンさんの健康状態が気になるところだ。

 DQNっぽい外見と言動のアッシュさんが怖いのかもしれない。根はいい人なんだが。

 

 そんなことを考えて満足気に頷きながら、セレニィはさてテントに帰ろうかと背を向ける。

 その背後にアッシュが声を掛けてきた。

 

「おいテメェ… その咳、大丈夫か?」

「まぁ、ちょっと休めば良くなりますよ。アッシュさんも風邪には気を付けて下さいね」

 

「チッ、ウゼーんだよ。……さっさと回復させて死ぬ気で働くんだな」

 

 中々に分かり易いツンデレだ。美少女だったら萌えたのに… 心底残念に思いつつ立ち去る。

 

 自分のテントに入ると、ボフッと敷き布へと身を投げる。幹部待遇なのか完全個室なのだ。

 ……いやたかがテントに個室も相部屋もないし、そもそもミュウと相部屋でもあるのか。

 

 身体がまるで根が張ったように動かない。どうやら思った以上に疲労していたようだ。

 テントで一人横になりながら、セレニィは救助活動の現状を再確認するために頭を巡らせる。

 

「アリエッタさんにはお手紙持って、セントビナーに飛んでもらってますし…」

「アリエッタさん、『お姉さんに任せて』って言ってたですのー」

 

「ホント、アリエッタさん様々だなぁ… 彼女には頭が上がらないですねぇ」

 

 熱っぽい身体を嫌って襟元を緩めつつ、ほのかに汗を浮かせながらセレニィは微笑んだ。

 

 彼女にはマクガヴァン将軍宛ての手紙を持たせて、セントビナーへと飛んでもらっている。

 六神将とはいえアリエッタさんは彼らにとって顔馴染み。いきなり攻撃はされないはず。

 

 内容は勿論、アクゼリュス避難民の受け入れについて。中でも重症者の受け入れについてだ。

 幾ら避難所を整えても、医術の心得がある者が作戦行動中の神託の盾騎士団の中にいない。

 

 ある程度大きな街に渡りをつけるしかない。程近く大きいセントビナーはうってつけだ。

 カイツールも距離的には近いが、あそこは駄目だ。今近付けば間違いなく攻撃されるだろう。

 

 六神将の連名によるお願いに加えて、飽くまで人道支援の側面を強調する文面を作成した。

 効果があるか分からないが自分の名前も併記しておいた。多分忘れられているだろうが。

 

「ディストさんは、タルタロスを動かして重症者を運んでもらってますし…」

「ディストさん、『心友のためですよ!』って張り切ってたですのー」

 

「少人数でタルタロス動かせるのは彼の譜業人形あってこそですし、見せ場ですもんねー」

 

 断られてもいいように、既にアリエッタと一緒にタルタロスにも重症者を乗せて出発させた。

 え? 断っても押しかけるのかって? だってこっちじゃ対処しようがないから仕方ない。

 

 自国民を見捨てるようなことはしないだろう。そして一度受け入れれば既成事実となる。

 卑怯卑劣と言わば言え。事前連絡により、準備する時間を与えるだけマシだと思って欲しい。

 

 セレニィとしては、六神将のみんなを助けたいしそのための人質に取る方針は変わらない。

 けれど、やっぱり助けられる人は出来るだけ助けたいしそのための力は尽くしたいのだ。

 

 別に正義感に目覚めたとかいうわけではなくて、後で罪悪感に潰されないための防衛行動だ。

 ……もし、それでもお断りされたらしょうがない。親善大使一行に死ぬ気で頭を下げよう。

 

 自分ごときの知恵では何も思い付かなくても、ドSはじめ優秀な人材が揃っているのだ。

 六神将はともかく、アクゼリュスの民間人を助けるための手立ては考えてくれるに違いない。

 

「ラルゴさんには周辺の警戒をしてもらってますし、基本避難所は安全ですし…」

「『期待に応えてみせよう』って言ってくれてたですのー」

 

「月並みですがあの人ほど敵の時は恐ろしく、味方の時は頼もしい人もいませんよねー」

 

 ラルゴと彼に統率されている第一師団は、タルタロスの構成人員の中でも最大人数を誇る。

 部隊の人数はその強さと対応力に直結する。しかも指揮官があの“黒獅子”ラルゴである。

 

 そこらの魔物では、その護りを突破して避難所の人間に手を出すことは不可能と断言できる。

 そして森や林から食料やら燃料となる枯れ木を、河から水を調達してくるのも彼らなのだ。

 

 アリエッタやディストのような派手さはないものの、最も習熟し且つ堅実なのが彼らだ。

 こと戦術の巧みさにおいて相手したくない人間の筆頭候補に挙げられる。くわばらくわばら。

 

「アッシュさんは、アクゼリュスで要救助者をよく拾ってきてくれますよね…」

「『特務師団だから危険な場所では動き慣れてる』って言ってたですのー」

 

「でも、すごく真剣に人命救助してくれてますよね。彼のおかげで助かる人が増えてますし」

 

 先のやり取りからも、恐らく六神将の中で一番人命救助に熱心なのが彼アッシュであろう。

 彼が後先考えずに要救助者を拾ってくるものだから、一時期は避難所がパンクしかけた。

 

 現在は施設を増設しつつ、空きスペースを確認してアクゼリュスと往復している日々らしい。

 今この避難所に要救助者何人いますか? と冗談で尋ねたら素で返してきたのでビビった。

 

 彼の前でやる気なさを見せたりサボるのは厳禁だ。さっきのハイマンさんのようになる。

 その分、普段の無愛想さが嘘のように救助に関する指示に素直に従ってくれる。ありがたい。

 

「シンクさんはトラブル対応っていう難しい役目をよくこなしてくれますよねー…」

「よく『生きてる?』ってお見舞いにきてくれるですのー」

 

「あれは死んでないかの確認作業かと… 果物とか持ってきてくれるのは嬉しいですけど」

 

 いくらその場凌ぎの避難所といえ、いやその場凌ぎだからこそ問題というものは出てくる。

 それをシンクは兆候レベルで事前に摘み取り、問題が起こっても短期間で解決するのだ。

 

 とにかく対応力が凄い。不便が起こりやすい避難所では人の不満が集まり治安が乱れやすい。

 なのにそれらを素早く把握し、即座に報告してくる。時には先んじて対処までこなすのだ。

 

 それどころか片手間にそれをこなしつつ、休みがちな自分のテントにしばしば顔を出す。

 恐らくはぶっ倒れてる自分を指差し笑うためだろう。口を開けば大抵罵り文句の毒舌家だし。

 

 まぁ腹いせに、彼の持ってきた果物や食べ物やらは全部自分とミュウの二人で食べてるが。

 

「意外なのはリグレットさんでしたねー。まさか料理を教えろとか…」

「『おまえのカバーは任せろ』って言ってましたですのー」

 

「……うん、なんか吸収速度凄いですよね。まとめ役こなしつつそれですもんねー」

 

 リグレットさんは本当に凄い。食事配給テントにいるものの、司令塔もこなしているのだ。

 こっちのうろ覚えの災害対策ノウハウを吸収して、しかも現実的なものに組み立て直す。

 

 オマケに、それまで不得手だった料理まで覚えたのだ。完璧超人への一歩を踏み出している。

 あまりに卑劣な手を使い過ぎて、人としての道を踏み外しまくっている自分とは大違いだ。

 

 今日なんか戦力外通告まで受けてしまう始末である。いても邪魔なだけだったのだろう。

 確かに完全上位互換のリグレットさんがいる以上、自分などお払い箱でしかないとは思うが。

 

 まぁ親善大使一行との橋渡し役という仕事が残っている以上は、まだ捨てられないはずだ。

 自分としても、六神将の面々を生き延びさせるという使命のために頑張らねばならない。

 

「はぁ… ゲホゴホコホンッ!」

「みゅう… セレニィさん、大丈夫ですのー?」

 

「ふぅ、平気ですよ。それよりあんまり近付くとミュウさんにも伝染(うつ)りますから」

「ボクに伝染(うつ)してほしいですの! そうすればセレニィさん治るですの!」

 

「コラ、駄目ですよ。冗談でもそんなこと言っちゃ」

 

 全く、冗談ではない。ミュウに伝染(うつ)ってもこっちが治る保証などどこにもありはしないのだ。

 その場合は、誰が自分を看病してくれるというのか? 虚弱な自分では死を待つばかりだ。

 

 今でも、濡れタオルを用意したり汗を拭いたりしてくれるミュウに助けられているのだ。

 ぶっちゃけ自分より役に立つ存在に倒れられても困る。そんな事態は断固お断り状態である。

 

 そのままじゃ勝手に伝染(うつ)ろうとしてくるかもしれないので、その前に釘を差しておこうか。

 

「コホン! ……ミュウさんは火を出したり、避難所に欠かせない存在なんですから」

「そんなの、セレニィさんだって欠かせないですのー!」

 

「いやいや、私ができることは大抵他の人も出来ますから」

「でも、ボクはセレニィさんが辛いのは嫌ですの… 無理だけはしないで欲しいですの…」

 

「はい? するわけないじゃないですか。無理なんて」

「……ホントですの?」

 

「本当ですって」

 

 何を言っているのだろうか、この毛玉は。無理をしたくないから死ぬ気で頑張ってるのに。

 自分ほど怠けるために全力を尽くせる人間は、そうそういないという自負があるのだが。

 

 とはいえ、これ以上言っても水掛け論かと判断したセレニィは話題を替えてみることにする。

 

「それより、今日はジョン君と遊ぶ約束だったはずです。代わりにお願いできませんか」

「みゅう…」

 

「ついでに私が来れなくなったことを謝っておいてくださいな。頼みますね、ミュウさん」

「はいですの…」

 

「すみません、ミュウさん。お願いしますね?」

 

 小さくガッツポーズをする。

 

 ジョンというのは、遠くエンゲーブより父のいるアクゼリュスにやってきたという少年だ。

 まだ遊びたい盛りの子供で、歳の近そうなセレニィを見るや遊ぶようせがんできたのだ。

 

 懐かれるのは良いとして子供に振り回されるのは疲れる。押し付けられるなら押し付けたい。

 彼との約束を、ミュウに押し付けることが出来るならばセレニィとしては一石二鳥なのだ。

 

 心配そうな表情を浮かべるミュウに笑顔で後押しして、そのままテントの外に押しやる。

 

「ケホッ、コホッ… さて、ゆっくり治しますか…。あと少しで完全に怠けられますしねー…」

 

 軽く咳をしつつ、そのまま目を閉じる。そして…。

 

 

 

 ――

 

 

 

 ふと意識が浮上してくる。額に当てられた冷たいものの感触が心地よい。

 これは恐らく濡れタオルだろう。

 

 そして人の話す声が聞こえてくる。

 

「セレニィ… 寝てるの?」

「うむ… あまり大きな声を出して起こさぬようにな」

 

「……ん」

 

 目を開けて声の主の名を呼ぶ。

 

「アリエッタさん、リグレットさん…」

「なんだ? 起きてたのか」

 

「えぇ、つい先ほど。アリエッタさん、おかえりなさいです」

「ん… ただいま、セレニィ。大丈夫?」

 

「フフッ、アリエッタさんの顔を見たら元気百倍ですぜ」

 

 根性で咳を止める。何があってもこの二人にゃ伝染(うつ)すわけにはいかねぇと決意する。

 そして小首を傾げながら尋ねる。

 

「して、どうしたんですか? お二人とも。こんなところに」

「何を言っている。もう夜だぞ… 顔を出すと言っていただろう?」

 

「アリエッタ、ただいまをセレニィに言いたかったです…」

「それはまた… ありがとうございます。嬉しいです」

 

「しかし起きたなら都合がいい。身体を拭いてやるから上を脱げ」

「うぇ?」

 

「うむ、上だ。上着ともいう。肌着も脱げよ?」

「い… いえいえいえ、そんな申し訳ないですよ。自分でやりますから」

 

「いいから脱げ。手紙の件で私に借りがあるはずだぞ? おまえは」

「アッ、ハイ」

 

 勢いに呑まれて、結局身体を拭いてもらうことと相成った。

 

 ぬるま湯に浸かったタオルで身体を拭かれるのは、中々に気持ち良い。

 自分がVIPか何かになったような気分になってくる。……錯覚だが。

 

 起きたばかりなのになんだか眠くなってくる。これは良いものだー。

 そんな夢心地の気分の中、テントの入口が開く。

 

「やぁ、生きてる?」

「……ん? あぁ、シンクさんですか。うっす」

 

「………」

「………」

 

「どうかしたんですか? みなさん固まって」

 

 首を傾げるセレニィを尻目に、リグレットが無言で譜銃を構えてシンクを狙う。

 間一髪、シンクは彼女の銃の乱射から逃げ切ることに成功した。

 

 それからしばらくして…

 上を直されたセレニィの前に、リグレット、アリエッタ、シンクの三人が座っている。

 

 渦中の本人たるセレニィはマスクを付けながら、かんらかんらと笑っている。

 

「あははー、災難でしたねシンクさん」

「笑い事じゃないよ。冗談抜きで死ぬかと思った」

 

「全く… セレニィも少しは頓着しろ」

「別に所詮私の裸ですしね… リグレットさんやアリエッタさんのを見たら話は別ですが」

 

「……もし、そっちを見てたらどうなってたの?」

「私が死んででもシンクさんの両目を潰します」

 

「………。肝に銘じておくよ」

 

 真顔で言い切ったセレニィの瞳に、シンクはその本気っぷりを確信する。

 

「まぁ、それはそれとして… 何かあったんですか? シンクさん」

「教団から応援が来てね… その報告」

 

「教団から、ですか?」

「どうかしたの?」

 

「いえ… どういった応援ですか?」

「神託の盾騎士団の兵士じゃなくて、普通に薬とか救援物資を持った教団員だね」

 

「ほほう… それはありがたいな。私が会おう」

 

 リグレットが立ち上がる。

 

 セレニィは何かが頭の中に引っかかっていた。……なんだろう? この違和感は。

 だが、時計の針は無情にも進んでいく。

 

「セレニィ、おまえは休んでおけ」

「ゆっくり… ね、セレニィ」

 

「まぁ、雑魚はさっさと治すんだね」

 

 それに対して生返事しか出来ないまま、彼らを見送ることになる。

 なおも熱持つ頭で考え続け… いつしか眠ってしまった。

 

 セレニィはこの時のことを強く後悔することになる。

 あの奸計にこの時点で気付けなかったことを。自分だけは気付くべきだったのに、と。

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