TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー   作:(╹◡╹)

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77.対峙・下

 無言のままのセレニィに、ジェイドは溜息を漏らす。

 

「……全く以て、無意味な『交渉』でしたね」

 

 救えなかった。

 

 認めてしまったその事実を前にして、銀髪の少女… セレニィは虚脱状態に陥った。

 血の気は失せ果てて、身体に力は入らず、視線は虚空を映し出す。

 

 小柄な身体が一層小さく見えて、今にも消え去ってしまいそうですらある。

 

「………」

 

 降って湧いたような都合の良い『奇跡』など、この世界(オールドラント)に存在しない。

 この世界は暖かく、そして残酷だ。結果には結果で応える。

 

 彼女は人の想いを無視して、人の気持ちを裏切り、人の好意に背を向けた。

 その行為は紛れもない… 『悪』そのものだ。

 

 なればこそ光の中を… 『正道』を歩む者たちに勝てる道理など、最初から存在しなかった。

 そんなことは、誰よりも彼女自身が理解していた。

 

 何処までも自分本位で、他人を利用することしか考えてない自分とでは役者が違う。

 

 モースを追い落としたことで、ヴァンと共犯になったことで、錯覚していたのだろう。

 自分だってこの世界で何かができるのだと… そう、思い上がっていたのだろう。

 

 だが結果はご覧の有様だ。

 重ねて言うが、降って湧いたような都合の良い『奇跡』など、この世界(オールドラント)に存在しない。

 

 仮面の奥の瞳から、一筋の涙がこぼれた。

 

 

 

 ――

 

 

 

「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、まさか、ここまで救いようがないとはな」

 

 だから、そう… これから始まることは『奇跡』ではなく『必然』。

 積み重ねてきたものによる、当然の帰結に過ぎないのだろう。

 

 大袈裟に溜息を吐きながら、付き添いとして沈黙を保っていたリグレットが一歩前に出る。

 

「リグレット、さん…?」

「全く… 『思う存分やれ』と言いはしたが、誰がいつこのようなことを頼んだ?」

 

「……ぅ」

 

 コツンとセレニィの頭を一つ叩いてから、その背に庇うように彼女を下がらせる。

 逆らう気力もなく俯いてされるがままの彼女を見送り、リグレットは前を向く。

 

 まず奥に立っているヴァンに目礼を交わしてから、続けてジェイドに向けて口を開いた。

 

「久しいな、『死霊使い(ネクロマンサー)』… タルタロスでの一件以来か?」

「えぇ、その節はお世話になりました」

 

「早速で申し訳ないが、『コレ』は暫く使い物にならん。交渉役は私が引き継ぎたいのだが?」

 

 胸を張り澱みなく言葉を口にする様は、なるほど一廉(ひとかど)の将たる風格を漂わせる。

 対するジェイドも異論はないようで、眼鏡を直しつつ一つ頷くと答えを返す。

 

「構いませんよ。尻尾を丸めた負け犬などよりは余程骨がありそうです」

「フッ… 流石はマルクト帝国にて『皇帝の懐刀』と呼ばれる男だ。話が分かる」

 

「お褒めに預かり光栄です。ですが… さて、交渉など成立しますかねぇ?」

 

 皮肉を言われても返す言葉もなく、いたたまれない気持ちになるセレニィ。

 しかしお互い、まるでセレニィなど目に入らないかのようにトントン拍子に話を進めていく。

 

 交渉に難色を示すジェイドの言葉に対しても、リグレットは慌てた様子を見せない。

 むしろ「それがどうした?」と言わんばかりの笑みを浮かべる。その意味するところは…

 

 そのことに気付いたセレニィが、思わず顔を上げて会話に割り込む。

 

「リグレットさん! それは…」

 

「まずは私ことリグレットが、六神将を代表してそちらの完全管理下に入ろう」

「……ほう?」

 

「もとより『交渉の余地』など存在しないのだ。……ならば、こうあるべきだろう?」

「結構… 賢明な判断に心より敬意を表しますよ。“魔弾”のリグレット」

 

「フン、おためごかしは結構だ。それよりアクゼリュス救出の現状についてだが…」

 

 自身の今後になどまるで頓着しない様子のまま、淡々と救助活動の引き継ぎを行う。

 嫌な汗が噴き出る。死ぬ? 死んでしまうのか、この人が… 自分のせいで。

 

 駄目だ。駄目だ。駄目だ。……そんなことは許せない。焦燥に駆られたまま口を開く。

 

「ま、待ってください!」

 

 場が静まり返る。再び、彼女は周囲の視線を集める。

 震える声でセレニィは言葉を紡ぐ。

 

「そ、そんなのは… 駄目です」

「『何故』駄目なのだ?」

 

「そ、それは… だって、私のせいですし…」

 

 リグレットの冷たい視線に気圧されながらも、なんとかそれだけを口にする。

 彼女は無言で溜息をつくと、言葉を紡いできた。

 

「勘違いしているようだから、一つ言っておくが」

「……ぅ?」

 

「私自身の罪も功績も、その全てが私自身のものだ… 勝手に自分のものにするな」

「でも…」

 

「でもじゃない。貴様には関係のないことだし… 正直、迷惑だ」

 

 にべもなく切り捨てられる。そのやり取りにジェイドが口を挟む。

 

「よろしいので? 彼女は自身を六神将だと言っていましたが…」

「ただの拾っただけの小娘だ… 何を勘違いしたか知らんがな」

 

「『だから無関係だ』と? それを通すのは、些か無理があるのではないでしょうかね」

「んっとね… アリエッタもごめんなさいするよ? だから、セレニィは許してあげて」

 

「……ふむ」

 

 リグレットに続いてアリエッタがジェイドに言葉を向ける。

 考えこむジェイド。

 

 ちょうどその時、セレニィの胸に毛玉が飛び込んできた。

 

「セレニィさん、心配しましたのー! 大丈夫ですの? 辛くないですの?」

「……え? ミュウさん。避難所に残っていたはずでは」

 

「セレニィさんが心配だから、お願いして連れてきてもらいましたのー!」

「お願いって誰に…」

 

「フン… テメェの(モン)ぐらいテメェで背負ってやる。そう文句言ってやるついでだ」

 

 その声の方向を振り向けば、不機嫌そうな表情でアッシュが立っていた。

 だが、彼がここにいるはずはないのだ… 思わず尋ねるセレニィ。

 

「アッシュさん!? 避難所で待機ってお願いしたじゃないですか…」

「フン… チーグルだけじゃなくて、コイツらまでが『連れてけ』ってうるさくてな」

 

「……コイツらって?」

 

 アッシュが示した彼の背後に立つ人影… いや、人垣に視線をやる。

 

「よぉ、セレちゃん。苦戦してるみたいじゃねぇの」

「まったく… 俺たちがついてないと、てんで駄目だなー」

 

「とりあえず、豚汁食うかい?」

 

 避難所にいるはずの鉱夫たちであった。思いもよらぬ連中の乱入に、セレニィは声を上げる。

 

「ちょっと、なんでいるんですか! ……あ、豚汁は今は結構です」

「美味しいのに…」

 

「ホントは全員で来る気だったんだけどね… 流石にそれは無理って言われてね」

「いや、それ答えになってませんよね?」

 

 突っ込み始めるセレニィを尻目に、鉱夫たちはジェイドにすら気安く話しかけている。

 

「そもそもセレちゃんや六神将のみなさんには、どえらい世話になったんだよ」

「そうそう。今の俺らがあるのは、みんなこの人らのおかげってことよ」

 

「俺たちを救助に来てくれたってならここは一つ、本当の意味で助けちゃくれませんかね」

「この人たちは悪いことをしたかもしれねぇが、俺らにとっちゃ救いの神なんでさぁ」

 

「ふむふむ、なるほど… ご意見ありがたく承りましょう。参考にさせていただきます」

 

 しかも頷いている。そもそも何故か会談の様子を把握していた様子だが、どうやって?

 

『はーっはっはっはっ!』

 

 その時、まるで彼女の疑問に応えるように音声が響いてくる。

 街の入口付近に停泊している、タルタロスからのようだ。

 

『こっそり会談の音声を拾って街の内外に垂れ流して心友を驚かせる作戦、大成功!』

「おい」

 

『この美と英知の化身たる、“薔薇”のディスト様を置いて他に成し得ない偉大な作戦ですねぇ』

「なんという才能の無駄遣い… あとそれ、ただの嫌がらせですよね?」

 

『な、なんですってぇ!? し、心友… 別に私に悪気があったわけでは…』

「なんですか? ……『ただの友達』のディストさん」

 

『ノォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』

 

 タルタロスの司令室の中から絶叫を上げるディストの姿が容易に想像できる。

 思わずクスリと笑みをこぼすセレニィに、アッシュが話しかける。

 

「おい…」

「ん?」

 

「ラルゴから伝言だ。……『皆と頑張れ。オマエにはそれくらいしかできんだろう』だとよ」

「あはは… 耳に痛いお言葉ですねぇ。それにしても… そうですか、ラルゴさんが」

 

「シンクのヤツもきっと似たようなことを言ってたんじゃねぇか?」

「いや、あの仮面野郎に限ってそれはない。『ウザいんだけど』って一刀両断ですよ、きっと」

 

「フッ… そうかよ」

 

 キッパリ言い切るセレニィにアッシュは笑みを浮かべる。

 笑顔など何年ぶりのことだろう? そう考えながら。

 

「それよりも何勝手に持ち場離れてるんですか? デコ助野郎」

「……俺は悪くねぇ。アイツらが」

 

「ほー… 六神将が一人“鮮血”のアッシュともあろう者が責任逃れですか」

 

 バツが悪そうに視線を逸らすアッシュに、セレニィは邪悪な笑みを浮かべる。

 

「これはシンクさんに提供するいいネタが出来ましたぜ!」

「おい、テメェ…」

 

「フフン… ニンジン料理を一回、文句言わずに食べきったら忘れるかもしれませんねぇ?」

「チッ… 後で機会があればな」

 

「やった。豚汁出してもわざわざニンジン残すのがスゲー目障りだったんですよね!」

 

 さり気なく毒を吐くセレニィに苛立ちながらも、アッシュは不承不承頷いた。

 してやったりという笑みを浮かべる彼女のもとに、鉱夫たちが話しかけてくる。

 

「お、セレちゃんは完全復活かい? まだ体調悪いんなら無理すんなよ」

「そうそう。なんなら休憩して後はドーンと俺らに任せるとかね」

 

「あはは… そういうわけにもいかんでしょう。しかし物好きですねぇ、こんな負け犬に」

「何言ってんだ! 『ダメな子ほど可愛い』って言うだろうが!」

 

「おい。そこは否定しろよ… おい」

 

 呆れるセレニィに対して、悪びれた様子もなく豪快な笑い声をあげる鉱夫たち。

 そんな連中の態度にやれやれと肩をすくめながら、彼女は再びジェイドと対峙する。

 

 その瞳は常変わらぬ邪悪な奸智が渦巻き、挑むような笑みを浮かべている。

 

「さーて… お待たせしましたね、ドS。今度こそ凹ませてやりますよ」

「ほう… 勝算でもあるのですか? シンクゥ殿」

 

「いえいえ、『ただのシンクゥ』じゃ無理でしょうね。同じことの繰り返しでしょう」

「なるほど… 馬鹿は馬鹿でも、極めつけの馬鹿でもないようで安心しましたよ」

 

「一言多いですよ! さて… 第七の六神将“幻影”のシンクゥ。してしてその正体は!」

 

 バッと仮面を脱ぎ捨て… 回収してから袋に仕舞う。

 そしてミュウと揃ってドヤ顔で言ってのける。

 

「残念! セレニィさんでした!」

「ですのー!」

 

「ウザいのでそのノリはやめていただけますか?」

「……アッハイ」

 

「いやぁ、中々の精神攻撃でしたねぇ。反射的に殴り飛ばしそうになりましたよ」

「やめてください、死んでしまいます…」

 

 ガクガク震えるセレニィを見て、ジェイドは微笑みつつ溜息を吐く。

 こういう茶番なら悪くはない… そう思いつつ口を開く。

 

「で、仮面をとった事とこの場の交渉に何の関係が?」

「フフン、察しが悪いですねぇ… 私がセレニィだということはつまり!」

 

「つまり?」

「このままでは色んな意味で和平が大ピンチ! これはフォローしないといけませんねぇ!」

 

「ほほう…」

 

 そもそもからして、『自分が救わないと』なんてことを考えたのがいけなかったのだ。

 いつから自分が万能感溢れるヒーローだと錯覚していたのか。まったく柄にもない。

 

 こんな小市民に出来ることは、周囲を煽って『その気にさせる』ことだけだというのに。

 人差し指を一つ立て、挑むような笑みを浮かべながらセレニィはジェイドに言い放つ。

 

「全てを丸く収めるために、胃を痛めつつ全力でフォローする権利を差し上げましょう!」

「なるほど。……では、口封じのために始末しましょうか」

 

「落ち着こう。そういう短慮はセレニィさん的にちょっとどうかと思う」

「おや、いけませんか? ふぅむ… 困りましたねぇ」

 

「大丈夫大丈夫。人を謀略にはめて指差して笑うことを生き甲斐にしてる君ならきっと出来る」

「たった今、フォローについて考える気がゼロになりました」

 

「ごめんなさいごめんなさい」

 

 土下座して誤魔化すことにする。意味は伝わらないだろうが、気持ちは伝わると信じて。

 

「大体、貴女の望む着地点とはなんですか?」

「……六神将全員の身の安全です」

 

「ふむ。貴女の安全は度外視なのですね… 立派な覚悟です」

「いや、何言ってんですか。私の安全は前提条件に決まってるでしょ。泣きますよ?」

 

「ふむふむ… なるほど」

「おい、『死霊使い(ネクロマンサー)』… 私たちは」

 

「あぁ… もう少しだけ待ってください。まだ肝心なことを聞いてませんので」

 

 リグレットの言葉を軽くあしらいつつ、ジェイドは再びセレニィに顔を向ける。

 一方セレニィとしては「ぐぬぬ… また意地悪質問か」と警戒して身構える。

 

「……そこまで彼らの助命に必死になる理由はなんですか?」

「うぐ… べ、別にそんなの関係」

 

「ふぅ… やっぱり処刑しかないでしょうかねぇ。非常に残念です」

「ぐぬぬ…」

 

「………」

 

 やっぱり意地悪質問だった。セレニィはなんとか場を誤魔化そうとする。

 

 しかしあからさまな脅迫を受けて、とぼけた回答を許されなくなる。

 この空気の中では十中八九冗談だろうが、万が一もある。

 

 十秒、あるいは二十秒が経過した頃だろうか… セレニィはようやく観念した。

 

「……す、好きだからですよ。……悪いですか!?」

 

 俯いた顔を真っ赤に染め、右手で顔を隠しながら、蚊の鳴くような声で言い切った。

 

 ちょっと親切にされたから。美女や美少女がいたから。

 それだけでこれだけ実りのない地雷原に飛び込む彼女も立派なチョロインである。

 

「いいえ、貴女らしい実に面白い理由だと思いますよ」

「ぐぬぬ… このドSめ」

 

「というわけで、私は『こちら』に付きましょうか」

 

 そう言うや否や、セレニィ側… つまり六神将サイドの席へとジェイドは移動する。

 慌てたのはセレニィの方だ。

 

「ちょ、ちょっと! アンタがこっち側に来たら誰がフォローするんですか!?」

「さて、誰でしょうか… ねぇ? みなさん」

 

 そんなジェイドの言葉に、親善大使側の一同が苦笑いを浮かべる。

 彼らはこの会談の最中、まったく発言しなかった。

 

 それがこのドSの仕込みだったならば… その言葉を裏付けるようにアスランが口を開く。

 

「マルクト側としては、六神将の度重なる犯罪行為を見逃す訳にはいきません」

「あ、はい…」

 

「ですが貴女がカーティス大佐をよく補佐し、和平に多大な尽力をしたことも心得ています」

「……うぇ?」

 

「その功績を鑑みて、処分は一時保留… どれだけ平和に貢献できたかで再検討します」

 

 どういうことか分からない… というのがセレニィの偽らざる感情だ。

 救助隊の指揮官ではあるだろうが、何故にマルクトの決定事項として伝えているのか。

 

 混乱する彼女を余所に、セシル将軍もアスランに続いて言葉を紡ぐ。

 

「キムラスカ側はマルクト側と異なり、和平に関する恩義は然程ないと感じている」

「は、はい…」

 

「しかし貴君のお陰でルーク様が道中守られ、奸賊モースを放逐出来たのは紛れもない事実」

「(むしろ守られたのはこちらのような… モースさんはご愁傷さまです…)」

 

「よってマルクト側と同様、処分は一時保留とする」

「………」

 

「罪の減免が果たされるかは今後に懸かっている。よくそれを弁えて行動するように」

 

 両国の将軍の言葉に、リグレット、アリエッタ、アッシュの三人が神妙に頷く。

 そこにルークが発言する。

 

「ここに双方の意思確認は果たされたと見做す。導師イオン、よろしいか?」

「はい。和平の仲介役として、導師イオンの名のもとに確かに承認します」

 

「ってわけだ! ついでに親善大使としてこの俺、ルーク・フォン・ファブレも承認するぜ」

 

 ニッとルークが微笑み、イオンが更に言葉を続ける。

 

「僕自身も導師として、数々の軽率な振る舞いで世を乱したことに対する責任があります」

「……いえ、導師の責任では」

 

「僕も背負います… あなたがたと一緒に。そして、この世界(オールドラント)のために尽くしましょう」

「………」

 

「罰を受けたところで罪は消えません。僕も、あなたがたも一生背負い続けるものです」

「……ハッ」

 

「流された血への(あがな)いとして、それ以上に流れる血を止めていきましょう。……僕たちで」

 

 導師イオンの言葉に、六神将は深く跪き頭を垂れる。

 一方理解が追いつかないのはセレニィの方だ。どういうことだと目を白黒させる。

 

 そこにナタリアが口を開く。

 

「フフッ、本当に両国の根回しに苦労しましたわ。発案者はジェイドですけど」

「……その節はご迷惑を、ナタリア殿下」

 

「構いませんわ。平和のための和平が、血によって締め括られるなど本末転倒ですもの」

 

 ジェイドの言葉になんでもないように微笑む。

 

 つまり、一から十までこの会談はジェイドの仕込みだったのだ。

 ここまでされればセレニィにも理解が追いつく。

 

 あの日本語のメモを回収し、タイミングと合わせて六神将の所に身を寄せていると看破。

 その上で情報を絞りつつ、推理と検討を重ねて政治に明るいナタリアに相談したのだ。

 

 バケモノを見るようなセレニィの視線に気付くと、ジェイドは一つウィンクをして口を開く。

 

「無意味な『交渉』と、そう言ったでしょう?」

「……そうですね」

 

「正直に話して『お願い』すれば五秒で終わったものを…」

「ぐぬぬ… だったら最初に教えて下さいよ」

 

「それでは『お仕置き』にならないでしょう?」

 

 溜息を吐いて、ジェイドは更に続ける。

 

「貴女が最後まで軽んじて、信じなかったものが『この結果』を生んだのです」

「えっと… 『絆』とか『友情』とかですかね? そういうの、柄じゃないんですけど」

 

「フフッ… それは私もですのでご安心を」

「では、一体…?」

 

「……『貴女自身の価値』ですよ」

「はい? それって、どういう…」

 

「セレニィ」

 

 なおもジェイドに訪ねようとするセレニィの前に、ティアが立つ。

 それを見たジェイドは笑みを浮かべたまま、その場を後にする。

 

 あの様子では、追いかけて捕まえたところで口を割ることはないだろう。

 だからというわけではないが、セレニィはそのままティアに向き合う。

 

「ご無沙汰してます、ティアさん」

「………」

 

「……ティアさん?」

 

 自分の名を呼んで以来、反応がないティアの様子に小首を傾げるセレニィ。

 彼女は無言のまま右手を振り上げ…

 

 その頬を強く張った。セレニィの身体が大きく揺れる。

 

「バカ… 心配したのよ」

 

 ティアの双眸から涙がこぼれ出る。

 一方、セレニィもまた涙をこぼしつつ… 口を開いた。

 

「ごめんなさい、ティアさん… ごめんなさい、みなさん…」

「ううん、いいのよ… 無事でよかった。おかえりなさい」

 

「(このようなことがあるとは… コレが、あやつの『力』なのか)」

 

 その光景を無言で見詰めながら、ヴァンは内心で独りごちる。

 誰もが笑顔で、その喜びを分かち合っているようであった。

 

 そして何故だか分からないが、自分の口元にも笑みが浮かんでくるのだ。

 不思議ではあるが悪くもない… ヴァンはそう思った。

 

 

 

 ――

 

 

 

「ごめんなさい、ティアさん…」

「? もう謝る必要はないのよ。セレニィ」

 

「………」

 

 頬を赤く染めたまま、セレニィが再度謝る。

 その姿に今度はティアは首を傾げる。

 

 少し迷ってから、セレニィは再度口を開いた。

 

「回復譜術お願いできますか? ……奥歯折れたんで」

 

「………」

「………」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 果たしてティアの力が強すぎたのか、セレニィが虚弱すぎたのか…

 今度はティアが申し訳無さそうに謝った。

 

「(……痛すぎて喋るのも辛いです。ティアさん、マジゴリラ)」

 

 一方仲間との感動の再会の前に、セレニィは涙が止まらなかったという。

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