TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー   作:(╹◡╹)

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85.居場所

 中庭で談笑をしているルーク、ガイ… そしてヴァン。そんな三人を見下ろす影がある。

 

「『やっぱりルーク… 俺にはおまえしかいないんだ。この気持ち、受け取ってくれ!』」

「………」

 

「『そんな、ガイ… いきなり言われても。俺も自分自身の気持ちが分かんねーよ…』」

「………」

 

「『ガイよ、私の純愛を貫くための踏み台になってもらう。……遅すぎたのだよ、貴様は』」

 

 影の一つはそのまま呼吸を荒げて、食い入るようにその光景を見守っている。

 その無防備な背後に手が伸びる。見詰める側は全く気付く気配がない。

 

 それは段々と近づいていき、ゴスッ! と、見詰めている側の後頭部にチョップをかました。

 

「はきゃんっ!」

「そこまでにしておけ、ナタリア殿下… 勝手に台詞を捏造されると俺の心臓に悪い」

 

「ぐぬぬぬ… ここからがいいところでしたのに」

 

 チョップをかまされたのはナタリア王女。かましたのは六神将が一人アッシュであった。

 ここは市庁舎二階の渡り廊下… 人知れず中庭を覗くのに、絶好のポジションである。

 

 チョップをかまされて涙目のナタリアを見下ろして、やれやれと深い溜息をつくアッシュ。

 明日の準備に忙しいところ、有無を言わさず連れてこられたアッシュこそ災難であろう。

 

 なんだかんだと馴れ合うままに付き合ってしまったが、この状況は後々よろしくない。

 お義理程度には付き合った… あとは場を辞して立ち去ろう。そう思い背を向け口を開く。

 

「もう充分だな? 俺もそれなりに忙しい身だ。帰らせてもらうぜ」

「まだですわ」

 

「はぁ? いい加減に…」

 

 一度付き合ってやっただけでも充分過ぎる。想像以上に自分は寛大だったと思えるほどに。

 流石にこれ以上振り回されるのは我慢ならない… 一言ならずとも文句を言ってやろう。

 

 そう思って振り返れば、目の前に真顔のナタリアがあった。思わずギョッとしながら後退る。

 

「まだ、ですわ」

 

 真っ直ぐアッシュを見詰めるその視線には、凛とした威厳のようなものが込められている。

 優しく包み込むような普段の眼差しと異なり、否応無く王家のオーラを感じさせられる。

 

 さて困ったのはアッシュの方である。見惚れつつも言葉を失い、掠れた声で言葉を絞り出す。

 

「な、なにがだよ…」

「勿論、あなたとわたくしのお話ですわ」

 

「………」

「言ったでしょう? ……『続きはまた改めて』と」

 

「……チッ」

 

 思わず舌打ちをして目を逸らしたアッシュに、ナタリアは花も綻ぶような笑みを浮かべる。

 やれやれと溜息を吐きたい気持ちもあったがなんとか堪えて、アッシュは言葉を紡いだ。

 

「何も続くことはねぇ。俺は…」

「ねぇ、あなたとルークの関係は?」

 

「………」

 

 トコトンまで、いっそ傲慢なほどにマイペースだ。こちらに話の主導権を握らせてくれない。

 アッシュは苦虫を噛み潰したような表情で押し黙る。ならばいっそ、黙秘を貫くしかない。

 

 だがそんな彼の心中など知ったことではないとばかりに、ナタリアは言葉を紡いでいく。

 

「うーん… 兄弟かしら? そっくりですし」

「………」

 

「でも、落し胤にしても神託の盾(オラクル)騎士団で師団長なんて… そんなこともあるのかしら?」

「さぁな… もういいだろう。何があっても変わることなんざねぇ」

 

「それとも… 本人?」

「……まさか」

 

「フフッ」

 

 思いもよらぬ言葉に一瞬心臓が早鐘を打つ。しかし、なんとか表に出さずに白を切り通した。

 ……そう思っていたのはアッシュだけのようで、ナタリアは艶然とした微笑みを浮かべる。

 

「やっぱり、分かり易い反応… そんなことでは、王宮では三日と勤まらなくってよ?」

「な、なにを…」

 

「ここ数日、様々な話題の中であなたの反応を探っていたこと… 気付いてらして?」

「(全く気付いてなかった…)」

 

「ふぅ… ま、好奇心の虫が騒いだとはいえわたくしも少々大人気がありませんでしたわ」

 

 ここ最近の雑談(という名の聞き取り調査)でナタリアは、アッシュについて確信していた。

 「他人の空似」にしては似過ぎていること。「ただの偶然」にしては知り過ぎていること。

 

 特にナタリアとルークしか知り得ない記憶について振ってみれば、分かり易い反応を示す始末。

 いっそ気付いて欲しいとわざわざ赤線を引いてるかのように、そうナタリアの目には映った。

 

「(……十中八九、アッシュはルークと深い関係がある。そして『記憶』を持っている)」

 

 ナタリアはそう結論付けた。ルークとアッシュ、両者を繋げる線は未だハッキリとしない。

 しかしながら、もはや二人を無関係と片付けるほうが彼女の中では無理が出てきている。

 

 蛇に睨まれた蛙の如く硬直するアッシュを見詰め、ナタリアはティアとの会話を思い出した。

 

 

 

 ――

 

 

 

「ふむ、なるほど… 『大切な人かもしれないけど確証が持てない』と」

「えぇ… わたくし、一体どうしたらいいか…」

 

 悲しげな表情で項垂れるナタリアに、ティアは少し困ったような表情を浮かべ語りかける。

 

「私にはそれで何が困るのか分からないのだけど… 好きにすればいいじゃない」

「そんな! だって、隠そうとしているなら私は彼に…」

 

「それは相手の勝手な理由でしょう? あなたの理由じゃないわ、ナタリア」

「そんな、でも…っ!」

 

「相手に合わせて望む答えを出して… そうすれば『良い子』でいられるわね」

「………」

 

「でも、それを不満に思って愚痴をこぼして… なにか変わるのかしら? ねぇ、ナタリア」

 

 優しい瞳で見詰めて、宥めるように言葉を紡いでくるティア。それに思わず言葉を失う。

 ナタリア自身も分かっていたことだ。ただ、どうにもならぬ愚痴を聞いて欲しかっただけで。

 

 敢えて突き放してみせることでティアはそれを指摘してくれた… 彼女はそう受け止めた。

 だが違う、違うのだ。ティアという人間は本気で善意の助言でそれを口走っていたのだ。

 

「本当は分かっていたのです。今までの出来事や、周囲の状況がそれを許さないと…」

「あら、障害はちゃんと判明しているのね。ならやることはハッキリしているわね」

 

「……え?」

「だったら障害は全部捻じ伏せて、最終的に全部思い通りになるようにすればいいのよ」

 

「……はい?」

「必要なのは、力。それがないと始まらないわ… けれどナタリアには権力(それ)がある」

 

「あ、あの… ティア?」

「羨ましいわ… フフッ、目標が出来ると人生に張りが出てくるものね。応援するわね!」

 

「………」

 

 最初こそナタリアは絶句した。ティアが悪ふざけで自分をからかっているのだとすら思った。

 だが、彼女の目には嘘がなかった。心からのアドバイスをして、ナタリアを応援している。

 

 笑顔すら浮かべ、「力が必要ならいつでも言って。私たち友達でしょ」と言ってくれる。

 それは不義の子として陰口を叩かれ、孤独に耐えてきた自分にできた初めての女友達だった。

 

 感動の涙を浮かべたナタリアが、笑顔で差し出されたティアの手を取らない筈がなかった。

 

「ありがとうございます、ティア。わたくし、なんだか心の迷いが晴れたようですわ…」

「礼なんて必要ないわ、ナタリア。迷っている友達の背中を押すのは当然のことよ」

 

「わたくしに足りなかったのは、認めさせる『勇気』と『覚悟』… しかと理解しましたわ」

「そうね… 状況に浮かれて流されてしまっては、結局は『悲劇のお姫様』のままよ」

 

「フフッ、耳に痛いですわ。でも糧として、より良き未来の為に私は全てを駆使します」

「その意気よ! だからナタリアも、私とセレニィのより良き未来の為に力を貸してね!」

 

「えぇ、もちろんですわ!」

 

 組んではならない二人が、固い固い握手を交わしてしまった。もう誰にも止められない。

 そしてセレニアの花で埋まったベッドの中、意識不明中のセレニィが静かにうなされていた。

 

「うーん、うーん… のーさんきゅー…」

「あら、セレニィったら。夢でも見ているのかしら? 寝言を言うなんて」

 

「フフッ、きっとティアの夢を見ているのではありませんこと?」

「だといいわね… セレニィ、私たち待っているわ。あなたが帰ってくる日を」

 

「ティア…」

 

 しかし二人にはあっさりと流された。流されたということは恐らく些細なことなのだろう。

 

 

 

 ――

 

 

 

 そして再び場面は、ナタリアとアッシュが見詰め合っている市庁舎二階の渡り廊下に戻る。

 喋れば喋るほどにアッシュはボロを出していってくれた。ティアの助けが不要なほどに。

 

「(とはいえ、再会の感動に浮かれたままでは冷静に観察することは出来ませんでしたわね)」

 

 その点はティアに感謝だ… ナタリアは心中で独りごちる。あの会話が自分を変えてくれた。

 ダラダラと冷や汗を垂らしているアッシュを逃すつもりなど毛頭ないまま、考察を重ねる。

 

 彼はルークにそっくり。……ひょっとして『ルークが彼にそっくり』なのかもしれない。

 思い付いた時は何をバカな、と一笑に付しそうになった… そんな荒唐無稽に過ぎる仮説だ。

 

 しかし、これを前提に考えれば色々と符合する点が出てくるのだ。主に記憶についてだが。

 明らかにナタリアに対して行われる特別な仕草。過去の記憶を刺激させれば動揺する点。

 

「(そう… 全ては『誘拐事件をきっかけに入れ替わった』と考えればしっくり来ますわ)」

 

 そしてナタリアは決して愚かな娘ではない。むしろ才気煥発で賢い娘であると言えるだろう。

 恵まれた王室教育に加え、市井と触れ合うことで常識に囚われない柔軟性をも備えている。

 

 その彼女が様々な材料から考察を重ね、なんと真相程近い部分にまで独力で迫っていた。

 一種のバケモノである。この件に黒幕がいるのなれば、彼らこそ悲鳴を上げたいことだろう。

 

 ナタリアは更に考察を重ねる。ならば、今のルークは一体何者なのか? そこが謎なのだ。

 普通に考えれば血縁関係にある。だが、王族の血縁関係であれば通常厳密に管理される。

 

 木っ端貴族でもあるまいし、例え落し胤であろうとも余程の事情がなければ王室に届け出る。

 でなければ血統の価値というものは薄れてしまう。自分はそれを嫌というほど知っている。

 

「(よく似た他人を捕まえてきて、薬やら催眠術やらで記憶を消した。そんなところかしら?)」

 

 ルークを連れ戻ったというヴァン謡将から、一度、じっくりと話を聞きたいものである。

 ……とはいえ、友人であるティアの兄だ。手心を加えたいところであるし内容が内容である。

 

 しかも今は世界にとって重要な任務の前だ。藪蛇になりかねない話題は避けるべきだろう。

 出来ればヴァンかアッシュ本人から証言を取りたいところだが、この感触では望み薄か。

 

 軽く溜息を吐き笑顔で自分から離れるナタリアを、アッシュは不思議そうな表情で見詰める。

 そんな彼の表情を楽しげに見詰めて、悪戯っぽい仕草でその額を突付いて彼女は微笑んだ。

 

「仕方ありません… タイムリミット、というところですわね。勘弁して差し上げます」

「フン… そりゃどーも」

 

「今はまだ、ね?」

「チッ… なんてしつけーんだ」

 

「筋金入りですもの。……ところで、一つ独り言を口走りたいのですけれど」

「あん?」

 

 不思議そうな表情をするアッシュに構うことなく、ナタリアは口を開いて言葉を紡いだ。

 

「『あなたの居場所を必ず用意して待っています。だから帰ってきてください』」

「………」

 

「あら、お返事は?」

「テメェ、独り言だっつっただろーが…」

 

「そうですわね。で、お返事は?」

「チッ… 『いつになるか分からねーけど帰ってくる。あの日の約束のために』」

 

「フフッ」

「フン…」

 

「(ルークも守り、アッシュの居場所も作る… フフッ、わたくしってとても我儘でしたのね)」

 

 決意の微笑を浮かべるナタリアと対照的に、仏頂面のままアッシュは背を向けて去っていく。

 しかしながら、目聡い人が見ればその頬は夕焼け色に染まっているのが見て取れただろう。

 

 それは常変わらず薄ぼんやりと仄かに赤く染まっている魔界(クリフォト)の空故なのか、はたまた…

 ただ一つ言えるのは、両者とも確信とも言える想いを抱いて互いに別れたことだけである。

 

 

 

 ――

 

 

 

 そして場所は移り変わってタルタロス内、修練場。出発前夜なのにそこは酷い有様である。

 まるで嵐が過ぎ去ったかのような光景の中、その中央には佇む二人の女性の姿があった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ… いい加減にしろ、ティア! いきなり襲いかかってきて!」

「でもその全てを凌いでいる… 流石です、教官! もっと稽古をお願いします!」

 

「私は明日の朝には出発なんだぞ! 今から寝ても四時間しか眠れないんだぞ!?」

「では手早く終わらせないといけませんね! 巻いていきましょうか、教官!」

 

「ダメだ… まるで話を聞いてくれない。片付けるの誰だと思っているんだ… くすん」

 

 そう… 二人の女性とは、言うまでもなくティアとリグレットである。

 何故ティアはリグレットに襲いかかったのか? 無論、理由はある。

 

 ヴァンからユリアの譜歌の覚え書きノートを強奪し、その習得をしたのがしばし前のこと。

 その試運転のための模擬戦闘に白羽の矢が立ったのが、尊敬する教官リグレットであった。

 

 リグレットからしてみれば迷惑以外のなにものでもない。

 補助性能の第三譜歌はまだいい… しかし、広範囲攻撃の第五譜歌はヤバい。ヤバ過ぎる。

 

 詠唱を破棄させるために譜銃で狙い撃っても、軽くヒョイヒョイとかわしていくのだ。

 

「何故かわせるんだ!?」

「勘です!」

 

「ふざけるな!」

「でも三発に一発は回避しきれませんし… 流石は教官です!」

 

「黙れ、バケモノ! 当たったら倒れろ!」

 

 譜銃が当たった傍から自動回復していく。……やっぱり第三譜歌も非常にたちが悪かった。

 リグレットが半泣きのまま戦闘を続けることしばし…

 

 ようやく満足したティアが戦闘行為をやめると同時に、リグレットは地べたに倒れ伏した。

 滴り落ちる汗を拭うことすら出来ない。しかし彼女は生き延びたのであった。

 

「ふぅ… ありがとうございました、教官」

「ぜぇ、はぁ… あぁ、おつかれ…」

 

「やっぱり教官は凄いですね! まさか無傷で切り抜けられるなんて… 私もまだまだです!」

「まぁ、うん… そうだな(一発でも当たったら死にそうだったからな…)」

 

「ありがとうございました、教官。本当に… 本当に、助かりました」

 

 丁寧にお辞儀をされては悪い気はしない。返事をするのも億劫だが手を振って応えとする。

 

 そう言えば彼女の言葉にふと気になる点があったので、コレを機に聞いてみよう。

 リグレットはそう思い、ティアの言葉の中で疑問に思った点について尋ねてみることにした。

 

「そういえばティア… 私のことを教官と呼んでいるけれど」

「はい、私の尊敬する唯一の教官ですけど?」

 

「そ、そう? あ、でもね… あなた、カンタビレにも師事してたんじゃなかったかしら」

「カンタビレ? ……あぁ、あの人ですか」

 

「(え、なに? なんか凄くどうでも良さそうな反応なんだけど…)」

 

 内心で首を傾げるリグレットを余所に、ティアは苦笑いを浮かべて右手を左右に振り語る。

 

「うーん… 一応実地訓練を通じてお世話になりましたけど、それくらいですね」

「そ、そうなのか?」

 

「はい。教官と比べれば全然ですよ… というかあの人、口だけですね」

「そ、そうかな? あ、いや… コホン。目上の人間をバカにした態度は感心しないな?」

 

「はい、すみません教官! 気を付けます!」

「えぇ、分かればいいのよ」

 

 カンタビレと言えば派閥争いに与せず、叩き上げの実力のみで第六師団長になった人物だ。

 そんな女傑とも言える人物よりもあからさまに自分が尊敬されれば悪い気はしない。

 

 リグレットさんはチョログレットさんなのである。彼女は気分良く続きを聞いてみた。

 

「しかし、何故そんな評価に至ったんだ?」

「うーん… 色々ありますけどね。なんかヴァンの妹ということで目を付けられたみたいで」

 

「なるほど。縁故採用と疑われたのだな… 私の責任もある。すまなかった、ティア」

「いえいえ、いいんですよ。それでイラッとして、つい返り討ちにしちゃって…」

 

「ぶーっ!?」

「ど、どうしたんですか! 教官!」

 

「おまえがどうしたんだ! どうやって叩き上げの第六師団長を新兵が返り討ちにするんだ!」

 

 リグレットは思わず突っ込む。しかし、彼女は何も悪く無い。

 世間の常識に全力で喧嘩を売るティアさんが悪いのだ。

 

 そんな教官の疑問に、親指を立てながらティアは笑顔で回答した。

 

「はい。教官との戦いを反省して、遠距離から第一譜歌を歌いまくりました。殺傷全開で!」

「お、おう…」

 

「歌って、ナイフ投げて、歌って、ナイフ投げての連打ですね。オレンジグミ食べながら」

「卑劣過ぎる…」

 

 オレンジグミは精神力を回復させるグミである。それがある限り譜歌は歌い続けられる。

 ティアの効率的というには些か卑劣過ぎる戦いに、思わずリグレットは絶句する。

 

 そんな戦い方を指導した覚えはない。彼女の内心を知ってか知らずかティアは話を続ける。

 

「あ。でも最後ちょっとした油断の隙に接近されたんで、馬乗りからのワンツーで締めました」

「そ、そう…」

 

「すみません、教官に接近戦禁止と固く言われてたのに… カンタビレさんには無理でした」

「な、なるほど… これからは敵相手には接近戦を使ってもいいわよ?」

 

「は、はい! 分かりました!」

 

 ちょっと遠い目をしながらリグレットは頷く。この狂犬相手にカンタビレはよく戦ったよ。

 そしてティアが衝撃的なことを口走る。

 

「それだけなら尊敬する気持ちはあったんですけど… やっぱりアレで幻滅しましたね」

「……アレ?」

 

「えぇ、ヴァンの企みを全部知ってて超振動実験やってる場所も抑えてたのに事なかれ主義で」

「え? ……え?」

 

「『じゃあ一緒にヴァン殺しましょうよ』って言っても断るし。とんだチキン野郎ですね!」

「ちょ、ちょっと待って…」

 

「はい?」

「あの… ひょっとして、私たちの計画って結構知られてた?」

 

「はい。まぁカンタビレさんは勝手に諦めてましたけどね」

 

 今度こそ完膚なきまでに言葉を失う。どんだけガバガバだったのだろう、自分たちの計画は。

 むしろカンタビレの返事如何によっては、最も兵力を抱える第六師団が敵に回ってたのだ。

 

 あのまま路線変更をせずに強行的に推し進めていたら、どこかで失敗していた可能性が高い。

 そういう意味では、融和路線に舵を取り直してくれたヴァンとセレニィには感謝すべきか。

 

 冷や汗を垂らしながらリグレットは内心で思う。

 

「そんなこんなで、私の認識では第六師団引き連れて辺境に籠もった口だけの人ですね」

「え? 私はカンタビレが左遷と引き換えにティアをモース直属に推薦したと聞いたけど」

 

「あぁ、それは本当です。ぶん殴られたこと黙ってて欲しければって言って」

「(叩き上げでのし上がってきた相手にそれはキツい… 悪魔か、コイツ…)」

 

「自由任務を受けられればヴァンを殺し易いと思ったんですけど、色々と当てが外れました」

 

 照れたように頭を掻いて微笑む姿は可憐な少女そのものだが、言ってることはヒットマンだ。

 震える声でリグレットはもしもの話を聞いてみる。

 

「あ、あの… ティア?」

「はい、なんでしょうか。教官」

 

「もし、私が敵のままだったら…」

「フフッ…」

 

 曖昧な笑顔で返して、ティアはなにも明言しなかった。

 そして結局そのままお開きとなり、リグレットは一睡もできなかったのであった。

 

 

 

 ――

 

 

 

 翌日、三隻の船が旅立つ場に残る面々が見送りに顔を出している。

 

「みんな、がんばってくれよな!」

「みなさんのご無事を祈ります」

 

 ルークとイオンの言葉に、それぞれ頷く各部隊の代表者たち。

 その中で、青白い顔で目の下にくまが出てきているリグレットの姿がやけに目立ったという。

 

 彼らは出発する。オールドラントを包み込む戦乱の炎を生まぬために。世界を守るために。

 

 

 

 ――

 

 

 

 そして場面は更に移り変わり市庁舎内。

 

「ふわぁ… よく寝た」

 

 仲間たちのほとんどが港に集う中、忘れられた存在が敷き詰められた花の中で目を覚ました。

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