TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー   作:(╹◡╹)

94 / 112
91.お説教

 巨躯の魔物を討ち滅ぼし、出口の方から姿を現したのは見覚えのある人物であった。

 その人物こそ、誰あろう… セレニィが愛してやまないアリエッタその人である。

 

「ア、アリエッタさん… なん、ですか?」

「うん。アリエッタだよ… セレニィ」

 

「会いたかった… ずっと、会いたかったです!」

 

 目にうっすらと涙すらも浮かべて、そう訴えかけるセレニィ。

 そんな彼女に、アリエッタは天使の微笑を浮かべつつ両手を広げ… そして言った。

 

「……おいで、セレニィ」

「アリエッタさああああぐへぁっ!?」

 

「セレニィ、ここにいたのね!」

 

 だが、セレニィにアリエッタとの抱擁を交わされる機会が訪れることはなかった。

 背後からの強烈なタックルにより、顔から地面にダイブすることとなったからである。

 

 果たして何者であるのかは言うまでもないだろう… 無論、ティアさんである。

 

「セレニィ、セレニィ、セレニィ! あぁ、無事でよかったわ!」

「ぐえええええ。ちょっ、苦しい… はなし…」

 

「ティアお姉さんが来たからもう安心よー? うふふー…」

「人の話を… ちょ、やめて! ほっぺたすりすりだけは… ぎゃあああああ!」

 

「……あ、うん。セレニィ、無事でよかったです」

 

 戦利品とばかりにセレニィを抱え上げ、存分に彼女と自分の頬を擦り合わせている。

 なおアリエッタは「おいで」の構えを解き静かに距離をとった。護身完成である。

 

 誰も彼もが強く生きられるわけではない。弱肉強食は自然界の悲しき宿命なのである。

 

「アリエッタさん、おひさしぶりですの!」

「うん… ひさしぶり、ミュウ」

 

 セレニィという尊い犠牲を捧げつつ、ミュウと再会の挨拶を交わす。

 そこに、ティアに遅れていた仲間たちが追いついてきた。

 

「おー、いたいた… ったく、ティア。勝手に突っ走るんじゃねーよ」

「無事セレニィとも合流出来たみたいだな… お? アリエッタじゃないか!」

 

「ん… ルーク、ガイ、ひさしぶりです」

「あー! 根暗ッタじゃん! 元気してたー?」

 

「もう! アリエッタ、根暗じゃないモン! アニスの意地悪!」

 

 かくしてティアにあれこれされているセレニィを余所に、再会を喜び合う面々。

 そしてそれは、ほぼ初対面同士の触れ合いも意味していた。

 

「あなたが六神将が一人、“妖獣”のアリエッタ… でしたわね」

「そう、です。えっと… ナタリア、殿下?」

 

「フフッ、わたくしはナタリアで構いませんわ。これからお忍びになるわけですし」

「………」

 

「その代わり、あなたのことをアリエッタと呼んでもよくって? お友達として」

「ん… わかったです。ナタリア… よろしく、です」

 

「ありがとう、アリエッタ。これからよろしくお願いしますわね」

 

 そう言って、ニッコリ微笑みつつナタリアはアリエッタに向けて手を差し出した。

 それに対しコクンと一つ頷き、少し背伸びしながら握り返したアリエッタ。

 

 新たな出会いが新たな絆を紡ぐ。どこか穏やかでありながらも感動的な光景である。

 ……背景でティアに襲われている最中という、セレニィの惨劇に目をつぶれば。

 

 巨大半魚人との戦い以上に疲労しながらも、なんとかティアの戒めを脱したセレニィ。

 もみくちゃにされて乱れてしまった衣服を整えながら、彼女は尋ねる。

 

「そういえば、ティアさんだけ追い付いてくるの早かったですね…」

「ん? そうね。まぁ、仕方ないわ… みんな私ほどの愛は持ち合わせてないから」

 

「(戯言乙)……なにかカラクリでも? 何かあるなら参考にしたいなって」

「いえ、セレニィの匂いを辿って走ってただけだよ。何も特別なことはしてないわ」

 

「うわぁ… ティアさんって、ホント救いようのない変態さんですねぇ」

 

 変態(セレニィ)はイオンの匂いを嗅ぎ分ける自分のことを棚に上げて、笑顔で変態(ティア)を罵った。

 しかし、残念ながらそれは変態(ティア)にとっては単なるご褒美に過ぎなかったという。

 

 

 

 ――

 

 

 

 アラミス湧水洞を出てすぐのところにある第四石碑の丘の前は、広場となっている。

 一同は休憩を兼ねてそこにシートを敷いて、お弁当タイムとすることと相成った。

 

 セレニィが腕によりをかけて作った弁当は、どれも美味しそうで食欲をそそる出来だ。

 唐揚げ、卵焼き、ウィンナー、おにぎり、サンドイッチ、ナポリタンと定番である。

 

「ふむ… パスタを具材と混ぜて炒め直したわけですか。珍しい調理ですねぇ」

「うめぇ! 弁当にパスタなんてって思ったけど、これなら全然食えるな!」

 

「フッフーン! 戦闘でアレな分、せめてこれくらいは役に立ちませんとねぇ…」

「えぇ、貴女には本当に足を引っ張られてますからねぇ。……先程の件といい」

 

「はうあっ!? そ、それはですね…」

 

 手の込んだ弁当に舌鼓を打つルークを余所に、溜息とともに嫌味を言うジェイド。

 セレニィは言い返せないが、怒ったアリエッタがムッとした表情を浮かべ口を開いた。

 

「そんなことないもん! セレニィをイジメないで! ジェイドの意地悪!」

「おやおや… 私は、単なる事実を口にしただけなんですけれどねぇ?」

 

「おい、旦那… 事実でも言い方ってもんがあるだろ? 無事でよかったじゃないか」

「そうですよ。突出してしまったのは確かですが、自分たちでフォローすれば…」

 

「今回はそれで良かったとしても、繰り返されても困ります。問題点は詰めないと」

 

 ガイとトニーが見兼ねて擁護するものの、ジェイドの正論の前に揃って言葉を失う。

 渦中のセレニィその人は「あ、あははー… 弁当うめー…」と小さくなっている。

 

 働かないで食べる飯が旨いニートを通り越して、足引っ張って食べる飯が旨い状態だ。

 針のむしろな状態の中、セレニィは顔色が悪いまま弁当の咀嚼作業を継続している。

 

 仲間の視線がモキュモキュ口を動かす自身に集中しており、大変に居心地が悪い。

 それでもそれは責める視線ではなく、心配する視線なのが彼らの性格を表しているが。

 

 とはいえその中に例外が二人いる。睨み合いを続けているアリエッタとジェイドだ。

 

「もー! ジェイド、セレニィにひどいこと言ったんだから謝って! はやく!」

「困りましたねぇ… しかし、私は間違ったことは言ってないつもりですが」

 

「ま、まぁまぁ… アリエッタさん、その、今回は私が全面的に悪かったわけですし」

「でも、でも… セレニィは弱くない! 一人でお魚さんだって倒せたもん!」

 

「ほう… あの巨大な魔物を倒したのはアリエッタ、貴女ではなかったのですか?」

 

 涙目になりつつ庇ってくれるアリエッタの献身は、素直に嬉しいし可愛いと思う。

 だが、状況がどうもよろしくない方向に傾いている気がする。セレニィはそう感じた。

 

 それを裏付けるように、ジェイドの口元には笑みが浮かんでいる。やはり確信犯だ。

 なんとか話を変えないと碌なことにならない… そう考え周囲を見渡すセレニィ。

 

 そこに天の差配か、ナイスタイミングでこちらの隙を窺う野生動物の姿を瞳が捉えた。

 気付くが早いかこのネタを手に、セレニィは大きな声で二人の口論に割って入った。

 

「とーぜん! アリエッタ、最後に来ただけだもん! 全部セレニィがやったの!」

「ふむ、まさかあの魔物を『二体も』倒せるとは。これは私が間違ってましたか」

 

「えっ? いや、その、二人目はアリエッタが倒したけど…」

「おや、二体とも倒したわけではない? ではやはりセレニィは弱いのですね」

 

「! そんなことない! セレニィだったら何人相手でも楽勝だもん! 強いもん!」

「(話が大きくなってる!?)ふ、二人とも! それよりホラ、魔物があっちに」

 

「ふむ… しかし口だけならば何とでも言えますしね。実際に目にしないことには」

「だったら… あの魔物くらいセレニィ一人で追い払ってみせるもん! 平気だもん!」

 

「ほわっつ!?」

 

 売り言葉に買い言葉? いやいや、全てはこのジェイドSのシナリオ通りだろう。

 満面の笑みを浮かべ、アリエッタの提案に「それは素晴らしい」と手を叩くジェイド。

 

 気の毒そうに見守る仲間たち… 一部ティアやイオンは期待に目を輝かせているが。

 かくてセレニィは単独特攻を余儀なくされた。だが一縷の望みにかけて抵抗する。

 

「あの、その… 縛りプレイなんてナンセンスなんじゃないかなぁ、と…」

「ふむふむ、なるほど… 貴女の仰りたいことはよく分かりましたよ」

 

「分かってくれましたか! そうですよ。ここは友情パワーでフクロにしましょう!」

「と、彼女はこう言っていますが? アリエッタ」

 

「セレニィ… ううん。アリエッタ、ワガママだったね。えっと、ゴメンね?」

 

 アリエッタは瞳を涙で潤ませつつも、しかしセレニィを責めることなく健気に微笑む。

 そんな少女を前にして、変態の出せる返事など一つしかない。それは確定していた。

 

 全てを悟ったような苦み走った笑みを浮かべて、セレニィは棒を手に立ち上がる。

 相棒であるミュウは肩に乗せ、グローブをキツく嵌め直した。……臨戦態勢は整った。

 

「ちょっ! 無茶だよ、セレニィ。大佐の挑発になんて乗らなくても…」

「止めないでください、アニスさん。……男にはやらなきゃいけない時があるんです」

 

「うん、分かったよ。もう止めない… アンタ、女だけどね」

「……うん、出来ればもうちょっとだけ止めて欲しかったですけどね」

 

「セレニィ、がんばって! 私もまだ届かない教官を降したあなたならできるわ!」

 

 あっさり止めるのを諦めたアニスを尻目に、ティア始め仲間たちの激励が降り注ぐ。

 そう、男にはやらなければならない時があるのだ。……今は、生物学的に女だが。

 

「や、やってやらぁ!」

「ですのー!」

 

「ガルルルルルル… ガウッ!」

 

 

 

 ――

 

 

 

 しばらくして、ヘトヘトに疲れ果てながらもセレニィはなんとか魔物を追い払った。

 一体だけならまだあしらえたが、なんか時間経過毎にドンドン増えていったのだ。

 

 増援については、途中からジェイドの指示を受けたティアとナタリアが追い払ったが。

 そんなことも知らずに、セレニィはシートの上で大の字になり荒い息を吐いている。

 

「ま… お仕置きはこれくらいで勘弁してあげましょうか」

「こ、このドSめ…」

 

「なるほど、さらなる追加メニューがお望みですか… 中々に欲張りさんですねぇ」

「ひぎぃっ! め、滅相もないです… はい!」

 

「まぁ、これに懲りたら作戦面のみならず探索面でも慎重さを覚えなさい」

「ぐぬぬ…」

 

「おや、返事が聞こえませんねぇ?」

 

 ジェイドに完全降参したセレニィは小さな声で「……ふぁい」と返事をするのであった。

 彼女が戻しそうになりながら頬張った弁当は、ほんのりしょっぱい涙味がしたという。

よろしければアンケートにご協力ください。このSSで一番好きなキャラクターは?

  • セレニィ
  • ルーク
  • ティアさん
  • ジェイド
  • それ以外

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。