斬り裂くのは、心『艦これ×忍~shinobi~』 作:MAGMA
原作:艦隊これくしょん
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――斬り裂くのは、心。
艦隊これくしょんの世界にshinobi機関が存在していた世界のお話。
連載するのは、未定。
夜の海には魔物が現れる。
ここ最近鎮守府内に流れる怪談話だ。夜戦のときの夕立を見間違えたわけでもなく、深海棲艦でもない魔物は艦娘たちの興味を引き、提督諸氏の警戒を煽っている。
曰く、その魔物は青い影のようで赤い尾を持つ。
曰く、魔物は青い目が四つ付いている。
曰く、深海棲艦を襲い、牙が紫色に染まっていく。
曰く、決まって夜の海にしか現れず、朧月の夜に目撃情報が多い。
「な~んて、そんなこと信じるわけないじゃん」
そういいながら夜の海を滑る艦娘【川内】は、頭の後ろで手を組みながら鎮守府のほうを見やる。
「鎮守府に出るわけでもないのに、みんなして怖がっちゃって。今のところ艦娘が襲われたことなんてないのにさー」
駆逐艦の艦娘はおろか、夜戦ができない空母の艦娘も恐れているらしい。一部の空母なんて陰陽師みたいな方法で艦載機を飛ばしているというのに。退治しようとか考えないのだろうか。
加えて川内が疑問に思っているのは、大本営がこの事態を受けても『放置』の二文字をよこしてきたことだ。普通、こういった不安分子を取り除くのは大本営が主導するのだが、不気味なほどに何もしていない。いや、もしかすればこの騒ぎの大本に大本営が関わっている可能性がある。
そんな陰謀論が頭をよぎり一人苦笑いする川内の電探に深海棲艦の反応が引っかかった。鎮守府近海にはぐれの深海棲艦が迷い込んでくること自体はさほど珍しくはない。三度の飯より好きといっても過言ではない夜戦の機会に胸を躍らせる川内であったが、すぐさまそれは焦りへと変わった。
「嘘!? こんな近海にまで空母が!?」
反応は三隻。それくらいまでだったら別段脅威ではないが、艦種が空母ならば話は別だ。空母は軽空母クラスでもこの鎮守府近海には入ってこない。せいぜい軽巡洋艦クラスぐらいだ。それに艦娘とは違い深海棲艦でもエリートやフラグシップといった上位個体の空母ならば夜間でも艦載機を飛ばしてくることがある。
こちらに近づいてくる反応を検分していくと、間違いなく空母ヲ級。それもフラグシップクラスが二隻という異常事態。川内の思考は今すぐに鎮守府に戻り、事態を報告し迎え撃つか。それともここで単身で空母を迎え撃つか。二つの行動の選択肢の間で揺れていた。だが、予想以上の速度で接近する空母の反応に、川内は迎え撃つことを決めた。
「空母三隻……、単艦じゃキツイねぇ」
改二となったときに
「だからって逃げるほど、私器用じゃないからさ」
改二になったときからのおまじないだ。それだけで戦う勇気と力が湧いてくる。
「さあ、私と夜戦しよう……!!」
魚雷発射管を構え、砲塔の角度を調整する。夜中にも関わらず付いてきてくれる艤装の妖精さんたちに感謝しながら真っ直ぐに向かってくる空母たちを見据える。
やがて目視できる距離になったとき、川内は違和感を感じた。
「怯えている? 深海棲艦が?」
必死の形相で何かから逃げているようにみえる三隻のヲ級。内二隻がフラグシップクラスだというのに、いったい何に怯えているのだろうか? おまけに川内にすら気づいていないらしく、川内に背中を見せる形で艦載機を放っている。川内は一度距離を取り、ヲ級たちの様子を探り始める。
何もかもが異常なのだ。自分たちと死闘を繰り広げ、轟沈の瞬間まで憤怒と怨嗟の表情を崩さない深海棲艦たちがあんなにも怯えている。まるで肉食獣に追い回される兎のように、必死になって逃げている。
言葉にならない光景に呆然としていると、艦載機たちの動きが止まった。いや、何かに縫いとめられたとでもいうべきだろうか。空中で一切の動きを見せない艦載機の、額とも言うべき位置に何かが刺さっているのを川内は見た。僅かな星明りを受けて鈍く輝く苦無、それが艦載機の動きを止めていた。やがて落下を始める艦載機を紫電の光が切り裂く。
青い影が光の尾を引きながら、艦載機たちを斬り裂いていく。次々と吐き出されていく艦載機たちを空中で狩る姿は、蜻蛉の姿を川内に想起させた。やがて最後の一機が斬られると、禍々しい紫の光が牙を浮かび上がらせた。
川内は本能的な恐怖を感じた。身がすくんで動けなくなってしまった。震えたりはしなかった、否、できなかった。まるで全身が石になってしまったかのようだ。紫に輝く牙……はっきりと見える形状から日本刀だろうと思われるそれから感じるのは殺気ではない。果ての無い飢えだ。あの日本刀は飢えているのだ。もっと食わせろと輝いているのだろう。
巨大な口の中に立っている気分だ。このまま飲み込まれてしまういそう。そんな錯覚を覚えた川内の認識を現実へ引き戻したのは、ヲ級があげた悲鳴だった。
いや、果たしてそれは悲鳴と言ってよかったのだろうか? あまりにも短い断末魔が嫌に耳の中で反芻した結果聞いた幻聴だったのかは定かではない。ともかく目の前で袈裟切りに斬り裂かれたヲ級の動きが止まった。そのままヲ級の背後から飛び出した影は、フラグシップヲ級が防御のために構えた杖ごと両断。頭頂部から股にかけての唐竹割。すぐにでも真っ二つに泣き別れながら沈みそうなものだが、なぜか動かない。
最後の一隻。両断されたヲ級を見て錯乱したように一心不乱に駈け出そうとして、心臓部から刃が生えた。青色の血を浴びてなお狂喜するように輝く刃は一度ヲ級の体内にもどり、背中から袈裟斬り。事切れた人形のような顔にあつらえられたガラスのような眼が、川内の目を見た。泣いていた。青い血の涙だった。
「――赦せ」
小さく、はっきりと聞こえた声の後に響く納刀音。それが響いた瞬間一斉に艦載機とヲ級たちが両断された。蒼い飛沫を上げながら水面に倒れこむヲ級だったもの。その上から炎を上げず落ちてくる艦載機。
何かの夢なのではないのだろうか? 川内の思考が再び空白で埋まる。倒れたヲ級の影から何かが現れたことで再び戦闘態勢を構えることが出来たのは身に沁みこませた訓練の成果だろう。
「動くな!」
構えた探照灯の光が何かを浮かび上がらせる。人間の男のような姿だ。僅かに波間に漂っていた木片の上に立っている。浮かび上がらせたシルエットは人間だが、恰好はあまりにも非現実的だった。
「忍者……?」
青い玉が四つ埋め込まれた鉢金、黒いボディースーツのような衣服、水面にまで届くほど長く赤いマフラー、組んだ腕に生やしているかのように固定された苦無。隠された顔から表情は見えない。ぴったりと体に張り付いボディースーツから見える肉体のラインから鍛えこんでいることがよく分かる。正直言って色っぽい。
しかし緊急事態にそんな思考をするほど川内は鈍っちゃいない。正確には隙がなさ過ぎて余裕がない。瞬きすら忘れて一挙一動を見逃さないように見張っていた。
しかし、急に体が痺れて動けなくなった。見れば何時の間に投げられたのか、肩に苦無が刺さっていた。艦娘に人間の薬物の類は効かない。しかし、神経系が酷似しているため人間に施されるツボマッサージやエステの効果は表れる。だが、体の自由を奪うほどの刺激が与えられるほど深くは刺さっていない。
そうなると答えは突拍子もない一つの結論に行き着く。霊威的効果がこの苦無に付与されている。
艦娘は軍艦の付喪神的な側面がある。生命体としての詳しい調査も最初期に打ち切られたのでわかってはいないが、そういった機関が彼女たちから霊的な反応を検知している。
動けなくなった川内に悠々と背を向ける謎の人物。その背には朧月のエンブレムに朧の一文字。そして背負った赤い柄巻の日本刀に吸い込まれていく赤く光る黒い何か。
「ま、待て……」
川内の体は動かない。やがて日本刀に黒い何かが吸い込まれていくのが終わると青い影を一瞬残し、消え去った。川内に刺さった苦無は抜け落ちて海へ沈んでいった。
「あいつは一体……」
おそらく怪談話の正体は今しがた消えたあいつに違いない。踵を返した川内は一目散に鎮守府へと向かった。提督なら何かを知っているのかもしれない。今の時間では鎮守府は酒のみ以外はみんな寝ている。朝一で提督へと報告を上げるべく、川内は徹夜で報告書をまとめ上げた。
川内の報告書を受け取った提督は大本営に直接出向き、報告書を上司の元帥へと提出した。しかし、それに対する返答は他言無用、および事の次第をすべて忘れ今後このことに対する追及を行った場合は除籍処分、最悪軍法会議を通さずに銃殺刑に処すとの通達が来た。
元帥も初めての事態だったが、大本営曰く『日本政府極級最重要機密事項』らしい。提督にできたことは鎮守府全体に戒厳令をだし、噂が消滅することを待つばかりだった。
「結局なんだったのかなー」
屋根の上に寝っころがる川内は一つ呟くと体を起こした。見れば下では見回りの憲兵が歩いている。それを見届けるとまたごろりと寝っころがる。
この時川内は一つ重要なものを見落としていた。この憲兵が腰に携えていた赤い柄巻の刀が憲兵に支給される軍刀とは違うものであることを。あの夜深海棲艦を斬り裂いたあの日本刀であったことを。
深海棲艦があらわれ、艦娘が現れる前に日本が滅びなかったことには理由がある。古来より魑魅魍魎の類と戦うための機関が存続していたこと。中でも既に失われている幾つかの機関の内の生き残りが、対異形のスペシャリストであったこと。失われたはずの最悪の妖刀が現代まで実在していたこと。
妖刀の名は『悪食』。かつて産土家の陰陽師が鍛えた破邪の刀にして、持ち主すら食らう最悪の妖刀。その持ち主は政府直属の隠密機関『shinobi機関』の頭目にして、滅び去った朧の忍の当主。
名を『秀真』という。悪食の持ち主がもつ修羅の運命を歩むもの。
――最初に斬り裂いたものは、己の心。