………。
…………。
「ああ、またここか」
何度目だろうか、俺は見慣れた景色を歩いていく。
足が勝手に進んでいく、俺はこの先に何が待ち受けているのか知っているのに。
スタスタスタ……。
ざわざわ…ざわざわ…
人混みを避けながら俺はひたすらに進んでいく。
進むな、進まないでくれ…。
俺の気持ちとは裏腹に足が動く。
俺はある施設に到着した。
「よく来ましたね、どうぞ」
「お言葉に甘えて」
俺は施設長だろうと思われる人に案内され進んでいく。
きゃきゃ…きゃきゃ…
ざわざわ…ざわざわ…
館内に色んな声が響いている。
「おじさん、だーれ?」
色んな子どもが俺のもとに集まってくる。
俺はしゃがみ、子ども達の目線に合わせ話し始めた。
「おじさんはね、色んなところを回って色んな遊びをしてるんだ」
そんな俺の言葉に惹かれたのか子ども達はキラキラと目を輝かせ話す。
「そうなのー!?どんなお遊びするのー?鬼ごっこ?かくれんぼ?」
俺はその言葉に首を振ると立ち上がり、施設の幅を見る。
そして子ども達に目線を向けた。
「違うよ、もっと楽しい遊びさ。みんなで協力して戦う世界で一番面白い遊びさ!」
そんな俺の言葉を受け子ども達がはしゃぐ。
「そんな遊びがあるの!?教えて教えてー!!」
子ども達が俺の足元にしがみつく。
そんな子ども達の頭を撫でながら、指を差す。
「その遊びの名前はサッカー!」
「さっかー?」
この施設にはテレビが今度追加されると言うことで、サッカーの存在を知らなかったのか。
「ああ。サッカーだ」
俺はバックからボールを取り出した。
「さっかーってボールを相手に当てるのー?」
「まあ見てな…、よっと…」
ポンポン…ポンポン…
「よっ…!」
俺は頭、胸、膝、足、踵。
色んなところでボールを操り子ども達に見せる。
「うわぁ、すごぉい!!」
「ボールがくっついてるみたーい!!」
子どものキラキラした表情が眩しい。
俺はリフティングをやめると子ども達に話す。
「サッカーはこのボールを11人で操りながら相手のゴールにボール入れる遊びなんだ。最高に楽しいぞ!」
「やりたいやりたい!!」
「おじさん教えてー!!」
子ども達を見ながら、施設の芝生を指差す。
「じゃあ向こうでやろう!みんなついておいで!あ、あとおじさんじゃなくてお兄さんな。俺まだこう見えて28だから」
「あはは!おじさん行こ行こ!」
全く聞いてないなぁ。
俺はそんな子ども達の無邪気さに自然と笑顔になる。
この光景も何度も見た。
だがこの時、この瞬間だけは忘れられる。
そう、全てを。この先に待つ、全てを…。
「おじさーんまたねー!!」
子ども達が俺に大勢で手を振る。
俺は笑顔で手を振り返し返事する。
「ああ、またなー!」
施設長も顔を出し俺に声をかける。
「???くんありがとう。子ども達に楽しい遊びを教えてくれて」
「いえ、俺が教えられるのはこの遊びくらいですから。俺はサッカー一筋でしたからね」
「とんでもない元プロ選手の???くんから直接サッカーを教えてもらえるなんてあの子達も嬉しいと思いますよ」
「そうでしょうか…」
俺は照れたように頬をかく。
「あの子達には俺が見れなかった景色を見て欲しいんです」
「景色?」
俺は施設長の言葉に頷く。
「俺は確かにプロ選手でした。あの子達の中からもしプロサッカー選手が産まれたら俺の見れなかった世界を見て欲しい」
施設長は俺の言葉に微笑む。
「あの子達なら見せてくれますよ夢を。あなたの息子さんもそうでしょう?」
施設長の言葉に頷く。
「ええ、俺の息子にもこれから辛いことが沢山待っているだろうけど、あの子達と世界を見て欲しい。いや、世界を取って欲しい!」
「世界を取るですか…!大きく出ましたね!」
「俺は怪我で現役を引退してしまったんで、無理しない程度に頑張って欲しいですね」
そんな会話をしながら俺は施設を後にした。
「楽しい時間とはあっという間だ」
俺はふと呟く。
「父さーん!!」
「待たせたな」
俺は家族の元へと着いた。
この日はみんなで外食しようと、仕事帰りの道で待ち合わせをしていたのだ。
「あら?何か楽しいことがあったあなた?」
妻も温かい言葉で俺を迎える。
この言葉に俺は涙が出るのを抑える。
また、また俺は大事な人を…。
何回目かもわからない、この天国から地獄へと堕ちる瞬間。
タクシーを拾い、道を走って行く。
タイムリミット。
グァァァン!!グジャ!パリィィン!!
………。
「……」
涙を拭いて俺は立ち上がった。