俺は、いつからこういう役回りになったんだ。ああ……テグネウから逃げる時、アドレットが俺に命令したのが最初だった。自分のことは自分でしてほしい。
『気が利くわね』じゃない。姫の物ならまだしも、フレミー、お前の物なんか捨てていきたいくらいだ。だが、仲間である以上それはしないだけだ、甘えるな。俺の体が大きいからか?力がありそうだからか?それなら、山の力を使ったモーラの方があるだろう。
お、れ、は、に、も、つ、が、か、り、で、は、なあぁーい!!(俺は荷物係ではない)
何か険しい表情で考えているゴルドフを見兼ねて、アドレットは声を掛けずにいられなくなった。
「ゴルドフ、さっきから何考えてんだ?」
「いや……」
「ナッシェタニアのことか? 姫がドズーと企んでいることは気になるだろうが、今は闘いに集中してくれ」
「お前たちは……」
「なんだ?」
「お前たちは何故、いつも自分の荷物すら持っていこうとしないんだ」
「……は?」
「いつも、お前たちの荷物を取ってきているのは誰だと思っている、俺だ。お前の鉄箱は特に重い。自分で運べ」
「ぶ……はははっ! 何を言うかと思ったら、そんなことか」
あまりにも予想外かつ、小さなことだったので、アドレットは思わず吹き出してしまった。
「そんなことではない」
アドレットの笑い声に気付いたナッシェタニアが、こちらに近付いてきた。
「あら、何やら楽しそうですね」
「ナッシェ、聞いてくれよ」
アドレットはゴルドフとの会話を、面白おかしくナッシェタニアに話した。
「ふふ、ゴルドフ、あなたの力強さは、仲間の皆が頼りにしていることですよ」
ナッシェタニアがゴルドフを宥めるが、ゴルドフは不満気な表情のまま押し黙っていた。
「あなたのそういう子供っぽいところは、これからの闘いの足枷にな……ぶふっ」
ナッシェタニアも笑いを堪えていたのか、限界だったようだ。ゴルドフは悲しそうな顔になった。
「姫……」
「あはっ! はははっ、ごめんなさい。おかしくて! 荷物係ゴルドフ……ふふ」
ゴルドフは堪らず、その場から離れようとした。
「おい、どこへ行くんだ?」
「ついてくるな」
アドレットとナッシェタニアは、ゴルドフの後ろ姿をただ見つめていた。
「ナッシェ、いいのか? 追いかけなくて」
「ええ。そのうち戻ってくるでしょう。これからの闘いは、今まで以上に厳しいものになると思います。あなた、言っていたじゃないですか。こういう時こそ笑えって」
「それはそうなんだが、笑っているのは俺とナッシェだけだぞ」
「うーん……どうしましょうか。でも、ゴルドフも全く笑わないわけではないんですよ。戻ってきたら、アドレットさんが笑わせてあげてください」
アドレットには今、ナッシェタニアの無邪気さが残酷に思えた。
「無理言うな。俺が怒られているんだぞ」
しばらくすると、ゴルドフが戻ってきた。やはり、アドレットが声を掛けられる雰囲気ではない。ナッシェタニアが何かを話し掛けてはいるが、アドレットは彼の機嫌が直ることを願った。
「皆、来たぞ。凶魔の群れじゃ!」
千里眼を使いながら、常に警戒をしていたモーラが叫んだ。皆に緊張が走る。
「かなりの数じゃ。おそらく、全ては捌ききれん。逃げながら闘った方がいいじゃろうな。アドレット、指示を出してくれ」
アドレットは即座に指示を出し、七人と一体は駆け出した。とにかく、ここから遠くに離れなければならない。
「フレミー、最後尾は頼めるか?」
「言われなくても解ってるわ。あなたたちは、前方の敵を蹴散らして」
「ゴルド……」
いつものように、アドレットは、荷物を持って逃げるようにゴルドフに命令しようとしたが、あの状態では自分の話を聞くとは思えなかった。しかし、その場には既に荷物はなく、ゴルドフはハンスと共に先頭を切っていた。
「とりあえず、今は大丈夫のようじゃ。ただ、まだ数はかなり残っておる。いつでも動き出せるようにしておくのじゃな」
七人と一体は一息ついた。アドレットは腰の袋を探っていた。今のうちに、秘密道具を補充しなければならない。
そうしていると、アドレットの後ろに、ドスッと何か重い物が落とされた音がした。アドレットの鉄箱だ。
「……ゴルドフ、いつもすまねえな」
「姫に言われただけだ。お前のためではない」
やはり、アドレットにはまだ、ゴルドフの機嫌が悪いように思えた。いや、ゴルドフはいつもこんな感じだったのかもしれない、とも思った。
「ゴルドフ、笑いましょう」
後ろから声がした。ナッシェタニアだ。アドレットは、ゴルドフのことは彼女に任せるのが一番良いのかもしれないと思った。
「そんな小さなことを、いつまで根に持っているのですか。あなたがいつまでもイライラしていると、仲間の士気が下がります。ほら、アドレットさんと仲直りの握手をしましょう!」
ナッシェタニアは、背後から無理矢理ゴルドフの腕を持ち上げ、握手をするように促した。
「ゴルドフ、お前を笑ったりしてごめんな」
そう言いながら、アドレットは握手をした。
「……!」
アドレットは、ゴルドフの表情を見て恐怖に襲われた。人形のように感情がない、無だ。
(あ、コイツまだ怒っているな……)
アドレットの複雑な表情を見て、何故かナッシェタニアは楽しそうだった。
最後、無理矢理纏めた感じになってしまいました。やっぱり、思い付きで書き始めるのは良くないですね。『荷物係ゴルドフ』というのを、どうしても言いたかったんです。6巻では人まで運ぶ、獅子奮迅の活躍で挿し絵が凄いことになってます。みんな、もっとゴルドフを労ってあげて!