六花の勇者が魔神を倒し、世界に平和が戻ってから、ロロニアは元いた村に戻っていた。一人ではなくハンスと共に――
ハンスは元々殺し屋なので、決まった住居がない。それをロロニアが預かると言いだした。彼は最初こそ断ったが、説得され、しばらくの間彼女と一緒に住むことになったが、彼女が一体何を考えているのかまでは、うかがい知れなかった。
「まさか、おめえさんのとこに住まわせてもらうとは、思ってもいなかっただよ」
「あたしは……ひ、一人ですし、万天神殿にいる時はうちを開ける時が多いので、自由に使ってもらって構いませんよ」
「おらは殺し屋だべ? 同じとこに住み続けるのは、一生ねえと思ってただ。まあ、短い間だけかもしれにゃいが、ありがたいにゃ」
今、ロロニアがいる村には、以前いた村人はほとんどおらず、彼女を除けば最近移住してきた者が数人いるくらいだ。大国からは遠く離れていて、ハンスの素性が知れ渡ることはないだろう。
「にゃんで、アドレットについていかなかっただか?」
「アド君にはアド君の生活がありますし……あたしがいても、邪魔になるだけじゃないですかね」
「確かに、そうかもしれねえにゃあ」
ロロニアは、それをハンスに否定してほしかったのか、自分で言っておきながら落ち込んでいた。
「……ところで、ハンスさんはその……こ、こ、殺し屋はまだ続けるつもりなんですか?」
「当り前だにゃ、おらの本職だべ。やらにゃきゃ食っていけねえ。ただ、金を貰わないとやらにゃいから、おめえさんを殺すことはねえと思うがにゃ」
「ひぃっ……!」
笑えない冗談に、ロロニアは怯えていた。
次の日の朝、ロロニアが目を覚ますとハンスの姿はなかった。ただ、替えの服や、武器の手入れをするための道具は置かれたままだったので、また戻ってくるのだろうと思った。それを見て、ロロニアは少し安心した。今日は特にやることがなく、部屋の掃除をして過ごした。
正午過ぎ、ハンスが帰ってきた。
「おかえりなさい」
「ただいまだにゃ」
ロロニアは、ハンスが何をしていたのかは聞くこともなく、二人は一緒に昼食を摂ることにした。
「……そろそろ、話してもらってもいいかにゃ?」
「何をですか?」
「おめえさんが、おらをつれてきた理由に決まってるだよ」
「そ、それは、前にも言ったじゃないですか……」
「おめえがいくら馬鹿でお人好しでも、おらみてえな殺し屋と、一緒に住む理由がねえ」
ロロニアは少し沈黙した後、言いにくそうにぼそぼそ話しだした。
「……この村は数年前、盗賊に何もかも奪われてしまいました。その時、あたしの両親は盗賊に殺されました。今さら何も出来ないのかもしれないですが、あたしはその盗賊のことを知りたいと思っています」
そこまで聞いたハンスは、ロロニアの思いを察した。
「蛇の道は蛇ってことだにゃ?」
ロロニアは、何も言わずに小さく頷いた。
「まあ、殺し屋も盗賊も、ある意味同業者みてえにゃもんだべ。おめえが話したことは、おらも少しは知ってるだよ。まさか、襲われたのがここだったとはにゃあ……」
「知っているんですか!?」
「詳しくは知らねえがにゃ。だが、おめえさんはそれを知ってどうするつもりなんだべ?」
「解らないです……ただ、知りたいんです」
そう言うと、ロロニアは俯いて黙り込んだ。
ハンスは何も話さないロロニアに堪り兼ね、自分が知っている限りのことを彼女に話した。盗賊の集団の俗称、構成されている年齢層、その集団が襲った村――彼女は、その話を真剣に聞いていた。
「おらが知っているのはこれくらいだにゃ」
「ありがとうございます……」
「話したところで、おめえさんが得るものは何もねえだよ」
そう言うと、ハンスは立ち上がり、外に出ようとした。
「どこへ行くんですか?」
「仕事だべ」
ハンスが外に出ると、猛スピードで駆け出した。ロロニアはそれを見送ろうと、続いて外に出はしたが、ハンスの姿はすぐに小さくなっていった。彼女は彼のいなくなった後の景色を見つめながら、もう二度と彼には会えないような気がした。
今日、ロロニアは神殿に用事がある。昨日と同じように、目が覚めてもハンスの姿はなかった。
神殿では、魔神との戦いが終わってから、初めてモーラに会うことになる。ほんの数日前のことだが、ロロニアはそれが随分と久しぶりに感じた。
「何かの間違いだと思うが……お主がハンスと一緒に住んでおるというのは、本当か?」
「す……すいません!」
ロロニアは、何故モーラがこのことを知っているのだろうと困惑しながら、ただひたすら謝っていた。
「あまり大きな声を出すな、誰かに聞こえたら大変じゃ。噂で聞いただけじゃが、本当なのじゃな? お主は、一体何を考えておるのじゃ。一時は仲間ではあったが、奴は殺し屋じゃぞ。お主の命が危ない、今すぐ引っ越すのじゃな」
「たぶん、もう帰ってこないと思いますが……」
「何かあったのか? いや、そんなことはどうでもよい。今すぐ引っ越すのじゃ」
神殿から帰り、家の前まで着いてロロニアは気付いた。家の扉に何かが挟まっている。扉を開けると、それはヒラヒラと落ちた。ふたつ折りにされた、手紙とも言えないような紙切れだ。ロロニアがそれを開くと、文字が書かれていた。
「……あり、が……とにゃ?」
その書き出しから、ロロニアは、それがすぐにハンスからだと解り、文字にしても訛っているな、と少し笑った。
『あったけえ飯ありがとにゃ! おめえさんが望んでいたかどうかは解らにゃいが、おらはこういうことでしか借りが返せねえだよ。人違いだったらすまにゃい』
その短い文章の終わりに、赤黒いインクのシミのようなものがついていることに気付いて、ロロニアは膝から崩れ落ちて泣いた。
「うっ、ハ……ンスさ、ん……」
ロロニアの長い戦いは、自分が意図していなかったところで、終わりを告げた。
最後、文章をかなり削ったため(その方が収まりがいいかな…と)、伝わりにくい部分もあるかもしれないので、気になる方は質問ください。書いてる途中、なぜか『私の彼は殺し屋(ハート)』という、女性向けソシャゲ風タイトルが頭をよぎって、自分の脳みそを洗浄したくなりました。