六花の勇者 短編集   作:雨冠

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おばちゃん(モーラ)書き直しです。おばちゃんがおばちゃんじゃなかった頃の話は、ずっと書きたかったんですが、なかなかいいネタが思い浮かばず、更新が遅れて申し訳ないです。マームアンナさんも出るよ。原作ではマームアンナさんの歳が分からなかったので、おばちゃんより1、2歳年下やけどタメ口っていう設定にしてみました。特にネタバレはないです。


彼女達の最初の戦い

「モーラ!」

 後ろを振り向くと、モーラは聞き慣れた声に呼び止められた。マームアンナだ。

「急にどうしたの?」

「私も聖者に選ばれたの。<言葉>の聖者!」

 モーラはそれを聞いて、頭を抱えたくなった。自分も聖者になってまだ日は浅く、人のことを言える立場ではないが、いい加減な性格の彼女が、聖者としてやっていけるのだろうかと、心配になった。

「マームアンナが選ばれちゃったか……」

「自分でもビックリだわ」 そう言いながら、彼女は笑っていた。

 モーラは、次の模擬戦闘までの少しの時間を、マームアンナと一緒に部屋で過ごすことにした。

「――本当にねえ。ところで、<言葉>の聖者って、どういうことが出来るの?」

「嘘を暴いたり、誓いを守らせたり出来るみたいだけど、私もまだよく解らないわ」

「なんか……あなたに似合わない力だね」

「どういう意味よ」

 

 モーラが模擬戦闘を終えた後、万天神殿にいる全員が、長であるリウラによって神殿の教会に集められた。

「このところ、近くの国で争いが起こったようで、周辺の治安が悪いようじゃ。ここは、山の中腹じゃから大丈夫だとは思うが、気を付けるように」

 モーラが横を見ると、マームアンナが欠伸をしながら、退屈そうにそれを聞いていた。彼女と目が合った。

「おっかないねえ。まあ、ここには聖者が沢山いるから心配ないだろうけど。それに、ここまで登ってくる程、悪党も暇じゃないだろうしね」

 自分には関係ないとでも思っているのか、彼女には微塵も危機感は感じられなかった。

 

 次の日、モーラは聖者としての知識の授業がある。マーアンナも一緒のはずだった。

「マームアンナさんがいないですね。どなたか、知っている人はいないですか?」

 神官はマームアンナから何も聞いていなかったようで、彼女のいい加減さに呆れた顔をした。

「あの……私、同じ部屋なんですが、朝起きた時にはいませんでした。いつもはギリギリまで寝ているので、おかしいな、とは思っていたんですが……」

 モーラはいつも彼女より先に起きて、彼女を起こす役だ。目を離すとまた寝ているので、結局は慌てて支度している彼女をよく見ていた。今日はたまたま早く起きて、散歩でもしているものだと思っていた。

 その時、授業を行う予定であったこの場に、他の神官が息を切らしながら入ってきた。手には手紙のようなものが握られている。

「し……神殿に、これが!」

 神官が持ってきたものは、脅迫状だった。

 

 神殿にいる全員が教会に集められ、神官が脅迫状を読み上げた。

『神殿にいた赤髪の小娘を預かった。3日以内に金を用意して、聖者に持ってこさせろ。ただし、上級の聖者はダメだ。聖者になって間もない者に持ってこさせろ。こちらの要求を拒否した場合は、即座にこの女を殺す』

 それを聞いたモーラは、目の前が真っ暗になりそうだった。

「マームアンナ……」

「モーラさん、しっかりしてください! 身代金を要求してきたということは、まだ彼女が無事である可能性が高いです」

 モーラには神官の声は聞こえていなかった。モーラはゆっくりと立ち上がり、ふらふらと自分の部屋へと戻っていった。

 

 しばらくして、モーラを心配した神官が、彼女の部屋を訪ねた。

「……大丈夫ですか?」

「はい、少し落ち着きました」

 神官は、落ち着いたとは言っているが、まだ心中は穏やかではないであろうモーラを、険しい表情で見つめていた。神官の手にはまだ、脅迫状が握られている。

「これを見る限り、この人物は、聖者のことをよく知っているのだと思います。しかし……どうやって神殿に近付いて、彼女を拐っていったのかまでは見当もつきません」

 

 その日の夜、リウラの部屋で、リウラと何人かの神官が、どうするものかと話をしていた。そこに、扉をコンコンと鳴らす音が響いた。それを神官が対応すると、そこに入ってきたのはモーラだった。

「私が行きます」

 開口一番、モーラが口にしたのはそれだ。リウラと神官は皆、うんざりしたような表情を浮かべたが、誰もが予想していたことでもあった。

「危険です! そのつもりなら、私はあなたを全力で止めます」

「でも……私くらいしか、行ける聖者はいないんでしょう? それなら私が!」

 そこにいる全員がモーラを止めようとしたが、説得したところで彼女の意志は揺らがない。彼女は勝手に神殿を抜け出してでも、マームアンナを助けにいくつもりのようだった。

 

 次の日、神官は、渋々金の入った袋をモーラに持たせた。勿論、彼女を行かせることには反対しているが、勝手に行かれた時に、なるべく最悪の状況を避けるためだ。

 その日の夜、神官が思っていたとおり、モーラはマームアンナを助けにいくために神殿を抜け出した。

 マームアンナが捕えられている場所は、神殿からあまり遠くはない。神殿がある山の麓の村の、ひとつ隣の村だ。モーラは夜道を走った。

 村に到着してから、モーラはその村を虱潰しに調べた。あまり大きな村ではないので、それ程時間は掛からなかった。どこも、誰かが捕えられているような気配はなかったが、村から少し離れた場所に、物置のような小さな小屋を見つけた。近付くと、扉が少し開いている。モーラは、警戒しながらその扉を開けた。

「……!」

 小屋の中は薄暗く、窓から月明かりが差し込む程度にしか照らされていなかったが、モーラの目には、首筋に刃物のようなものが当てられ、椅子に拘束されているマームアンナの姿が飛び込んできた。

「……万天神殿の者だな?」

 マームアンナの首筋に、刃物のようなものを当てている者の声だ。モーラが目を凝らすと、それは大柄の男のようで、周りにはその男の手下と思われる者が、何人か立っていた。

「マームアンナ!」

 モーラが叫ぶが、マームアンナの口には布がきつく縛り付けられているため、彼女は目で訴えることしか出来なかった。

「彼女を離してください! それと、あなたの目的も教えてもらいます」

「それはまだ無理だな。まあ、目的くらいなら話してもいいが。お前みたいな小娘に話したところで、意味があるとも思えねえがな」 男はマームアンナの首筋にナイフを当てたまま、目的を話し始めた。自分達が犯罪集団であること、マームアンナを拉致したのは、上級の聖者を自分達の仲間に引き入れるためであること――

「お前は、俺がどうやって神殿に近付いたか気になるか?」

 モーラは表情を崩さず、男が語るに任せた。

「聖具って知っているか? まあ、お前も聖者なら聞いたことはあるだろう。俺はそれを持っているんだ!」

 男は、子供がおもちゃを見せびらかすような顔で笑みを浮かべながら、手下に指示を出した。手下は、袋の中から黒い布を取り出した。

「これは<幻>の聖者が作った聖具だ。これを被れば、気配をほとんどなくすことが出来る。まさか、聖者も俺たちみたいな者に悪用されるとは、夢にも思っていなかっただろうな」

 モーラは驚いた。幾つかの聖具が売り買いされていたことは知っていたが、この聖具の存在も、それが聖者以外の者の手に渡っていたことも知らなかった。

「あぁ……それと、金なんてどうでもいい。上級の聖者を連れてこい。コイツを拉致したのは、それを確実にするためだけのことだ。出来なければ、コイツを殺す」

「要求と違います! それは出来ません」

「じゃあ、コイツが死んでもいいんだな?」

 モーラは、男から殺気を感じた。下手をすれば、本当にマームアンナが殺されかねない。

 モーラは、しばらく男と睨み合ったまま、悩んだ末に決断した。

「私が人質になります」

 モーラがそう言うと、男は彼女を警戒するような表情に変わった。彼女はもう、自分の命よりマームアンナを助けることしか考えていなかった。

「そうしたところで、俺になんの得がある?」

「彼女はまだ、聖者になったばかりで戦闘経験がほとんどありません。もし、要求が破綻してそのまま連れ去るなら、戦闘経験のある私の方がいいと思います。おそらくですが、私はここにいる全員と、真っ向から戦えば負けないと思います」

 マームアンナを助けるためには、モーラは自分の強さを示さなければならない。多少、大袈裟でも構わない。

「解った……その前に、お前の腕に付けているのは武器だろう? それをその場に置いてから、こっちに来い」

 モーラは安堵した。彼女にとっては、マームアンナが助かっただけで充分だった。

 手下はマームアンナの拘束を解き、代わりにモーラを椅子に拘束した。

「じゃあ、お前、頼んだぞ。コイツを助けたければ、早く行け!」

「モーラ……ごめんね」

 そう言い残すと、マームアンナは駆け出した。

 モーラは、このまま大人しく拘束されているつもりはなかった。男達に悟られぬよう、拘束を解く方法を考えていた。幸いこの場所は山に囲まれていて、<山>の聖者の力を使うことは可能だ。聖者になったばかりの彼女にも、力を増幅する能力だけは使える。体に巻き付けられている、紐を引きちぎるくらいのことは出来る。

 男はモーラに何かを話しているが、彼女はそれを聞いていなかった。今なら抜け出せるかもしれない。彼女は腕に力を集中し、瞬時に紐を引きちぎった。そして、同じように足の拘束を解いた。ナイフを当てられている首を後ろに反らし、男の腕を殴った。男の腕からナイフが落ちた瞬間、椅子を蹴りとばして前に走った。武器の鉄甲を取るためだ。

「なっ……!」

 虚を突かれた男が、即座に落ちたナイフを拾ってモーラに投げた。彼女は横転して、すんでのところでそれをかわした。かわしながら、拾った鉄甲を装着した。そして、口に縛り付けられた布を片手でほどいた。これで万全で戦える。その時、腰の剣を抜いた手下が、一斉に彼女に襲い掛かった。

「はぁ!」

 モーラは鉄甲でそれを受け止めながら、手下に攻撃を与えていく。この程度の相手なら、どうということはない。僅かな時間で、全ての手下がその場に倒れていった。

「この、クソガキがっ!」

 背中に差してあった、モーラの身の丈程の長さがある大きな剣を抜いた男が、彼女に襲い掛かかった。彼女は鉄甲で剣を受け止めたが、腕が痺れる程の衝撃だった。手下とは力が違いすぎる。その際、彼女は体勢を崩されながらも、男に蹴りを繰り出したが、その大きな体では信じられない速さで、悠々とそれをかわされた。その時、彼女は背中から倒れてしまった。

「これで……終わりだ!」

 男は、倒れたモーラに剣を突き刺そうとしたが、彼女はそれを鉄甲で受け止め、なんとか横に払うと、剣は床に突き刺さった。男が刺さった剣を抜こうとしている間に、彼女は飛び起き、剣を掴んでいる右手に殴りかかった。その際、男は剣から手を離したことで、丸腰状態になった。

「ああ……!」

 モーラは、男の腹に鉄甲の一撃を繰り出すと、男は小屋の壁まで吹き飛ばされ、床に倒れた。彼女はさらに追撃しようとしたが、男は動かない。恐る恐る、彼女が男の顔を確認すると、目の焦点が定まっていない。気絶しているようだった。

「はぁ……助かった」

 モーラは、その場に倒れ込みたいくらいだった。

 

 モーラは歩いて神殿に帰った。途中で、他の聖者を連れてきたマームアンナと会った時、緊張の糸が切れたのか、その場に倒れそうになったところを、マームアンナが受け止めた。

「モーラ!」

「だ、いじょう……ぶ。大した怪我はしていない」

 モーラはマームアンナの肩を借りながら、神殿へ戻った。

 3人が神殿に帰る頃には、朝日が差していた。神殿にいる者たちは、祈るようにして3人の帰りを待っていた。神殿に続く道に3人の姿を見つけた神官は、走って駆け寄り、モーラとマームアンナを抱き締めた。

「無事で良かった……」

「私もモーラも怪我はないよ!」

 モーラは、先程まで人質だったマームアンナが、何事もなかったかのように隣で笑っているので、あれは夢だと錯覚しそうだった。自分はなぜ、家族でも恋人でもない彼女を、命を懸けてまで守ろうとしたのかが不思議だったが、彼女には何かそうさせる魅力があるのかもしれない、と思った。モーラは、また彼女に世話を焼く日々を考えると、溜め息が出そうになったが、少し楽しみでもあった。




戦闘描写を書くのが楽しいです。地の文がやたら長くなる割に、話が全然進まんけど。この話を考えてる時は、もっと文章は短くなるはずやったのになあ。たまにはいいでしょう。次は…たぶんナッシェやな。とりあえず、主要メンバーメインの話は一通り書きたいです。
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