六花の勇者 短編集   作:雨冠

9 / 10
魔神を倒した後、フレミーがチャモの家庭教師をするという話です。チャモのキャラを崩さずに可愛く書けるか、を意識してみました。本文を見直してたら話が延びた(笑)特にネタバレはありません。


昨日の敵は今日の家庭教師

 万天神殿の別館、モーラが住居として使っている場所、その客人用の部屋で、フレミーがチャモに勉強を教えていた。

「……なんで、フレミーが先生なのさ」

「モーラに頼まれたんだから仕方ないでしょ。あ、チャモ、ここ間違えているわ。やり直し」

「はぁ……フレミーの暇潰しにチャモが付き合うなんて。それに、おばちゃんちでやらなくても神殿でやればいいのに」

「モーラの監視がないと、あなたが大人しく私と勉強するわけないでしょ」

 何故、こんなことになったのかは昨日のこと――

 

「モーラ、ちょっといいか?」

「なんじゃ?」

 アドレットは、フレミーと一緒に住むための家を探そうとしていた。探すのは自分一人でするから、それまで彼女を預かってほしいと言う。

「フレミーはそれでいいのか?」

「その……女の子に、一週間も屋根のないとこで過ごさせるのは、流石に可哀想だろ?」

 アドレットは照れているのか、モーラと目を合わせようとしなかった。

「お主らしいな。解った、私のところで預かろう。もし、それ以上長引くようであれば、顔だけでも出しに来るといい」

 アドレットと別れた後、モーラ、チャモ、フレミーの3人は万天神殿に向かった。

 神殿に着くと、モーラはフレミーを空いている部屋に招き入れた。

「部屋はここを使うといい」

「ありがとう。でも、何もせずにアドレットを待つだけじゃ悪いわ。掃除でもなんでもするから、私に出来ることはないかしら」

「身の回りのことはメイドがやるからのう……」

 モーラはしばらく考えた後、フレミーにチャモの家庭教師をしてくれないかと提案した。

「……私が? チャモが私の言うことを大人しく聞くと思う?」

「それは、ここの客人用の部屋でも使うといい。チャモがサボったら、私に報告すれば良かろう」

 フレミーは一応、承諾したが、モーラに聞こえないように何か独り言を呟いていた。

 

 次の日も、フレミーの家庭教師は続いていた。

「チャモ、勉強は捗っておるか?」

 二人分の薬草茶を持ちながら、モーラが部屋に入ってきた。

「おばちゃん……悔しいけど、フレミーの教え方、凄く解りやすいよ!」

 モーラは、チャモがフレミーを嫌がると思っていたが、フレミーの知識には感心していた。チャモにもそれが解ったようで、胸を撫で下ろした。フレミーは少し赤面していた。

「それは良かった。フレミー、もう時間も遅い。キリのいいところまで済んだら、今日はそのくらいにしたらどうじゃ?」

「ええ、そうさせてもらうわ」

 モーラはお茶を置くと、すぐに部屋を出ていった。フレミーはモーラが、自分たちの邪魔をしないためだけでなく、娘のシェニーラと遊びたいのかもしれない、と思った。

「何照れてんのさ。あのさ、フレミーって優しくなったよね」

「そうかしら? あなたも優しくなったと思うけど」

 六花の勇者として、共に戦った時には有り得なかったような会話だ。二人は互いにおかしいと思ったようで、顔を見合わせて笑った。

「あなたはもう、私を殺したいとは思わないの?」

「急になんなのさ。んー……もういいかな」

「そう」

「そりゃあ最初は許せなかったけどさ、チャモを殺そうとしたのもテグネウの命令か何かでしょ? それならフレミーも被害者みたいなもんだよ」

「あなたがそんなことを言うようになるとは思わなかったわ。以前のあなたなら、理由なんてお構いなしに私を殺そうとしていたはず」

「フレミーが止めたから、チャモも止めた、それだけのことだよ。それに……」

「それに?」

「あ……もう、この話は終わり! ここ解らないから、ちゃんと先生してよ」

「そうね。そこは……」

 チャモは『仲間だから』という言葉を飲み込んだ。フレミーに直接そう言うのは、まだ恥ずかしかった。

 

 フレミーが家庭教師を始めてから5日目の夕方、アドレットが戻ってきた。手には、家の間取り図のようなものを持っている。

「フレミー、待たせて悪りい。幾つか、候補を絞ってきたぞ」

「見せてもらってもいいかしら」

 二人がその間取り図を眺めているのを、チャモが後ろから見ていた。

「ねえ、フレミー……家庭教師はもう終わりなの?」

「アドレットが戻ってくるまでの間だったから、今日までになっちゃうわね」

 そう言うと、チャモは不満げな顔をした。

「チャモ、もっとフレミーに勉強教えてもらいたかったのに……」

 三人の様子を見ていたモーラは、気まずそうにしていた。

「チャモ、わがままを言うでない! 二人には、これからの生活があるのじゃ」

「……あの、モーラ」

 モーラはフレミーの方を向いた。

「私、時間がある時にまた来てもいいかしら。チャモに教えていたこともまだ途中だし、私もキリのいいところまで終わらせたいと思っていたの」

「お主の都合が良ければ構わぬが」

「じゃあ、チャモ、落ち着いたらまた来るから、今までやったところまで復習しておいて。続きは次にしましょう」

 それを聞いたチャモは、機嫌が直ったようで、目を爛々と輝かせていた。

「解った、フレミー先生!」

 フレミーは思わず苦笑した。

 フレミーは荷物を纏めて、アドレットと共に神殿を後にした。

「まさか、チャモにあそこまで気に入られるとはな……なんかあったのか?」

「さあ。私にもよく解らないわ」

 アドレットは立ち止まり、振り返った。

「ほら、まだ手振ってるぜ。フレミーも、少しは振ってやったらどうだ?」

 フレミーはチャモに向かって控えめに手を振り、すぐに歩きだした。




『勇者、そして母として』のプロットがなかなかまとまらず、その間に書きました。この後、フレミーがチャモの良い遊び相手になってくれたらなあ、と思ったりします。今のところ原作の延長線上の話だけですが、これからは設定を変えた話も書くかもしれないです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。