ダンジョンに人形遣いがいるのは間違っているだろうか 作:粉プリン
まだ朝の日が差し込む前の時刻、街に薄霧が漂いながらも商店を営む者たちが開店の準備を始めている頃、ダンジョン都市オラリオの門にて1人の『元』冒険者が佇んでいた。
「……何時ぶりかしら」
その言葉に反応する人はいなかった。少なくとも人は。
「にねんぶり?」
「ゴネーン」
「さん?よん?」
辺りに他の人の気配はないというのに、何処からか幼い少女のような声が幾つも響いた。その声に特に違和感を持つことなく元冒険者は街の中へと進んでいった。元冒険者の向かう先にはこの街でも一際異彩を放つ塔があった。名をバベルといいこの街に降りてきた一部の
「あ、すいません。今はまだ受け付けは開始してないんで…………」
そこまで言ってから、冒険者の顔を見て職員は固まった。別に
「えええぇぇぇぇぇぇぇぇええ!?『操者』がなんでここに!?」
朝のオラリオにギルド職員の絶叫が響き渡った。
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「神様ー」
「なんだいベル君?」
オラリオの外れにある古びた協会、そこの地下室に居を構えているファミリアがあった。ヘスティア=ファミリアといい構成員は僅か1人、まだまだ出来立てといっても遜色ないファミリアだった。その根城から今日も今日とてダンジョンに向かっていった唯一の構成員、ベル=クラネルが地下室に戻ってきた。主神のヘスティアも何か忘れ物でもしたのかと思い奥から出てきた。
「何か忘れ物でもしたのかい?」
「いえ、今外に出ようとしたら協会の中にこれが……」
ベルが差し出してきたのは一体の女騎士をモデルにしたと思われるデフォルメの人形だった。金髪に赤いリボンを頭につけ、青い服に白いエプロンと両手に持つ盾とランスが人形ながら精密に作り上げられていた。盾とランスに関しては実際に金属を使っているのか重量も感じる。
「誰かの忘れ物かな?でも、こんなところに入ってくる子は見たことがないし……」
「でも、結構細かく作られてますね。この盾とか本物をそのまま小さくしたみたいです」
「ふーむ、もしかしたら名のある職人の物かもしれないよ。ベル君」
「うぇえ!?そ、それだったらなおさら早く届けないと不味いんじゃないですか!」
「まあ、本人も忘れたことに気づいて取りに来るだろうし。そこまで焦らなくてもいいんじゃないかい?もし来なかったらギルドなりに渡せばいいさ」
「……そう、ですね。ならそれまでここで預かるってことでいいですか?」
「そうだね」「わかったー」
「…………?神様、今何か言いました?」
「?いや、僕はそうだねとしか言ってないよ?」
「今、わかったーって声が聞こえてきたような……」
「ベル君、最近ダンジョンに行ってばっかりで疲れてるんじゃないかい?」
「そうなんですかね……」
「少し休めば体調も元に戻るさ。今日1日休んだって影響は出ないよ」
「……分かりました、すいません神様。僕のこと気遣ってくれて」
「いやいや、何てったってベル君は僕の唯一のファミリアだからね」
「神様……」
とベルが感動に浸っていると、地下室の入り口がノックされた。
「ベル君のお客さんかい?」
「いえ、特に約束はしてませんよ?」
不思議に思いながらも近くにいたベルが扉を開け、その瞬間何かが複数部屋の中になだれ込んできた。咄嗟に短剣を抜いたベルだが、入ってきた物の正体を見て拍子抜けした。そこにいたのはさっきまで眺めていた人形と同じ人形だった。服の色形や持っている武器に違いはあるが、よく見ると顔の作りなどが同じだった。
「失礼するわ……もうその子達が入ってるけど」
扉をくぐって本来の客が入ってきた。始めにいた人形に似た金髪に青い服、違いといっても頭のリボンとこっちは首元に白いレースがあしらわれていた。
「あの、どちら様でしょうか……」
「ごめんなさい、私はアリス。ここに私の人形が一体いると思ったんだけれど」
「あぁ、あの人形はアリスさんのだったんですか。それならここに「ベル君ー!た、助けてくれ!」神様!?」
振り返るとさっき入ってきた人形にヘスティアが揉みくちゃにされていた。
「ほら、貴方達も早く戻りなさい」
アリスが合図するとヘスティアに群がっていた人形達がアリスの元へと戻っていった。それを呆然として見つめているベル。ヘスティアはまだ人形達の猛攻から回復しきっていなかった。
「あの、アリスさん。今のって……」
「?……あぁ、人形達の事ね。まあ掻い摘んで説明するわ」
そう言って、初めにベルが持っていた人形を抱き抱えるアリス。さながら妹のような感じになっていた。妹というにはいささか小さすぎるが。
「この子は上海。私が初めてこの世に生を与えた人形よ。上海、ご挨拶」
「こんにちわー」
「「人形が喋った!?」」
「言ったはずよ、この子は生を受けていると。上海も、蓬莱も、他の子全員にも魂が宿っているのよ」
「人形に魂が……で、でもそんな事が可能なんですか?」
「普通は無理ね、でも私は出来る。そのためのスキルがある」
「スキル……ですか?」
「貴方はまだ?」
「……非常に、残念ながら」
「そう気落ちする事はないわ。スキルは言うなれば覚悟の様なもの。本人が真に望めばそれは自然に与えられるわ。遅かれ早かれ」
「そうだといいんですけど」
「男の子なのにくよくよしない。そんなんじゃ好きな娘に笑われるわよ」
「そ、そんな!好きな娘だなんて……!」
「ちょっとベル君!?もしやあのバレン某の事なんて考えてないかい!?」
「そんな事ない……です!」
「だったらその間は何なんだい!」