IS-refrain- 外伝   作:ソン

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一夏がヤムチャに見えてきた件について。
エレア編、次回完結です。


誇りを継ぐ者2

 

 

 

 

 

 IS学園の門を通るや否やエレアは感嘆の声を挙げながら、くるくると回っている。

 まるで公園に遊びに来た子供のようだ。

 

「……変わってないな」

「ふふっ、そうに決まってるでしょう。簡単に変わらないわよ、ここは」

 

 楯無の言葉に、アインが頷く。

 やはりここの空気は変わっていない。

 それが何故か嬉しかった。

 前はただ――恨むだけでしか無かったというのに。

 見方一つ変えれば世界はこんなにも違うのだと、あの時初めて思った。

 

「さて、どうする? まだ私、生徒会長だから色々と顔は利くわよ」

「……頼りになるよ」

 

 アインがエレアの名を呼ぶと、彼女はアインの方へ走りよる。

 別の世界での子供だと言うが、どう見ても本物の親子にしか見えない。

 そして休日に遊びに来た家族のような光景である。

 

「エレア、見たいところは?」

「えっと……任せます!」

「そうね、じゃあ職員室に行きましょうか。織斑先生に顔くらいは見せてた方がいいでしょう?」

「……確かにな。あれから連絡は取っていたが、直接は会っていない」

 

 思えば、この時アインは気づくべきであった。

 楯無の口元が、若干ニヤけている事を。

 そしてエレアの目が少しだけ伏せられていた事に。

 

 

 

 

 

「さてと、ここで待っておいて頂戴。それじゃあ呼んでくるわ」

 

 職員室の前でアインとエレアは少々の待ち惚けを喰らっていた。

 無論期限は楯無が戻ってくるまでだ。

 学園の施設が珍しいのか、エレアはきょろきょろしながら周りを見ている。

 

「……何か見たい物でもあるのか?」

「えっ、ううん。ちょっと見る人は女性の人ばかりだから珍しいなぁって」

「? ISについて何も知らないと?」

「あいえす? 何それ、美味しいの?」

 

 きょとんとしたエレアはどうやらISについての知識がなかったらしい。

 思わず溜め息をついて、彼女の頭に手を乗せる。

 

「むっ、父さんバカにしてる?」

「してないさ。……ISは女性しか使えないと言われてる展開型の鎧、パワード・スーツだ。今、アルカの手で男にも使える研究が進められてる。昔は女尊男卑となった社会の象徴だったが、亡国機業のおかげで男性の立場も少しずつ認められてきてる……分かったか?」

「えーと……要するに女性の象徴って事?」

「……確かに間違っていないが」

 

 ふと、アインは視線がこちらに流れているのを感じた。

 見ればIS学園の生徒がちらちらとこちらに視線を向けている。

 二人の容姿が珍しい事が原因だろう。

 彼女達の視線からエレアを守るようにして立つ。

 何故か知らないが、無性に苛立ったのだ。

 

「よっ、アイン」

 

 聞き覚えのある声に振り返れば、そこにはかつて復讐の対象だった者がいた。

 数ヶ月前は殺したくてどうしようもなかったその顔が、今となっては何故か親しく見える。

 丸くなったのか、それともただ単に彼女達とこの男を天秤にかけただけなのか。

 

「この人は?」

「織斑一夏。そうだな……今、世界でただ一人ISに乗れる男だ」

「へぇ……。何かパッとしないね」

 

 辛辣なエレアの評価に、苦笑いした一夏が視線で彼女の事を尋ねてくる。

 何と答えようかと頭の中を迷いが過ぎる。

 率直に言ってもいいが、余計に騒ぎが広がるだけだろう。

 あるいはそれでも構わないのかもしれないが。

 

「父さん? どうしたの?」

 

 迷っている数秒の間にエレアが決着をつけてくれた。

 うん、これでもう気にするのは事後処理だけでいいはずだ。

 

「は?」

 

 茫然とした顔で呟く男が個々に一人、いや言うまでも無いけど。

 

「……エレアだよ、別の世界から来たオレの娘だ」

「初めまして、エレアです」

「えっ、あ、親切にどうも。織斑一夏です……じゃなくて!」

「何だ」

「娘ってどういう事だよ! お前いつの間に……」

「だから別の世界から来たと……」

「しかもお前とまったく変わらない歳じゃないか!」

 

 ぷちんと何かが切れた。

 はぁ、と溜め息をついた後、この男に蹴りでも叩き込んで落ち着かせてやろうかと考える。

 そしてコンマ数秒後、すっげぇイヤな寒気がアインを襲った。

 何というか、地雷を踏んだ感じである。

 そうして遠くを見れば、ツカツカとこちらに歩いていく織斑千冬の姿が見えた。

 

“楯無のヤツ、後でシメる”

 

 そう心に決めて、アインは訪れるであろう混乱をどう終わらせるか思案した。

 

 

 

 

 結局、騒動は落ち着くことなく、何故か食堂の一角で続きが行われる事になった。

 織斑姉弟にはかろうじて、別の世界から来たという事こそは伝えたがどうにも信じがたいらしい。

 

「……まぁ、確かにその容姿はどこからどう見てもアインの血族だが」

「えへへ」

 

 嬉しそうな笑みを溢してから頭を掻くエレアは、確かにアインの容姿こそ受け継いでいる。

 だが千冬が知りたいのはそこではなかった。

 早い話、母親は誰かと言うことである。

 アインとて知らない情報だが、既に興味は無くただエレアが真っ当に育ってくれているなら、もう何も望んでいない。

 

「……なぁ、アイン。アルカさんに聞いても?」

「あぁ、それにアルカが調べるのを断った。そんな事をしても、エレアに不快な思いをさせるだけだろうと言ってな。素直に思い出すのを待つとするさ」

 

 そう言って、アインは紅茶を飲む。

 確かに彼の言うように焦って解決を急いだところで何の意味も無いだろう。

 ちなみに楯無は気絶させて、生徒会室に放り込んである。

 

「あっ、そうだ。父さん、一つお願いがあるんだけどいい?」

「あぁ、どうした?」

 

 エレアはパンと両手を合わせて頼み込む。

 

「私ね、一度父さんと手合わせしたかったの! ね、いいでしょ?」

「……」

 

 ゴクンと紅茶を飲み干してから、思案する。

 確かにここで一度娘の実力を知っておくのも悪くない。

 だが果たしてこのIS学園にそれほどの施設があるだろうか。

 

「アリーナは問題ないぞ。私の力で確保してやる」

 

 それでいいのか、現役教師。

 

「あぁ、ついでにカメラも全部切って置こう。お前の事を公にしては厄介だからな」

 

 ダメだ、コイツ。

 

「……まぁ、使えるなら使っておくか」

 

 自慢げに胸を張る姉の姿に呆れながら、アインは頷く事にした。

 ちなみにISを使わない戦闘でアリーナが使われるのは学園が設立してから初めてのことである。

 

 

 

 

 

 結果論として千冬の権限でアリーナは貸しきり状態になった。色々と突っ込んだら負けである。

 一応シールドは展開しておくがアリーナの観戦席へ銃弾が飛び、破壊される危険性もあるため―実際にIS学園襲撃の時では、アインのスティンガー一発で破られていた―管制室で観戦をする事になった。

 観戦者は千冬と一夏、そして復活した楯無の三名である。

 楯無は最初こそアインへ復讐を果たそうとしていたが、彼に睨まれた瞬間土下寝して謝罪した事により終了した。

 そんなこんなで、現在アリーナにはアインとエレアが向かいあっている状態である。

 なお両者の体にはISで言うシールドエネルギーが展開されている。

 さすがに生身でやれば殺し合い同然だからだ。

 

「さぁ、行くよ、父さん!」

「いつでも来い」

 

 エレアの右手には刀が、左手には短機関銃が握られている。確かにアインもよく実戦で扱っている組み合わせだ。

 なら同じにしてみるのも悪くない。

 右手に刀を構え、左手で短機関銃を握り締める。

 

「むっ、父さんバカにしてる?」

「いや、コレがオレなりの組み合わせだよ。さすがだなエレア」

「フフン、これからもっと驚かせてあげるんだから」

 

 ジト目から一転して自慢げな表情を浮かべた彼女は戦闘の構えを取る。

 アインも同じように構え、照準をエレアに合わせた。

 

『――始め!』

 

 スピーカーからの声が響くと同時に、両者が動く。

 エレアの姿が霞みのように掻き消える。

 同時に感じる殺気。

 それはまるで暗殺者のように正確な太刀筋だった。

 避けるのは間に合わない。ならば止めるだけ。

 振るう刀で、エレアの一撃を留める。

 

「わっ」

「誰を相手にしてきたのか知らないが……オレはお前の父親だぞ? 強敵だと思ってくれないと困る」

 

 弾く一撃。

 それでエレアは大きく後方へ跳躍した。

 集中していた表情は一転して、えへへと言った笑みを漏らしていた。

 

「うんうん、そうだよね。私の父さんなんだから、私も本気でいかないと!」

「あぁ、その分オレも本気で行くさ」

 

 エレアの左手に握られた短機関銃がアインを捉える。

 回避しようと足を組みかえるが、彼女の右手にはタンフォリオ・ラプターが展開していた。

 即座に行動を中断し、右手の刀を両手で構える。

 弾く。豪雨のように殺到する弾丸。その全てがアインを狙っていた。

 悉くを弾く。刀身で、峰で、柄で、刃先で、使いうる全ての物を使い避ける。

 この戦法はアインもよく使用している。短機関銃で相手をその場に拘束した後に強力な一撃を誇るタンフォリオ・ラプターを放つという物。

 だとすればエレアはこの先間違いなく、タンフォリオ・ラプターを発砲するだろう。

 生憎、その先が分かっていてわざわざ引っかかってやる事もない。

 娘だろうが、手加減は無しだ。

 身を屈めて疾駆し、刀を右手で握り締め振りぬく。

 もしタンフォリオ・ラプターを放とうとしていたのなら、回避は間に合わない。展開する時間もない。

 だが――エレアの右手には再度刀が展開していた。

 

「……斬り合いに持ち込むか」

「うん、銃だとやっぱり不利かなぁって」

 

 同時に微笑む二人。

 再度交わる刀身。音速の剣戟が紅蓮の火花を散らす。

 それも一つ一つではなく、ほぼ連続。

 まるでステップを踏んでいるかのように鮮やかな閃光。

 常人からすれば数秒にも満たないのだろうが、その間に二人が交えた剣戟は十合。

 姿は最早見えない。

 風が刃を持って戦っていると言った方が良いのだろうか。

 

 

 

 

 管制室にいる三人はその光景に感嘆の息を漏らしていた。

 熟練した腕前を誇る達人同士の戦いは、人智では解明できない奇跡が起こる事があるという。

 今その瞬間が、目の前で行われている。

 この光景を、見たものは決して忘れないだろう。

 

「……すげぇ」

 

 一夏は手を握り締める。

 もう一人の自分――本来ならば、彼が歩んでいたはずの人生。だがそこに立っているのは自分だ。

 誓った。この場所は誰かの運命全てを奪って立っているのだと。だから、その元の持ち主に誇れるほど強くなろう。彼と自分の持つ誇りを汚さぬように。

 越えるべき壁は遥か遠くに。山よりも高く海よりも深い獣道。そこを歩まなければならない。

 だが一人ではない。支えてくれる仲間がいる。彼女達と一緒ならきっと――その果てまでいけるはずだ。

 

「……強くなるよ。お前のためにも」

 

 少年はここにもう一度、強く決意を固めた。

 

 

 

 

 戦いの勝敗はアインの勝利で終わった。

 エレアの技量が、彼にほんの少しだけ叶わなかっただけ。

 番狂わせなどほとんど可能であった。

 そんな二人は現在、管制室で観戦していた者と共に戦いを振り返っている。

 本来ならば、戦闘のモニターを使って見るはずだったが。

 

「……映像のほとんど火花だな」

 

 言葉どおり、二人の剣戟によってもたらされた火花が映像の八割がたを占めていたのだ。

 最早、参考にもならない。

 

「ほとんど本能で戦っていたな。考える間はまったく無かった」

「同じです。父さん、打ち込んでもどんどん防いじゃうから……」

 

 楯無はふと思う。

 この映像を自分の管轄する暗部に「生身の人間によって行われた試合よ」と言って見せたらどんな顔をするだろうか。

 少なくとも、ほとんどの暗部は家業を引退するだろう。うん、これは知らぬが仏だ。IS学園の秘蔵映像として取っておこう。何ていうかビフォーアフター的な感じで宣伝に使えば生徒も増えるかもしれないし。

 

「……ところで、一夏。お前確かアイツらと予定入れてたんじゃなかったのか?」

 

 千冬の言葉に、一夏は声を挙げると顔色を変えた。

 

「……予定?」

「あっ、そうね一夏君。確かあの五人とアリーナで模擬戦するって言ってたわ」

「やべぇ……」

 

 アインは深い溜め息をつく。

 どうにもこの男はどこか抜けているらしい。

 まぁ、昔の自分に似ていると思えば納得出来るが。

 

「それで、時間はいつからだ。もしかすれば間に合うかもしれん」

「……一時間前だ」

 

 一夏 アウト。

 

「一夏ぁぁぁぁっ!」

 

 そんな怒号と共に管制室に入ってきたのは五人の少女。

 相変わらず国際色豊かな組み合わせだと思う。

 

「ま、待て待て。遅れた事は謝る。本気でゴメン! マジですまん!」

「アンタねぇ……って、アイン?」

「あぁ、少々お邪魔している」

 

 紅茶を啜りながら、五人に軽く会釈する。

 エレアもアインに習い、会釈しようとして軽くテーブルに頭をぶつけた。

 勢い余ったに違いない。

 

「……アイン、そこの女は? 亡国機業の新顔か?」

「あー……」

 

 なんと説明するべきだろうか。

 ちらりと楯無に視線を向けると、彼女はこっそりと裏口の扉を示していた。

 鍵が掛かっている筈だがと思い千冬に視線を配ると、仕方が無いという表情を浮かべている。

 どうやらこのIS学園では設備が壊されるというのは年中恒例らしい。

 少なくとも外部で壊すのは彼が初めてになるのだろうが。

 意を決して、アインは口を開いた。

 

「別の世界から来たオレの娘だ」

「あら、アインさんの娘さんなのですね。私は……」

 

 セシリアが上品に受け答えしようとしたところで、彼女の表情が凍りついた。

 見れば他の四人も同様である。

 よし、今だと言わんばかりにアインはエレアを抱え挙げて裏口への扉を蹴り壊した。

 全力疾走で通路を駆け抜けていくと背後から再び絶叫の声が聞こえる。

 

“一夏っ! お前と言う不埒者はっ!”

“ま、待て箒。アレは俺じゃなくてアインの娘で……!”

“ふぅーん、一夏ってそうなんだ。女性なら誰でも構わないんだね”

“シャ、シャル!?”

 

 アインは心の中で、言葉を紡ぐ。

 南無三。

 

 

 

 

 

 

「ん……?」

 

 管制室で、その騒動をどう収めようか考えている千冬はふと携帯電話に着信が来ている事に気づいた。

 相手の名を見て、彼女は「げっ」と顔色を変える。少なくとも放置しておけば最悪の結末になるのかもしれない。

 その名は篠ノ之束だった。

 

「お前か。で、どうした?」

 

 楯無はアインが残した紅茶を千冬にバレないように飲みながら、千冬が話している言葉に耳を澄ませる。

 

「……ほう。お前にしては中々真っ当な考えだな、分かった。人選はこちらで選んで構わんだろう? ……あぁ、アイツらに私の教え子の実力を見せてやるさ」

 

 そう言って、千冬は電話を切る。

 彼女はギャーギャーと喚いている六人に向けて手を叩く。

 

「よく聞け。今から作戦に向けてのブリーフィングを行う。大規模な作戦だ、好き放題に暴れられる最後の機会かも知れんぞ」

 

 その瞬間、管制室の空気が一変した。

 

 




アイン対エレアの戦闘映像を見たIS学園入学予定者。

映像閲覧前
(・∀・)

映像閲覧後
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