IS-refrain- 外伝   作:ソン

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これにてエレア編完結です。
書いてて凄く楽しかった。

一話限りのドリームチームです。恐らくこの先、この話の人数と人員で出撃する事は無いでしょう。


誇りを継ぐ者3

 

 

 亡国機業本部に戻ったアインは、自室に戻っていた。

 帰ってきてそうそうスコールから任務の支度に取り掛かるように命令されたため、エレアに事情を説明しておかなければならないのだ。

 今頃彼女はアインの部屋にいるだろう。

 そう思って、彼は部屋の扉を開ける。

 ――部屋の中は酷く伽藍としていた。

 

「……エレア?」

 

 見れば机の上に手紙が置いている。

 傍に筆記具があるのを見るとつい先ほどに書き終えたらしい。

 アインは手紙を手に取り、文面に目を通した。

 

 

『父さんへ

 

 今日は色々とありがとう。父さんのおかげで、一日だけの平和を堪能できました。

 そしてごめんなさい。私は別の世界から来たから、もう自分の世界に帰らなきゃいけない。

 だって私がいたら、この世界の私に迷惑がかかるかもしれないから。

 それに世界を渡るのは無制限じゃないの。私が使ったのは、たった一日だけ別の世界にいられる方法。もうすぐその時間になるから、こんな手段でしか説明できなかった。何も説明できずに父さんに不安をかける事はしたくなかったから。

 こんな身勝手な娘の我が侭を許してください。

 そして、私の父さんになってくれて、ありがとう

 私、父さんの娘でよかった。

 本当にありがとう。そしてごめんなさい。

 大好きだよ、父さん

                エレア』

 

 

 

「……こんなカタチになっちゃったけど、大丈夫かなぁ」

 

 自分の世界に戻ったエレアはそんな事を口にしていた。

 余りにも唐突すぎてあの人を困らせてないだろうか。

 刀を構えながら、ふと思った。

 今、エレアの目の前に広がっているのは無人機械の群れだ。

 彼女を捕らえんと迫る捕獲者の群れ。

 それが大地だけではなく、空をも埋め尽くしている。

 空は暗い。

 だが、その程度でエレアの力は緩まない。

 

「……相変わらず、数だけは揃えてくるなぁ」

 

 恐らく、相手がこれほどの数を出してくるのは最後の悪あがきだろう。

 もしこれを生き残れば、この世界は少しだけ静かになるはずだ。

 この数を相手にして、生き残ればの話だが。

 

「……よしっ、やろう」

 

 エレアが走り出そうとした瞬間、声が響く。

 

“まぁ、そう慌てるな”

 

「――えっ?」

 

 振り向いた瞬間、黒い衝撃波が彼女の横を駆け抜けて無人機械の群れを断裂させていく。

 だが彼女はその光景に目もくれない。

 そこにいたのは――自分が置いてきたはずの者達だから。

 

「水臭いぞ、エレア。別れならはっきりと言っておけ」

 

 エレアの父親――アインの言葉に、彼らの背後にいた者達が散開して、無人機会の群れへと強襲した。

 

 

 

 

 

 

 

「らぁっ!」

 

 雪片の一撃が、機械の総身を断線する。

 ブリーフィングの時の言葉を思い出す。

 

“好き放題暴れてかまわんぞ。何せ相手は別の世界だ。こちらに損害は問われん”

 

 確かに、的には困らない。相手にも困らない。

 ただ殲滅させながら生き残ればいい。

 

「一夏、どうだ?」

「あぁ、大丈夫さ箒。千冬に鍛えられてきたんだ、この程度で根を溜まるか」

「ふっ、福音の時よりはたくましくなったな」

「お前もだよ、箒。さ、アイツらのためにもう少しだけ行くとしようぜ」

「了解した」

 

 白と紅の閃光が、命を持たぬ冷たい機械を粉砕する。

 二人ならどこまでも行けると、まるでそう象徴するように。

 

 

 

「仲がいいよね、あの二人」

「ま、私達よりも入り組んだ関係を超えたんだもの。当然とは言えば当然よね」

「えぇ、まぁ私は諦めるつもりはありませんが」

 

 三人の少女はそう呑気に会話をしながら、こちらへ襲い掛かってくる機械を避け反撃を繰り返していた。

 それぞれの瞳に焦りは無く、まるで休憩を楽しんでいるかのような余裕さえある。

 

「さぁて、それじゃあ突撃役は貰うわね。二人とも援護に回ってくれて構わないわよ」

「いや、僕も攻撃に回るよ。せっかくのコレもあるんだからね」

 

 そういってシャルロットが展開したのはパイルバンカーだった。

 ちなみにラウラとの戦いで、彼女がその腹にパイルバンカーをぶち込んだ光景は誰もが唖然とした瞬間である。

 壁に押し付けているという分、その威力は「ご想像ください」と呼ぶが相応だろう。

 ちなみに鈴のISもまた攻撃特化であり、彼女の一撃は絶対防御すらを貫通する威力である。

 あれを貰う機械は不幸なのか、それとも一撃で終わる分幸福なのか。

 

「まったく……背後の敵は私が取りましてよ。二人は猪武者のようにただ眼前に集中してくださいまし」

「元からそのつもりだけど?」

「……心労が祟りますわね」

 

 再び、機械の群れが大きく爆散した。

 

 

 

 

 

 

「ったく、どいつもこいつもふわふわと空を自由に飛んで気楽だねぇ。アタシにや地面の方が慣れてるんだが」

 

 カレンは弾を装填しながら、そう毒づいた。

 彼女の背後には黒いISがその背中を守っており、一切の攻撃を許さないと言わんばかりの眼光を放っている。

 

「お母様。背中は私が守ります」

「……ラウラ、別に空へ行っても構わないんだぞ? アタシに構って、ここに留まる必要はない」

「いえ、私も一端の軍人です。それに……お母様には私の成長を見守っていて欲しい」

「……はぁ、やっぱりアタシの娘だな。その強情っぷりは本当に昔のアタシそっくりだ」

 

 カレンは深く溜め息をついて、不適に微笑んだ。

 

「よし、一つドハデにやってやろうかラウラ。カバー頼むよ」

「はい、任せてください!」

 

 

 

 

 

「……本当に化け物揃いよね。私のところって」

「お姉ちゃんも同じ……」

 

 楯無は何体目かも分からぬ機械を薙いだ後、あちこちで派手な爆音を響かせている後輩達の姿を見た。

 ISは国一つを簡単に落とす事が出来る――この光景を見れば誰もが納得するだろう。

 マルチロックオンを起動させた後、簪の操るISから放たれた無数のミサイルが機械の群集を破裂させる。

 どいつもこいつも容赦ねぇ。

 我が妹ながら、楯無は妹への評価を高めた。

 まさかこんなカタチで共闘する事になるとは彼女も思ってはいなかった。

 確かにこれほど暴れられるのは一生に一度あるかないかだろう。

 しかもそのツケが無償に近いモノとすれば、最早千載一遇である。

 

「ま、せっかくの機会なんだし、彼にいいところ見せちゃいましょうか」

「うん、行こう。お姉ちゃん」

 

 

 

 

 

 

「……たまにはこうして暴れるのも悪くないわね」

 

 スコールは地上に広がる群集に、無数の光線を叩き込みながらそう呟く。

 恐らく最後になるであろう大規模な共同作戦。

 この光景はISがどれだけ世界を変える兵器であったのかを表現しているモノだ。

 

「暴れすぎるのもどうかと思うけど?」

 

 戦線を離脱したナターシャが、彼女の傍らに滞空しクスリと微笑む。

 そう言った彼女は、オータムと同じように両手に光剣を展開して突っ込んでいった者達の内の一人だ。

 しかも汗一つ掻いておらず、息一つ乱れていない。

 眼前の光景を見て、スコールは人と言うのがどこまで強くなれるのだろうかと自問する。

 その答えなど、今この光景のあちこちに体現されているだろうに。

 

「さてと、オータムは今何処に?」

「私と同じように離脱したわ。けどすぐに体勢を立て直して突撃していっちゃった」

「……そう、相変わらず世話が焼けるわ」

 

 そういいながら、彼女はどこか楽しんでいるように微笑んだ。

 

「さ、行きましょうナターシャ。彼のために」

「そうね」

 

 八本の装甲脚が見え、スコールとナターシャはその場所まで翔け抜ける。

 無論、道を妨げようとした者を――斬り捨てて。

 

 

 

 

「まったく、数だけは多いな」

「そうだね、姉さん」

 

 千冬とマドカの二人は、既に機械の群れを大方掃討し尽くしていた。

 かつて世界最強の名を手にした者と、そんな彼女を追い込んだ者。

 その二人が繰り広げた猛攻を、まさか捕縛のためだけに揃えられた機械に止められるわけが無い。

 人海戦術は一人相手なら効果的かもしれないが、大多数を相手取る場合はただ悪戯に犠牲を増やすだけだ。

 無論それを考慮したとしても、手を緩めてやるわけには行かないが。

 

「さてと、私の教え子はどうだ? マドカ。中々な者だろう」

「だけど私達だって負けていない」

 

 天地を埋め尽くさんと広がっていた機械の群れは既に半分近くが破壊されており、大地を埋め尽くしていた黒は随所で散らばる閃光によって次々と塗りつぶされていく。

 千冬は再度、雪片を構え静かに敵の群れを見据える。

 たった一度しかない宴。ならば今はその時を純粋に楽しもう。

 組織など関係ない。今ここにいるのは、未来を繋ぐ覚悟がある者だけ。

 

「行くぞ、マドカ。急がんとお前の取り分はなくなるぞ?」

「フン、姉さんこそガス欠しないようにね」

 

 

 

 

 

 

 アインはエレアの背中を守るようにして立つ。

 その右手には黒い剣が握られている。

 部分展開――亡国機業が新しく設立し直された後、アインが自ら鍛える事で発現した新たな特性。

 体の崩壊こそは止められないが、剣だけの展開であり鎧や左腕の篭手を展開する時と比べて遥かに長時間の運用が可能になる。

 アインの素顔が明らかになるのは剣や鎧、篭手などの全てを解放した状態であるため、万が一の時正体がバレる危険性もなくなると言うメリットがある。

 

「父さん……どうして……?」

「何、娘のためだ。それ以外に理由はない」

 

 アルカがアインの隣に立つ。

 彼女もまたその両手と両足にアームガードとレガースをつけている。

 

「アイン様、では少々失礼させていただきます」

「あぁ、オレ達も後から行く」

「はい、御武運を」

 

 そうしてアルカもまた敵の群れへと疾駆し、その黒の塊に向けて掌底を放った。

 それだけで十機ほど吹き飛んで見えたのは錯覚だろう。うん、そうに違いない。

 引き攣る顔を抑えながら、アインはエレアの頭に手を置いた。

 

「行くとするか、エレア。背中は任せておけ」

「……うん、父さんの背中は私が守るから!」

 

 そうしてほとんど同じ容姿の二人は武器を構えて、同じように敵軍に突進していった。

 

 

 

 

 

 

 

 天地を蠢く黒き無人機械の群れ。

 漆黒の大地が少しずつ浄化されていく。

 躊躇いなく、容赦なく、手加減なく、力を振るう者達によって次々と薙ぎ払われていく。

 そして訪れる黎明の時。

 世界の夜明けは近い。

 

 

 

 

 

「……これで終わりか」

 

 突き刺した機械を振り払って、アインは周りを見渡す。

 既にあの軍勢の姿はなく、あるのはただ粉砕された部品の身。

 そうして共に戦っていた者達も、既に元の世界に戻ったらしい。

 ちらりと視線を向けると、アルカが一礼してから消えていく光景が見えた。

 本来ならばアインもそろそろ消えなければならないが、やるべき事がある。

 

「エレア」

「……父さん」

 

 夜明けの光が彼女の髪を照らす。

 あれだけ快活に走り回り笑っていた彼女の顔には、涙の跡が残っている。

 

「手紙なんて古い別れ方は忘れろ。人にさよならを言う時は、ちゃんと相手に向き合ってから言え」

「……そうだね。ごめんなさい」

 

 これから覚えていけばいいと言って、彼は軽く笑う。

 アインはエレアの両肩に手を置いた

 

「エレア、これから先の未来はお前が作っていくんだ。お前には確かに、オレの誇りが受け継がれている。だから、それを忘れずに生きろ」

 

 この世界の彼に、それは叶わなかった。

 だからこそ未来を託すことも出来なかった。

 だが――彼女には継がれている。

 明日と言う未来に希望が灯る――そんな世界を作る意思。

 呪いであろう。縛り付けられていると言えばそうであるかもしれない。

 だが彼女がその思いを誇りにして生きている限り、それは願いであるのだ。

 

「……うん。父さん」

「どうした」

「私ね、本当に楽しかった。父さんの娘に生まれて、色々な人に出会って本当に楽しい人生だった。きっとこれからもそれは変わらない。だから父さん、私に――こんな楽しい未来を作ってくれて、ありがとう」

 

 そう言って彼女は微笑む。

 既にアインの体は半分以上透けている。

 まもなく、元の世界に帰るときだ。

 最後に言うべき事――親として彼女に言って置くべき事。

 

「エレア」

「……」

 

 消える直前に、アインは言う。

 かつて別の世界の両親から送られた言葉。

 その願いと思いが彼女の人生を楽しく彩りますようにと。

 

「いってらっしゃい」

 

 アインは笑う。

 エレアも笑う。

 叶いそうで叶わなかった可能性の一つ。

 その破片を、胸に仕舞いこみながら。

 

「いってきます」

 

 そうして彼は、自分の世界へと帰っていった。

 残された少女は、少しの間俯いたままだったが顔を上げてどこかへと歩いていく。

 その歩みに迷いは無い。

 地の彼方まで歩いていこうとする彼女の姿を――夜明けの光が美しく照らしていた。

 

 

 

 

 

 エレアの世界を聞いていたアルカは即急に対応するべく、篠ノ之束にその世界の座標と転送を頼んでいた。

 それはIS学園の方にも話が回っており、そこは篠ノ之束の手によってその世界へと渡ったらしい。

 強引に巻き込んでしまったカタチにはなったが、彼らには世界を渡ると言う一生に一度あるかないかの経験をしてもらった事で手打ちにして欲しいところである。

 

「……結局、母親は分からなかったな」

 

 あの戦いから一夜が明けた後、アインはアルカと共に亡国機業本部の研究室でエレアについての話をしていた。

 彼の言葉に落胆の色は無く、どこか楽しげに話しているような声音だった。

 

「気にしていたのですか?」

「まぁ……興味が無いと言えば嘘になるが、重要だと言う事でもない。ただ、別の世界のオレがどんな女性を選んだのかと気になった」

「彼女の母親は私ですが」

「……は?」

 

 アインの頭の中を様々な可能性が巡っていく。

 そのせいか、余計に納得がいかなくなりアルカに目を向けると彼女は口元に手を当てて微笑んでいた。

 

「……お前な」

「冗談ですよ。私はアイン様がどのような御方を選ばれるのであろうと、アイン様の意志であるのなら、意見はありません。ただそのお二人が上手く行くように手筈を整えるだけです」

 

 呆れたような溜め息をついて、アインは研究室の窓から覗く空を見た。

 どこまでも青いその彼方――彼女は今、どのように歩んでいるのだろう。

 

「……辛くなったら、いつでも帰ってきていいぞ。エレア」

 

 どこか名残惜しそうに、彼はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人の少女が鼻歌を歌いながら、デパートの中を歩いている。

 争いが塗れていた世界はあの戦い以降、急激に姿を収め世界は徐々に安定を取り戻していった。

 既に戦地へは復興の目処も立っており、これから世界はさらに発展していくだろう。

 あの人にこんな世界を見せたかったと、心はどこか寂しく思う。

 

「あっ、この服いいなぁ……。でも多すぎたら荷物になるし」

 

 うーんと悩みながら、少女は服を凝視する。

 その間一分。

 そうして彼女はうんと頷いた。

 

「また今度にしようっと」

 

 人々の楽しげな声。

 デパートの吹き抜けからは青い空が見える。

 あの人は今、どのように生きているのだろうと考えた。

 

“――辛くなったら、いつでも帰ってきていいぞ。エレア”

 

 ふとそんな声が聞こえた。

 彼女は足を止めた後、ゆっくりと空を見上げる。

 

「私はこの世界が楽しいから。皆が愛したこの世界で生きて行くから」

 

 だから大丈夫だよ、と言って彼女は微笑んだ。

 彼女が見た空は――幼い頃に両親と見た時のようにどこまでも青かった。

 

 

 

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