IS-refrain- 外伝   作:ソン

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カレイドスコープ。意味は万華鏡です。
ちなみにこの話は、ただ自分の妄想を思うがままに知るした産物です。
ストーリーなんて投げ捨てて書いているので、時間軸は自分にも良く分かりません。
全てが終わった後か、全てを果たした後か。
この(セカイ)はどっちでしょうか。


カレイドスコープ

 

 

 この奇跡は起こしていいものなのだろうか。

 そもそもそれは奇跡か悲劇か、或いはただの閑話なのか。

 そんなささやかな夢の中の話。

 

 

 

 

 思いの破片など、それだけでも酷く危なくて、それでも酷く大切で。

 案外扱いが難しいなと彼は笑った。

 まぁそれでも人を殺す銃を持ち歩く自分なんかよりは何十倍も安全だろう。

 そんな他愛も無い事を考えていたのは、目の前の現実から目を逸らすためだったのかもしれない。

 

「……」

 

 彼がいる空間は真っ白だ。

 いや正確に言えば、随所にはスクリーンのように映像が流れている。

 だがそれは全て別々の映像。

 全てが主観で、誰を中心にしているのかは分からない。

 だけど映っている人が共通すれば大体は分かる。

 その一つ一つが酷く気に食わない。

 全てが自分から零れ落ちて行った欠片。

 何もかもが幻想(ユメ)に過ぎない。

 

「……」

 

 ――下らない。

 鼻を鳴らして、彼はその映像を見ながら歩く。

 ともかく進まねば始まらない。

 止まっているだけでは何も進みはしない。

 流れてくる映像。そこから出力される音声が酷く耳障りだ。

 脳裏から噴き出る、色褪せた記憶の激しい奔流。

 それを抑え付けようとすると、酷く頭が痛む。

 熱と疼き、そして渇きと苦しみが心をさらに苛立たせる。

 そんなに苦しいのなら、いっその事狂ってしまえばいいのに。

 

“千冬姉―!”

“よう、弾”

“頑張ってるな、箒”

“セシリアは香りとか気を使ってるのか”

 

 息を荒めたまま足を速める。

 分かっている。

 これが誰の記憶なのか嫌でも分かった。

 そして自分には絶対に有りえない未来だ。

 呼吸が激しい。

 息切れをしたのなんて何年ぶりだろう。

 

“シャル、何か食いにでも行こうぜ”

“潜り込むのはやめろってラウラ”

“鈴って髪綺麗だよなぁ”

“ほらアニメでも見ようぜ、簪”

 

 走る。もっと走る。早く走る。

 逃げるように。避けるように。見えぬ何かを求めるように。

 早く、早くこの場から走り出せと。

 知らない。

 こんな光景を知りたくない。

 

“楯無さん、頼むからドア壊すのは辞めてください”

“山田先生……”

 

 これは全て自分自身に有り得た未来。

 織斑一夏が織斑一夏として生きられた世界。

 どれだけ走っても、どれだけ目を瞑っても、どれだけ耳を塞いでも。

 自分はちっとも変わらない。

 映像は淡々と叶いもしなかった夢想の現実を突きつける。

 螺旋の如く積みあがる可能性など、それだけで何の意味がある。

 積みあがり続ける思い出など、限度を越えればただの枷でしかないというのに。

 

「黙れ」

 

 オレには彼女達がいる。

 お前とは違う世界がある。

 お前には無い希望を持っている。

 だからこれ以上、オレに見せ付けるな。

 

“一夏”

 

 掛けられた声に足を止める。

 その声音は知っている。

 だからこそ、足を止めた。

 

「……」

 

“一夏”

 

「……オレは」

 

 銃を抜いて、背後へと突きつける。

 その瞳には先ほどまで無かった殺意が篭っていた。

 銃口の先には一人の女性がいる。

 その背後には二人の人間が、その背後には四人の人間が。

 まるでボーリングのビンみたいに綺麗に並んで立っている。

 全員が映像で見た人たちだった。

 自分が織斑一夏として生きていたら出会っていた人達。

 もしかしたら親睦を深めていたのかもしれない、途切れた絆。

 その絆が繋ぎなおされる事は決して無いだろう。

 

“一夏”

 

「……」

 

“一夏”

 

「……黙れ」

 

“一夏”

 

「黙れッ!」

 

 銃を乱射する。

 肉の穿つ音と焼ける香り。

 血の温もりが白い床に広がっていく。

 やがて映像が次々とノイズに染まっていき、全ての映像はそのまま姿を消した。

 

「……」

 

 銃を収め、彼は歩き出す。

 振り返らないと決めた。

 今更それを無かったことには出来ない。

 自分と言う存在が生き続け、その歩みが生んだモノ達を裏切る事がどうして出来ようか。

 アインとして生きている事実から目を背ける事は出来ないのだから。

 

『それがお前か?』

 

 目の前には一人の青年がいた。

 変わり果てる前の自分によく似ていた青年。

 

「……」

『騙されただけじゃないのか? お前の心は織斑一夏という名前を今も求め続けてるんじゃないのか?』

「……戯言に耳を貸す暇は無い。さっさとここから出る方法を教えろ」

『お前がかつての心を思い出したら』

「……貴様」

 

 ハハハと楽しそうに彼は笑った。

 舌打ちして撃ち抜こうとしたが、生憎情報源は彼一人。

 ここで殺せば永久に出る機会を見失うかもしれない。

 せめて威嚇だけでもしておこうと懐に手を入れた瞬間、彼は顔色を変えて両手を挙げた。

 早い話降参のポーズである。

 

『冗談だよ冗談。俺もここから出る方法は知らない。迷い込んだんだからさ』

「……つまりお前は」

『あぁ、俺はアインにならなかった織斑一夏だよ』

 

 同時に二人の間を、鏡のような見えない壁が隔てていた。

 既に戻れない己を映し出す鏡。

 どうしてこんなにも、無様な姿が美しく見えるのだろう。

 

 

 

 

 

『……ホント、人生って何が起こるか分かんねぇよなぁ。姿が一変したりする俺もいるわけだし』

 

 気がつけば二人は背中合わせで座り込んでいた。

 姿勢も腕や足の位置も全く同じ。

 似ていないのは容姿だけ。

 

「はぁ……」

 

 溜め息をついたのは何度目か。

 十を超えた頃から数えるのもやめた。

 変わったことといえば既に映像など無く、ただどこまでも白い世界が広がるばかりである。

 

『おっ、そうだそうだ。一つ聞いてもいいか』

「何だ?」

『お前が歩んできた道って、どんな道だった?』

「……」

 

 話そうかどうか疑問が駆け抜けたが、問題はあるまい。

 増してや話したところで世間に露出する話題でもないし、織斑一夏として認知されている存在がそれを語ったところで信じてくれる人間などいないだろう。

 ふと気づけば勝手に口が語りだしていた。だが不思議とそれを止めようとはしなかったし、止める出来心も生まれなかった。

 もしかしたら受け入れていたからかもしれない。

 遠い遠い昔に、そんな事を思っていたのだろう。

 一人の少年の無様な生涯。

 妄執と怨念に捕らわれ続けた彼の姿を。

 それは言うなれば、籠の中の鳥だった。

 

 

 

 

 

『……そっか、お前も大変だったんだな』

「……お前も?」

『あぁ、俺もさ結局正しい方向に進めなかった』

 

 そう言って織斑一夏は語る。

 

『亡国機業にさ、家族がいるって分かったんだ。助けようとはしたけど、箒達からは止められた。お前を殺そうとしたんだから助ける必要は無いって』

「……マドカか」

『あぁ、でもその時の俺はさ本当に馬鹿野郎だった。こっそりと学園を抜け出して、亡国機業の本拠に行って、何とかマドカの下まで辿り着けた』

「……」

『けどそこからだ。苦労してマドカを説得させた後、世界中にあるニュースが流れたんだよ』

「……ハメられたのか」

『あぁ、考えてみればそうだと気づくべきだったんだ。女尊男卑に固執するヤツがいるって考えておかなくちゃいけなかった』

 

“織斑一夏が、IS学園を裏切ってテロ組織に加担した”

 

『既に手遅れだった。どこかしこも大騒ぎで俺一人じゃどうしようも出来なかった。だから俺は……否応無しに亡国機業に加わる事になったんだ』

 

 アインは思う。

 自分と織斑一夏は似ている。

 自分の居場所を奪われ、裏の世界へと飛び込まざるを得なかった。

 意志も考えも思想も関係ない。ただそうなったから、そうするしかなかっただけの事。

 

『IS委員会のヤツらが亡国機業への壊滅を望んで、戦いを引き起こした。勿論俺も戦ったよ。裏切り者って目を向けられたまま、何人も何人も殺した』

「……」

『だけどIS委員会も本気だった。白式の零落白夜はISにとって天敵ともいえる能力だから真っ先に狙われた。だから俺を――IS学園に送り込ませた』

「……」

『そこで待っていたのは……俺と共に学園生活を送ってくれた箒達だったよ』

 

 織斑一夏の声は涙ぐんでいた。

 後悔と贖罪と憤怒、それらが込められていた。

 

『今ならまだ戻れるって箒達は声を掛けてくれた。だけどそんな事出来るはずもない。俺はもう何十人も殺してきたんだ。だから後戻りなんて出来ない』

「……」

『泣きながら戦って、殺したよ。初めて……白式の能力を恨んだ。コイツは人を傷つける事はできないんだ。殺す事だけを求められた力だったから』

「……」

『千冬姉も箒もセシリアも鈴もシャルもラウラも楯無さんも簪も山田先生も……皆、俺が殺した』

「……」

『守りたいって誓って、あの人の背中を追いかけたはずだったのに……! 俺は彼女達を殺した!』

「……」

『千冬姉達が負けたのはIS委員会にとって誤算だった。……けどアイツらにとってIS学園は捨て駒だったんだ。IS学園ごと爆破する事で俺を始末しようとした。だから生き延びて、そのままIS委員会共に襲撃を掛けて後、俺は力尽きた。気がつけばこんな場所にいたんだ』

「……そうか」

 

 織斑一夏とは呪われた者なのか。

 己の思うがままの意志すら果たせず、ただ力尽きていくだけの存在なのだろうか。

 

「お前はどうするつもりなんだ」

『分かんねぇ。ただ白式も無いから、今出来る事といえば歩くことだけだ』

「……なるほど、オレたちにはピッタリだな」

『……かもな』

 

 アインはただ白い世界を見ながらぼんやりと声を挙げた。

 

「織斑一夏……。それは生きてるだけで幸福なのかもしれない」

『……あぁ、だけどその事を生きている間は気づかないで死ぬ間際で気づく大馬鹿だよ。本当に、遠回りしか知らないヤツだ』

 

 同意の言葉を示して、アインは立ち上がった。

 もう十分に休んだ。

 後は歩き出すだけだ。

 無論地図と言う便利なモノも小道具も何一つ無い。

 あるのはただ自分の体だけだ。

 

『どこに行くんだ?』

「少しばかり歩く。目的も理由も分からないのなら歩き続けるしかない。そうすれば手がかりくらいは見つかるだろう」

『……そうだな』

「お前はどうする」

『俺も頑張ってみるよ。もしかしたら、また知らない織斑一夏に出会うかもしれないし。ハッピーエンドを見つけた俺がいたら、一発ぶん殴ってみるさ』

「そうか、ならもうお前とはここでお別れだな」

『あぁ、ありがとな。話聞いてくれて』

 

 背中を向けたまま、アインは片手を挙げて歩き続ける。

 もう振り返る必要は無いだろう。

 歩き続ければ、きっとまた何かに出会うはずだ。

 それを楽しみながら、生きてみよう。

 

 

 

 やがて鏡が砕ける音が響いた。

 白い世界は無限に続く。

 だが歩き続ければ何か変化はあるだろう。

 今は唯、この果てまで歩き続ける。

 さぁ、この先にはどんな自分が待っているのだろう。

 

 

 

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