IS-refrain- 外伝   作:ソン

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小説タイトルは「ICHICAが一夏に憑依したようです」にしてましたが却下しました。
それどう見ても地雷だろ、ってコトで。
……今日の「お前が言うな」小説はココです。


話を省略するために原作からの設定を弄くっています。
ちなみに話数は十話以内完結が目標です。


アンコール・リフレイン1

 

 思うがいい。

 人の意志は世界を超えるものだ。

 それが運命などではなく使命であるなら、尚更のコト。

 

 

 

 

 

 

 IS学園入学式――とは言ってもいるのはほとんど女ばかりである。

 男こそいるが頭数とするには余りにも乏しくその数はたった三人。

 おまけに一人は銀髪にオッドアイと何とも珍妙な出で立ちだ。その癖意外と筋肉質な体つきをしているため、余計アンバランスに見えて仕方が無い。

 もう一人は黒い髪に黒い瞳と言う東洋人らしい容姿だが、その瞳から少々気だるさを示す感じが漏れ出している。

 最後の一人は前述の少年と同じく黒い髪に黒い瞳だが、纏う雰囲気は他の二人とは異なり何とも言い難いモノを醸し出していた。

 彼らを常識的な人間として当てはめるには、何かがズレている。

 

「……はぁ」

 

 彼らの属するクラス担任である織斑千冬は思わず溜め息をつく。

 何とも常識から外れた者ばかりだと彼女は内心、愚痴を溢した。

 

“……一夏”

 

 しばらく会っていなかったとはいえ彼女の弟である少年は――本当にあのような印象を持っていたのだろうか。

 自身の記憶と現実の齟齬に、千冬はどこか苦しさを感じていた。

 まるで雲霞を掴むかのような、曖昧な何かを探ったまま。

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 目が醒める。だけど目の前に広がっていたのは見知らぬ天井。

 いや、正確に言うのならば知らないところではない。

 だが以前自分が目を閉じた場所は寝室であったはずだ。

 しかし今目の前に広がっているのは自分の部屋。

 もっと詳しく言えば織斑一夏だった頃の部屋である。

 

「……」

 

 服装を見ると白いコートなどではなく、普通の服。

 早い話、亡国機業などの変装で使ったりする服装であった。

 思わず傍に映った鏡を見る。

 そこに映っているのは織斑一夏だ。

 紛れも無い、変わり果てる前の自分。

 

「……何がどうなっている」

 

 アインの意識を持った織斑一夏は、そう呟く。

 こういう現象を一度だけ辞書などで目にした事がある。

 確か――憑依といった筈だ。

 窓から風景を見れば、そこにはただ青い空が続いている。

 風にさらわれた桜の花びらが空へと舞い上がっていくのを見て、アインは茫然となる。

 カレンダーにはご丁寧に「IS学園入学の日」と書いてあり、デジタル時計はその日付をしっかりと表示していた。

 

 

 

 

 こうして彼のもう一つの戦いは幕を開ける。

 今までと違うところを挙げるとすればそれは一つ。

 彼が挑む戦火には――共に戦ってきた仲間はいない。

 

 

 

 

 一夏はただ思考に更けていた。

 何故自分がここにいるのか、どうしてこの頃に戻ったのか、彼女達はどうしているのか。

 もしもこれが一時の夢であるのならただ流れに身を任せておけばいい。

 だがこれは夢とするには余りにも現実染みている。

 アインとして生きていた記憶は確かにある。その頃の記憶は色褪せておらず、今も尚確かな色として記録されている。

 

「……訳が分からん」

 

 自己紹介こそ何とか終えたものの、事態が余りにも不明瞭すぎる。

 思考がさらに奥に深まっていき、徐々に視界がその役目を薄めていく。

 ちなみに彼が思考している時間帯は授業中であり、授業担当は織斑千冬である。

 要するに裁きの時間なのだ。

 いくら彼がタイムトリップを体験したからと言っても、今は一介の学生に過ぎない。

 

「ほう? 授業中に考え事とは余裕だな、織斑」

「……あ」

 

 目の前には拳を固めた姉の姿。

 不謹慎では在るかもしれないが、この姿も随分と久しぶりに見た気がする。

 

 

 そして彼の頭部に凄まじい衝撃が走った。

 

 

 

 

 

「……」

 

 空を見れば既に黄昏の時期、要するに放課後である。

 結局、あの後も数回ほど出席簿で叩かれ何とか思考その物を切り替える事はできた。

 だがそれに対し払った犠牲は余りにも多すぎる。

 一日を終えるのに、あれだけ激怒されるなどこれからが思いやられるというのに。

 

“お前には山ほど説教がある……!”

 

 カレンに手解きされていた時も、彼女は同じように世話を焼きながら彼を育ててくれた。

 思わず懐かしい心持を思い出して笑む。

 

「よぅ、何笑ってるんだ。一夏」

「……えっと」

 

 突然話しかけてきたのは、ミスター銀髪オッドアイの少年。

 何でも幼馴染らしいが、今の一夏にそんな記憶は無い。

 

桜崎(さくらざき)紅夜(こうや)。なんだ、俺の顔も忘れちまったのかよ?」

「すまん、どうにも目覚めが悪い」

「へぇ、あの織斑が寝坊とは、質の高い冗談だな。ほら、行こうぜ。部屋の鍵貰っただろ」

「あ、あぁ」

 

 寮の鍵――何でも政府からの通達が来たらしく、男三人はまとめて同じ部屋に放り込まれるらしい。

 一夏からすれば、それはそれで随分と助かる。

 複雑な事態など考えるだけで悩みの種、その物だ。

 

「おーい、天道も……っていねぇし。アイツ、何かと面倒くさがりなんだよなぁホント。何でも更識の婿候補とか言われてるのに、アレで大丈夫なのかねぇ」

「……更識と関係が?」

 

 その言葉に桜崎は「おぉっ?」声を挙げて、一夏を凝視する。

 彼の大げさな反応が、何か引っかかる。

 

「一夏、更識先輩知ってるのか?」

「あぁ、ここの生徒会長だろ。……それくらいは知ってる」

「ふーん、結構早いな。俺の見立てだともうちょい遅れると思ったんだが」

 

 瞬間、一夏は桜崎の言葉に何か違和感を感じた。

 この男は――何か重大な秘密を知っている。

 戦闘で鍛え上げた直感が、そう叫んでいた。

 

「……っと、悪い。そろそろ行こうぜ。荷物は持ったよな?」

「あぁ、千冬姉が纏めてくれてる」

「よっし、んじゃ行こ……」

 

 歩き出そうとした次の瞬間気の抜ける音が、桜崎の腹から響く。

 その間約五秒。

 たったそれだけで一夏は桜崎の状態を悟った。

 

「……」

「……」

「……食堂、ついていくぞ」

「……サンキュー」

 

 

 

 

 ガツガツとでも聞こえてきそうな勢いで、うどんを喰らう桜崎を横目に一夏はこれからどうするかを思案する。

 まず自分に起きた異常を相談できる相手が欲しいが、無論普通の人間に言っても気が狂ったとしか思われないだろう。

 今の状況に陥り、改めてアルカの存在が大きかった事を悟る。

 もしこの場に彼女がいたのなら一体どう行動するのだろうか。

 

「……アルカ」

 

 彼女の名を呼んでも、答えてくれる者はいない。

 だとすれば出来る事はただ一つ。

 自分で歩き出す事だけだ。

 少しだけ心が痛むか、彼を利用させてもらう事にしよう。

 

「桜崎、アルバムとか持ってきてるか?」

「んん? おう、小学生からの分はちゃんと持ち込んでるぜ。卒業式で貰ったDVDもな」

「……部屋に戻ったら、それを見ても?」

「当たり前だろ。何だ、昔が恋しくなったか?」

「あぁ、少しな」

 

 一夏の言葉に、桜崎は笑みを浮かべて手を鳴らす。

 快活そうに笑うその表情は、同性の親友と言う今の一夏(アイン)に欠けていた何かを思い出させる。

 

「まぁ、昔が懐かしくなるのはよくある事だよな。俺もさ、結構思い出とか大切にしてんだ。人生何が起こるか分からねぇからさ」

 

 桜崎は外見こそイタい感が漂うが、話してみれば非常に気さくな性格だ。

 状況を掴めない一夏からすれば非常に心強い。

 その上ISまで使えるとあっては、彼と親睦を深めておくに何の疑問もなかった。

 

「しかし本当に考え事が多くなったよな一夏。箒ちゃんの声もまったく聞こえてなかったしな」

「……箒が?」

「あぁ、屋上で待つって言ったのに来てなかったって俺に愚痴ってきたんだぜ。しっかり謝っとけよ。シャルロットちゃんと鈴ちゃんも本当に災難だよなぁ」

「……何がだ?」

「お前みたいなヤツに惚れた事だよ。確かにお前はイケメンだけどさ、とんでもない朴念仁って所が珠に傷って事か」

 

 まったく気づいてなかったが、どうやらシャルロットと鈴は既に入学を終えているらしい。

 アインの知る世界では、二人は途中から転入してきたはずだがどうにもこの世界は違うようだ。

 やはり不測の事態をある程度予測しておく必要がある。

 

「……」

 

 最悪の場合、もう一度両親を殺さねばならない可能性があるのだ。

 いや、両親だけならまだしもスコール達を殺す事があるかもしれない。

 それを――今の自分が出来るのか。

 守ると決めた彼女達を、いくら別の世界とは言え何の思い無しに殺せるはずがない。

 そこまで思考が進んだところで、突然頬を凄まじい熱が襲った。

 

「熱っ!」

 

 見れば桜崎がうどんの麺を箸に挟んだまま、へへと笑っている。

 最初こそ戸惑いが浮かんでいたが、やがて呆れたような息を漏らして一夏は諦めたように笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「……」

 

 千冬は写真立てに収めている写真を見ていた。

 そこに映っているのは三人の少女。

 まだまだ青かった彼女と二人の妹。

 遠い遠い昔に失った大切な欠片。

 

「……千夏、マドカ」

 

 二人を失ったからこそ、千冬は捨て子であった一夏に情を抱いた。

 今度こそ守りぬくと誓い、彼に惜しみない愛情を捧げた。

 だがその一夏も、今ではまるで別人のような印象を受ける。

 一夏のようで一夏ではない。

 まるで誰かが中途半端に入り乱れているような感覚。

 しかし千冬にはどうする事も出来ない。

 あの時逃げ出したのは自分なのだから。

 

「……」

 

 

 

 

 

 

「遅いッ!」

 

 食堂から戻った二人を待ち受けていたのは、天道と言う男だった。

 ちなみに彼は桜崎が部屋の鍵を持っているため、部屋に入りたくても入れず待ちぼうけを喰らうカタチとなったのである。

 女子が多い場所に男一人で待たされる苦しみは想像に難くない。

 あの気だるそうな表情に怒りが浮かんでいるのだからよっぽどである。

 

「アッハッハッハ、わりぃ。メシ食ってて遅れた」

「……どーしてお前がISを操縦出来るのか不思議で仕方ない」

 

 大きく溜め息をつく天道を尻目に、一夏は桜崎から鍵をひったくって部屋に入る。

 確か部屋にはベッドが二つと言う作りだったが、この部屋の内装は見事に違っている。

 まず目につくのは部屋の広さであり、他の部屋よりも倍広く三人でも窮屈しない広さだ。

 ベッドも三人分、幅を分けて置かれており一人でリラックスするスペースとしては十分。

 

「なるほどねぇ、やまやが愚痴こぼしてたのってココか」

「愚痴?」

「おうよ、何でもお金が飛んでもいきましたって半泣きだったぜ」

「まぁ確かにこれは飛んで行くな」

 

 天道と桜崎が我先にとベッドに手荷物をボフンと投げつけ、居場所を確保。

 無論一夏にそれほどの手荷物などなくほとんど千冬が家から運び出してくれている分がポツンと窓際のベッドに乗っているだけである。

 呆れたような溜め息を漏らしながら、一夏はベッドに腰掛けて自分の中に思い描いている手順を進めようと口を開く。

 

「桜崎、アルバムは?」

「おっと、そうだったな。待ってろよ……ホレ」

 

 ドサリと音を立ててテーブルの上にバラまかれたアルバムや写真の数々。

 それは思い出を記憶するためにと言う目的には余りにも過剰すぎる。

 

「ホームシックなのか?」

「いや、ちげぇよ天道。ただ人生何が起こるか分からないからな。ある日、突然何かが変わっちまう事もあるんだ。だったら自分が自分である証とか極力手元に残しておきたいだろ? 一夏」

「……あぁ、かもな」

 

 この二人とならこの世界でもやっていけるような気がする。

 一夏(アイン)は心が軽くなるのを感じて軽く笑む。

 以前は自身が狂っているからこそ、やるべき本当の事を見つけられなかった。

 失って追い詰められて絶望して、そこでようやく自身の本質に気がついたのだ。

 新たなる戦いに挑むとしよう。

 何故自分が織斑一夏に憑依したのか。

 どうすれば元の世界に戻れるのだろうか。

 

「――皆」

 

“今度は(オレ)が守る”

 

 

 

 

 

 

 

 その施設は混乱の極地にあった。

 空を飛び交うISが次々と落とされ、機器は全て破壊されていく。

 

「な、なんなのよアンタは!」

「……」

 

 腰まで伸びた長く白い髪。業火の如く燃え盛るような紅色の瞳。白いロングコートには返り血一つ付いていない。

 体のラインから察するにそれは少女であった。

 年齢にしては凡そ十五前後。だが彼女が漂わせる雰囲気は歳の割りに不相応極まりない。

 片手に握られた刀には血が滴っており、それでも尚ギラリと紫電を煌かせる。

 少女が跳ねる。

 残り一機となったISの操縦者は激情に駆られ我武者羅に銃弾を撒き散らすが、悉くを刃に弾かれた。

 

「死ね」

 

 それは氷の如く冷たい言葉。

 氷柱よりも鋭く、ただどこまでも透き通った怨嗟の声。

 振りぬかれた斬撃はISの頭部を斬り飛ばした。

 少女は辺りを見渡し、目標がいないことを知ると己の内側に問いかけるかのように声を繋げる。

 

「任務は終えた。帰還する」

『あら、意外と早かったわね。もう少し掛かると踏んでいたのだけれど』

「御託はいい。それよりもマドカに手を出していないだろうな」

『えぇ、貴方達二人に手を出すわけが無いじゃない。私としても結構鼻が高いのよ?』

「……フン、だが約束を忘れるなよ。私がお前の元にいるのも織斑一夏を殺すまでだ」

『……寂しい事言うのね、エナ』

「好きに言ってろ」

 

 エナと呼ばれた少女は紅色の瞳を、どこまでも青い空へと向ける。

 その双眸には、復讐と言う言葉に駆られた光だけが込められていた。

 

 

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