今回は前後編となります
目的地に着いたであろう二人を出迎えたのは、小町にとっては見慣れた職場、ジョーカーにとっては初めて見る建物だった
「フム・・・、これぞジャパニーズジンジャだな。俺以上にうるさい女記者の書いてる雑誌でみたことがる。あの建物にはきっと大量のニンジャがいるに違いない!」
「へぇ、アンタ以上にお喋りな奴がいるのかい?」
「いるさ、あいつらに比べたら俺は謙虚なほうだ」
シュシュッと手裏剣を飛ばすフリをするジョーカーとそれを見つめる小町。
一見和やかな風景に見えるが、小町の胸中には複雑な思いを抱いていた
果たしてこの男を映姫様に会わせてよいのだろうか?
当然の疑問であった。彼女の上司である四季映姫・ヤマザナドゥは閻魔であり、幻想郷の死者の魂の全ての行き先を決定する裁判官なのだ。
彼女がこの男を一目見れば「白黒をはっきりつける程度の能力」によってジョーカーを地獄行きにすることは非常に簡単だ。
問題はその過程、ジョーカーがタダで地獄行きに納得する訳が無い。何かしらの危害を加えてくる可能性がある。
次に映姫がジョーカーを視た影響も視野に入れなければならない。能力によって映姫も常人とは違う目線で人間を視る。通常の感性でもこの男が偽りない狂気だと分かるが、彼女が視てしまったら違うモノが視えるかもしれない。もしそれが彼女に悪影響を及ぼしてしまったら・・・
小町は考えに考える
しかし、その考えを見透かしたように道化師は宣言する
「さぁ!いよいよこのジョーカー様が裁かれる瞬間だ!もし俺が天国に行こうもんなら最高のジョークだよなぁ・・・、おっと、裁判においてもっとも重要なのは裁判官の心象だ。これはいけない、忘れるところだった。なぁ!」
何を言ってるんだコイツは。
本当に裁判を受けるつもりなのかい?まさか・・・逃げるつもりなのかも
有り得なくはない、今までのジョーカーの言動から何をしでかしても可笑しくはない。
ここで小町は間違った選択をしてしまった。この男はきっと逃げるだろうと判断したのだ。
ジョーカーをよく知っている人間はこう言うだろう
「奴は我々が考えうる最悪の・・・その一歩先を行くだろう」
と。
「挨拶をしなくちゃぁな」
「え?」
小町は聞き間違いだと思った
「なぁに、きっとお堅い奴なんだ!頭にデカイ穴でも開ければ風通しが良くなって俺様の声もよく聞こえるだろう!」
ジョーカーは映姫を殺すつもりだったのだ
小町がそう解釈し、急いでジョーカーを止めようとすると既に閻魔庁に入っていく奴の姿が見えた
「喜べよ死神ガール。お堅い頭の上司が消えるんだ!明日からノビノビと仕事に励むこったな!」
別れの挨拶と言わんばかりに扉を閉めるジョーカー
「・・・っ!」
油断した!どうしてアタイはまた油断したんだ!?
駆け出す小町だったが、その頭は憔悴と後悔に支配されていた。舟の上といい小町はジョーカーに対する危機感を持っているつもりだった。だが、これほどまでとは思いもしなかった。
小町ここで愕然とした。
これがアイツのやり方って訳かい?
気づかぬ内に他人の心の隙間に入り込み、愚者を装い狡猾さや残忍さをひた隠す。
まさに邪悪な道化師のような男
小町はこの瞬間、正しくジョーカーの一端を理解した
だったら出し惜しみは無しさ!
小町は己の「距離を操る程度の能力」を発現させ、ジョーカーとの距離を一気に詰めようとする!
しかし
小町の眼前に男は無く、ただ闇が広がった。
どこからともなく声が聴こえてくる
「ウフフ、駄目よ。彼にはやってもらわなくちゃいけないことがあるの」
その声は聞き覚えのある声だった
小町は唸るように声を搾り出す
「八雲・・・紫・・・」
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てっきり追ってくると思ったんだがな
ジョーカーは背後の気配に注意しつつ、閻魔庁の廊下を駆ける
さぁて、裁判官様ってのはどの部屋にいるのかな?
一見、ジョーカーという男は行き当たりばったりの犯罪者かのように思えるが、実際はそうでない。綿密な計画を立て、準備を万全に整えた後に犯罪を行うのだ。
「犯罪界の道化王子」
の異名は伊達ではない。
そのジョーカーが行き当たりバッタリで行動を起こしたのは理由がある
第一に、彼は自分が死んでいると知覚しているので半ば自暴自棄になっている節がある
第二に、非現実的な場所であるために十分な物資が調達できない
第三に、使える駒がいない
そして最後に、張り合う相手がいない
もし、これらの問題が解消されるのであれば、彼はどんな地であろうと大手を振って犯罪を起こすだろう
だが、現実はそうではない
現在の彼は己の本能の赴くままに動いているのだ。
やがて、彼はとある少女を見つけた。見る限り10歳前後、帽子とスカートの裾から人間ではない耳やら尻尾が見えるが些細な問題だ
こいつは運がいい
「そこのスウィートベイビー、実はおじさん道に迷っちゃったんだけど、ここの一番偉い人がどこか教えてくれるかい?Jおじさんの一生のお願いだよ。ほら教えてくれたらキャンディーも上げよう」
甘い声を出し、ナイフを後ろ手に隠しながら目的地を聞き出す
「え、偉い人ならそこにいるよ」
困惑した様子の少女が震えながら声を出し近くにあった扉を指差す。
どうやら知らず知らずの内に近づいていたらしい
「そうかい、そいつはありがとよ。おっと約束のキャンディーを上げなきゃな!キャンディーもいいけど・・・スペクタクルなショーはもっといいぜ!」
そう言ってジョーカーは少女の首を引っ掴み隠していたナイフを突きつける
「おっと勘違いするんじゃないぞ。いわゆる人質って奴で別におじさんはロリコンって訳じゃないんだ。ただこれから偉い人と話すんだけど、お嬢ちゃんがいてくれたら会話が弾みそうだから、さ!」
言い終わると同時に扉を蹴破る。中に入るとそこには人質と同い年くらいの少女が裁判席に座っていた
「何なんですか貴方?部屋に入る時はノックをしてから入りなさい」
「ああ?こりゃ何の冗談だ?」
かくして、四季映姫・ヤマザナドゥによるジョーカーの裁判が歪な形で始まった
今回は本作と今までのジョーカーの説明を少し入れてみました
しかしこの小町は油断しまくりだなと書いてて思います
でもジョーカーが相手だと殺したいほど憎いのに、その憎悪をベクトルを別の相手にズラされるんですよね(映画『ダークナイト』のハービー・デントとか)
本作のジョーカーは私が未熟なのでまだまだですが、回を重ねるごとに進化させていきたいと思ってもいます