タイトルの割に千冬さん成分が少ないかもしれません。
よろしくお願いします。
IS学園には校則として、生徒は部活動やクラブ、なんらかの委員会に所属することが義務付けられている。これは代表候補生も唯一の男子生徒も例外ではない。
そのため鈴はラクロス部に、俺も図書委員会にそれぞれ所属していた。
委員会への所属を決めた際、それを聞きつけた箒が『なぜ剣道部に入らない!』とすごい剣幕で詰め寄って来たことがあったものの、それ以来は特に問題なく委員会活動を行えている。
委員会の仕事を終えて寮へ帰ろうとしていた俺は偶然、姉貴とボーデヴィッヒが何かを話しているのを見つけた。
校舎二階の廊下からでは話の内容は聞こえないものの、ボーデヴィッヒは必死に何かを訴えていた。しかし姉貴からの返答は希望していた言葉ではなかったのか、意気消沈した様子でどこかへと去って行った。
ーーーーーーーー。
「教師ってのは大変そーですね」
「まぁな……一夏、少し話さないか?」
苦い表情を浮かべながら校舎に戻って来た姉貴は差し出した缶コーヒーを受け取りながらそう言った。
コーヒーを煽る姉貴と久々に姉弟の時間となった。
「ボーデヴィッヒ曰く、私がいるべきは
先のボーデヴィッヒの様子からすると姉貴はそれを断ったのだろう。
「私がドイツでISの教官の真似事をしていた時の教え子なのはすでに知っているな?」
「まぁね」
二連覇がかかった
理由は不明だが、その決勝戦に姉貴は姿を見せずに棄権した。
その直後にIS操縦士としての現役引退を表明。家に帰ることなくドイツ軍でISの教官として一年を過ごした。
「ボーデヴィッヒは生まれた時から軍に所属して、訓練でも優秀だった……しかしアイツはISについてはそうではなかった。落ちこぼれと言われて隅の方でショボくれていたよ」
そのボーデヴィッヒは姉貴の教えによって、IS部隊のトップになれるほどの優秀さを取り戻したらしい。
その結果、軍人としての能力だけが己を評価する唯一の基準だった場所で生きてきたアイツには『力こそすべて』という考えが強化されてしまい、姉貴の教えたかったことは伝わっていなかったようだ。
「私は少しの切っ掛けで自分も、そして世界も変えられることを教えたつもりだったんだがな……私の教え方は間違っていたのか、柄にもなくそんなことを考えてしまうよ……」
そう言って姉貴は苦笑しながら空になった缶を握り締めた。
「……姉貴の教え方が間違ってたかどうかなんて俺にもわかんねーよ」
「冷たいな、あの可愛かった頃のお前はどこにいった?」
からかうように言ってくる姉貴。
「しょうがないだろ、俺も姉貴にいろんなことを教えてもらって生きてきたのはボーデヴィッヒと同じかもしれない。けど俺とボーデヴィッヒは違う人間だ」
苦笑していた姉貴の目が俺に向けられる。
「俺は姉貴以外にも色んな人から色んなモノを教えて貰ってた。そン中にボーデヴィッヒが知らない、足りないモノがあったんじゃないかな」
「足りないモノ……、か」
言っておいてなんだが、俺自身でもそれがなにかはわからない。しかし姉貴はなにかに気が付いたようだった。
「そうだな……私はボーデヴィッヒを軍の外に連れ出してやるか、折り紙でも教えて力以外の物事で誰かから認められることを体験させてやれば良かったのかもしれないな……」
それでどうにかなった確証はないし、時間を巻き戻してやり直すことなんて不可能だ。
ただ何度も転んで立ち上がればいい。
「ま、たかだか15のモノを知らないガキの戯れ言だから忘れてくれて構わねーよ」
「いや、そんなことはないさ」
参考になった。と言うと姉貴は笑った。
ーーーーーーーー。
「……そんなことがあったんだ」
まぁな、と返して一息つく。俺は寮の自室のベッドをソファ代わりにくつろいでいる。
鈴は俺の対面でも隣でもない、俺の膝の上に座り込んでいるのだが、いつものことなので特に問題はない。
「一夏ってばすごいわよね、あの千冬義姉さんに助言できるんだもん」
鈴が感心したように言ってくるが、助言と言うほど大したことではない。
それでも鈴に褒められると嬉しいと感じ、認められているということを実感できる。
そんな中、俺は一つの考えに行き着いた。
自分の考えってのは黙ってたら伝わるワケがない。言葉にしても意味を取り違えられたら最悪だ。
だから言っとく。
「鈴」
「なぁに?」
「……俺は鈴が好きだ」
「アタシも好き!けど、急にどうしたの?」
情けねー話だが、俺は恋愛感情を表に……鈴以外に晒け出すなんて度胸なんかないし、無理だ。
けど鈴になら言える。そんなダセェところも含めて全部を見せられる。
俺も鈴には何でも言って欲しい。弱い所の支えになりたい。(あるかはわからないが)鈴自身が嫌っている所であっても受け止めてやりたい。そう強くおもった。
そして、そんな相手がいる俺はとても恵まれている幸せ者なのだ、と知ることができた。
「言いたいことはハッキリ言おうと思っただけだ」
鈴と二人でいる時の俺は少し余裕ができるらしい。そのせいか、俺にとっての鈴のような存在がアイツにも現れてくれるといい。そう思った。
「むぅー!」
「どうした?」
気づくと、頬を膨らませた鈴が俺に抗議の視線を向けていた。
「一夏ってばアタシといるのに他の女のこと考えてるでしょ!」
「あぁ、ボーデヴィッヒにもどんな自分でも受け入れてくれるヤツができればいいな、って考えてた」
「よりによってあの女!? 一夏の浮気者ぉ~!」
「浮気者て……」
涙目で俺の胸を両手でポカポカ殴ってくるのは痛くも痒くもないないが少しくすぐったい。
それよりも『浮気者』とはずいぶんヒドイ言い草だ。言いたいことは何でも言って欲しいとは思ったが、そんなことは言われたくなかった。
「俺のこと、そういう風に言いやがるか……」
「だ、だって、一夏が
鈴の表情が不安に染まる。たしかに鈴といるときに他の女のことを考えたことで『ソイツに気があるのでは?』なんて考えさせた俺にも非があるのだろう。……ならば埋め合わせと詫び、そして不安の解消が必要だな。
「……浮気なんかしねぇ、って保障が必要だな」
「ふぇ?」
少しばかりカチンときた俺は鈴をベッドに押し倒した。自分の状況とこれから起こることを理解したのか、鈴の顔が赤くなって慌てふためく。その表情に言い知れない満足感を覚えるが、その程度じゃ足りない。
初日にお預け喰らった分も含めて『お詫び』をしよう。
「い、一夏? お、落ち着い、にゃ、にゃぁぁぁ~~~!?!?!?!?!?」
その夜、学生寮内で猫の鳴き声を聞いた生徒が何人もいたらしい。
さらに翌日、とある代表候補生の歩き方が少しぎこちなく感じた生徒が何人かいたそうだ。
しかしそれらの関連性は不明であり、原因も不明なまま学園関係者たちの記憶から忘れられたのだった。