初投稿でいまだ手が震えていますが、何卒よろしくおねがいします。
『コンコンコン』
軽く木製のドアがノックされた音でワタシの瞼が開いた。
視界に霞みがかかってる中、ワタシは枕の隣にあるただの時計に成り果てた目覚まし時計を見た。
短針が七を、長針は十二を指している。今は朝の七時だ。
休日であれ平日であれ、この時間に必ずノックするように家のエセ執事に頼んでいる。
目覚まし時計があるなら使えよ、とエセ執事に言われるんだけど、目覚まし時計は駄目。あれは煩すぎる。煩すぎて鼓膜が破れる。あれでは目覚まし時計じゃなくて鼓膜破り時計だ。迷惑以外の何物でもない。...ブーメランで自分の心に突き刺さったが気にしない。
「入って良いよ」
自分の目覚まし事情を深く考える前にノックの返事をする。
じゃないと入れないからね。
『失礼します』
聞き慣れた声が聞こえ、ドアが静かに開かれた。そこから出てきたのは執事服を着ている長身の男性。
「おはようございます、春人様」
「おはよう、統一」
エセ執事こと、藤堂統一。エセが付く訳は統一の本業が執事ではなく春坂家の専属運転手だからだ。では何故執事の真似事をしているのか、この前彼に聞いたら暇潰しと言っていた。その暇潰しが五年間も続いているのだから驚きだ。
「ご朝食の準備が整いましたので、食堂の方にお越し下さい」
今日の朝食は何かなー? と考える前に聞きたいことが一つ。
「わかった。ところで、今日は何で口調が固いんだい?」
ワタシは、統一と五年間一緒に居るが敬語や丁寧語を使っているところなど、一回も見たことがない。てっきり使えないものだと思っていた。
ワタシに敬語を使わないことは何一つ問題がない。むしろ気楽で良い。だが、彼の雇い主である父さんに使わないのは少し問題がある。敬語でもなく丁寧語でもなく...タメ口。まさかのタメ口である。これは彼の人間性が疑われるから今すぐに止めて欲しいのだが......父さんの家での生活を見たら別に良いと思うようになる。不思議だ。
父さんは時々、家の廊下で寝るし、休日は朝から晩まで寝てるし、『俺を養ってくれ』と真剣な顔でワタシに言ってくるし...完全に変人だ。ちなみに、父さんが専属運転手を雇っている理由は『タクシーを止めるのがめんどくさい』だそうだ。いずれ、息をするのもめんどくさい等と言わないか心配だ。
そんな変人が優秀な医者なのだから世の中何が起こるかわからない。
「今日は春人様にとって特別な行事がある日なので、平時の口調は些か問題があるかと」
統一が言う特別な行事は、今日行われる総武高校の入学式を指しているのだろう。
「たかが入学式、特別でも何でもないよ」
「たかが入学式、されど入学式。何事もスタートが肝心ですよ、春人様」
されど入学式、侮ることなかれ。
ワタシは今からゲームの中ボスでも倒しに行くのだろうか?
「肝に命じておくよ。統一の口調がいつもと違う訳がわかったことだし、布団をたともうか」
もぞもぞと布団から出て背伸びをする。バキバキバキと背骨が折れたかと疑われても可笑しくない音が背中から聞こえた。寝起きに背伸びをする。これが意外と気持ち良いのである......たまにつるけど。
背伸びを終え布団に手をつけた時、エセ執事はこんなことを言った。
「布団なら私がたとみますので、春人様はお先に食堂の方へ」
「嫌だよ。仕事を奪うようで悪いけど...スタートが肝心なんだよね? ならこれくらい自分でしないと」
今、統一の顔を見ることが出来ないけど、きっと苦虫を潰したような顔になっているだろうね。統一の表情は年がら年中鉄面皮をつけているから、その鉄面皮が砕けた顔は写真に納める価値がある...のだが残念なことに、この部屋には布団と時計と制服以外何もないので、写真を撮りたくてもどうしようもできない。
そんな、撮りたくても撮れないジレンマに襲われながら布団を黙々とたとんだ。
「さ、食堂に行こうか」
「はい」
ワタシは今日の朝食に思いを寄せながら、木製のドアに手を伸ばした。
自室から徒歩十六秒で到着する食堂。その場所にある長方形の形をしたテーブルに、ワタシの朝食は並んでいた。
卵焼きとご飯。卵焼きはワタシの好物だ。一日三食、卵焼きだけで生きていける...いや、やっぱり無理。
ワタシは、好物をのんびり味わって食べる人なのだが、時間がそれを許してくれない。
ワタシは、入学生の総代を、務めることになっている。総代は、壇上に上がって入学出来たことを嬉しく思います的な文を言わなくてはならない。そのための打ち合わせを既に三回している。これのおかげで、春休みが三日消えた。
今日は確認程度の打ち合わせを、入学式が開始される一時間前の七時半にするらしい。
普通、確認程度の打ち合わせで一時間も使わないよね。絶対に準備とか手伝わされるよね。めんどくさいよね。自分で言っておいてよねよね煩いと思った。
「ご馳走様でした」
内心で軽口を言ってるものの、時間的にそんな余裕は微塵もない。
「お粗末様です」
「......食器の後片付けを頼まれてくれるかい?」
自分でしたいけど...間に合わない。それほど時間がないのだ。間に合わないのなら人に頼めば良い。が、依存するまで頼る積もりはない。むしろ、人に頼み事をすることじたい初めてだ。
「御意に」
「助かるよ」
ワタシは、嫌みにもなるし感謝の言葉にもなる、微妙な言葉を残して着替えるために自室に向かった。
自室に戻ったワタシはすぐさま制服に着替えた。この制服は今日初めて着る訳ではない。総武校で打ち合わせをした時に着ていた服がこれなのだから。総武校に登校する学生の服装は二通りある。一つ目は、制服。二つ目はジャージ。
ジャージで登校している人は、部活の朝練などがあるのだろう。お疲れ様です。
ワタシは高校で部活動をする気はない。
理由は至極単純。目立って部活どころでは無いのだ。中学の頃、興味本意で陸上部に入部したのだが、常に視線を感じて集中できなかった。いや、自意識過剰とかではなく。何故目立つのか、何度も考えたが答えはいまだに、見つかっていない。
着替えを済ませたら自室ですることはない。
あとは、洗面所で歯を磨き顔を洗い、荷物を持って家を出るだけ。
この言い方だと、家出をするみたいだ。あり得ないけど。
洗面所で色々済ませたワタシは、荷物を手に取り、玄関で紐を結んでいると後ろでワタシを気遣うような声が聞こえた。
「高校では、お友達ができると良いですね」
「そうだね」
何とも思ってないのだが、ワタシに友達は一人も居ない。
俗に言うぼっちだ。別に、コミュ障でもないし人見知りでもない。
八方美人とまでは行かないが、人当たりは良い方だ。良いだけだが。
「それじゃ、行ってくるね」
「...行ってらっしゃいませ」
玄関のドアに手をかけたワタシは気付かなかった。統一の鉄面皮が曇っていることに
アドバイスや、感想を送っていただいたら幸いです。
では、また次話で会いましょう。