閲覧者様は皆無にひとしいだろうけど、二話です。
日陰になっている場所を歩くと少し肌寒く、逆に日向を歩くとポカポカと。そんな春独特の気温に、昼寝をしたら気持ちいいだろうなー、と月並みなことを思いながら歩道を急いで走っていたら見覚えのある門が見えてきた。
本来なら登校してきた生徒たちで溢れかえっているはずの正門の前には、強面の男性が一人立っていた。
「お。今日は遅かったのお、春坂」
強面の男性が腕時計を見てそう言った。
......どうやら間に合わなかったようだ。無念。
「五分の遅刻だぞ」
「...五分くらい勘弁してよ、厚木先生」
ぽそりと、ワタシは呟くように言った。
厚木先生が受け持つ教科は体育らしい。
話してみると、生徒思いの良い先生ってことがわかったが、自分から話しかけようとは思えない。何故かって? 顔と口調が怖いんだ、察してくれ。
これはどうでも良いのだが、打ち合わせを行った場所は、会議室というところだ。会議室...読んで字の如く、会議や話し合いをする部屋だ。そこにはワタシ以外の生徒が居るはずもなく、先生方が入学式についていつになく真剣に話し合っているなかワタシもそれに加わっていた。なんと言うかワタシの異物感がすごかった。
「ねね、今、何時?」
厚木先生は五分遅れと言ったが、実際は六分遅れかもしれないし、七分遅れかもしれない。遅れるだなんて思ってもいなかったから結構焦ってるワタシだ。
「お? 時間か? 今は、七時二十五分だ」
......あれれー? と、某麻酔針をおじさんに打ち込む小学生のような疑問文を心の中で言ったワタシは悪くない。よゐこの皆はコ○ンくんの真似しちゃ駄目だよ。
「...遅刻なんてしてないよ」
「遅刻はしちょるぞ。お前、いちぃき十分前に来てたじゃろ? じゃけぇ、十分前行動でも心掛けとるのかと思ってな」
めんどくさがりのワタシがそんなの心掛ける訳がない。心掛けたとしても三日坊主にすらならない。
「偶然だよ、偶然」
偶然ってほんと怖い。ま、遅刻するより圧倒的に良いだろうけど。次いでだから、きになってたことを聞いてみよう。
「それより何で僕が総代に選ばれたの? 僕より成績がいい人なんていくらでも居るだろうに」
「お前より上の成績なんておらんかったぞ。優秀なやつは一人おったが優等生じゃなかったんでな。優秀で優等生なお前が選ばれるのは道理じゃろ」
なるほど。そうやって社畜が量産されるんですね。わかります。
不思議なことに、ワタシは優等生らしい。どこが優等生なのだろうか。駄目なところしか見当たらない。字は汚いし、ノートは見にくいし、友達居ないし。友達が居ないのは立派なステータスだと思う。そんなワタシには優等生ではなく『優等生もどき』が相応しい。
「そういやぁ、春坂には確認程度の打ち合わせって伝えてたな」
「うん。そう聞いてるよ」
厚木先生は渋い顔を作った。
......なんだろう。嫌な予感しかしないんだけど...『入学式の準備手伝えや』とか言わないでよ? ネタじゃないからね? 絶対だよ? 絶対だかんね?
「準備が少し遅れとってなー。じゃけぇ、確認が終わったら手伝えや」
厚木先生はワタシの考えなどいざ知らず、無情にもそう言い放った。
......どうやら、ワタシはフラグを折れなかったようです。...学園もののライトノベルにありそうだね。売れなさそうだけど。
手伝いと言っても椅子を四十脚ほど出しただけだった。それがまためんどくさいの何のって話なんだが。
手伝いが終わったらどうすればいいのだろうか? 教室に行っていいのだろうか? どの組か知らないが。
そんな答えの出ない問答を一人で続けていたら厚木先生が話しかけてきた。
「春坂。一通り片付いたわ。ありがとな」
「どういたしまして。準備が終わったなら教室に行っていいのかな?」
さっき、体育館の時計を見たんだが長針が九の部分を過ぎていた。まっすぐ教室に行くなら時間的に速すぎるが、少し寄り道をするので別にきにする必要はないだろう。
「おう、行っていいぞ。お前は確か、J組だな」
どうやらご丁寧にワタシが何組か教えてくれたようだ。そのおかげで寄り道ができなくなった。あんまりだ。ワタシは、空いた時間をどうやって過ごせば良いのだろうか? ワタシの特技の一つのぼぉっとすr...いや、まだ寄り道ができる。ワタシは生徒に必要不可欠なもので知らないものがある。それは、出席番g
「出席番号は二十八。お前には期待しとるけぇ、頑張れよ」
......ワタシに恨みでもあるの? それか覚妖怪なの? 東○に出てきたりするの? 第三の目でもあるの? あと、期待するって言われましてもワタシの何に期待してるの? 部活? 勉強? 雑用? あ、雑用ですか。納豆。間違えた、納得。
「期待に応えられるように(雑用)を努力するよ」
とち狂ったワタシの返答に満足したのか厚木先生は『じゃぁの』と言い立ち去った。
この場に居ても邪魔になるだけなので、J組とやらに撤退することにした。
昇降口付近に貼り出されてあるクラス発表の紙の前には、人だかりが存在しており、耳を塞ぎたくなるような喧騒を出していた。そのなかには『わぁ、一緒のクラスだね』やら『お、おい。嘘だよな。知り合いが一人も居ねぇ。これじゃぁぼっち街道まっしぐらじゃねぇか』とか『雪ノ下ちゃんと一緒の男子うらやましー』などが聞こえてくる。
雪ノ下という名字は聞いたことがある。雪ノ下建築の社長さんであり、県議会議員を勤めている人の名字が雪ノ下だとか。大方その、娘さんか息子さんだろう。どちらにしても関わりたくない人だ。
あと、そこのぼっち街道まっしぐらって嘆いている男子。君とは馬が合いそうだ。
......横道ならぬ耳がずれてしまったようだ。さっさと、J組に行って特技の練習をしなければ。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
魔王様はきっと次回に遭遇することでしょう。
では、また次話で会いましょう。