ニックは乗り気ではなかった。何故なら今日の収録が五十嵐の息の掛かったスタジオでの収録であると同時に、魔王エンジェルとの歌番組の収録だからだ。彼女達のことは玲音から聞いており、審査員買収などの妨害活動を積極的に行う悪質なグループである。それだけならいい、五十嵐を利用し東豪寺財閥がプリファード・アウトカムズの再建に一役買っている事実を、サーバーにハッキングしたブーマーを通じて知ったこともあった。若者をヤク中毒にしたいのか、そう心中怒りを燃やしながら舞台裏で絵理と愛のステージを静かに見守っていた。
「ちょっといいかね?」
「なんだ、ここじゃだめか?」
「私は魔王エンジェルズのマネージャーだ、話を聞いて頂きたい」
「ここで話せ、返答次第じゃどうなるか知らんぞ」
「・・・簡潔に言おう、二人のプロデュースをやめてウチで働け、給料も倍にしてやる」
その話に鼻で笑うニック。
「論外だな、それに、東豪寺が何してんのか知ってんのか?」
「へ?」
「社中で噂になっていないのか?今話題の麻薬事件に関与してること」
「そういえば・・・お嬢様が小さな袋に入れた白い粉をいつも携帯してたような・・・」
「たぶんホットショットだな、しかもアメリカのものより強烈なやつ。アンタ何で押収しなかった、それを警察に届ければ、事件解決に結ぶだろうに」
「ウチは警察とも顔が利く。揉み消しにされるだろうな」
「そうかい。だったら本人に聴取するしかないな」
収録後、ニックは魔王エンジェルの楽屋にお邪魔し、所持者であろう東豪寺麗華及び、メンバー全員に聴取することにした。彼女達は知らないの一点張りだったので麗華の所持しているバックを物色し白い粉の入った小さな袋を取り出した。
「これは?」
「胃薬よ、アンタこんなことして」
「よく見てろ、今から化けの皮を剥いでやる」
試験薬を取り出し、一摘みの粉を入れ振ってみせる。すると、試験薬が青く反応した。
「麻薬だな、どこから入手した?正直に話せ」
ニックの目が先ほどよりも鋭くなる。それはまるで犯人を追い詰めた警察官の目であった。
「自分で吸ってたの。これはポテンシャルを上げてくれるからって、お父様が」
「やっぱりな。情状酌量の余地はない、全て警察に話せ。難なら俺が一緒に行ってもいい」
自分の娘に麻薬を吸わせる腐った男に怒りを覚えながらも冷静になるニック。彼は大御所に連絡し、麗華達の護送を以来した。
「アンタ何者?ただのプロデューサーじゃないわね」
「俺か?876プロのニックだ。元警官のな」
少ししてICPOの人間が駆けつけ、メンバー達全員が観念したように大人しくなった。
「さて、俺は戻る。厳罰があるかも知れんから覚悟しておけ」
ステージではなく麻薬でアイドル引退に近づいてしまった不幸な彼女達であった。
絵理達の待つ楽屋に戻り無事であることを確認する。
「よし、帰ったら祝いにキューバ料理の店に連れてってやるからな」
「「はーい!」」
扉を開けようとしたその時、非常ベルがけたたましく鳴り響く。同時に他のビルの屋上で待機していたカイから通信が届く。
「ニック気をつけて、五十嵐が動いたわ。敵は1階からだから今から屋上まで動ける?」
「もちろんだ。ってことは、兵隊がいるんだな」
「ちゃんと武装してね。脱出には私とブーマーが援護するから」
カイは釣竿ケースからR700LTRを取り出し、組み立てた後、射撃体勢をとる。ニックもM416カスタムを取り出し、当たり前のように構えると、アイドル二人は驚く。
「「え、本物ですか!?」」
「今まで黙っていてすまない、これも君たちを守るためだ。行くぞ」
現在いる5階はビルの中間に位置し最上階まで歩いていくとなると厳しい。しかし、エレベーターを使えば気づかれた際に電子機器を壊され袋のネズミになってしまう。苦渋の決断で徒歩で屋上に向かうことにした。
「連中と出会ったらすぐ隠れろ、俺が応戦する」
思った以上に敵の動きは速く、非常口の近くに複数の兵隊がいた。装備こそAKMとP90と今までと変わらないが、着用しているチョッキがSWATで使うものと同格のモノであることがわかる。
「本気で殺す気満々だな」
グレネードのピンを抜き敵に向かって転がす。4秒後爆破し倒れたことを確認すると全員を引き連れて非常階段を昇る。爆発の音が聞こえたのか、下から敵が現れこちらに発砲してきた。ニックはG17とマガジン、ジップラインを玲子に渡し、使い方と先を急ぐよう言った。
「行け!」
ニックは必死になって敵を足止めし、グレネードも惜しみなく使った。わんさか沸いて出る敵に、さすがのニックも嫌気がさしてきた。
「よし、なんとか昇りきったな、そろそろ撤退しよう」
フラッシュバンを投げ怯んだ隙に一気に昇りきり、玲子達の待つ最上階に着いた。
「全員いるな?ジップラインの用意は・・・出来てるな」
カイ達の待機しているビルにまでワイヤーが届いており、脱出する準備もできていた。ニックは滑車を全員にわけると、愛から逃げるよう指示した。初めて使うものなので不安そうになるもなんとか無事に渡り終え、絵理も同様に脱出に成功した。
「さぁ次だ」
「・・・」
「怖気づく時間じゃないぞ!」
「怖いのよ!あなたが先に!」
「追手の対処が出来るか?」
「いえ・・・それは・・・」
「さっくり終わるから行け!」
いやいやながら玲子もジップラインで脱出する。この時、街中に彼女の悲鳴が響き渡るのだった。ニックも使おうとした矢先に敵が追いついてきた。カイの援護射撃もあり、冷静に予備のスモークで相手の視界を遮り脱出する。全員の安否を確認すると、社長に連絡した。
「全員の生存確認」
「さすがねニック、救助ヘリがそろそろ着くから待ってなさい」
ニック達はヘリに乗り込み、戦場と化した街から撤退していったのだった。窓から眺めて見ていると、爆撃された護送車を発見した。おそらくRPGで急襲され全員助かっていないだろう。そう思うと次第に怒りが込み上げてきた。
「くそ、どうしてここまで冷血になれるんだ!?」
この事件は全国ネットで報道され、この年のニュース第1位になった。同時に発表された被害者の一覧の中に魔王エンジェル全員の名前が載っていたことは、芸能界を恐怖に奮わせた。生存した愛も、二度と味わいたくないと言っている。後日のICPOの調査によると、襲撃者全員がプリファード・アウトカムズの社員であり、黒井・東豪寺・五十嵐の三人の逮捕も時間の問題となっていた。
ニックは事務所の全員を集め、自分の事情を全て話した。ホットショットのこと、武器所持のこと、そして、自分にも原因があるということを。
「黙っててすまなかった」
「プロデューサーが警察官?」
「おまわりさんだったのですね!?」
「捜査情報は話せないから仕方ないわ。でも、東豪寺もアイツと手を組んでいたなんて知らなかったし、何より全員無事でなによりよ」
社長がフォローにまわる。
「でも私気にしてない?プロデューサー、いい人だから?」
「元気出してください、そりゃ怖かったですけどプロデューサーがいなかったらみんなお墓に入ってました!ですから今まで通りにしてください」
アイドル達の激励もあり、ニックは少し救われた感じがした。そろそろ決着をつけたい、心中誓うのであった。
実際のBFシリーズも街中での戦闘はありますね。しかも豪快に建物破壊しますし