765プロは今日も変わらず平和であった。事務所のテレビでゲームを楽しむ双子姉妹、給湯室でお茶を淹れる白のワンピース姿の少女、ソファで眠ったまま動かない金髪の少女、そして、勤務時間中にもかかわらず妄想にふけて仕事をしない事務員、音無小鳥がいた。
(ぐふ、ぐふふふふ・・・・律子さんと双子のごにょごにょ・・・)
この日、タイソンと律子は他のアイドル達と野外ロケ、社長はテレビ局に出張に行っていた。今はこの三人だけである。つまり一番無防備な状態であり危険な状況だった。
「小鳥さんお茶が入りましたよ」
「・・・ふぇ!?あ、ありがとう雪歩ちゃん」
我に帰った小鳥はお茶を啜り書類の山を見つめると、ため息をつく。
「タイソンPにとっては普通だろうけど、こんなの終わらないわよ・・・」
悪態つきながらもパソコンを打ち続けるが、なかなか終わらない。
「こんな姿見られたら、恥ずかしくてお嫁に行けないわ」
「ピヨちゃん、あまり気にしすぎると一生独身のままだよ」
「そうね真美ちゃんって、いつの間に!?」
「さっきだよ。兄ちゃん言ってたよ、しゅーちゅーすればいけるって」
「うぐぐ・・・」
以前タイソンが小鳥に言っていた言葉だ。彼曰くやる気があれば仕事なんて簡単なものらしく、最初の頃よりも多くの書類も代わりに処理してくれた。彼への恩は返しきれない。
「やってやるわ」
いままで見たことない速さでパソコンを打ち続ける。その様子を見た双子は驚いて開いた口が塞がっていない。
「うわうわぁピヨちゃんが鬼軍曹みたいにがんばってる!」
「どうしちゃったのピヨちゃん!」
「私は鬼神、鬼神なのよぉぉぉぉ!」
奇声を発して数分後、書類の山はなくなった。
「よし、昼買いに行くから欲しいものある?」
「じゃあ、おやつ買ってきて」
「わかったわ待っててね」
「小鳥さん。わたしもいきますぅ」
小鳥は雪歩とともに買い物に行く。その行動が同時に後悔に繋がることになろうとは、誰が予想しただろう。
時刻は夜8時、タイソン達が事務所に帰ってくると、事務所には小鳥が机に伏せて眠っていた。どうやら疲れているようだ。律子が優しく起こす。
「小鳥さん、夜ですよ?」
「ふぇ!?あ、ほんとだ」
「おいおい他の子達は帰ったのか?」
「雪歩ちゃんと亜美ちゃん真美ちゃんは行き違いに帰ったかと。ですが、美希ちゃんは知りませんよ?」
「?妙だな、なんで美希だけ帰ったことがわかんねぇんだ?」
「雪歩ちゃんと昼間買い物から帰ってきたときに、すでにいなかったものですから」
タイソンと律子の背筋に悪寒が走る。
「帰ったときに双子はどうしてた?」
「珍しく寝てて、起きた途端、慌てた様子で事務所を出ていきましたが・・・まさか!?」
急いで真美に電話を掛けるタイソン。繋がったようなので少し安心するも、一瞬で悪い予感が的中する。なんと双海姉妹は小鳥がいない間に催眠ガスを吸い込み意識が薄れていくなかで美希が何者かに誘拐されたのだ。追いかけたのだが追いつかなかったらしく、今は自宅に戻っているらしい。
「真美、何で俺に連絡しなかった?」
「兄ちゃん無しでも追いつくと思ったんだよ~。でも速くて・・・」
「そうか。君らが無事でよかった、あとは俺に任せてくれ。今度無茶したらゲーム抜きだからな」
タイソンは全員をバンで送迎し、事務所には一人になった。タクニカルギアからP226とG36Cを取り出すと、次にニックに電話を掛ける。
「メンドーサ大変だ、ウチの美希がさらわれた。手を貸してくれ」
「765プロにもブーマーお手製発信機が渡されていたハズだから捜させる。カイにも協力を要請しておくぞ」
「ありがたい、白昼堂々誘拐なんて盲点だった・・・」
「集合は876プロだ、遅れるなよ」
10時になり876プロ前にニック達が集合した。ブーマーによると場所は所沢にある山奥の産廃場らしく意外に近場だった。
「ところでどうやって乗り込むつもりだ?バンじゃスピードが出ないぞ」
「それなんだが、警護車両がそろそろ到着するハズだ」
「・・・ん、え?」
やってきたのはRPG対策を施した米軍現役の戦車、M1エイブライムス。ハッチが開く音がすると、ニックとブーマーにとって見慣れた人物が姿を現す。
「ハァーイみんな、日高舞よ。この日高戦車で美希ちゃん助けに行くわよ」
「・・・5人も乗れたか?しかも戦車って公道走れたのか?」
「装填機能と発射機能は外してあるから乗れる。俺とタイソンがセダンで先に行って救出した後、美希をM1に乗せて逃走だ。さすがのRPGでもM1は破壊できないだろうがな」
以前の魔王エンジェル護送の反省を踏まえてこれを選んだらしいが、ニックも日本でM1もとい、日高戦車を見かけるとは思いもしなかった。
深夜になり全員がナイトビジョンを装備しての作戦。遠くからスキャナーで確認すると、どうやら美希らしき少女はプレハブ小屋の事務所にいることがわかった。
「さすがに兵隊が詰めてる。西側が空いてるが、行けそうか?」
「俺を誰だと思ってる」
二人はサプレッサー付のハンドガンを手に侵入し、背後から見張りを倒す。
「よし鍵だ、あとは気づかれずに事務所に入ろう」
見張りの目をかいくぐり事務所内に入ると、丸くなって眠ったままの美希がソファにいた。その安眠ぶりにため息が出た。
「こりゃ律子も苦労するな」
「だろ、赤羽根のことをハニーって呼ぶような子だ。俺なんか、おじさんだぜ?」
「ご愁傷様タイソン・・・」
ニックがふと見つけた机の上にある書類をスキャナーでスキャンする。
「コカインの販売方法が載った資料だ。ヤク入り衣装を黒井の息がかかった店に出荷し、限られた人間だけがそれを購入できるらしい。しかも店名まで丁寧に書いてる」
「他にないか調べてくれ」
引き出しの中にあったコカイン取引の顧客名簿もスキャンする。
「こんなもの、店には置けないな」
「そりゃそうだろ」
他に証拠はないらしく、急いでここを離れカイ達と合流する。
「むにゃむにゃ・・・あれ、ここどこ?」
美希が目を覚ましたようだ。
「おはよう美希。ここは所沢の山ん中だ」
「おじさんがここに運んだの?」
「んなわけねぇだろ、誘拐されたって真美から聞いてすっ飛んできたんだよ」
「誘拐?」
「そうだ、君を助けに来たんだ」
「ふぅーん。どうせならハニーが来てくれたらよかったなぁ」
「アンタ寝ぼけてるつもり?」
カイの堪忍袋の緒が切れそうになる。このままでは美希が大ケガしてもおかしくないため必死になってなだめるが
「死んだ人間に会いたいなら、今すぐにでも会わせてあげる」
92FSの銃口を美希に向け発砲する。幸い空砲だったためケガこそないが美希の脳裏に防衛本能がよぎる。この人だけは怒らせてはいけないと。
「ごめんなさいなの・・・」
「素直でよろしい」
「大変、奴らが来たわ!」
美希を日高戦車に乗せ、ニックとタイソンも乗ってきたセダンで逃げる。敵も相当キテるらしく、見境なく乱射してくる。ニックは乗り出してM416カスタムで応戦する。
「タイソン、美希のさらわれた理由に心当たりは!?」
「知るか!?帰ったら聞け!」
「あぁそうだな!!」
前方に待ち構えていた敵がいたが、最高速の日高戦車の突進で難なくバリケードを突破し救出作戦は成功に終わった。765プロの前に高木社長が待っており、美希の姿を見て胸をなでおろす。
「証拠がそろった。早ければ明日、961プロに行って奴を捕まえる」
「そうか・・・あいつはひねくれ者だが決して犯罪に手を染めないと思っていたが、ここまで現実を見せられると救いようがないね」
「あいつはコカインを売った金で武器を買い、薬と暴力によって芸能界を支配しようとしたんだ。ある意味ドーズより性質悪い」
「君、ニック君と言ったかね、お願いがあるんだがいいかね?」
「なんでしょう?」
「奴を法の裁きにかけてくれ。元友人の私からはこうしかできないからな」
「わかりました、必ず捕まえます」
首尾は整った。あとは逮捕に向かうだけとなったニック達は、それぞれ帰還し最後の仕事の準備をするのだった。
次回、ついに961プロに乗り込み、奴を追い詰めます
そこでビルの突入方法について意見を聞きたいので、MP5の活動報告にメッセージを送ってください、お待ちしております