この日は絵理と愛が主演の月9ドラマ、「土方姉妹の日常」の撮影。765プロの秋月律子も長女役として出演しているため、懐かしい顔に会えることに少し胸が躍る。そんなニックだが、今日も武器を隠し持って来ていた。
「カット!いい演技だったよ、少し休憩しよう」
演技の様子を見ていたニックはマイアミで放送されていたものと違い、激しいアクションがないことに気づく。そのかわり、ウェットで濃密なストーリーで、演出もなんら日常と変わりない感じがした。
「876さんのプロデューサーが外国人だと聞いて緊張したけど、案外接しやすくてよかったよ」
「ありがとうございます。俺もお会いできて光栄です」
「いいってもんよ、お兄さん釣りが趣味かい?」
「ええ、まぁ」
ケースの中にG36Cが入っているとはいえないため、ここはなんとかごまかす。
「今度釣りに行こうよ、今はカサゴが来てんだ」
「それもアリですね」
他愛のない会話だったが、マイアミにはない親近感に戸惑うばかりだった。
「すいません、アイドル達の様子を見に行きます」
「わかったよ、またな(素が出ちまった)」
控え室に向かったニックは二人の様子に違和感がないことに安堵する。
「プロデューサー、うまくできてる?」
「大丈夫だ絵理、この調子でいけ」
「私はどうですか!?」
「そうだな、元気をセーブできたら完璧だ。NGが多い」
扉にノックの音がする。
「どうぞ」
入ってきたのは20歳前のメガネがチャームポイントの女性、警官時代にビデオ電話で交流していた秋月律子だった。
「あらニック、仲良くしてるわね」
「律子か。何か用か?」
「まぁね、ちょっといいかしら」
ロビーの呼び出されたニック。
「言わせてもらうわね。ありがとう、涼を助けてくれて」
「そんなことか。気にするな、死人出てもらったら困る状況だったんだ」
「謙遜することないわ。あなたがいなかったら涼は仏になっていたの」
「そういうことにしておくか。赤羽根はどうしてる、ちょっと会いに行きたいのだが」
「あぁ、プロデューサーなら」
そんな時、絵理が困った形相で走ってきた。
「あの、いいですか、荷物を開けたいのですが?」
「今行く。すまん、また今度な」
「わかったわ、またね」
急いで控え室に向かうと、テーブルの上に宛名のない小包が置いてある。愛が開けようとしたため、絵理と玲子が機転を利かせてそれを阻止したらしい。
「待ってろ、今開ける」
突然スキャナーが鳴り響いた。それはなんらかの証拠か危険を知らせる合図でもある。試しにスキャンしてみると、スキャナー越しに小包が赤くなる。
「玲子、ハサミかカッター無いか?」
玲子はニックにハサミを手渡すと、慎重に箱を開ける。その途中、内側の蓋に糸らしきものが見えた。彼は糸を突っ張りすぎないようにして切ると、ようやく中身を確認する。
「思ったとおりだ。俺たちの誰かを殺そうとしてやがった」
中にはガラスの破片とM67グレネードが入っており、ピンには糸がくくりつけてあった。ニック以外は中身に驚いて動揺する。
「開けた途端ドカンか。他に届けられていなきゃいいが」
そう思ったその時だった。別の楽屋で爆発音が響く。誰かが気づかずに開けてしまったようだ。
「マジか!!」
ニックは音のした方に走る。表札を見ると765プロ様と書いてあった。
「冗談だろ」
中に入ると部屋は滅茶苦茶になっており、見るも無残な姿になった男の遺体が転がっていた。ポケットに入っていた免許証を見て、ニックはそれが赤羽根だと判断した。
「くそ、即死だ。他に犠牲者は・・」
見渡したがそれらしいものは見当たらない。
「ちょっと、一体何が・・・まさか、プロデューサー!?」
律子の目に涙が零れ落ち、彼の遺体に近づこうとするがニックに止められる。
「落ち着け、今触れたら君が犯人になる。警察に任せよう、いいな」
なんとか説得し、止めると、警察が入ってきた。ニックも重要参考人として出頭し、状況を詳しく話す。すると、取調べ室に白髪の男が入ってきた。
「ニック。この声は覚えているかね、小屋で君に捜査依頼したものだ」
「あんたか。何者なんだ?」
「紹介が遅くなって申し訳ない、私はICPOの剣胴久道。今回の殺人及び、ホットショットの事件捜査の指揮をしている」
「なぜ捜査してんだ、関係ないハズだ」
「テロ疑惑のあったドーズ一味の動きを探るために、プリファード・アウトカムズの捜査をしていたんだが、君らの働きで見事、芋づる式に検挙できたんだ。感謝の意味も込めて君に捜査依頼をしたのだよ」
「面白くない冗談だ」
「ところでだ、情報は見つかったかね?」
「ああ。黒井って男が誘拐やホットショットに関与していたってタレコミがあった。だが、タレコミを元に、奴の妨害を受けた765プロのプロデューサーに話を聞こうとしたが、小包爆弾で殺された。明らかに怪しい」
「そうか。それはそれとして、君に協力者を派遣しておいた。仲良くしてくれたまえ」
そういって取調べ室を出た。他に話すことはないため、警察署を後にした。
「どうだった!?」
心配してくれた一同が迎えに来てくれていた。
「大丈夫だ。それよりも、撮影は?」
「しばらく中止よ。殺人が起きたらそうするしかないわ」
玲子が残念そうに言う。
「いいか、怪しいものがあったら俺に言え。適切な処理をする」
「わかったわ。でも警察時代にそんなことあったの?」
「もっとハードだったよ、銃撃戦も多かった」
この時、なぜ876にニックが来たかわかった気がした。
後日、仕事前に社長から話があると言われ、一同会議室に集まった。
「知ってると思うけど、新しい仲間が来たわ。入りなさい」
入って来たのは涼と冬馬救出に協力した、ブーマーだった。
「俺はマーカス・ブーン、ブーマーって呼んでくれ」
「お前かよ」
「それはないぜニック。事務所からITで君達のサポートをするからよろしくね」
ニックは彼が言っていた協力者だと気づいていたが、特に驚く様子もなかった。
赤羽根ファンの皆さん、すいませんでした