赤羽根の突然の死により捜査が行き詰ったニック。彼の死の真相を探るなか、重要な証拠を発見する。
「元気出せよ律子、他のメンバーに迷惑がかかるだけだぜ」
「でも・・・プロデューサーいなくちゃ765プロは終わりよ・・・」
あれから一週間後、律子に元気を出してもらうため、偶然見つけたキューバ料理の店に連れて行ったニックだったが、かなりの凹みように苦戦する。彼も服役中に母親を病気で亡くしているため、大事な人を大切にしていた気持ちがよくわかった。
「まぁチキン食べなよ、結構いけるぞ」
「うん・・・おいしい」
「ここのチチャローネスは本場モノだ、当たり前だろ」
「あずささんに紹介しよ、雰囲気良いお店だし」
顔に笑顔が戻ったのを見て一安心する。しかし、彼女が受けた精神ダメージが完全に癒えたとは言えない。
「ここは俺が勘定するから、気兼ねなく食え」
「そうするわ。ありがとう、あなたには感謝しかないわ」
数時間後、勘定を済ませ彼女をタクシーに乗せると、剣胴から連絡が入る。
「なんだ、こっちは暇じゃないんだ」
「すまんなニック。実は情報を持ってきたんだが、聞くかね?」
「言え」
「赤羽根の住所を突き止めた、ブーマーと一緒に遺品整理に向かってくれないか?」
「なるほど、証拠を探すのか。おまえも来るのか?」
「遺品整理業者としてね」
「・・・それって必要か?」
「ジョークだよ・・・はぁ・・・」
後日、ニック達は赤羽根の家に向かった。家と言ってもボロアパートの一室で、タンスと布団、家電とノートパソコンだけが置いてあった。ブーマーはさっそくパソコンの中を探ってみる。
「セキュリティーガラガラだこれ、すぐに終わるよ・・・なんだこれ?」
「どうした?」
「いや、悪徳って奴の行動を記録したものだ・・・赤羽根何してたんだ?」
「剣胴、何か知ってるか?」
「悪徳は確か、記者のくせに黒井とつるんでいた人間のクズだ。敵対していた事務所のでっち上げスキャンダルで多額の賄賂をもらっていたハズだ」
「なるほど、臭い奴にはハエが集るか。それにはなんて」
「長野の諏訪市にある廃車工場に潜入した記録がある。車を解体して白い粉を取り出している様子が書かれているな。しかも気づかれずに脱出したことも・・・写真まであるね」
小分けにされた白い粉を取り出し、それをまた別の車両に隠している様子の画像がたくさんある。
「よかったな、そこまでは」
「だけどこっからが問題だ、目撃証言で悪徳に脅迫まがいな交渉したこともある。おそらく奴が荷物を送ったんだな、ニックにも」
「俺の場合は、あの馬鹿と涼を持ってかれた報復だろうな」
スキャナーで辺りを確認するも、他には目ぼしいものはない。765プロのアイドル達との集合写真があるくらいだ。
「よっぽど信頼されていたんだな、みんなが笑顔だ」
「本気で守ろうとしてたんだな、彼は」
こういうことだ。悪徳記者の妨害から事務所を守るために彼を追跡したら、偶然にも麻薬取引現場に遭遇したことで彼の弱みを握り、それをもとに彼と直接交渉したのだ。しかし、窮鼠猫を噛まれてしまう。麻薬ルートで入手したグレネードで殺され、口封じされたのだ。何が理由であれ、決して許されることではない。
「全部俺のUSBにバックアップしたから、これがなくなっても大丈夫だ」
「助かるよブーマー」
一方、765プロではお通夜みたいな空気が流れていた。無理もないが高木社長はみんなを社長室に集める。
「君達。気持ちはわかるが、このままじゃだめだ。わかるね?赤羽根君が安心して眠れない」
「社長。何かあるのですか?」
「あるとも、新しいプロデューサーが今日来るんだ。本来なら彼と分業しながらやるハズだったが仕方ない。それじゃ、入りなさい」
入ってきたのは30代の白人男性。顔に傷痕があるが、なかなかの男前だ。目付きが悪い以外は。
「俺はタイソン・ラッチフォード。今後ともよろしくな」
「・・・876の真似事ですか社長?」
「いや、ティンときたからだよ」
実をいうとこれは嘘だ。タイソンもまた、裏病院のベッドの上で剣胴と高木と出会い、司法取引でニックの捜査を手伝う名目で日本に来ている。入院から半年以上経っているため動くことには支障はない。しかし
「あれ、俺嫌われてる?」
アイドル達は彼を白い目で見ていた。
「傷だらけの外国人見たら、そりゃね。っと、今日は律子君達と一緒にレッスンに行きたまえ、いいね?」
「わかったよ、それじゃ・・・ん?」
タイソンが目にしたのは、事務机にある溢れんばかりの書類の山。全て金銭に関してのものだ。
「あっ、これは私が」
背服を着た女が急いで取り掛かろうとする。
「あんた事務員だろ、何してんだ?任せろよ」
タイソンはパソコンを起動し、ものすごい早さでデータ入力および修正を行ってみせ、起動時間込みの30分足らずで済ませてしまう。
「すごい・・・律子さんより早い人、初めて見た・・・」
それもそのハズ、彼はマイアミではコカインの仲買人として会計処理をしてきた男であり、そのノウハウでこなして見せているのである。
「完了だ。っで、なんでサボってんだ?」
「実は・・・妄想してたらこんなことに・・・」
「・・・おいおい頼むぜ。あんたらも駐車場で待っててくれ」
「は、はい」
タイソンはまた社長室に戻り、男二人になる。彼は無言でタクニカルギアを開き、K10サブマシンガンとP226を取り出すと、コートの裏に隠し持った。
「大丈夫かねいきなり飛ばして?」
「なぁに、俺はこれでも金と女と銃の扱いに馴れてんだ。任せろよ」
このとき、高木はこの人生で一番の心配をする。毒牙にさらされるのではないかと。本人はそんな気は断じてないのだが。
「赤羽根君とは、釣り合わないな彼は・・・」
これで765も安泰か?