テレビ局に向かう車中、愛がいつものように元気よくニックに話してくる。この日は絵理がダンスレッスンで別行動になっているため一人で出演するになった。彼も愛の元気に慣れ、今は仲のいい歳の離れた兄妹みたいな関係になっていた。
「プロデューサー。今日の番組はなんですか!?」
「ピューマさんのごきげんいかがだ。元気良すぎて大御所の鼓膜破ったりしないようにな」
「そんなことしませんよ」
「君の元気で難聴間近になってる俺の気持ちになってくれ」
これはもちろんジョークだが。
「でもプロデューサーだってマイアミにいたころは銃声ばっかりだったって言ってたじゃないですか?」
「そうだな確かに。あれを1にするなら君は7ぐらい上の声量だ」
対抗車線側から銃声が響く。音のした方を見てみるとハンドガンを持った男がテレビ局を占拠しており、そこには主催者の大御所が人質になっていた。
「愛、絶対にドアを開けるなよ」
「え?はい・・」
近くの駐車場に止めるとニックは車から出ると人ごみを掻き分け犯人の前に立つ。
「来るな、こいつを撃つぞ!?」
「お前そんなんで人を殺せるとでも思ってんのか?この角度なら弾は貫通してそれでお終いだ。脳にもダメージがいかないぞ?」
「何!?」
「そうだな貸してみろ」
ゆっくり近寄り男の銃を奪い取ってみせると、今度は組み伏せ無力化してみせた。
「サンキュー君。助かったよ、テレビ番組に間に合わない」
「大御所さん、俺は876プロのニックと言います。警察呼んでください」
「おおそうだった。恩に着るよ」
すぐに警察が駆けつけ男は御用となったが、ニックはしっくりこなかった。
「ところで何故ここに?」
「時間にルーズでさ、遅刻寸前になって走ってたら捕まったの」
彼の額や腕に汗をかいているのがわかった。本当に捕まったらしい。
「ところで剣胴って警部知らないかい?同級生でさ、昔貸した1000円返してもらってないんだよ」
「なんでそのことを!?」
「俺も君の力になりたいんだ、赤羽根君の無念を晴らす男だって剣胴から聴いてる」
「・・・わかりました。番組終わってからで」
生放送が終わり、ニックは1年前の芸能界について聴いてみる。黒井崇男が我が物顔でテレビ局を歩き回り、多額の金でトレーナーやディレクターを買収していたそうだ。それだけでなく悪徳叉一記者とつるんで邪魔な人物をでっち上げスキャンダルで陥れていた。丁度その時、赤羽根が彼らの悪事を芸能界にばらそうとしていた。表向きは天ケ瀬を中心としたアイドルグループ、ジュピターをフェスで破り、これを阻止したとされているが、実際にはニックがドーズを殺したことで資金源が枯渇し、無駄な出費を防ぐために一旦はあきらめただけ。しかし、ほとぼりが冷めると、今度はオーバーランクアイドル玲音と契約し本気で芸能界を乗っ取ろうと考えているのだという。
「実を言うと、私もICPOの捜査官だ。これ証拠」
バッチと懐にある銃を見せられる。
「じゃあその資金源がホットショットによるものだってわかってんだな」
元の口調に戻るニック。
「あぁ。しかし情報攪乱で参っていたんだよ、ITなんて使えないし」
「そこで手口を知り尽くした俺が駆り出されたってわけか」
「君にはすまないことをした。申し訳ない」
「気にすんなよ、そろそろ決着つけたかったしな」
「このままだと芸能界だけでなく国家全体を脅かすだろうな」
「だな」
暗い雰囲気のなか愛が楽屋に入ってきた。もちろん元気いっぱいに
「プロデューサーさん!さっき玲音さんに会ってサインもらいました!!」
「愛、耳が痛いから頼む・・・わかったから」
「大御所さんももらいますか?」
「いいよ別に・・ハハハ・・・」
その頃、絵理はレッスンスタジオにいた。今日は新しい振付の先生が来ているらしく、なんだかそわそわしている。
「お待たせ絵理、準備いいかしら?」
「はじめまして、水谷絵理です。よろしくお願いします?」
「カイ・ミン・ダオよ。よろしく」
ポニーテールのベトナム系女性。かつてのニックのパートナーで、格闘術の達人だ。彼女も潜入捜査で日本に来ており、得意のアクションでダンスのコーチになってた。
「今日はキラメキラリのダンスよ、最初が肝心だから気合入れなさい。まずは私がやるわ」
ラジカセの音楽に合わせて見事なまでのダンスを披露する。さすがに小恥ずかしさはあるものの手本になるように精一杯務めてみせた。
「頑張って覚えたの?」
「え、ええ。次は絵理の番よ」
「はい」
絵理も頑張って踊ってみるが、カイほどのキレはないができている。
「いい感じよ。もう少し自信持っていってもいいくらい」
「でも、ダンスには自信がなくて?」
「ステージに立つんだからがっついても大丈夫。それに、ニックも期待してんでしょ?」
「え、今なんて?」
「彼は私の友人なの。玲子から聞いたわ、ニックと仲いいのね」
「ひぅ・・」
そう言って部屋の隅で小さくなった。かなり恥ずかしそうにしている。
「言いふらしたりしないから大丈夫よ、ほらこっち向いて?」
ニックやブーマーがこんな光景見たらなんて言うのか気になるくらい優しく接している。その後、なんとかレッスンは終わり絵理は顔を真っ赤にして帰って行った。
夜、事務所に戻ったニックはスケジュールチェックを済ませると、ファンレターを確認してみる。前回みたいに爆弾付の荷物が届いていないかの確認でもある。
「・・・ん、誰だ」
ドアを開けてみると、カイが立っていた。思わぬ再会に驚く二人。
「カイ、君も日本に」
「あら似合ってるわねニック。あぁ絵理が髪留め忘れたから届けにきたの」
「ブーマーも日本にいること知ってたか?」
「あの子が最初に渡日したからね。最初に連絡くれたわ」
「そうか」
「それはそれとして。絵理、誰かにつけられていたわ」
「何!?」
「スタジオから帰る際に、変な恰好した女にね。注意したら逆ギレされたからとっちめてあげたわ。でも再犯しそうだからあなたに伝えたの」
「そうかありがとう。明日から俺が引率しようか」
これでハードラインメンバー全員登場です。