1週間後、この日は歌番組の収録があるため、絵理と愛の送迎をしていたニック。昨日のカイの言っていた怪しい女について心配していたが、玲子に相談したところ心当たりがあるという。
「その鈴木って女はそんなに危険か?」
「絵理をネットアイドルに戻そうと必死なの。ネット嫌いの私と真逆だから相性悪いってのもあるけど・・・」
「その割にブーマーとは話をしてるな」
「彼はしつこくないし、良識があるからいいの」
彼女は知らないが、彼は銀行のネットワークにハッキングできる技術の持ち主だ。そんなこと知ったら彼女が正気じゃなくなるであろう。
「ニック、私ね、実はriolaってグループで活動してたの。でもネットの掲示板が原因で解散、誰が原因かわからず終いのままでね」
後部座席の二人には聞こえないように話す。
「調べて欲しいのか、俺に」
「未練があるってわけじゃないの。絵理にも同じ思いをして欲しくない、それだけよ」
「なるほどな。玲子、ブーマーからのプレゼント持ってきてるか?」
「これのこと?」
バックの中からボールペンを取り出す。
「こんなかにはGPSが仕込んである。ブーマーが作った特注品だ」
「え!?」
「言っただろ、ITで君たちをサポートするって。昔からそういうのが得意なんだ」
「すごいわね。そんなことできるんだ・・・」
「それだけじゃない。作ろうと思えば電源をショートさせる機械を開発したり、飛行機を修理できたりするんだぜ」
全てアメリカでブーマーがやっていたことなんだが、犯罪行為で使ったため伏せている。
「一概にネットが悪者じゃない。考えて使えば便利なツールなんだ、そこを忘れちゃいけない」
「そう。ごめんなさい、少し考え直すわ」
「そろそろ着くし、仕事に集中しよう」
何事なく収録が終わり、楽屋にはたくさんのファンレターが届いていた。アイドル二人も満足そうだ。
「手紙は事務所に帰ってからだ。さぁ帰るぞ」
テレビ局の外に出ると、金髪ツインテールのステージ衣装を纏った女が待ち伏せていた。
「センパイ返せデス」
「まさか、お前が鈴木か?」
「サイネリアデス!鈴木は本名!」
「玲子が車内で待ってんだ。行かせろ」
「うるさいタンパツ!」
「・・・そうかい。絵理、ネット時代に戻りたいか?」
絵理は横に首を振る。
「だそうだ。諦めて帰るといい」
「無理矢理でも連れ戻しマス!」
袖に隠していたスタンガンを取り出すが、ニックにあっけなく取り押さえられた。
「誰にそんな物騒なものを持たされた、言えば解放してやる」
「イタイ!センパイ助けて!」
「絵理。こいつのやってることは犯罪だ、情けはいらん」
「グググ・・・変な男デス、ソイツがコレを渡したんデス」
解放し、スタンガンを押収する。
「もしかしてこいつらの誰かか?」
スキャナーから悪徳叉一と黒井崇男の顔写真を見せる。
「最初の男がコレを渡したデス。繋ぎ止める方法だって・・・」
その時だった。花壇の方から視線を感じる。そっちに向くと悪徳叉一が隠れて写真を撮ろうとしていたのだ。それに気づいた彼は逃げ出した。
「貴様!!」
ニックは全速力で逃げる悪徳を追いかけた。しかし、ビルの谷間で見失い玲子に連絡する。
「すまん俺だけ帰れそうにない。用事ができた」
電話を切った直後、連絡がきた。非通知だったが出ることにした。
「よぉニック。怪しい奴がいたから捕まえといたぜ?」
「タイソン生きてたか!?」
「良い腕だったぜ。それよりもコイツがうわさの悪徳か?ウチの千早のスキャンダル撮ろうとしてやがった、今は車ん中でお寝んねしてるぜ」
「そうか。どこにある?」
「○○通りの喫茶店に集合でどうだ?」
ニックは集合場所の喫茶店に入ると、タイソンと美しい長髪の少女がいた。
「876プロのプロデューサーですね、如月千早と申します」
「ニックだ。律子から歌の上手な子だって聴いてる」
「え、律子の知り合いですか?」
ブーマー達の時のように彼女との関係を話すと、予想通りタイソンが笑った。
「水臭ぇなニック、意外すぎるぜ!」
「タイソン。本題に入りたいんだが・・・」
「わりぃわりぃ。実はここ、千早のマンションの近くなんだが、怪しい奴が自分を見張ってるって俺に相談してきたんだ。っで、走り疲れているアイツを見つけて車のトランクに閉じ込めたんだ」
「あの、いくらなんでもやりすぎでは?」
「あんなクズそんくらいじゃ足りない。それに、あいつに用があるんだ」
ニックにはわかったが、千早には毛頭つかない。
「千早。聞かないほうがいい、好奇心には垣根がある」
「・・・そうですね、あなたが信頼に値するってわかったし」
タイソンが話を切り上げる。
「まぁそれはいいとして、千早、話したいことがあったんじゃなかったか?」
「そうでした。765プロはご存じですよね?」
「あぁ、仲良いからな」
「赤羽根プロデューサーの後任にタイソンが就きました。今後ともよろしくお願いします」
「え・・・大丈夫かそれ?」
彼のことを知っているニックに不安の表情が映る。
「大丈夫です、高槻さんが最初になついたんですからたぶん・・・」
「タイソン、何をした?」
「札束に触れさせただけだが?」
時を遡ること一週間前、オフの日にやよいと銀行に行くことがあった。風貌を恐れてはいたが、彼のアドバイスでフェスやオーディションに勝ち進んでいたため多少の信頼を得ていた。
「今日はおもしろいもの見せてやる」
タイソンは自分の口座から100万円を引き出しやよいに持たせたのだ。初めて見る札束に興奮するが、行内ではしゃぐと迷惑なるので押さえていた。
「プロデューサー、もらっていいですか?」
「いやそうじゃなくてな、この中の10万くらいでご褒美買ってやりたいって思ってたんだ。なんでもいいからな」
「えぇ!!」
「声でかい。一応名前、公に出てるんだぞ」
「ごめんなさい。それじゃあ弟達に服買ってください」
「お安い御用だ。さぁ行くか」
高槻家に洋服をプレゼントし、完全にいい人を演じていた。だから彼女の信頼を得ていたのだ。
「犯罪スレスレだなこれ」
「ロリコン疑惑です」
「おいおい冗談キツイぜ。俺にだって善意ってもんがあるんだ、他にも音無さんに帳簿仕事術伝授したり、亜美真美とゲームしたりするんだぜ?」
「・・・まぁいいか。千早、彼はかなり怪しいかもしれんが、仕事はできる。俺が保障するから安心しろ」
「わかりました。用事があるのでこれから家に帰ります、失礼します」
千早が喫茶店から出たことを確認すると、本題に入った。
「メンドーサ、俺が言いたいことはわかってるな」
「あぁ。取り調べと麻薬工場の摘発だろ?」
「そうだ。わかってるな刑事さん」
「お前も剣胴から依頼されたのか?」
「司法取引に応じただけだ。それに765プロの仕事、悪くねぇしな」
「そうか。さっさと始めようか取り調べ」
こうして悪徳叉一は逮捕された。最初はなかなか口を割らなかったがカイの物理的な尋問とニック達が見つけてきた証拠であっさり落ち、麻薬密輸手段とおおまかな工場の在り処を吐いた。製造場所は複数あるがどれも太平洋側と富士山周辺にあり、東南アジアから原料の大麻をステージ衣装に隠し船で運ぶのに苦労しなかったことがわかった。しかもその衣装は961プロ内で確認し、商人に売りさばいていたことも発覚。しかし、誘拐手段と売買の方法がわからないままであり、悪徳も仲間の名前を知らなかった。
タイソン怪しいってこれ