「ユウ、まだですかね……」
現在時刻午前九時ちょうどである。神機使いの出勤には遅い時間に、エントランスの出撃ゲート前には赤いキャスケット帽が印象的な少女、アリサが立っていた。彼女はユウを待っていた。なぜならば彼にお出かけに行こうと誘われたからである。しかし、ユウは一向に姿を見せない。当たり前だ。
「もう、ホントまだですかね……身支度に手間取ってるのでしょうか」
アリサとユウの待ち合わせ時間は午前十時なのだから。このアラガミが闊歩する狂った世界のどこに待ち合わせ時間の一時間前に待ち合わせ場所で待つ奴がいるのだろう。いや、ここに一人。しかも、彼女の口調から、一時間以上前から待っていたことが窺える。
「部屋に行くというのは……着替えてる最中だったら……」
アリサは急に昨日のことを思い出した。無駄のない引き締まった筋肉質なユウの身体が脳裏に浮かび、思わず赤面してしまう。彼女は気を紛らそうとバッグから本を取り出し、落ち着かない手で何度か失敗しながらページをめくる。その時だった。
「アリサー、おはよう。まさか一時間も前にいるなんてね」
「ひゃいッ!? お、おはようございます、ユウ。そちらこそ早いですね……」
アリサは何故に緊張してしまい、声が裏返った。なんとか誤魔化そうと、彼にやや強引に話題をふる。優しさの塊のような彼はアリサの失態を見なかったことにして、質問に答えた。
「いや~女の子待たせちゃ悪いかなって思ったんだけど……待たせちゃったかな?」
「い、いえ! とんでもないです。待ってませんからっ!!」
「そう。なら良かった♪」
アリサはもういつものような冷静さを保てなかった。彼といると、彼と話をすると彼女の心は乱され始める。それは本人の意思でもなんでもないというのに。そして、これが恋だということに気づくのはまだ遠いお話。
「それはそうと、早く行こうよ」
「そ、そうですね。行きましょう」
二人はややぎこちない会話をしながらA区へと向かっていった。
☆★☆
前回のアラガミ侵攻で甚大な被害を受けたA区では復旧作業が急ピッチで進められていた。それを横目で流しながら、ユウとアリサの二人は歩いていく。
アリサは先程からユウの様子を窺うようにして見ている。それは今日のために彼女が後ろ髪の先を少しだけ三つ編みにしたり、ヘアピンで前髪をまとめていることに彼が気づかないか観察するためだ。しかし、鈍感な彼のことだ。気づくはずも……
「あ、アリサ」
「はい、なんでしょう?」
「髪型変えたね。三つ編みにして、ヘアピンもつけてるんだね」
「そ、そうですけど、何か?」
「いや、似合ってるなーと思っただけだよ」
「有難う……ございます……///」
ユウはアリサの方へ向き直り、笑顔で平然と「似合ってる」などと口に出す。そのせいなのか、彼女の頬は赤く染まり、謎の羞恥心に襲われていた。そんなことを気にする様子の無い彼はスタスタと歩いていく。たまに話題をふってくるのでアリサも退屈はしなかった。
「A区とB区の治安は異常なーし!」
「結構、歩きましたね」
「確かに……そこに甘味処あるから寄っていこうよ」
「え!? いいんですか!!?」
「う、うんいいよ。……なんでこんなにはしゃいでるの……?」
二人は極東に昔から伝わるという形式の甘味処に寄った。そこには木造の藁葺き屋根の家屋に、赤い布を被せた長椅子が外に置いてあった。二人が長椅子に座るやいなや、店員と思われる女性が近づいてきた。
「ご注文は何にいたしましょう?」
「えーと僕はあんみつで」
「私、よくわからないので彼と同じものを」
「かしこまりました」
二人は店内に掛けてあった木の板に書かれたメニューを見ながら、女性に注文を言う。注文を承った女性はそのまま店内へと歩いていった。
ユウがこの場所を知っているということは普段来ている処なのだろう、とアリサは思った。彼女にはあんみつというのがどういった食べ物かはわからないが彼が注文したのだ。間違いは無いはずだ。
「ふぁぁ~~今日は良い天気だねぇ~~眠くなってきたよ」
「ここで寝ないでくださいよ?」
「寝たらアリサに置いてけぼりにされそうだからやめとくよ」
「んなっ!? 人を何だと思ってるんですか!!」
二人が軽口を叩き始めた頃にあんみつがやって来た。あんこの中に白玉や寒天、果物が入っている。ユウはそれを店員から受け取るやいなや、スプーンで幸せそうにほおばる。アリサもそれを見ていたら我慢がきかなくなったようで同じくスプーンを手に取り、食べ始める。
「っ!? おいしい……」
「うんうん。そうだろうそうだろう。ここは僕のお気に入りの場所でもあるからね」
「あなたがいつも来ているのは薄々感じていましたが、普通のものが出てきて良かったです」
「それ、どーゆー意味?」
アリサは冗談を言っているつもりなのだろうが、いかんせん顔が無表情なので本当に冗談なのか怪しくなってくる。しかし、今のはさすがに冗談であることをユウも察したようで冗談めかしく反論する。その後、こんな会話をしながら時が過ぎた。雑貨店や日常用品店など、他にも二人で色々とまわった。
☆★☆
夕日の光が窓から差し込んでくるエントランスで二人は話していた。どうやらこれから別れるようだ。ユウは笑顔で冗談を交えつつ話すのだが、アリサは相も変わらず無表情でただただ右から左へ流していた。
「今日は有難うございました」
「いやいや、とんでもないよ。元はパトロールだしね」
「楽しかったです。また行きましょう」
アリサは柔らかな微笑みを彼に向けた。ユウはそういえばと思い出す。
―――――そういえば、彼女、ここに来て一度も笑わなかったな。
なんだ、笑うと結構……
ユウはほぼ無意識にその言葉を発していた。
「可愛いじゃん」
「んなっ……//」
こうして無事、パトロールを終えたのだった。
「あなた、何の冗談ですか? 撃ちぬきますよ?」
「ヒィッ! 冗談じゃないよ!!!(二つの意味で」
最後のオチ、うまくないですか?(自画自賛
もしも意味がわからないと思った人は気軽に聞いてください。
この私の高度なお笑いセンッッッッス! で答えます。
ハイ、冗談です。
ではでは皆さんダ ズヴィダーニャ~♪