フェンリル極東支部、通称『アナグラ』。そのアナグラのエントランスにはコの字にソファが置いてあり、神機使いたちがくつろげる空間となっている。そんなソファの真ん中に彼、リンドウはどっかと大の字になって座っていた。そして、その目の前にはユウ、サクヤ、コウタ、ソーマ、の四人が立っていた。
「え~~~、リンドウさん行かないんスか~~?」
「悪いな、お忍びデートに誘われちまってよ」
「そう……気をつけてね、リンドウ……」
「ああ、お前らも生きて帰ってこいよ」
「……自分で出した命令だ、アンタも守れよ……」
「おっと、こいつぁ手厳しいな」
ユウ、サクヤ、ソーマの三人は彼の言うお忍びデートが極秘任務であることを見抜いていたが、コウタだけはユウの隣で「いいなぁ~」などと呑気に愚痴っていた。
五人が話している内に四人の任務出発時間が近づいてきた。四人はリンドウを残し、出撃ゲートへと歩いていった。
「ふぅ……俺も行くとするかぁ……」
☆★☆
四人が到着したのは『贖罪の街』だった。そして、今任務の討伐対象は獅子たるアラガミ……『ヴァジュラ』だ。彼奴から放たれる雷撃はベテランの神機使いでさえ、気を抜けば一瞬にして命を奪われるほどだ。
「さて、時間ね。皆、準備はいいかしら?」
「はい! サクヤさんっ!!」
「僕は大丈夫です」
「……問題ない」
全員の準備が整い、作戦開始時間となった。四人は高台から飛び降り、死地へと足を踏み込む。策敵のためにユウとソーマ、サクヤとコウタの二グループに分かれて行動することになった。
贖罪の街は地面が乾燥しており、歩くだけでもかなりの砂埃が立ちこめる。ユウとソーマは近くのオウガテイルなどの小型アラガミを、出来るだけ迅速に倒していった。
「フン、やるようになったな、ルーキー」
「お褒めにあずかり、光栄ですね」
ユウは皮肉混じりに笑って見せた。二人が軽口を叩いているその時だった。突如、自分たちのいる、全く反対の方向から雄たけびが聞こえてきた。オウガテイルでもザイゴートでもない。もっと……凄まじい迫力を伴った声だった。そして、そちらはサクヤとコウタのいる方向だった。
「急ぐぞ!」
「はい!!」
☆★☆
「ぐわぁぁあああ!!!!!」
「コウタくん!! クッ……なんとか二人が来るまでもちこたえなくちゃ……」
二人と対峙しているアラガミ、ヴァジュラはマントをひるがえし、そのマントを輝かせていた。雷撃を放とうとしているのは明らかだった。
ただでさえ、前足による攻撃でコウタが吹き飛んだというのに、雷撃はその倍の威力はあるものだった。
「なんとしてでもっ!! ハァッ!!」
サクヤは神機の引き金を引いた。発砲音と共に十発の弾丸が発射され、ヴァジュラを襲う。しかし、ヴァジュラはすんでのところで上に飛び上がり、銃弾を避けた。銃弾はヴァジュラが元いた場所に着弾し、凄まじい爆発と砂埃を巻き上げた。
「ゴァァアアアア!!!」
「まずい……サクヤさん……避けて……」
後ろからコウタの必死な声が聞こえてくる。その声が届いたのか彼女は既に回避体勢にはいっていた。
高く飛び上がったヴァジュラは空中で一回転し、マントを大きく光らせた後、計六本の雷撃を放った。その速度たるや凄まじく、まさに光速そのものだった。
「ガァァアアアアア!!!」
「フッ!!」
彼女は大きく後ろに跳びすさり、ヴァジュラの雷撃を一本二本と回避していくも、跳んだ先にちょうど雷撃が落ちてきてしまった。彼女は死を感じ取り、状況反射で思わず目を瞑ってしまう。その時、彼女の耳にはガァンという轟音が届いた。
目を開ければ、そこには雷撃をバスターブレードで弾き返しているソーマがいた。次いでユウがどこからともなく現れた。
「二人とも、大丈夫ですか!!」
「ええ、大丈夫よ。有難う」
「ユウ……サンキュな……」
ユウは依然として瓦礫にもたれかかっているコウタと剣呑な眼差しのサクヤを一瞥するとヴァジュラへ向き直る。と同時に神機を構えた。剣先を前に突き出し。限界まで腕を後ろに引く。それは刺突の構えだった。
「グゥァァアア……」
「…………」
彼とヴァジュラはしばらくの間、にらみ合いを続けたが、先に動いたのはヴァジュラだった。高く飛び上がり、ユウの頭上を飛び越えると、後ろに着地し、同時に彼へと突進してくる。彼は落ち着いた動作で後ろを振り返り、神機をヴァジュラの顔に突きたてた。そのたった一撃でヴァジュラは糸の切れた操り人形の如く、活動を停止した。
「ふぅーー」
「ふふっ、相変わらず新人クンはむちゃくちゃね」
「……全くだ」
「流石は……ユウってとこか」
サクヤは明るい笑顔を見せ、ソーマはいつもの鉄仮面を崩さず、コウタは弱く笑って見せた。
「さ、早いとこ偵察済まして、帰りましょ」
討伐対象は倒したが、まだ彼らには偵察の仕事が残っている。四人はゆっくりと歩き始めた。
☆★☆
歩くこと数分で最後の偵察ポイントである、聖堂に着いた。四人は神機を構え、聖堂の前に陣取った。その時だった。角から足音が聞こえ、四人はその方へ顔を向ける。そこにはアリサとリンドウがいた。
「え……なんで?」
「どうして同じエリアに二チームがいるのよ?」
「さぁな~俺に訊かれてもわからん。とりあえず仕事を終わらすぞ」
リンドウは四人に外での待機を命じ、アリサと共に聖堂の中へと入っていった。ユウが聖堂に入っていくアリサに睨まれたのは気のせいだろうか。ボルグ・カムランのときの出来事をまだ根に持っているようだった。
「ようし、中は異常なーし」
「終わりですね」
リンドウが相変わらずの間の抜けた声で確認する。彼は聖堂の入り口付近にいるアリサに振り返り、聖堂を跡にしようとした。その時、割れたステンドグラスに一匹のアラガミが舞い降りた。そのアラガミは獣の身体に冷酷な女神像の顔を持つアラガミだった。一見ヴァジュラのようだが少し違う。
「アリサ! 後方支援を頼む!!」
彼は襲いかかってきたアラガミを神機で止める。アラガミはそれでもなお攻撃を繰り出してきた。この時、アリサの脳内には過去が蘇っていた。
―――――『これが、君たちの敵、アラガミだ』
―――――『もういいかい?』
―――――『ガゴァァアアアア!!!』
断片的なその記憶はアリサの頭を混乱させた。そんな彼女の異常に気づいたリンドウが声をかける。
「アリサ! どうしたぁあ!!!?」
彼はアラガミとの必死の攻防を続け、横目でアリサの方を見やる。彼の声かけにも彼女は反応をみせず、片手で頭を苦しむように抑えていた。
―――――『アジン・ドゥーヴァ・トゥリー こう唱えるだけで君は強い子になれるんだ』
―――――『いいか、アリサ。混乱しちまったときはな、空を見るんだ』
アリサは頭を抱えていた手を離し、神機に添える。
「アジン・ドゥーヴァ・トゥリー……」
その時、彼女の中で”何か”が”何か”にすりかわった気がした。それは過去が改竄されたかのようだった。彼女の頭はますます混乱に陥り、彼女は神機の引き金を引いた。しかし、その銃弾はあらぬ方向へと飛んでいき、彼女の頭上にあった天井に着弾した。天井が崩れ落ち、リンドウのいる内部と彼女のいる外部が完全に隔絶されてしまった。
「パパ……ママ……違う、違うの……やめて……いやぁあぁああああ!!!」
地面に座り込んだアリサは悲痛の叫びを上げたのだった。
大変ッ! 申し訳ッ! ございませんでしたぁぁあああああああああああ!!
最近はやることがあれやこれと積み重なっていき、全く投稿できていませんでしたッ!楽しみに待っていただいている皆様になんとか続きを投稿したかったのですが、大変申し訳ありませんでした…………