今日の始まりはいつもと同じ、極東支部のエントランスからだ。そのエントランスには計五人の男女が立っている。一人は、黒髪を軽くウェーブさせたグラマーな女性仕官、雨宮 ツバキだ。彼女の隣にはアリサが立っている。その二人の目の前にはユウ、コウタ、サクヤの三人が立っている。
「と、いうわけでだ。本日付けでアリサが戦線に復帰することになった」
「……その節はご迷惑をおかけしました。……これからもよろしくお願いします」
アリサは正直、三人の前に顔を出すのが恐ろしかった。任務の最中に隊長を行方不明にさせた上に自分は戦闘不能に陥った。そして、一週間以上もの間、その責任を取ることはできなかったからだ。彼女はこれでもかと頭を下げ、謝罪の意を示した。そして、たっぷりと時間を取ってから、ゆっくりと頭を上げていった。きっと頭を上げた前には嫌悪の表情をしたメンバーがいると確信して。しかし、それは違った。彼女の前には柔らかく暖かな微笑みを浮かばせた三人がいた。
「「「おかえり、アリサ!」」」
三人の口から出た言葉を聞いた彼女は不意に涙を零した。訳もわからずに涙が溢れ、視界が歪んでいく。留まることを知らないその雫は、床にぽつりぽつりと落ちていった。なぜだか、その言葉がとても嬉しくて……。
★☆★
アリサの戦線復帰の通達が終わり、解散となった後、ユウはアリサに声をかけられていた。
「何? アリサ」
「あっ……あの……その……こんなこと頼める立場じゃないってわかってるんですけど……」
「頼む? 僕に?」
「は、はいっ! 今日、復帰して、まだ戦闘のカンを取り戻せてなくてですね……」
「ふむふむ……」
「都合がよろしければ、特訓に付き合ってくれませんか? カンを取り戻すまででいいですから!」
「……うん、もちろんだよ!」
彼女は彼からその言葉を聞いたとき、心が跳ねるように嬉しく感じた。彼の表情はあくまでも穏やかで、ささくれた自分の心を癒してくれるようだった。重く沈んでいた彼女の心は温かい毛布に包まれたような感覚になった。
アリサが心の底で嬉しく思っていると、急にユウが彼女の手を掴んだ。彼女は何事かと顔を上げる。そこにはまたしても柔らかなな微笑みを浮かばせた彼があった。
「どうせなら今すぐ行こうよ!」
「え……あの……まだ何も準備が……」
「善は急げ、ってね♪」
彼は彼女の手を引いて、出撃ゲートへと走り出した。彼女は彼に掴まれている手に人肌の温もりを感じながら、足を踏み出したのだった。
★☆★
温かいのはいいのだが、温かすぎるとかえって苦痛ですらある。要するに暑い。そう、ユウとアリサがいるのはまさかの『煉獄の地下街』だ。マグマの煮えたぎるその場所に来た目的は言わずもがな彼女の戦闘のカンを取り戻すため。そして、その最初の標的は『グボロ・グボロ堕天種』だ。通称・赤グボロ。高気温の環境に適応したグボロ・グボロである。
「さ、アリサ。行こう」
「なんか緊張してきました……」
「へぇー。あのアリサがねぇー。珍しいね」
「で、でもまぁ、それも今日までです! 行きましょう!」
二人は高台を飛び降りた。神機を両手で構え、地下街を駆け抜けていく。
五分ほど経った頃、二人の無線にヒバリから入電した。
『グボロ・グボロ堕天種、お二人の近くに発見! 気をつけてください』
「うん、もう肉眼で捕らえてますよ」
「ユウ、いいですか。まずは慎重に「おぅりゃぁぁあああ!!!」えぇぇええええ!?」
彼は彼女の制止も聞かず、地を蹴り、捕食中の赤グボロに跳びかかった。彼の奇声に気づいた赤グボロは彼に砲塔を向ける。赤グボロから発射される弾は通常のグボロとは異なり、煮えたぎった溶岩である。そんな溶岩弾が彼に向かって発射された。彼はお得意の身のこなしで紙一重で回避するも溶岩弾の端が腰に提げたポーチをかすった。彼はポーチをはたいて鎮火し、なんとか着地する。
「アリサ! 君はまだ、僕の援護をしていてくれ!!」
「りょ、了解!」
彼は後方の彼女に指示を出し、もう一度、赤グボロに肉薄する。彼は体を大きく反転させ、神機を振りかぶる。振り切った後には赤グボロに致命的な傷があった。深く抉れた傷口からは血が吹き出ている。
「もう一度だ!!」
「あ! 危ないですッ!!」
彼が高く跳躍し、脳天からの一撃をおみまいしようと、神機を振りかぶったときだった。赤グボロのヒレが彼の横っ腹を直撃した。その勢いに圧されてか、彼はそのまま壁に激突してしまった。
「ユウッ!!」
「僕はいいから……アリサ……早く、そいつを……ぐッ!!」
彼女は壁に激突し、座り込んでいる彼から目を離し、赤グボロに向き直った。神機を銃形態へと転換し、引き金に指をかける。しかし、恐怖からか、手足が震え、銃口が定まらない。そんな彼女の脳内にまたしてもあの記憶が蘇る。
『アジン・ドゥーバァ・トゥリー、そう唱えるだけで君は強い子になれるんだ』
「アジン……ドゥーバァ…………ううん!!」
彼女は呪文を中断し、頭を大きく横に振る。そして、しっかりと目の前の敵に目を向ける。その目は鋭く、大きく光りが灯っていた。決して、死んでなどいない。純粋な目だった。
「そんなのに頼っちゃダメ……私は自分の力で自分を取り戻してみせる!!」
彼女の中の何かが弾け、震えはいつしか止まっていた。そして、ゆっくりと引き金にかけた指に力を込めていく。指先に金属の冷たさが伝わった瞬間、銃口炎が上がり、敵は地面に突っ伏していた。彼女は力が抜けたように、その場に座り込んだ。
★☆★
「ふぅー。一時はどうなるかと思ったよ」
「す、すみません……」
「いや、別にアリサが謝ることは無いよ」
二人は地下街の中で比較的、安全な場所を探し、迎えを待っていた。話している内容はたわいもない軽口の叩き合いだが、彼女にはそれがたまらなく楽しく、和むようだった。すると彼は突然、手を喉元へ持っていった。
「あぁー。ここあっつい。喉渇いちゃったや」
彼は持参してきた水を飲もうと腰へと手を伸ばした。しかし、そこにポーチは無く、ただ焼け焦げた跡があっただけだった。赤グボロの溶岩弾によってポーチごと水を燃やされたらしい。
「あ、あの……良かったら私の……ど、どうぞ……」
「え、ホント? 有難う、アリサ。助かったよ」
彼女がおそるおそる取り出したペットボトルを彼は満面の笑みで受け取り、すぐさまキャップを開け、豪快にラッパ飲みした。半分ほど飲んだところでやっとペットボトルから口を離す。
「ぷっはぁぁあああ!! 生き返るぅ~。はい、アリサ。アリサも飲みなよ」
「あ、有難うございます……」
「何言ってんのさ。それアリサのだよ?」
彼は小さく笑った。しかし、彼女の心境は笑っただけではすまされなかった。彼女は手にしたペットボトルの飲み口をじーっと見つめている。徐々に体温が上がっていくのを感じる。決して気温のせいではないだろう。
「あれ? 飲まないの?」
「い、いえ。いただきます……」
彼女は意を決して、残った水を飲み干した。そして、心ひそかにこう思うのであった。
これって……やっぱり、間接キス……ですよね……
ちょっと遅めの……明けましておめでとうございます!!
いやーついに来ましたね2016年!! 今年度もよろしくお願いします!
さーて、私も小説のカンを取り戻さないと……