明くる日のアナグラ、エントランス。ユウとアリサ、サクヤやコウタにソーマの五人が話し合っているようだった。
「今日で実戦に出られるのね。良かったわね、アリサ」
「はい、サクヤさん。……その……本当に申し訳ありませんでした」
「ユウ、俺はこの日を待ち望んでいたよ。やっと仕事に身が入る」
「……お前はいつも身が入ってないだろ」
「ソ、ソーマ……コウタが相手だからいいけど他の人に言っちゃダメだよ」
「おい! ユウ、それはどういう意味だッ!!」
笑い声が通い合い、アリサも笑顔を浮かばせていた。彼女が復帰してから大分日にちが経った。周りも以前のように彼女を受け入れてくれた。おかげで第一部隊は一つもいさかいを起こすことは無く、ユウもサクヤもコウタも、顔には出してはいないがきっとソーマも安堵しているはずだ。
五人がまだ談笑していると、エントランスのエレベーターからツバキが現れた。
「貴様ら! 新しい仕事だ!」
「ツバキさん……もしかしてリンドウが……」
「いや、奴は見つかっていない。復帰直後のアリサにはつらいだろうがヴァジュラの新種が発見された」
「それって僕らを襲った奴ですか?」
「ああ。リンドウを行方不明にさせた奴だ」
「リンドウさんを……私にも行かせてもらえますか?」
「ああ。もちろんだ」
新種のヴァジュラ……リンドウを襲い、おそらく作戦行動中死亡に追いやった敵だ。しかし、第一部隊の誰一人として彼が死んだとは思っていなかった。彼は行方不明になっただけで、どこかで生きていると信じていたからだ。
「ま、リンドウさんが死ぬなんてありえないって。ビールの配給日には……」
「ひょっこり帰ってくるかもしれない、か……」
「お、ソーマにしてはわかってんじゃん」
「私語は慎め! 今回の任務にはユウ、アリサ、サクヤ、ソーマの四人で行ってもらう」
「え!? ツバキさん、俺はッ!?」
「コウタ、貴様には別の仕事がある。頼まれてくれるか?」
「どうせ、拒否権はないんでしょ……いいですよ、それが皆のためになるなら!」
五人は、四人と一人に別れて出撃ゲートから出て行った。
★☆★
ヴァジュラ新種、命名『ディアウス・ピター』は漆黒の身体に邪悪な人間の顔を持つ、おぞましいアラガミだ。アリサ曰く、自分の両親を喰ったのはこのアラガミらしい。
ピター討伐部隊の四人は贖罪の街に来ていた。興奮を抑えきれない彼らは現場に着いた途端に高台から飛び降り、四方へ散った。四人が全体を粗方、探し回った頃に作戦開始時間になっていた。
「一体、奴はどこに……もう、私みたいな人を出さないためにも……ッ!!」
アリサは建物の影に身を潜め、銃形態の神機を構えていた。影から顔を出し、周りを確認するとユウがこちらに向かって歩いてきている。彼は気づいていないようだが、彼の背後の建物にピターが陣取っていた。ピターは姿勢を低くし、彼を狙っていた。その時、彼女に、またあの記憶が蘇っていた。
『こいつらが君の敵、アラガミだよ』
「嫌……違う……リンドウさんじゃない……」
幼い日のアリサはオオグルマ医師にアラガミを見せてもらっていた。しかし、彼女の中ではアラガミがリンドウへと変わっていた。彼女が頭を抱え、塞ぎこんでいると、こちらに気づいたユウが彼女に向かって走り出した。しかし、彼の背後ではピターが跳躍をし、彼に襲い掛かろうとしていた。
アリサの中ではリンドウを失った罪悪感よりもユウを失う悲しさの方が大きいのだろう。彼女は全てを振り払い、神機を手に取り、ユウに向かって構える。
「伏せてぇぇぇえええ!!!」
「んなッ!?」
ユウが回避行動を取ったと同時にアリサは引き金を引いた。銃口から打ち出された弾丸は大きく湾曲し、彼の真後ろに迫っていたピターに直撃した。敵がひるんでいる内にユウはその場に座り込んでいるアリサの元に駆け寄り、彼女を自分の背後に隠す。
「サクヤさん、ソーマ!! 集まってください!! 敵、補足ッ!!!」
『わかったわ。けど、アリサは大丈夫?』
「はい、なんとか。今は少し、戦う意欲を削られているだけです」
『その場所だったら俺が近いな。今すぐ向かう』
ユウは通信を切るとピターに向き直る。彼の目元は前髪のせいで見えないが、きっと怒りに満ちた目だろう。アリサに悲運を与えたこと、リンドウを行方不明にさせたこと。その全てに怒りを覚えている。しかし、矛先は自分だった。何一つとして守りきれなかった自分の弱さが腹立たしい。
「アリサ……後はもう、手を貸さない。自分で立ち上がってみなよ」
「ユ……ウ……?」
「このアラガミを倒して、僕は僕自身にけじめをつけるッ!!!!」
ユウは神機の柄を握る手に力を込める。柄からはミチミチと音がする。今にも壊れそうなほどに。彼は両手を柄に構え、剣先を前に突き出す。この独特の構えは『ゼロ・スタンス』と呼ばれている。彼は居合斬りをするときに構える。
「死ィッ!!」
彼はハッキリとした残像を残し、駆けた。
★☆★
ユウがピターと互角の戦いを繰り広げている途中にいつの間にかサクヤとソーマが到着し、三対一の戦いが始まった。
ピターは目の前にいくつかの雷球を出現させ、雄たけびを上げる。直後、球は凄まじい速度で三人に向かって飛来する。しかし、その全てをソーマは神機で切りつけ、かき消した。彼はそのまま神機を真上に真っ直ぐ、構えた。ユウはその神機を踏み台にし、高く跳躍した。空中で剣を構え、思い切り振り下ろす。
「っく……」
「ギャゥォォオオオオ!!!」
ピターは片手でユウの剣戟を受け止める。しばらく競合いが続いた後、ユウは神機を離し、敵の手を踏みつけ、大きく後退する。直後、油断していたピターに無数のレーザー弾が直撃する。凄まじい爆煙が立ち込めたと同時にユウは着地していた。
「……っと。流石、サクヤさん。とんでもない量ですね」
「あら、そう言ってもらえると嬉しいわ」
「二人とも、気を引き締めろ」
爆煙が立ち込めてからしばらく経った後、煙を晴らしながら雷球が飛んできた。しかし、球は一つで、三人は少し下がっただけだった。球が地面に着弾した瞬間、凄まじい爆発が引き起こった。それこそ、サクヤの放った弾丸の爆煙よりも大きかった。
「ぐぉあぁあああああああ!!!」
「キャァァアアアアアア!!」
「……ッグ!!!」
爆発の衝撃で三人は吹き飛ばされ、建物や崖に叩きつけられる。ピターにも恨みはあったのだろう。ピターは叩きつけられて動けずにいるユウに向かってきた。そして、彼に尻尾で巻きつけ、振り上げる。直後、思い切り地面に叩き付けた。そしてまた、持ち上げ、叩き付ける、持ち上げ、叩き付ける。その動きを何往復もしていたというのにサクヤとソーマは爆発をもろに受け、身体が言うことを聞かなかった。
「クッ……ソッ!! ユウ……」
「新人……クン……」
このとき、ユウは最早抗う力を残していなかった。
――やっぱり僕は弱かった。
『諦めるのか?』
――仕方ないじゃないか。敵の方が強かった、それだけだよ。
『それを乗り越えてこそじゃないのか』
――僕には何も守れないよ。
『情けねぇなぁ。さっさと背中を預けられるくらいになってくれよ』
――君は……あなたは……もしかして?
『ふん、ほら行ってこい。新入り』
ユウは閉じかけていた目を見開いた。そして、地面に叩きつけられた瞬間に地面に片手の爪を立てる。指を閉じる力のみで身体を固定する。
「……
ユウの爪は剥がれ落ち、手の皮もめくれている。血が吹き出してくる。もう、身体を固定できるほどの握力はない。また、持ち上げられ、叩きつけられるの繰り返しになってしまう。もうダメだ、と彼は決心した。その時だった。
「ユウゥゥゥゥウウウウ!!!!」
ユウの霞む視界に赤い神機を手にした少女がこちらに向かって駆けて来た。
「アリ……サ……」
アリサは身体を縦回転し、剣を振り下げた。ユウに巻きつけている尻尾を切り裂いた。拘束から開放されたユウは尻尾を振り払いながら飛んで行った。アリサは彼の元に跳躍し、空中で彼を抱えた。そのまま着地し、彼を寝かす。
「アリサ……ありがと……ね……」
「酷い格好ですね……ここで寝ていてください」
「アハハッ……男が女の子にこんな格好見せるなんてね……」
ユウが弱々しく笑ってみせるとアリサは柔らかなを微笑みを見せた。そして、彼女は立ち上がると敵に向き直る。
「絶対に許さないッ!! 弱い私もッ!! アラガミもッ!!!!」
アリサはユウに背中を見せると駆けていった。
★☆★
「終わった……のね」
「終わったか……」
「ユウッ! ユウッ!! 大丈夫ですか!?」
ユウの目は虚ろで、息も細く、絶え絶えだった。制服の数箇所が小さく破れ、土にまみれている。アリサは彼の元に駆け寄った。そして、そのままそっと彼の手を取る。
「アリサ……終わった……のかな……?」
「はいっ! はいっ!! 終わりましたよッ!!」
アリサは目じりに涙を溜め、彼の手を自分の頬に持っていく。そっと自分の温かみを伝えるように手を包み込む。
「僕……は……大丈夫だから……神機使いはヤワじゃ……な……ぃ……」
ユウの息は深くなり、意識を失った。
20話で結構、長くなりましたね。
まぁ、区切りのいい話数なので長くてもいいかもしれないですね。
さぁ~(ニヤニヤ
今度はユウがアリサに看病してもらうかもしれないですね~(ニマニマ