天稟のローズマリー   作:ビニール紐

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遅くなりました。すいませんオーバーロードのSSが面白くてつい(目を逸らす)


第12話

「ギ、ギヒャ」

 

「うーむ、また失敗か」

 

手術台に拘束された実験体を見ながらダーエは唸った。ローズマリーが意識を取り戻してちょうど一年、その間、覚醒者を使って作る新たな戦士の研究を続けていたのだが、ダーエは未だに良い成果が上げられないでいた。

 

「一体なにが足りない? 何故、こいつらは食う事しか考えられぬ怪物となる? いや、それよりも何故ローズマリーは意識を保っていられる?」

 

自問の様な問い掛け、それにダーエと同じ研究員のグリムが答えた。

 

「不明だ。こいつらとローズマリーは同様の処置をしている。やはり、肉体面ではなくもっと別の要因があるのではないか?」

 

「まさか精神力などと言うつもりか?」

 

「理由としは考えられるな」

 

「……出来ればそんなつまらん理由であって欲しくはないな」

 

若干苦々しい口調のダーエ、そんな彼を見てグリムは苦笑を浮かべた。

 

「はは、確かにそんな不鮮明な理由は困る、だがこれだけ隅々まで調べても出でこないのだ、案外正しいかも知れんぞ?」

 

「はぁ、そうでない事を願おう」

 

ダーエは溜息を吐きレバーを下げる。すると手術台に設置されていたギロチンが勢い良く落ち失敗作の首を斬り落とす。

 

そのダーエの行動にグリムが狼狽えた。

 

「お、おいダーエ」

 

「騒ぐな」

 

ダーエは慌てるグリムを手で制し、失敗作の頭を髪を持って持ち上げる。

 

首をはねられたにも関わらず、失敗作は生きていて身体の再生を始めていた。しかし、さすがにダメージが大きいからかその再生速度は通常時より遥かに遅い。

 

そのままダーエは再生途中の生首を持ったまま部屋片隅まで移動、そして生首を床に空いた穴に放り投げた。

 

その穴が繋がるのは地下牢、失敗作専用の保管室である。

 

それを見てグリムはホッと胸を撫で下ろすと同時に危険な行動に出たダーエに食ってかかった。

 

「……ダーエ安全面を考慮しろ、アレの再生速度が予想より早かったら我々は喰われていたぞ」

 

「隅々まで調べたのだろう? ならば問題ないと分かったはずだ」

 

「分かっている。だが、予想外の事態起こり得るものだ、安易な行動は控えてもらいたいな」

 

「くっくっく、お前は肝が小さいな」

 

グリムの発言を軽く流すとダーエは残った失敗作の身体にメスを入れ始める。素早く、そして正確なメス捌き。ダーエは慣れた動きで失敗作の身体から必要なモノを切り取っていく。

 

そんな反省がまるでないマイペースなダーエに怒りを感じるもグリムは溜息を吐き自分を落ち着かせる。ダーエがマイペースなのは今に始まった事ではないのだから。

 

「ところで、こいつらの評価はどうだった?」

 

「高い身体能力に異常な再生能力、戦士と違い全く文句も言わない。最初の捕食対象を絞る条件付けが面倒なのを除けば最高の兵器だそうだ。まあ、その評価は私も同意するね」

 

「なるほど、予想通りの評価か」

 

ダーエはグリムと会話しながらも流れる様に失敗作から必要な臓器を切り取っていく、その技術の高さにグリムは舌を巻いた。性格はアレだが技術面に置いてダーエ以上の研究者はいないだろう。

 

「(はぁ、この性格さえなければな)」

 

グリムは内心で溜息を、漏らすとダーエ同様、失敗作にメスを入れ始めた。

 

そしておそよ一時間。

 

必要なモノを全て取り出すとダーエとグリムは視線を別の手術台に移す。そこには一人の男が眠っていた。

 

「では次の実験に移るか」

 

「そうだな」

 

そう言って二人の研究者は男の身体にメスを入れだした。

 

 

 

 

 

自分はそんなに強くない。覚醒者ーーブランカはそれをよく知っていた。

 

戦士時代のナンバーは25、低くはないが別段高くもない。力はそこそこ、速度もそこそこ、妖気は普通で剣技は未熟、総合的に見て並。そんな普通の戦士だった自分が覚醒したところで本当に強い者には敵わない。

 

それが分かっていたからこそ、覚醒者という強者にカデゴライズされながらブランカは出来るだけひっそりと生きてきたのだ。

 

食事は最低限、他の覚醒者のテリトリーに入らぬように、転々と街を移動し、それでいて組織に目を付けられないように努力していた。

 

 

 

だが、そんな努力も今日で全ては無意味と化した。

 

 

「ガァアアアアア!」

 

叫びを上げてブランカが腕を振る。覚醒により二本から四本に増えた腕が戦士時代には出せなかった速度で “敵” に迫る。

 

だが、敵はーー自分を殺しに来た戦士はまるで焦らない。

 

戦士は冷静な顔で、いや、それどころか憐れみの表情を浮かべ、ブランカの腕を迎撃する。

 

戦士の腕が霞んで消えた。瞬間、鋭い痛みがブランカの腕に走った。

 

「………ッ!」

 

気づけば全ての腕が半ばから切断されていた。あまりの速さに斬撃が全く見えない。

 

「……ヒィ」

 

敵の強大さにブランカは小さく悲鳴を上げると急いで距離を取ろうとする。

 

しかし、次の瞬間、彼女はバランスを崩して地面に倒れ込んだ。

 

何が起こったか理解出来ない。状況が分からないブランカは慌てて立ち上がろうともがく。そこで自分の足いつの間に消えている事に気が付いた。

 

「え?」

 

周囲を見れば直ぐ近くに、自分の下半身がゆらゆらと揺れながら立っている。

 

斬られたのは腕だけではなかったのだ。

 

遅れて腹部から猛烈な痛みが襲い掛かる。そんな激痛に苛まれながら、ブランカは怯えた目で敵を見つめた。

 

戦士はゆっくりと歩きながらブランカに向かう。あまりの恐怖から目を背けるようにブランカは目を伏せた。

 

それは仕方がない事だ。敵はあまりに強大でしかも自身は手足を奪われ逃げる事も戦う事も出来なくなったのだから。

 

ブランカは全てを諦め終わりを待つ。

 

「助かりました」

 

そんなブランカに何を思ったか戦士が声を掛けた。

 

挑発や侮蔑、そんな意図の全くない穏やかな口調だった。

 

その言葉を受け、伏せていた顔を少しだけ上げる。そして彼女は自身に死を告げるだろう戦士へと問い掛けた。

 

「…………」

 

命乞いをするべきか? 攻撃してこない敵を見てそんな考えがブランカの頭に浮かんだ。だが、すぐに意味がないとその考えを斬り捨てる。

 

覚醒者の命乞いを聞く戦士など存在しない。それは元戦士であるブランカ自身がよく知っていた。

 

ならばこの時間にやるべき事は一つだ。

 

「……な、なにが?」

 

会話に応じ、時間を稼ぐ。その間に腕を再生させ油断しているところで不意を撃つ。

 

そんな彼女の意図を知ってか知らずか戦士は攻撃する事もなくブランカに問い掛けた。

 

「なんで、街で暴れなかったんですか?」

 

その質問にブランカはどう答えるか迷う。気に入らない答えなら時間を稼ぐ事も出来ずに斬り殺されかねない。

 

だが、咄嗟にいい答えも浮かばない。それ故、ブランカは素直に事実を話した。

 

「……一刻も早く、逃げたかっただけよ」

 

ブランカは戦士時代から妖気の強さを測ることだけには自信があった。だから狩場である街から即座に逃げたのだ。自分に接近するその戦士が遥か格上の実力者だと分かっていたから。

 

「あなたが化……強いって見る前から分かってた。あなたの妖気を感じた時から自分じゃ勝てないって分かってた。だから急いで逃げ出した、まぁ、結局、逃げ切れなかったんだけどね」

 

そう、自嘲したように、同情を誘うように言うブランカ。そんな彼女に戦士は悲しげな目を向けた。

 

「そうですか、しかし、正直なところもっと街に被害が出ているものかと思いました。あなたは街の人々を不用意に殺さなかったんですね」

 

「一度にいっぱい食べるのが好きじゃないの」

 

「つまり、食事目的以外で殺しはしなかった」

 

「……だったらなに?」

 

「こんな事を言うのもどうかと思いますが。お礼を、ありがとうございます。おかげで犠牲が大きく減りました」

 

「なら、助けてよ」

 

「……それは出来ません」

 

そう、申し訳なさそうに言うと、戦士が上段に大剣を構える。トドメを刺すのは好きではないのか戦闘中にも関わらず戦士は目を瞑っていた。それを見て、ブランカは思った。

 

隙だらけだと。

 

「はぁ、本当についてない、わッ!」

 

バカめ! ブランカは諦めた振りをして会話の間に密かに一本だけ再生させた腕を戦士に放つ。

 

ブランカの腕は真っ直ぐ戦士に突き進み。簡単に避けられた。

 

「あれ?」

 

「さようならブランカさん」

 

戦士が静かにブランカに別れを告げる。それに青ざめブランカは咄嗟に命乞いを口にした。

 

「助け、お願い!」

 

「…………」

 

 

命乞いが成功したかは語るまでもないだろう。

 

あえて結果を言うならばブランカの読みは正しかった。

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

閉じていた目を開き、合わせた手を下す。

 

今日のやり取りは良くなかったかも知れない。ブランカの遺体に黙祷を捧げた戦士ーーローズマリーは、先の戦闘を振り返ってそう思った。

 

足を斬られた時点でブランカは生を諦めていたように見えた。だが、ローズマリーが話し掛けた事により生への執着が再燃してしまった。

 

「……難しいな」

 

どう殺すのがベストなのだろう? 痛みを感じさせる事もなく瞬殺するべきか、しっかり話を聞いてから殺すのが良いのか、ローズマリーには分からなかった。

 

下手に苦しめるのは良くないと思う。だが、瞬殺するのも何か違うと思う。訳も分からない内に死ぬのは嫌だ。瞬殺されるよりは一秒でも長く生きていたいそう思う者も多いはず、ならばあまり痛みを与えずに長い間戦うべきか? だが、それも嬲っているようで違う気がする。

 

この思考は強者故の傲慢かも知れない。だが、それでもローズマリーは思うのだ、殺すならせめて相手が最も望む形で終わりを与えたいと。

 

「……はぁ」

 

見つからぬ答えに溜息を漏らすとローズマリーはブランカの墓を作る為に、地面に差していた大剣を引き抜いた。

 

「ご苦労だったな」

 

そんな彼女の後ろから嗄れた声が上がる。その声にローズマリーはゆっくりと振り返った。

 

そこには顔の片面に酷い火傷を負った男が立っている。組織研究員ダーエだ。更に彼の背後に複数の下級構成員とアガサが無言で立っている。

 

それにローズマリーは驚かない。研究者であるダーエが組織本部から離れるのは珍しい事だが、任務後にダーエが現れるのは最近は見慣れた光景だ。

 

アガサについては予想外だが、彼女が近付いているのはずっと前から妖気で知っていた。

 

そして、ローズマリーは彼等が来た理由も分かっていた。

 

「また、ですか?」

 

嫌そうにローズマリーがダーエに問い掛ける。

 

「ああ、まただ」

 

ローズマリーの問いに軽く答え、ダーエはローズマリーに近づくと彼女の前に横たわるブランカの遺体を品定めする様に観察した。

 

「手足を奪い、綺麗に真っ二つか……状態は悪くないなコレなら使える」

 

「物を見るような目を向けないでくれませんか?」

 

「コレは既に生命活動を行っていない。つまりは物だよ」

 

「…………」

 

そういう言い方はあまり好きではない。ローズマリーは無言で抗議の視線をダーエに送った。

 

「くっくっく、そう睨むな、悪かったよ」

 

ダーエはそう言うもその声にはまるで重みを感じない。本当はこれっぽっちも悪いと思っていないからだろう。

 

そんなダーエの態度にローズマリーは顔を顰めた。

 

「本当に悪いと思っているならしっかりここで供養して欲しいんですがね……殺した私が言える事ではないのですが」

 

「それは出来ない相談だ。身内から出た不始末、そして曲がりなりにも私が作り出した作品だからな……覚醒者の遺体は出来るだけ回収しておきたい」

 

「以前は回収なんてしていなかったでしょう?」

 

「今は必要になった、ただそれだけの話だ」

 

それを聞きローズマリーの顔色が変わる。

 

「まさか、新たなタイプの戦士が完成したんですか?」

 

「それこそまさかだ。お前を除き覚醒者をベースにした戦士の成功例は未だない、だが、失敗作を使った兵器なら完成に近づいている」

 

「失敗作を使った兵器?」

 

血肉に餓えた獣、ただ喰らう事のみを渇望する悪魔。ローズマリーはかつて見た戦士の失敗作を思い出し強く奥歯を噛み締めた。

 

ローズマリーは組織が半妖を作るのにそれ程否定的ではない。妖魔を倒すには半妖化は必要なのは理解している。

 

それに組織で半妖にされる者の大半は身寄りがない少女だ。この世界は10にも満たぬ少女が一人で生きていけるほど優しくは出来ていない。だから生き残る可能性があるならば例え半妖にされても生きていた方がマシ、そうローズマリーは思っている。

 

だが、食欲しかない化物にされるなら話は別だ。何せ改造された時には人の意識も記憶も消し飛んでいる残っているのは抑えきれない食欲だけ。そんな状態になるくらいなら死ぬか覚醒した方が幾分かマシだ。

 

「……戦士にするならまだしも拾ってきた女の子をあんな化物に作り変えるのは流石に許容出来ないんですが」

 

「そう言うな、私も心苦しいのだよ。わざわざ失敗作を作ってしまうのはな」

 

「なら既存の戦士にして下さい」

 

「残念だがそれは出来ない。失敗作とはいえ弱い個体でも一桁ナンバー並の力を有するのだ。しかも訓練に掛ける時間も短く維持コストも低い、その上食欲しかないから条件付けで指示誘導するのが容易のだ。戦士としては失敗作だが兵器としてこれ以上のモノは少ない……との評価を長から貰っている私としては失敗作には変わりはないのだがね」

 

「……兵器として有用なのは分かりました。しかし、そんな兵器が必要なんですか? 妖魔を倒すには過剰戦力でしょう」

 

「そうだな、だが対覚醒者を考えれば過剰戦力でもあるまい。特に深淵の者や元上位ナンバーの覚醒者達を倒すのに役立つはずだ」

 

その言葉にローズマリーはシルヴィを思い出す。

 

シルヴィはとんでもなく強かった。ローズマリーとヒステリアという実質の戦士最強タッグですら破ってみせた実力は既存の戦士が相対するには厳し過ぎるモノだ。

 

そして、深淵の者はそのシルヴィすら上回る。確かに彼等を倒すには化物の力も必要だろう。

 

「まあ、実際は深淵の者を倒すというのは二の次だ。大きな動きを見せない内は組織も深淵を倒そうとは思っていない」

 

「……では、なぜ?」

 

「分からんか? 覚醒者の撲滅の為だ。現在の戦士ではどうしても覚醒者が生まれてしまう。組織はそろそろ覚醒という弊害をなくしたいのだよ」

 

「…………」

 

ローズマリーの顔が歪む。現状を知っている故に反論が難しい。現在の戦士の覚醒率は非常に高いのだ。一応黒の書という制度で覚醒する前に死ぬ方法もあるが、誰だって死にたくはない。

 

それ故、限界を迎えても誰にも報告せず組織が気付いた時には覚醒していたなんて話を聞くし強敵との戦闘中に妖力解放の限界を誤り覚醒したなんて事もザラにある。

 

その点を考えればあの化物を使うのが良いのかも知れない。

 

もっとも化物にされる者からすればたまったものではないが。

 

「……その兵器は覚醒しないんですか?」

 

「以前から調べているが、今のところ覚醒する個体は見つかっていない。そもそも身体の作りからして既存の戦士と違うからな、ある意味、兵器とお前は最初から覚醒していると言える」

 

ダーエの言葉に今まで黙っていたアガサが、やっぱり化物じゃん、と小さく呟くがローズマリーが目をやるとすぐに青い顔で口を噤んだ。

 

「……では私も覚醒しないんですか?」

 

視線をダーエに戻し問い掛ける。その問いにダーエは珍しく苦笑いで肩を竦めた。

 

「成功作はお前のただ一人、それ故まだ覚醒しないとは言い切れない。現在分かっていることはある程度妖力解放すると意識を失い兵器に近い化物になる事、そして一応その状態から戻って来れる事くらいだ」

 

「じゃあ、なぜ戻って来られるかは……」

 

「当然不明だ」

 

「はぁ、そうですよね」

 

ローズマリーはガックリと肩を落とした。まあ、そのメカニズムが分かっていれば今頃、新たな戦士が量産されている事だろう。

 

「それと、お前が許容出来ないといった少女を兵器にする点だが、その点は問題ない」

 

「それはまたどうしてですか?」

 

「くっくっく、要らない人間は何も身寄りのない少女だけではない、戦士には覚醒し難い女をベースに使っていたが元々覚醒しないのにわざわざ女を選ぶ必要はない、兵器に使われる大半は少女ではなく大人の犯罪者だ。大人の方が体力があり改造術に耐え切れる可能性が高いからな」

 

「本当ですか?」

 

「本当だとも」

 

「…………」

 

その話を聞いて良くないと思いつつもローズマリーは安堵してしまう。そしてその感情がダーエに伝わってしまったのだろう彼は口の端を釣り上げた。

 

「とりあえずは納得したか? 納得したならば次の仕事を与えよう」

 

次の任務と聞きローズマリーの顔に緊張が走った。何故ならダーエが持ってくる任務無茶振りが多く、大抵が高難難易度の死亡率が高いモノばかりだからだ。

 

「妖魔退治ですか?」

 

「まさか、覚醒者の討伐だ」

 

「ですよねー」

 

あり得ないと思ったが念の為に聞いてみた。期待はしてない……本当です。ローズマリー内心で誰に言うでもない言い訳を思い浮かべた。

 

そんな彼女を他所にダーエは任務の内容を話し始めた。

 

「先日、ナンバー4霊剣のアデライドが覚醒した。これの討伐に当たれ」

 

一桁上位の覚醒者、それも面識がある相手の討伐命令にローズマリーの顔が引き攣った。

 

「……場所は?」

 

嫌そうに聞くローズマリー、それとは対照的にダーエは楽しそうだ。ダーエの事だどうせ力ある覚醒者の遺体が手に入るのが嬉しいのだろう。

 

「ここより南、コール平原を越えた先の街だ。メンバーは……」

 

「どうせ私一人とか言うんでしょう?」

 

勿体つけたように溜めを作るダーエ。そんな彼の言葉を先回りして、ふてくされたようにローズマリーが言った。

 

元一桁上位の覚醒者の単独討伐、それはまずあり得ない事だ。だがローズマリーの場合そう言い切れないのが悲しいところ。事実、彼女はシルヴィ戦を除いても二度ほど単独討伐の経験があった。

 

「くっくっく、なんだ単独討伐は嫌か?」

 

「もちろん複数がいいです」

 

「そうか……ならそこのアガサを着けよう」

 

それは軽い言葉だった。

 

「え?」

 

ぼとり、何かが地に落ちる音がする。そちらにローズマリーが目を向けと驚愕したようなアガサと目が合った。

 

アガサが血の気が引いた顔でローズマリーとダーエを交互に見る。

 

「アレで良いか?」

 

「もちろんです」

 

ダーエの問いにローズマリーが力強く頷いた。

 

ローズマリーにとって予期せぬ幸運だったのだろう、彼女の顔は嬉しそうだ。

 

一方、予期せぬ不運に見舞われたアガサは、

 

「……え?」

 

もう一度、呆然とした呟きを漏らすのだった。

 




受難の日々が始まります(誰のとは言わない)

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