天稟のローズマリー   作:ビニール紐

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お待たせ………しませんでした?


第18話

「……バカな、この私が…」

 

呆然としたような。

 

「……貴様に…」

 

あり得ない事態が起こったような。

 

「追いつけない…だとッ!?」

 

そんな顔と声色で彼女ーーヒステリアが唖然と呟いた。

 

 

 

 

トランプのスピードで連敗して。

 

「お前ら訓練しろ」

 

まさかの連敗に項垂れるヒステリアと、連勝に当然とばかりに胸を張るテレサ。そんな遊んでばかりの二人にクルトが呆れた声で注意した。

 

ここは組織本部、訓練生達の為の修練場、その中のテレサ専用の部屋だった。

 

そこに任務がなく、ローズマリーが任務中で暇なヒステリアがテレサと遊びに来たのだ。

 

「ヒステリア、お前は何をしにここに来た?」

 

「トランプよ」

 

「おい、ナンバー1のお前がわざわざ本部まで来てする事がソレか? 流麗の名が泣くぞ?」

 

その言葉に項垂れていたヒステリアがテーブルから顔を上げた。

 

「……別にいいでしょ、だって私、もうすぐローズマリーに抜かされるから、ナンバー1じゃなくなるしぃ」

 

遠い目をしながらヒステリアが呟く。その声に力はない、顔はどんよりとやる気を失ったように見える。美しさを意識しているヒステリアらしからぬ珍しい姿だ。

 

しかし、クルトはとってそんなヒステリアの姿よりも、彼女の言葉に驚いた。

 

「………近々ローズマリーがナンバー1になるってのは本当の話なのか?」

 

噂は聞いている。

 

だが、アレがナンバー1? と、クルトは首を捻った。

 

クルトもローズマリーが強いのはよく分かる。

 

しかし、いつものほほんとしているローズマリーと戦士ナンバー1のイメージがまるで合致しないのだ。

 

「……本当よ、今ではローズマリーに回される任務の方が私よりも重要なものが多いし、それにローズマリーの方が私より強いもの……ちょっとだけどね」

 

「まあ、確かに……そうではあるな」

 

クルトはここ最近のテレサとヒステリアの模擬戦、そして、テレサとローズマリーの模擬戦の勝率を比べて頷いた。実際、模擬戦の勝率はローズマリーの方が上である。

 

だが、それでもローズマリーにナンバー1という地位は似合わないように思えた。

 

なんというかクルトの中ではローズマリーは誰かを補助する、縁の下の力持ちというイメージが強い。

 

ナンバー1にしてはプライドというか我が薄く、戦士達を引っ張っていける気もしない。

 

そう、ローズマリーはリーダーに向かない性格のだ。

 

「だが、やはりアレがナンバー1というのは違和感を感じるな」

 

ナンバー1ローズマリーを想像して微妙な顔をするクルト。

 

「……それは私もよ、でも組織がそう決めたんだからしょうがないでしょ」

 

拗ねたようにヒステリアが言う。彼女はテーブルの横に置いた皮袋をゴソゴソと漁ると、中から安酒を取り出しおもむろにそれを煽り出した。

 

「昼からお酒ぇ? ……まあ、確かに、お姉ちゃんが強いのは確かだけど、行くぞ〜! ってみんなを引っ張って行くよりは、行く? って聞いてくるイメージがあるね」

 

ナンバー1が似合わないと思うのは一緒なのか、自棄酒を飲み始めたヒステリアに呆れつつも、テレサは二人の言葉を肯定した。

 

「正にそれだな。あいつはみんなを引っ張るよりも、引っ張ってもらうイメージが強い」

 

「うん、誰かに指示を出すのが苦手そうだよね。でも、大丈夫じゃない。お姉ちゃんなら大抵の任務を一人でパッとこなせるでしょ、ね、ヒステリアさん」

 

「……まあ、そうなんだけどね」

 

テレサの問いを、渋々といった様子でヒステリアが肯定した。現ナンバー1の彼女は知っているのだ。ナンバー1にはカリスマもリーダーシップも、そして、協調性すらも必要ない事を。

 

実際の所、ナンバー1に必要なのは強さだけだ。どんな敵でも斬り殺せる圧倒的な戦闘力、クレイモアのトップに求められるのはそれだけなのだ。

 

その点で見ればローズマリーは全く問題ない。全戦士中、歴代五指に入ると言われるヒステリアより実力が上なのだこれでナンバー1に相応しくないと言った日にはナンバー1になれる者など居なくなってしまう。

 

 

ーーここにいるテレサを除いて。

 

「…………」

 

ヒステリアは酒を片手にテーブルに寝そべりながらテレサを見上げた。

 

この一年でテレサは大きく成長した。身長が伸び、幼く感じた顔立ちも女性のそれに近付き始め、胸の膨らみもだいぶ大きくなった。出会った当初と比べ支給される服のサイズもふた回りは大きくなっている。

 

そして、その実力はあのローズマリーさえ寄せ付けないようになりつつあった。

 

「(……これが戦士になったら私はナンバー3か)」

 

「な、なに?」

 

じっと自分を見つめるヒステリアにテレサが居心地悪そうに聞く。それに溜息を吐き、なんでもないと言うと酒一気に飲み干した。

 

「……模擬戦でもしましょうか、今回は金眼まで妖力解放有りで」

 

「え〜妖力解放とかヤダ。危ないよ? ……主にヒステリアさんが」

 

「誰にものを言ってるのかしら?」

 

「もちろん、時期ナンバー “2” のヒステリアさんです」

 

ピシリとヒステリアの額に青筋が浮かぶ。

 

「……ふ、ふふふ、上等よ……泣かせであげる」

 

「ヒステリアさんには無理だと思うなぁ」

 

そう言って二人は大剣片手に椅子を立った。それを呆れた顔でクルトが見送る。

 

三人はいつも通りの日常を過ごしていた。

 

 

ローズマリーの危機など露知らずに。

 

 

 

 

 

「ほぉ、つまり、お前はローズマリーを囮に逃げた……という事か?」

 

「い、いえ、決してそういう訳では」

 

石造りの椅子が平行に並ぶ大広間、そこで組織の長ーーリムトと幾人かの幹部の前でアガサが縮こまって答えた。

 

なんとか死地から逃げ帰ったアガサだが、それで、めでたしめでたし…とは行かなかったのだ。

 

「私が居てもローズマリーの邪魔になりますし」

 

嘘ではなく、本当にアガサはそう思っている。

 

「お前とローズマリーはナンバーが一つしか違わない筈だが?」

 

だが、リムトの同意は得られなかった。彼はローズマリーとアガサの間に共に戦うと足手纏いになるほどの力量差が有るとは思っていなかった。

 

「ま、まぁ。確かに」

そして、それもある意味事実である

 

共に戦えば力に成らずとも足手纏いにはならなかっただろう。

 

しかし、足手纏いは別に居たのだ。

 

「ですが、彼女からこの子を託されまして……はい」

 

冷や汗を流しながら、アガサは隣に立つ少女を指差す。

 

少女は状況が分かっていないのか、はたまた元から興味がないのか思考の読めない無表情で佇んでいる。

 

「……」

 

そんな少女を一瞥したリムト、彼はすぐに視線をアガサに戻すと手を組んで彼女に問い掛けた。

 

「……それが理由で、深淵をローズマリーに任せ逃げて来たという訳か?」

 

「…ま、まあ、端的に、言えば……」( )

 

リムトの質問に、アガサは一度プルリと震えると、消え入りそうなほど小さな声で肯定した。

 

「……ではアデライドはどうなった?」

 

「ふ、不明です」

 

「…………」

 

小さくなるアガサ、そのアガサの様子をジッと見た後、リムトは小さく息を吐いた。

 

「……まあ、良い。深淵が出現してしまっては任務の続行は不可能か……ダーエ」

 

「はい」

 

リムトの言葉にアガサの後方に居たダーエが応えた。

 

「ローズマリーが生存している確率はどれくらいと見る?」

 

「生存率は七割…といったところでしょう」

 

「ほぅ」

 

ダーエの言葉にリムトは感嘆の息を漏らした。歴代のナンバー1と比べてもローズマリーの実力がすば抜けていると分かったからだ。

 

「一人で深淵を相手取り、アガサが逃げる時間を稼いだ上でそれだけ可能性があるのか?」

 

「はい、ローズマリーならば」

 

「優秀だな……では、回収班が必要か?」

 

「不要ですな、生きていればどんな傷を負おうと問題ない筈、自分の足で帰って来るでしょう」

 

「そうか……ならば後はローズマリー本人に任せよう」

 

その時、コツンと石を踏む音と共に、一つの影が大広間に現れる。

 

黒い帽子に黒眼鏡をした胡散臭い男。

 

「おや、お話中でしたか?」

 

そう、ルヴルだ。彼は薄い笑みを浮かべ、リムトに話し掛けた。

 

「ルヴル、戻っていたのか」

 

「はい、お久しぶりです長」

 

「挨拶は良い、それより報告を聞きたい」

 

「分かりました……しかし」

 

そう言ってルヴルがアガサと少女を見た。

 

「ああ、そうだったな……アガサ」

 

「は、はい!」

 

「もう行っていいぞ、新たな任務が出来たら追って伝える」

 

「はい、あ、あの、降格とかは、ないんですか?」

 

「ない」

 

「そ、そうですか……え、マジで? ……逆に困るんですけど( )

 

「何か、言ったか?」

 

リムトがアガサに尋ねる、その視線に怒りは含まれていない、だが、アガサは強い悪寒を感じた。

 

何故なら、リムトの目が、まるで、ゴミ箱に捨てる予定の不要品を見ているような、無機質なモノに見えたからだ。

 

「い、いえ、なんでもありませ〜ん! 失礼しました!」

 

アガサはリムトの視線を恐れ、慌てたように少女の手を引くと、大広間から逃げるように出て行った。

 

ーー実の所。

 

「…………あんな小心だったか?」

 

アガサが感じた悪寒は気の所為だった。

 

リムトとしては、今のは「もういいからここから出て行け」というニュアンスのつもりで送った視線だったのだ。故にそれに過剰反応したアガサにリムトは首を傾げる。

 

別にリムトはアガサを要らないとは思っていない。むしろ、それなりに必要と考えている。でなければ彼女にナンバー3を与えるような事をする訳がない。

 

そう、リムトは無駄な事はしないのだから。

 

しかし、表情も声色も殆ど変えぬリムトの感情はとても読み辛い、故に彼の考えを読み間違える者は何処にでも現れる。

 

その一人がダーエだ。

 

「リムト様、アガサが不要でしたら実験に使いたいので欲しいのですが」

 

ダーエは怪しい笑みを浮かべ、ストレートに要らないならくれ、とリムトに要求。完全に彼もリムトの視線を深読みしたらしい。

 

「(分かり辛かったか?)」

 

リムトはそう思考し、すぐに首を振る。

 

「(……いや、コイツは違うか)」

 

ダーエはリムトの感情を読めなかったのではなく、純粋に実験体が欲しかった故に都合よく解釈しただけだろう。

 

それに気付いたリムトは溜息を吐く。

 

「はぁ、誰が不要と言った? アレでもアガサはナンバー3だ、もう少し大事に扱え……そんな事より本題に入るぞ……本国の様子はどうだったルヴル?」

 

リムトは残念と肩を竦めるダーエを無視し、ルヴルに問い掛けた。

 

「戦況は大分盛り返しておりましたよ、“龍喰いの戦士達” が思いの外……いえ、素晴らしい働きをしているようで」

 

そう、ルヴルが言った。困るんだけどね、と内心で付け足して。

 

「アレは戦士とは言わん。獣、あるいはただの兵器だ」

 

「くくく、確かに、刷り込まれた敵をただ喰い散らかすアレはあまりに獣、戦士とはとても呼べないシロモノでしたな……しかし、本国では彼等をそう言って重宝しております」

 

「……ただ龍の末裔のみを喰らう兵器、確かに重宝されて同然か」

 

「はい、再生能力も覚醒者以上で、その上、条件付けすれば人には襲い掛かって来ませんから……向こうで作られる主流も既にただ戦士から龍喰いの戦士に置き換わっております」

 

「……本国はなにか言っていたか?」

 

「今度は覚醒しない戦士を作れと言っておりました」

 

「覚醒しない戦士?」

 

リムトが眉をひそめる。今まで求められた事と全く別の内容だったからだ。

 

「はい、龍の末裔に対する戦力は龍喰い一本に絞り、これからは通常の……龍の末裔以外の敵と戦う強く、そして従順な扱い易い戦士が欲しいと言っておりました」

 

「ふん、あっさりと要求を変えおって」

 

リムトは本国の掌返しのような要求に悪態をつく、覚醒しない戦士なら簡単に作れると思っているのか? と。

 

「……ダーエ、現状の技術で覚醒しない戦士は作成は可能か?」

 

「戦闘力を落として良いならば今すぐにでも可能です」

 

その問いにダーエは断言で返す。だが、その顔はイマイチつまらなそうだった。どうにも彼の趣味には合わない研究らしい。

 

「落ちる戦闘力はどのくらいだ?」

 

「そうですな……普通の戦士と “色付き” 程の差かと、戦士てして考えれば弱小も良いところですが、まあ、それでも人間相手には十分でしょう」

 

「…………」

 

その答えにリムトは僅かに考えてから、首を振った。

 

「………そうか、失敗作レベルの戦闘力か…流石にそれは許容出来ない。龍の末裔程ではなくとも向こうには人を超えた力を持つ種族が居る、最低そいつらより確実に強くなければ使い物にならん」

 

「ふむ、そうなると今、作成する事は難しいですな、研究しても出来るかどうか……むしろ人の意識を持った覚醒者か龍喰いを作る方が簡単やも知れません」

 

そう、どこか含みがあるように言うダーエ。どうやら何かあるらしい。

 

「……その言い方、研究に何か進展があったのか?」

 

「くっくっくっ、いえ、まだ何も……ただローズマリーの経歴を改めて少々気になる事が浮上しまして」

 

「気になること?」

 

「はい、それにつきまして、少々やりたい事がありますので、必要な物とリムト様の許可を頂きたいのですが?」

 

「物はなんだ……そして、なんの許可だ?」

 

面倒事は起こすなよ。無表情ながらリムトの雰囲気はそう言っている。それを分かっているのか? ダーエは全く安心出来ない怪し気な笑みを浮かべ頷いた。

 

「なに、そうコストの掛かるモノでも、危険な事でもありません」

 

ーーただ。

 

 

 

 

「三組ほど、親子を攫って来て頂けますか……あと、覚醒者を作る許可を」

 

そう言うダーエの表情は玩具を強請る子供のように無邪気なものだった。

 

 

 

 

 

 

優しく揺られる感覚に意識が浮上する。

 

視界がぼやける、息が苦しい。ローズマリーは反射的に呼吸。すると不快感が彼女の鼻と喉を襲った。

 

「ん…ゴボっ!?」

 

口と鼻に進入してきた塩辛い水。それに驚きローズマリーは完全に覚醒した。

 

気付けばそこは海面で、知らぬ間に、ローズマリーは波に揺られ、流されていたのだ。

 

「…ガボ…ゴフ…」

 

涙目で咳き込み、器官に入った海水を吐き出すと、ローズマリーは立ち泳ぎで身体を安定させながら周りを見渡した。

 

前を見る……海。

 

右を見る……海。

 

左も見る……海。

 

後ろを見る……やっぱり海。

 

 

目前に広がるのは広大な海原だけだった。

 

「…………」

 

起きて早々ローズマリーは途方に暮れる。どこにも陸地が見当たらないからだ。

 

「……なんで、こんな所に?」

 

ローズマリーは何が起こって、海の、それもこんな沖合に居るのか記憶を探る。

 

理由はすぐに思い出せた。

 

「……そうだ、確か黒い女の子に」

 

そう、異常に強い、どこかリフルに似た、黒い少女型の覚醒者に敗北した結果だった。

 

「…………」

 

それを思い出し、ローズマリーは寒気を覚える。

 

あの少女型の覚醒者は明らかに今までの覚醒者から逸脱していた。

 

ルシエラ、リフルと立て続けに深淵の者と遭遇、交戦したがアレは桁違い。もはや意味不明なレベルの強さだった。

 

「……ヤバかったな」

 

ローズマリーは我が身を抱きながら呟いた。

 

本当に相対した時はその異質な存在感から来る恐怖で動けなかった程だ。もう二度と会いたくはない。

 

「はぁ、この頃、嫌な事が多いな」

 

喰われそうになったり、殺されそうになったり、そして、自分の感覚が、おかしくなったりと本当についていない。

 

ローズマリーは海面に漂いながら日が傾き始めた空を眺めた。

 

「……クレイモアなんて、やめちゃおうかな?」

 

赤くなり始めた空を見上げて、そんな無意味な独り言を言う、ローズマリー。

 

なぜ無意味かと言うと、クレイモアは止められないからだ。

 

彼女達は戦士となった時から戦いの果てに人のまま死ぬか、限界を迎え人として(・・・・)死ぬかの二択しかない。

 

転職なんて出来ないし、それが嫌で逃げれば、粛清に合う。

 

そして、当然それはローズマリーも同様だ。

 

ローズマリーは強いが最強ではない。追っ手にテレサなんて寄越された日には逃げ回っても数分で敗北する自信がある。

 

そして、それ以上にローズマリーは仲間に剣など向けたくないし、向けられたくない。

 

ローズマリー程の戦士が離反すれば、当然それ相応の追っ手がかかる。その相応の追っ手こそヒステリアとテレサだ。

 

二人の内、必ずどちらかはローズマリー粛清のメンバーに入る。彼女達と殺し合うなど冗談ではない。きっと彼女達も望まない筈だ。

 

だから自ずと選択は決まる。ローズマリーはこれからも戦士として生きていく、戦士として、死ぬか、人を止めるその日まで。

 

「……はぁ、なんだかなぁ」

 

微妙な気分になったローズマリーは気分を紛らわせる為、そして此処がどこなのかを知る為に周りの妖気を探り始めた。

 

だが、どの方向からも妖気は感じない、先ほど見回した時に予想はついたが、どうやら陸地からかなり離れてしまったようだ。

 

「……ふふ、この歳になって迷子とは」

 

ローズマリーは自分の現状に苦笑。

 

だが、笑っている場合ではない。もうすぐ日が落ちる。出来れば夜になる前に陸地を見つけたい。

 

「………すぅ」

その為に、ローズマリーは大きく息を吸い、海中へと潜る。

 

日の光が弱まってきたせいか、海の中はそれ程澄んではいなかった。

 

だが、ローズマリーの瞳になら問題なく見える。事実、彼女の目は海中を自由に泳ぎ回る色とりどりの小魚と、その小魚を喰らう大きな魚を捉えていた。

 

「(……サメとかいないよね?)」

 

小魚が食べられる光景を見て自分がサメに食われる嫌な想像してしまったローズマリー。急に現状が怖くなった。

 

「…………」

 

ローズマリーは不安な気持ちを振り払い下へ下へと海を潜る。水圧の変化で少し耳に違和感、耳抜きでそれを緩和し海底へと到達、そこで彼女はある程度息を吐き浮力を弱めると、膝を曲げ海底を蹴った。

 

グン、と砂を巻き上げ、海水を押しのけるようにローズマリーが加速する。彼女は速度を上げる為、ドルフィンキックで水を蹴る。

 

すると、そこで身体に違和感を感じた。

 

「(あれ、動きが鈍い?)」

 

現状、ローズマリーの速力はそこらの魚にだって勝てるレベル。決して人では出せない程の高速だ。

 

しかし、それでもローズマリーの予想よりだいぶ遅く、思ったように速度が上がらない。

 

「(……妖力解放の影響が残ってるのかな?)」

 

取り敢えず、ローズマリーはこの違和感を放置する。以前もあった事だし、今は現状をどうにかするのが先決だからだ。

 

ローズマリーは高速で水面へ。そのままの勢いで彼女はイルカのように大ジャンプ、視界が波で邪魔されない位置まで飛ぶと、周囲を、もう一度ぐるりと見回した。

 

「……ん!」

 

そして、見つけた左方向に、緑の点……おそらく島だ。

 

島を確認した事で、現状に対する不安が少し晴れる。

 

それと同時に最高点から落下を始めたローズマリー、彼女は着水の前に空中で身を捻ると、腹を水面で打たないように頭を下げようとする。

 

だが、やはりその動きはいつも程のキレがない。その為に、頭を下げるのがかなりギリギリになった。

 

「……ふぅ」

 

それ故に間に合った事に安堵したローズマリー、彼女の視線が海へと向かう。グングンと近づく水面、そこに向かってローズマリーは頭からダイブ。

 

 

 

 

ーーする直前に巨大なサメのような魚が海から顔を出した。

 

手が届きそうな至近距離でローズマリーとサメの視線が交差。

 

「……うぇ?」

 

ローズマリーが変な声を出し落下の姿勢で固まった。

 

だが、そんなローズマリーを気にもせず、サメはイタダキマスと言わんばかりの大口を開けて落下してきた彼女をキャッチ。

 

そのままローズマリーを一飲みで腹に収めると海の底へ消えて行った。

 

 

 

 

 

 




海は怖い……ファンタシー世界は特に。

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