……ただ、メインの方が書けてない(汗)
研ぎ澄まされた斬撃が妖魔の頭を両断する。
「ギャ?」
疑問の声を上げ絶命する妖魔。
速すぎる剣閃に自分が斬られたと理解出来なかったのだ。
力なく、妖魔は地に倒れ伏す。それを見届けローズマリーは大剣を仕舞うと恐る恐る様子を見ていた村長達に声をかけた。
「仕事は完了いたしました、代金は後から来る黒服の男に渡して下さい……あ、人相はこんな感じです」
そう言ってローズマリーはリュックから一枚の紙を取り出した。それは、この地で金を回収する組織構成員の似顔絵だ。
組織の情報をバラすのはあまり良い行動ではない。しかし、最近、クレイモア詐欺が横行しており、街と組織の間でトラブルが増えている。
これは『後から黒服を着た者が回収しに来る』とだけしか言わない組織が原因であり、街側の非は薄い。
それゆえローズマリーはわざわざ似顔絵を作り、街が詐欺に合わないよう気を使っているのだ。
「こ、この者の誰かに支払えばいいのですね」
村長は目を白黒させて似顔絵とローズマリーを交互に見る。それに苦笑し頷くとローズマリーは地に転がる妖魔の死体を担ぎ上げた。
「あの、何を?」
「死体の処理です、もしかして、そちらでなさいますか?」
「め、滅相もない! やって下さるなら願ってもないことです」
村長はローズマリーの言葉を慌てて否定する。
「分かりました。では、私はこれで。くれぐれもお金を渡す相手をお間違えにならないようお願いします」
それだけ言うとローズマリーは踵を返し街を後にした。
「お前は妖魔にまで墓を作るのか?」
そう、呆れたようにルヴルが言った。
ルヴルの視線の先には自作の墓に手を合わせるローズマリー。彼女は目を閉じて静かに黙祷を捧げた後にルヴルに振り返った。
「……これは妖魔の墓ではありませんよ」
「では、なんだと言うんだ、そこに埋まっているのは妖魔だろう?」
「違いますよ、これは妖魔に成り代わられてしまった方のお墓です。妖魔に襲われた方はお墓は作ってもらえますが、妖魔に成り代わられた方は作ってもらえませんので」
そう、ローズマリーは悲しげに言う。それを見てルヴルは相変わらず変わった奴だと肩を竦めた。
「なるほど、確かにそいつの墓は作ってもらえまい、だが、それにしてもお前は戦士のくせに聖女みたいな奴だな」
「聖女、私がですか? はは、私が聖女ならこの世界は聖女だらけになってしまいますよ」
「それもそうか」
ルヴルは肩を竦め、ローズマリーに背を向ける。
「あれ、帰るんですか? てっきり次の任務を告げに来たのかと思ったのですが?」
「なに、ここに来たのは金の回収のついでだ。今は特に任務はない」
「そうですか、じゃあ、休暇ということでいいですか?」
「ああ、構わない。ただし、いつも通り2日に一度は所定の街で組織に連絡を入れろ、それ以外は自由にしていい」
それだけ言ってルヴルは去って行った。
「…………」
一人残されたローズマリーは、もう一度墓に手を合わると、静かにその場を後にするのだった。
意外なことにクレイモアには休みが多い。
彼女達の主な仕事は妖魔(覚醒者)退治である。しかし、妖魔を退治するのは基本依頼を受けて初めて行われ、自発的に退治することは殆どない。
そして、妖魔退治でクレイモアを呼ぶと莫大な費用が掛かる上、クレイモア自体が半妖と言うことで嫌悪されておりギリギリまで呼ばれることがない。
その為、クレイモアには休みが多いのだ。
大地を踏みしめローズマリーが疾走する。
走り出して数時間、名馬の数倍の速度を維持しながら彼女はひたすら突き進む。
この地は既にローズマリーの管轄外、それでも彼女は走り続ける。
そして、ローズマリーはある山の中腹、壊れた柵の前で足を止めた。
「はあ、はぁ…はぁ………」
ゆっくりと乱れた息を整え、ローズマリーは背負った大剣とリュックを下ろす。
なぜそんな場所に荷物を置くのか?
それは、ここから先にクレイモアとしての自分を連れて行きたくないからだ。
今だけは半妖の戦士ではなく、ただ、一人の人間としてローズマリーはありたかったのだ。
「…………」
ローズマリーの眼前に見えるのは朽ちた多数の廃屋。
そこがローズマリーの生まれ故郷だった。
朽ちた柵を越え、荒れた道を歩く。
冷え切った空気がローズマリーの頬を撫でた。別に気温が低い訳ではない、ただ精神的に冷たく感じるのだ。
「…………」
壊れた空家の数々には生活の後が見受けられる。
そが無性に悲しくてローズマリーは廃墟から目を逸らした。
「…………」
かつてローズマリーが妹と遊んだ広場は草がぼうぼうに生え、今ではただ草むらと化している。
「…………」
無言で元広場を突っ切り、ローズマリーは面影廃村の片隅、木で作られた十字が立ち並ぶ村民達の墓地へ到着。
やはりここにも生えていた大量の雑草を墓の周りだけ引き抜くと、墓地の前でローズマリーは跪き静かに手を合わせた。
日頃から繰り返された為だろう。その姿は自然でありながら名画のように美しい。
そしてローズマリーは一分間、ただ静かに黙祷を捧げると、その瞼を開き、祈りの姿勢のまま、背後に小さく語りかけた。
「……なにか、ご用ですか?」
「ごめんね、邪魔するつもりはなかったのだけど」
ローズマリーの言葉に複数ある三つ編みの一本をバツ悪そうに弄りながら一人の女性ーーいや、クレイモアがそう応えた。
「いえ、もう終わりましたので大丈夫です。むしろ、声をかけるのを待ってくれたことを感謝します」
そう答え、立ち上がると、ローズマリーは後ろを振り返った。
ローズマリーはしばらく前から自分が追跡されていると知っていた。そして、長時間、自分の疾走についてこられる者が早々いないこともローズマリーは理解していた。
妖気感知はそれほど得意ではないローズマリーだが、これだけ近ければ分かる、彼女の底知れぬ強大な妖気が。
覚醒者ではない、だが、間違いなく自分が今まで出会った者の中で最強だ。以前会った事があるナンバー2の戦士、鮮血のアガサやナンバー3の戦士、霊剣のアデライドも彼女には遠く及ぶまい。
ならば答えは一つ。
彼女の名前はおそらくーー
「初めまして、もしかして、あなたが流麗のヒステリアさんですか?」
そう、流麗のヒステリアだ。
『流麗のヒステリア』
現ナンバー1の戦士。そして歴代ナンバー1の中でも屈指の実力者。
その戦い方は流麗の二つ名が示す通り、華麗で繊細、今まで生まれたどんな戦士より美しい戦い方をすると謳われるクレイモアだ。
「あらあら、私の事知ってるの?」
「もちろんです、あなたはとても有名ですから」
「そう、でもあなたも有名よ、天稟のローズマリー、戦士になってたった半年でナンバー4まで上り詰めた天才、アガサとアデライドが戦々恐々としてたわ、いつ自分のナンバーを奪われるかってね」
ヒステリアの言葉にローズマリーは顔を顰めた。
「戦々恐々だなんて大袈裟な」
「大袈裟かしら、私が見たところ、既にあなたは二人の実力を超えているように見えるのだけど、なんでまだナンバー4なの?」
ヒステリアの読みは正しい。
身体能力、妖気、技量でローズマリーはアガサとアデライドを超えている。特に妖気と身体能力は遥かに上。
彼女が二人に劣るのは戦闘経験のみ、まだまだ発展途上のローズマリーだが、戦闘力は既に並のナンバー1クラスのモノを持っているのだ。
「さあ? しかし、ナンバー4で私は充分です。いえ、過分と言ってもいいでしょう、私はこれ以上ナンバーは上げたくないので」
「あら、なんで?」
「メリットがないからですよ」
「メリット?」
なに言ってんだコイツ…そんな顔をするヒステリア。
「ヒステリアさん、ナンバー1になってなにか他の戦士とは違う特別な恩恵とかありましたか?」
「多く戦士に敬われるわ」
「他には?」
「そうねぇ、特にないかしら」
「では、デメリットは?」
「特にないわね」
「いや、危険な任務ばかり与えられるとかありませんか?」
「まあ、強い相手と戦う事が多くなるわね」
「なら、私はナンバーを上げるつもりはありません、組織が許す限りはこのままがいいんです」
そんなローズマリーの言葉にヒステリアは少し怒った顔をする。
「なんか嫌ね、それ」
そう言ってヒステリアは持ってきていたローズマリーの大剣を彼女に放り投げた。
「…………」
嫌そうな顔で大剣を受け取るローズマリー、好意で持ってきたのだろうが、こんな場所に大剣を持って来て欲しくなかったのだ。
そんな態度のローズマリーにヒステリアは目を細める。
「でもあなた、噂では休日も依頼の出てない妖魔、覚醒者を一人で討伐してるらしいじゃない、これが本当ならあなたが言っている事と矛盾するわ」
危険な任務が嫌と言いながら自ら危険に顔を突っ込んでるじゃない。
そう言うヒステリアにローズマリーは首を振る。
「確かにそうです。しかし、それは私が決めて私がしたこと、組織に強制されたことではありません」
「……つまり、自分で決めた事なら良くて組織に決められた事は嫌だと」
「はい、そうです」
ローズマリーの言葉にヒステリアは苦笑いで肩を竦める。
「はぁ、あなた我儘ね、いいわ、ちょっとそこまで付き合いなさい」
静かだが、それは有無を言わせぬ言葉だった。
鋭く重い金属音が森の中に響き渡る。
常人ではーーいや、並の戦士では目視すら危うい剣戟を交わしながらヒステリアは思う。
やはりナンバー4は彼女には相応しくないと。
ローズマリーを誘い模擬戦を始めてみたが、現状、彼女は自分と互角に渡り合っている。
もちろん、ヒステリアは全力ではない、模擬戦故、致命傷を与えぬよう体捌、剣速ともにある程度抑えている、そして何より妖力解放していない。
だが、それはローズマリーも同じ事、彼女もまた妖力解放せずヒステリアと戦っているのだ。
ヒステリアが横薙ぎに近い袈裟斬りを放つ。それに対しローズマリーは大剣を持ち上げて受け止める。
そして、ローズマリーは右手一本で大剣を支えると、つば競り合いで止まったヒステリアの右手首を鷲掴みにした。
「…く」
右手首に走る痛みにヒステリアが小さく呻く。
引き剥がせない、凄まじい力だ。
「…ふっ」
力では敵わぬと悟ったヒステリアは、体勢を沈み込ませながら鋭い下段蹴りを放つ。
大剣で押し付けて動きを封じた上での攻撃、以前ローズマリーが戦った覚醒者マルタと同じ戦術、しかし、速度が違う。
鋭い蹴りは疾風の如く、マルタの数倍の速度のそれは流石のローズマリーもこの状況では対応出来ない。
そして、狙い澄ました下段蹴りがローズマリーの膝裏に直撃した。
「つぅ」
痛みと衝撃でローズマリーの顔が歪む。
この一撃で一気に体勢が崩れたローズマリーは真上からの圧力に倒れそうになる。
しかし、ここで倒れては負けだ。
ナンバーに拘るつもりはない、だが、簡単に戦いに負けてやるほどローズマリーは潔くない。
彼女はこう見えて負けず嫌いなのだ。
ローズマリーはヒステリアの右手首を離すと左手を自分の膝に添え、力技で一気に体勢を持ち上げた。
「…な」
浮かび上がる自らの身体に驚愕するヒステリア。
驚くのも無理はない、充分な体勢のヒステリアを半ば倒れかけたローズマリーが弾き飛ばしたのだ。
相当な力の差がなければあの状況から盛り返すなんて不可能である。
真上に弾かれたヒステリアの足が宙に浮く、この状態は不味い。
「はっ!」
そのままローズマリーは宙に浮き動きが取れないヒステリアの腹に激烈な肘鉄を叩き込もうとする。
どんなに疾い戦士も踏みしめる大地を失えば無力だ。
「(入るっ!)」
攻撃の成功を確信したローズマリー。
しかし、そこはナンバー1の戦士。ヒステリアは尋常じゃない反射神経でローズマリーの肘鉄に反応、肘の側面の片手を押し空中でスピン、肘鉄を躱すと同時に遠心力の加えた神速の回し蹴りを放った。
「がっ!?」
側頭部に直撃した蹴りに吹き飛ぶローズマリー。
痛烈なカウンターである。だが、ローズマリーは打たれ強い。しっかりと意識を保ち、空中で体勢を立て直すと危なげなく両足で地に降り立った。
「……どうやら、侮っていたようね」
ここまでの攻防でローズマリーが自身に近い力を持つと認めたヒステリアは若干緩んでいた心を引き締める。
「じゃあ速度を上げるわ、いいわね」
「……あんまりよくありませんが、分かりました」
ローズマリーが嫌そうに応えた直後、ヒステリアの動きが加速する。
鋭いステップを踏み緩急をつけての斬剣乱舞。
それは妖力解放なしの本気、フェイントまで織り交ぜた全力、今までと違い咄嗟に自分の大剣を止められない、そんなレベルの剣撃の嵐。
しかし、それにもローズマリーはギリギリ対応して見せた、しかも妖力解放なしで。
途切れる事なく響き続ける金属音、ここにきて剣どころかその姿まで目視困難な領域に至ったヒストリア。
彼女はその速度を維持したまま苛烈な連撃でローズマリーを攻め立てる。
「…ぐぅ」
防戦一方となり苦しくなるローズマリー、彼女はバックステップで大きくヒステリアから距離を取り、一旦体制を立て直した。
ローズマリーの全身は対処しきれなかった剣撃で傷だらけ。大きな傷はないがこのままでは敗北確実。
そんなローズマリーにヒステリアは笑みを浮かべた。
「うん、大したものよ、これだけ強くてナンバー4はないわね、私から組織にあなたのナンバー上昇を打診しておくわ」
「それ、勘弁して下さい」
「ダメよ、力ある者は上に立つ義務がある、それに今更一個二個ナンバーが上がるったって同じでしょう?」
「いや、まあ、確かに、既にナンバー4まできちゃったので今更感はありますけど、でも私は頼りにされるの苦手なんです、ナンバーが上がればそれだけ期待され頼られるでしょう?」
「高位ナンバーなら当然の事よ」
「それが嫌なんですよ」
「やっぱりあなた、我儘ね、そうね、じゃあ、この模擬戦であなたが勝てたら、組織への打診は無しにしてあげる」
「…本当ですか?」
「ええ、だから私相手に手加減なんてふざけた真似は止めなさい」
そう言って鋭い目で睨むヒステリア。
「いやいや、このザマで私が手加減してるって言うんですか?」
「言うわ、だってあなた全然大剣で反撃しないもの、それ、私を気遣ってるからでしょう?」
「…………」
むすっとしたように言うヒステリア、そんな彼女の言葉にローズマリーは沈黙した。
手加減している。事実だったからだ。
実力はヒステリアが上、それは確実である。しかし、全く防戦一方になるほどには二人の力量は離れていない。
四回攻撃チャンスがあるとすると、その内三回はヒステリアのモノ、そしてその内一回はローズマリーのモノだった。
つまり、ローズマリーはヒステリアに攻撃をするチャンスがあったのだ。しかし、彼女はそのチャンスを捨て防御に回るという行動を先程から繰り返していた。
これは大剣でしか攻撃出来ないチャンスだったから、下手をすれば命を奪いかねない攻撃だからだ。
これを手加減と言わずしてなんと言う?
「気遣ってくれるのは嬉しいわ、私そういうの受けたことないから……でもね、その気遣いってつまり自分の剣が私に当たると思ってるって事でしょう?」
そう言って笑うヒステリア、だが、その表情とは裏腹に彼女から放たれるプレッシャーは増している。
ローズマリーの手加減は彼女のプライドを傷つけてしまったようだ。
だが、それでもローズマリーは肩を竦め、こう言ってのけた。
「だって大剣が当たったら死んじゃうかもしれないじゃないですか、模擬戦でそれも仲間の剣で命を落とすなんて嫌でしょう?」
「…………」
ヒステリアから笑みが消え失せる。
爆発的に高まった殺気とプレッシャー、それに内心冷や汗を流しながらローズマリーは大剣を上段に構えた。
「……組織にナンバー上昇の打診は止めてあげる。むしろ降格を勧めるわ、実力差を理解できないなんて高位ナンバー失格だからね」
「それは助かります」
「…………」
「…………」
ヒステリアがローズマリーに突っ込んだ。
流麗のヒステリア、その二つ名の『流麗』とは技の名を指す。
流麗、それは低速から高速へ、凄まじい速度差による目の錯覚で相手に残像を見せる技。
そして、それを相手の眼前で行い、残像への攻撃を誘発させ、本人は流れるように相手の側を最短で抜け背後に回るのだ。
これは戦士の優れた動体視力すら上回る速度を出せねば出来ぬ技。
だからローズマリーに完全には決まらない、ローズマリーは並みの戦士ではない、彼女の動体視力は並みの戦士を遥かに上回るのだから。
だが、もちろんローズマリーに流麗を決める方法はある。
簡単だ、妖力開放すればいい。
戦士はその身に秘めた妖力を解放する事により高い身体能力を更に上げることが出来る。
だが、それをしては負けだ。
模擬戦で妖力解放? それも相手が妖力解放をする前に自分がする?
あり得ない。
ヒステリアの高いプライドが妖力解放を拒む、だからこの勝負、ヒステリアは流麗を使わないつもりなのだ。
一歩ごとに歩幅と速度を変え、相手の距離感を奪う高等歩法、それを用いてローズマリーの眼前に到達したヒステリア、タイミングを外されたローズマリーの大剣がここでようやく動き出す。
「(遅いっ!)」
このタイミングなら斬撃の掻い潜り背後に回れる。
ヒステリアは勝利を確信した。
ーーしかし。
「ふっ!」
上段から放たれた斬撃が想定の倍速でヒステリアに迫った。
それは先程までとは違う、受ける為ではなく攻撃の為に放った斬撃だ。移動しながらではなく地に両足をつけ必殺の意を乗せて放たれたモノだ。
それ故、その一撃は速くて重い。
ローズマリーの斬撃はヒステリアの動きを完璧に捉えていた。
「(さ、避け、切れないッ!?)」
あわや直撃、その瞬間、ヒステリアの銀瞳が金に染まる、同時に跳ね上がる速度。ヒステリアは髪の一部を斬られるも見事にローズマリー渾身の斬撃を回避、ローズマリーの真横を抜け背後に回るとローズマリーの首筋に大剣を突きつけた。
「私の負けですね」
大剣を落とし両手を挙げるローズマリー、敗北宣言しておきながらその声はどこか安心したような声色だった。
ローズマリーは今までの攻防で確信していたのだ、自分の敗北を、そしてヒステリアなら自分の渾身を避け切れると。
そうでなければローズマリーは絶対にあんな斬撃を放たなかっただろう。
「…ええ、私の勝ちね」
苦々しく、憮然とした表情で言うヒステリア、それはとても勝者とは思えない顔だった。ヒステリアは大剣をローズマリーの首筋から離す。
ローズマリーはホッと息を吐き背後を振り返った。
「私の降格の打診、しっかりお願いしますね」
そう言って嬉しそうに銀の瞳を細めるローズマリー、それを金の瞳で見つめながらヒステリアは深い深い溜息を吐き出した。
「……私、あなたのこと嫌いだわ」
これがローズマリーとヒステリアの出会いであり、最初の戦いの結末だった。