天稟のローズマリー   作:ビニール紐

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第21話

南の地、その最南端の浜に一つの死体がーーいや、一人の人間が打ち上げられた。

 

「…………」

 

生気を失った真っ白な顔、濁った銀瞳、肘から先の消えた右腕に、腹から下を食い千切られた下半身。それは完全に死体にしか見えない女性だった。

 

その女性は。

 

……まぁ、言うまでもないだろうがローズマリーだ。

 

彼女はここ最近、虚ろになりっぱなしの目で高く青い空を見上げると。

 

一言こう吐き捨てた。

 

「二度と来るか、こんな場所」

 

なんで? とは言うまでもないだろう、疑問に思っても聞くのは止めておいて欲しい。

 

「………はぁ」

 

ローズマリーは溜息を吐き、一度目を瞑りすぐに開く。するとその時には濁った銀眼は鮮やかな金眼へと変化していた。

 

そして、彼女の変化はそれだけではない。

 

するりと、若木が伸びるように失われていた手足が伸びていく、それは異常な光景であり、だからこそ不思議と目が離せない光景でもあった。

 

「…………」

 

それから十数秒後、そこには欠損が完全に消え、美しく均整の取れた身体を取り戻したローズマリーが寝転んでいた。

 

「…………」

 

彼女はなんとなく、たった今、再生させた右手を太陽にかざして見る。クレイモア特有の病的に白い肌が光で透け、その裏に真っ赤な血潮が流れているのが分かった。

 

「……ああ、ほんと、バケモノじみてきたなぁ」

 

心底嫌そうな顔でローズマリーが言う。

 

どんどん人間から離れていく感覚。それを自覚する故に、酷く不快に感じるのだ。

 

先程負った重症、その傷口から殆ど痛みを感じなかった。失った手足の付け根から感じた痛みはまるで、皮膚を爪で引っ掻いたような、薄く痒みに近い痛みだったのだ。

 

「…………」

 

もしかしたら、もうローズマリーにとって半身を砕かれるのは、なんて事ない軽傷に含まれるようになってしまったのかも知れない。

 

それはクレイモアや覚醒者から考えても明らかに異常であり、とても……とても怖い事のように思えた。

 

「ふふ、便利な身体だよ、まったく」

 

自分に抱いた恐怖を紛らわせるように、ローズマリーが自嘲に満ちた苦笑いを浮かべた。

 

「………ふぅ」

 

だが、その苦笑は1分と持たず霧散する。

 

思い出したのだ、今すべき事を。

 

そう、今はやる事がある。組織に伝えなければならない重要な事があるのだ。

 

「……さて、急いで組織に戻らないと」

 

そう言ってローズマリーは立ち上がる。そして軽くボディチェック。やはり身体に不調はない。妖力解放による反動すらない。万全といっていい状態だ。

 

これにまた鬱な気分になりそうになるが、それを無理やり抑え、ローズマリーは足を踏み出した。

 

だが、踏み出した自分の足を見て、ふと気がついた。

 

「……あ」

 

自分がまだ裸だった事に。

 

瞬間、ローズマリーの頬が真っ赤に染まる。

 

彼女は赤面を自覚すると、サッと周囲に人影がないか確認、コソコソと見晴らしの良い海岸から遮蔽物の多い森の中へと入って行った。

 

「……痛みだけじゃなく、羞恥心も鈍感すれば良いのに」

 

ーーそんな不便な身体に毒づきながら。

 

 

 

「……ん?」

 

森の中を歩いていると、ローズマリーは自分に近付く一つの妖気を感知した。

 

「これは……覚醒者か」

 

妖気の強さから相手は一桁下位か、二桁上位ナンバーを持っていた覚醒者と思われる。覚醒者の中でもそこそこ強い方だろう。

 

だが、所詮は程度、ローズマリーの敵ではない。

 

シルヴィ、アデライド、ルシエラ、リフル、謎の少女、SAME……それらの強敵と比べれば何てことない相手だ。

 

故に、格好考えると少し恥ずかしいが、ローズマリーはその覚醒者を迎え撃つ事にした。

 

 

ーー数分後。

 

 

現れたのは痩身の、山賊のような身なりの男だった。その額には部分覚醒でもしているのか、不気味な形の角が生えていた。

 

「…………」

 

男の覚醒者だったのは予想外、しかも、現れるなり、男は無言でじっとりとローズマリーを観察して来た。

 

それにローズマリーは強い羞恥心と不快感を抱き、身体を隠したくなる。

 

しかし、そんな事をしては隙を晒す、もう戦闘は始まっているのだ。

 

「……ッ」

 

かなり恥ずかしが、ローズマリーは右足を後ろに引き、拳を構えた。手の位置が若干下な理由はそういう構えだからだ、決して秘部を隠しているわけではない。

 

………多分。

 

「こ、こんにちは」

 

とりあえずローズマリーは挨拶をする。挨拶はコミュニケーションの基本だ。例え数分後に居なくなる相手だとしても、欠かせない。

 

特に覚醒者を蔑まないと決めているローズマリーなら尚更だ。

 

「…………」

 

しかし、その相手の男は無言。彼は言葉を発する事なく、未だにローズマリーを上から下まで観察している。

 

非常に居心地が悪い。

 

「あ、あのなにか返答してくれませんか?」

 

「……ああ、すまない」

 

観察を終えたらしい男が、意外な程の落ち着いた声で言うと、おもむろにその上着とシャツを脱ぎ始めた。

 

「……何やってるんですか?」

 

「服を脱いでいる」

 

いや、それは見れば分かるよ、とローズマリーは思った。

 

「覚醒体になると破けるからな」

 

「ああ、なるほど、そういう事ですか……しかし、一応敵を前にそれは命取りなんじゃないですか?」

 

「そうだな、だが、問題ない。こいつが死のうと私は構わないからな」

 

「……? 意味が分からないんですが」

 

「すぐに分かるさ」

 

そう言って首を傾げるローズマリーに、男は脱ぎ終わった上着とシャツを投げて来た。

 

「えっと、なんで私に投げるんです?」

 

「着ろ、汚いが裸よりはマシになる筈だ」

 

「あ、はい……ありがとう、ございます」

 

やけに紳士的な男にローズマリーは困惑する。しかも、こう親切にされると倒し辛い。

 

しかし、裸が嫌だったローズマリーは若干躊躇するも、男の好意をありがたく受け取りその服を着始めた。

 

着替え中もローズマリーは男を警戒し続ける。

 

だが、男は腕を組んで目を瞑ったままピクリとも動かない。最初の観察するような視線以外は本当に紳士的な覚醒者だった。

 

「…………」

 

服を着終わったローズマリーは軽く自分の身体を見る。

 

男のシャツは丈が長く、ローズマリーが着るとちょうど短いワンピースのようになり、この上に上着を羽織ると、意外と悪くない服装になった。

 

「………はぁ」

 

やや薄汚れて汗臭いが、久しぶりの服にローズマリーは少し感動し、自然と頬が緩む。

 

そんなローズマリーに男が声を掛ける。

 

「着終わったな」

 

「ハッ……はい、お待たせしました」

 

「そうか、では始めるぞ」

 

言うや否や、ビキビキと音を立てて男が覚醒体になって行く。

 

その際の男は隙だらけだった。普通はこの隙を逃さないのだが、 服を貰った恩にローズマリーあえて男が覚醒体になるのを待つ。

 

その間、ローズマリーは変身中の男に質問をした。

 

「あ、戦う前に……私はローズマリーと申します、あなたのお名前を教えていただけませんか?」

 

「……名前、名前か、そう言えば私はこいつの名を知らなかったな」

 

「…………ええと、記憶喪失ですか?」

 

「いや……そうだな、記憶喪失だ。残念だがこいつの名は名乗れない、まあ、気にするなどうせどうでも良い存在だ」

 

「……え、はい…?」

 

自虐か? そうローズマリーは思った。

 

だが、それはさて置き、ローズマリーは集中力を高める。男が覚醒体になり終わったからだ。

 

その姿は直立した鰐に似ている。爬虫類のように硬そうな鱗に、細い瞳孔の金眼、その牙は鋭く、どんな硬いものも食い千切りそうだ。

 

頭には人間体の頃からあった角が生えており、それは先程より巨大化し、それに加え目と口が新たに生まれていた。

 

「ギニャギニャ」

 

角に生まれた口、そこからそんな声が聞こえて来る。それにローズマリーは既視感を感じた。

 

「(この声、どこかで最近聞いたような)」

 

「行くぞ」

 

だが、その答えに思い当たる前に男がローズマリーに踏み込んだ。それ故、ローズマリーは考え事を止め、男を迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

組織本部からほど近い、草一本生えない岩石地帯、そこで、堕ちようとする夕日に照らされ複数の影が浮かび上がった。

 

それは、ヒステリア、アガサ、ラキア、テレサ、龍食い達のものである。組織防衛の為、西から来るリフル達を迎え撃ちに出発した彼女達はただ、強大な三つの妖気ーーリフル達の元へと足を進めていた。

 

リフル達もまたテレサ達を知覚、引き寄せられるように足を早める。

 

そして、両者は出会った。

 

 

「…….来た」

 

そう、テレサが呟き。

 

「あなた達がね」

 

と、リフルが返す。

 

両者は二十歩程の距離を置いて向かい合っている。この場にいる実力者からすればそれは手が届きそうに感じる程の至近距離。

 

互いから滲み出る戦意と妖気が名状しがたい独特の雰囲気を作っていた。

 

『…………』

 

テレサと龍喰いを除く戦士達が緊張を高めた。

 

緊張の理由、それは鋼の巨人にある。

 

造形としては有り触れた人型だが、そいつは彼女達が今まで出会った覚醒者の中でも五指に入る程、高い妖気を放っていっていた。

 

そして、その鋼の巨人がこの場の覚醒者で最も弱い妖気の持ち主(・・・・・・・・・・)なのだ。

 

リフルと、リフルに似た少女は巨人よりずっと大きな妖気を持っている、これは緊張もしよう。

 

「随分と少ないのね」

 

ダフの左肩に腰掛けながら、リフルが拍子抜けしたように言った。最初に来た数十の龍喰いから組織にはもっと戦力が有るかと思っていたのだ。

 

そんなリフルに。

 

「ふん、あなた達を狩るのなんて、この人数で充分だからね」

 

と、ヒステリアが強がった。

 

リフルがヒステリアを見つめる、ヒステリアは視線を逸らさずリフルを睨む。そうやって互いの力量を測っていく。

 

そして、分かった事は。

 

「(……へぇ、結構強いわね、ダフじゃ危ないかも)」

 

「(……くそ、こいつ、やはりシルヴィ以上か)」

 

というものだった。

 

これはヒステリアを褒めるべきだろう、なにせ深淵に結構強いと思われる程に実力があるのだから。

 

そのままリフルとヒステリアは睨み合いを続ける。

 

そんな無言の測り合いがつまらなかったのか。

 

「おかーさん、もうやろうよ」

 

ダフの右肩は座っていたダフルが退屈そうな声をあげた。

 

おかーさんという戦場に似つかわしくない言葉に戦士達の視線がダフルに向かう。しかし、そんな視線を気にせず、ダフルは肩から飛び降りると、ゆっくりと戦士達に歩き出した。

 

「……もう、少しはこういうのも楽しめないと損よ」

 

そんな子供っぽいダフルに苦笑し、リフルも肩を降りるとダフルの後に続いた。

 

『………ッ』

 

ただ歩く。それだけで、戦士達に緊張が走り、その身体が知らず知らずの内に下がる。強大な二体の覚醒者の歩み、 それはとてつもないプレッシャーを相対者に与えるのだ。

 

「………ふん」

 

そんな及び腰になった戦士達の中、自分を奮い立たせ、ヒステリアが一歩前に出ようとした。

 

しかし、それをテレサが手で止める。

 

「テレサ?」

 

ヒステリアからあがる疑問の声、それに答えず、テレサは彼女の前に出た。

 

初めからテレサはこうするつもりだった、何故ならリフル達が組織に向かっている時点で彼女は分かっていたのだ。

 

そう、テレサだけが正確に分かっていたのだ。

 

リフル達が………いや、リフル似た少女が、どれ程脅威なのかを。

 

「…………」

 

「…………」

 

そして、戦士の先頭と覚醒者の先頭、すなわちテレサとダフルの視線が交差する。

 

その瞬間、ダフルもまた理解した。

 

「……へぇ」

 

ーーコイツは強いと。

 

「……くす」

 

テレサの実力を感じ取ったダフルがオモチャを見つけた子供のように、パッと花のような可憐な笑みを咲かせた。

 

次の瞬間、ダフルの妖気が爆発的に上昇。それに伴い、身長が伸びる。白くきめ細やかだった肌が、漆黒の金属のようになり、黒く艶やかだった黒髪が、その色を残しながらも数十房に束ねられ帯のように変化し、硬化する。

 

 

 

それこそが、ダフルの覚醒体、現在この地で深淵を含め、ぶっちぎりで最強の覚醒者、その戦闘形態である。

 

『……ッ!?』

 

ダフルが覚醒体となった瞬間、彼女から放たれた妖気が大瀑布となって全ての者に押し寄せる。

 

それは未だ誰も感じた事もない、想像絶する強大さ。リフルが可愛く見えるあり得ない程の巨大な妖気だった。

 

この妖気に晒されたヒステリアが冷や汗を浮かべ青褪める。

 

アガサ、ラキアに至ってはあまりの恐怖に尻餅をつき、アンモニア臭のする液体でその股を濡らしてしまう。

 

自我が無い筈の龍喰いすら、彼女を恐れるように後退した。

 

 

「ふふ、あらあら、足腰弱いのね」

 

そんな滑稽な戦士達を見て、リフルがさも愉快なものを見たように嘲り、そして彼女はすぐに首を傾げた。

 

その理由はテレサである。彼女は他の戦士達と違い、緊張した面持ちながらも、恐れは抱いていないように見えた。

 

それがリフルには不思議でならなかったのだ。

 

「あら、あなたは反応が薄いのね、もしかして恐ろし過ぎて逆に反応出来ないのかしら?」

 

リフルが笑顔で挑発するような質問する。

 

「…………」

 

だが、リフルの問い掛けにテレサは無言、彼女はただ一点、ダフルの動向だけに意識を集中している。

 

「……あら、無視?」

 

それが少し気に食わない。リフルは身の程を思い知らせてやろうと、一歩前へ出ようとした。

 

「ダフル?」

 

しかし、その動きをダフルが右手を横に突き出すことで制する。

 

それからダフルは一言、自身の母にこう言った。

 

「おかーさん、あぶないよ」

 

それは母の身を案じるダフルの警告。

 

「え、危ない?」

 

だが、愛娘からの注意の意味がリフルは分からなかった。

 

まあ、それはほんの数秒の事だが。

 

ーー何故ならすぐにテレサの実力を嫌という程知ったからだ。

 

瞬間、大気が揺れる。

 

グッと全身に力を入れ、テレサが妖気を解放する。彼女の瞳が鮮やかな黄金に染まり、その顔付きが僅かに変わる。

 

外見的な変化はたった、それだけ。

 

だが、それが齎した効果は劇的だった。

 

堰を切ったように、膨大な妖気がテレサから溢れ出す。その場を満たしていたダフルの妖気がテレサのソレによって一気に押し戻された。

 

しかも、テレサの妖気はそこで尽きる事はない。減ったようにすら思えない。

 

汲めども尽きぬ絶大な妖力は、減るどころか、むしろ引き出す度にその総量が増しているように錯覚する。

 

『……ッ?!』

 

そのテレサの妖気を前に、恐怖を抱いたのはリフル達だった。

 

なにせ、テレサの妖気は空前絶後とすら思われた、ダフルの妖気にすら匹敵しているのだから。

 

「…………」

 

「…………」

 

テレサとダフルの中間点、そこで激しく妖気と妖気が鬩ぎ合う。拮抗する両者の妖気が空間を軋ませるようだった。

 

その場の全員が唖然した様子でテレサとダフルを見比べる。

 

最も驚愕したのはダフルの力を一番知るリフルだった。

 

「(う、うそでしょ…? 信じられない、顔付きが少し変わる程度の妖力解放で家の子に匹敵するなんて)」

 

リフルはまだダフルが本気ではない事を知っている、おそらく全力を出せば今の倍程に妖気が膨れ上がる筈だ。

 

しかし、それはテレサも同じだった。

 

いや、それどころか顔付きまでしか変化がないところを見るにテレサの解放率は多く見積もっても40%以下、覚醒しない程度に抑えても、まだここから倍以上、下手すれば三倍近くに妖気が跳ね上がる計算だ。

 

そう、つまりテレサの妖気はダフルを凌駕している、それはもう完璧に。

 

「(あ、悪夢だわ、こんな奴がこの世に存在していたなんて)」

 

テレサの強大さに、リフルの顔が引き攣る。

 

だが、確実に自分より上の妖気を持つテレサを前にしてもダフルには余裕がある、いや、むしろこの状況を楽しんでいるようにすら見えた。

 

それを見て、リフルは冷静さを取り戻す。

 

「(……落ち着け、大丈夫、家の子は負けない!)」

 

そうだ、例え妖気はテレサが上だとしても、まだ、ダフルの方が有利なのだから。

 

その差は戦士と覚醒者の違いにある。

 

戦士は覚醒者と違い長時間、妖気を解放する事が出来ない。いや、正確には高い解放率を長時間維持できない。

 

長時間、高い解放率を維持すると心身に多大な負荷が掛かってしまう、そして、その負荷に負けてしまうと戦士は限界を超え覚醒者となってしまうのだ。

 

それに対し、覚醒者はそんなリスクは存在しない。既に覚醒している存在に覚醒に伴う恐怖などあり得ないし、なにより覚醒者は戦士よりも、妖気に適応している。

 

覚醒体への変化も適応のひとつだ。自身の妖気をより使い易く、より強い力を引き出す為に最適化した身体こそが覚醒体だ。

 

だから、例え同等の妖気を持とうと身体能力の上昇値でテレサがダフルを超える可能性は少ない、ダフル以上の妖気で一時的に上回る事は可能だろうが、それも短時間の事、ダフルの優位は動かない、最悪でも互角に持っていける筈。

 

ならば自分がやるべき事は一つ。

 

それ即ち、他を蹴散らし早急にダフルの援護に向かう事。

 

「(速攻で終わらせましょう)」

 

リフルはテレサの次に強いと思われるヒステリアに狙いを定めると、妖気を解放した。

 

リフルの輪郭が解け、多数の黒い帯のような触手と化す、それが蠢き、絡み合うと再び人型の上半身を形作る。

 

そして、人型の腰から下は残った帯状の触手が荒籠のように編み込まれる。

 

それがリフルの覚醒体だ。

 

「………ッ」

 

ヒステリアが息を呑んだ。

 

ビリビリと感じるリフルの妖気。ダフルには劣るが彼女は深淵、最強の覚醒者の称号を持つ者の一体、その妖気は桁違いだ。

 

「ヒステリアさん」

 

そんな、ヒステリアが恐れを抱きそうになった時、テレサがふと声をあげた。

 

「話し合った通り、あの子は私が倒す、だからそれまで深淵の足止めをお願い……出来るよね、ナンバー1なんだから」

 

挑発的にふてぶてしい微笑を浮かべ言うテレサ。それに一瞬、ヒステリアは唖然とし、すぐに勝気な笑みをテレサに返した。

 

「………ふ、ふふ、そうね、でも、足止めするのは構わないけど……別にアレを倒してしまっても構わないんでしょう?」

 

「ええ〜無理だと思うよそれ」

 

「ふん、私を誰だと思ってるの、それより貴女こそ死んじゃダメよ、アガサ、ラキア起きなさい!!」

 

 

ヒステリアの大声にアガサとラキアが驚き、反射的に立ち上がった。

 

「よし、アガサとラキアはあの男の足止めよろしく」

 

「………はい」

 

「ちょ、ちょっと!? あれ相手に二人とか無理なんですけどッ!?」

 

「つべこべ言うな、そっちにラキアをつけてあげたんだから死ぬ気でやりなさい! それが嫌なら私のと変わる?」

 

そう言ってヒステリアはリフルを大剣で示した。

 

それにアガサが顔を引き攣らせると。

 

「いえ、あの男を足止めさせていただきますッ!!」

 

と、敬礼して言った。平常運転である。

 

「ふん、あんたらしい答えね……行くわよ!」

 

その言葉と共に、戦士達が抜剣。

 

そして、ここに激戦の幕が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 




アガサちゃん白目編、開幕!(白目)

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