天稟のローズマリー   作:ビニール紐

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注意! キャラ崩壊があります!

……え、とっくにしてるって?




い、いや、今までの比ではないので一応(白目)


第23話

唸りをあげて巨大な棍棒が振るわれた。

 

棍棒の対象は一人の戦士……もちろんアガサだ。

 

「うきゃあああ!?」

 

アガサは迫る棍棒に悲鳴あげ、倒れるようにそれを回避。

 

すると今度は巨大な足裏が落ちて来た。

 

「ちょ、た、タンマ!」

 

アガサはそれを転がるように躱す。砕け散った岩の破片が身体を叩く。とても痛い。だが、アガサは止まらない。止まれば死ぬ。

 

ゴロゴロと地を転がるアガサ。そんな彼女をボールを追う子供のようにダフが地響きを鳴らし追い掛け、追い付く。

 

そして、ダフはアガサに照準を定めると腿上げをするように連続でアガサを踏みつけた。

 

轟音が連続で響き、硬い岩場にダフの足形がいくつもいくつも刻まれる。

 

まともに喰らえば綺麗にぺしゃんこ。踏み潰された虫ケラのように地面と癒着し離れない事だろう。

 

まあ、つまり、当たればアガサでは万に一つも生き残れない。

 

「ぎゃあああ!? ほんと、やめて、死ぬ…死んじゃうぅ!?」

 

しかし、奇跡的にアガサは天から落ちる連撃を一発も喰らわずに切り抜ける。この幸運を逃がさんと、アガサが空かさずダフから距離を取る。

 

……だが、そう、上手くはいかないのが、戦いというもの、奇跡というのは殆ど起きないから奇跡なのだ。

 

「ごはぁあ」

 

多数の鉄柱がダフの口から発射され、アガサの行く手に降り注ぐ。

 

「うひゃ…!?」

 

危うく、自ら串刺しになりに行く所だったアガサが慌てて急停止。そんな彼女の耳に轟然とした風切り音が聞こえて来た。

 

反射的にアガサは深々とお辞儀をするように身を屈める。そのアガサの頭上を巨大な鉄柱が通り過ぎ。

 

「あ、あぶ…ぐはぁッ!?」

 

続けて放たれた蹴りがアガサの身体を小石のように弾き飛ばした。

 

地面と平行に飛んだアガサ。彼女はかなりの速度で岩に激突、死んだか? と思ったら、ふらつきながらも即座に立ち上がった。蹴りの直前、足と身体の間に大剣を差し込み、直撃を避けたのだ。

 

「や、や、ヤバイ死ぬ、マジで逃げないと」

 

そう言ってアガサが震える足をなんとか動かし、一目散に逃げ出した。

 

「にがすか、ぼけ」

 

しかし、そんなアガサを追ってダフが走り出す。それを見てアガサが涙目で悲鳴をあげた。

 

「いゃあぁぁッ!? ちょ、追ってくんなっ! 邪魔とかしないから、ほんとだから、マジでっ!」

 

「うるせぇ、とりえず、しね」

 

ダフの両手から大量の鉄柱が射出された。

 

「そんな理不尽!? …あ、ちょ、ちょっと待て、それはマズイから、いやほんと待って待て待て待てってんだろうぅぅ!!」

 

「くそ、ちょろちょろ、にげやがって」

 

そんなやり取りしながらら、アガサとダフは走り去り。

 

 

 

 

「…………」

 

その場に静寂が訪れる。

 

そして、ダフとアガサが妖気が離れたのを確認すると。岩にもたれかかるようように倒れたラキアがゆっくりと目を開けた。

 

「………ふぅ」

 

そして、ラキアは目視でも二人がいない事を確認、更に、組織の監視がない事も確信すると、静かに立ち上がった。

 

初めに死んだと思われたラキアだが、彼女はちゃっかり生きていた。しかも割と元気で。

 

その理由は彼女の能力にあった。

 

組織のナンバー10は特殊な存在である。

 

戦士内では知られる事はまずないが、組織のナンバー10は代々、その実力に関わらず、ある能力に秀でた戦士が選ばれ、戦士達の反乱に備え、常に組織内にその身を置く。

 

その能力とは妖気同調による感覚支配。対戦士において極めて力を発揮する能力である。

 

まあ、感覚支配といっても、完全に支配するのは不可能。ラキアに出来る事は目を眩ませたり、距離感を見誤らせるくらいの些細なもの。

 

だが、これが曲者だ。感覚を支配し、掠っただけの一撃を直撃したと誤認させたり、手応えを最大限に感じさせ、追撃の必要がないと思わせる事なら出来るのだ。

 

この能力を利用し、攻撃を受けた直後、妖気を限界まで静めたラキアはダフとアガサに自分が死んだと誤認させた。

 

その後、ラキアは二人が戦っている間に、受けた傷をゆっくりと時間をかけ、気付かれないように再生させたのだ。

 

そして、更に言えば、アガサがダフの攻撃をあれだけ避けられたのも、ラキアがダフの感覚を狂わせていたからである。

 

「……ああ、本当に死ぬかと思った」

 

ラキアはまだ回復しきっていない、腹部と顔面を痛そうに押さえると、一度アガサ達が消えた方を向き、そして、親指を立てた。

 

ーーサムズアップだ。

 

「……アガサさん、感覚は狂わせたんで、もう少し頑張って下さい……私が逃げ切るまで」

 

そう言ってラキアはダフをアガサに押し付けると、妖気を消す薬を飲みスタスタとこの場を離れ出した。

 

組織のナンバー10 『懶惰』のラキアはその二つ名の通りヤル気がない。彼女は組織本部でグウタラ出来るからとナンバー10になった経歴を持ち。

 

そして、中々にイイ性格の持ち主だった。

 

 

 

 

 

 

 

ビキビキと音を立て、ダフルの右腕が変形する。

 

腕は一度、大量の黒い帯と化すと、それが互いに絡み合い身の丈を超える巨大な剣へと変貌した。

 

そして、ダフルはその巨剣を振り下ろす。

 

たった今、数十の触手を捌ききったテレサに向けて。

 

「ーーハッ!!」

 

ダフルの剣撃をテレサの斬撃が迎え撃つ。

 

直後、黒い巨剣と白銀の大剣が衝突、凄まじい轟音と共に大気と大地が同時に揺れた。

 

「……っ!」

 

「……ッ!」

 

その威力に両者が弾かれ、二人の間に距離が生まれる。

 

だが、それも次の瞬間にはゼロになっていた。

 

「ーーはっ!」

 

「ーーセイッ!」

 

地に足を叩きつけ、目にも映らぬ速度で移動、二人は敵を斬り捨てんと神速で剣を走らせた。

 

振るわれた巨剣と大剣が幾度となく交差する。虚空を走る光と化した両者の剣が、激突する度に強大な衝撃波を発生させ、四方八方に飛び散ったそれが、あらゆるものを砕いていく。

 

そのまま、二人は数秒の内に百を超える剣戟を繰り広げ、互いの動きを地面が支えきれなくなった瞬間、同時に跳んだ。

 

ダフルは後方へ、テレサは前方へと。

 

ダフルが距離を取りながら多数の触手を放つ、牽制だ。

 

しかし、その牽制の威力たるや半端ではない。触手の一本一本が大地に巨大な疵を刻み、その速度は風よりもなお疾い。

 

この牽制を生きて凌げる者など大陸中を見渡しても片手の指で余る。それこそ、深淵級の実力者でも下手をすれば殺られかねない。

 

事実、南の深淵はこれと似た攻撃で致命傷を負ったのだから。

 

 

ーーだが、そんな攻撃を前にしてもテレサは恐れない。

 

確かに強力な攻撃ではある。しかし、テレサとダフルから見れば、その攻撃は間違いなく牽制。相手を倒そう、などと思って放たれた攻撃ではない。

 

故にテレサはその攻撃に真正面から突っ込んだ。

 

「はぁあああッ!!」

 

気合いの叫びを上げ、テレサが妖力解放率を大きく引き上げる。それにより異常に高かったテレサの身体能力が更に跳ね上がり、一時的にダフルを完璧に超えた。

 

そしてテレサが大剣を振るう。

 

疾風迅雷。一瞬で数十と振るわれた刃が多数の触手を切り刻む。そのままテレサは触手の壁に穴を開け、後退中のダフルに急接近。

 

空かさず上段から大剣を振り下ろす。それには他の追随を許さない、最速最強の斬撃、防御も回避も迎撃も全てが不可能な必殺攻撃だった。

 

だが、その必殺とはこのダフル以外に対して使った場合に限る。

 

信じ難い事に、この斬撃すらダフルは反応。頭を目掛け振るわれた大剣、それを両手をクロスさせて受け止める。

 

直後、ダフルの足が膝まで地に埋まり、遅れて巨大なクレーターが二人の足元に発生した。

 

「ぐぅう…!」

 

斬撃のあまりの重さにダフルが初めて苦し気に呻く。

 

その威力たるや今までのテレサの斬撃と比べてすら別格で、わざわざ盾状に編んでいた左腕を数瞬で粉砕、黒帯の巨剣すら斬り飛ばす。

 

だが、そこで威力と速度を大きく落とした大剣をダフルはバックステップで回避、大地に振り下ろされた大剣が、数十メートルに渡る地割れを発生させた。

 

「ちっ」

 

テレサが苦々しいく舌打ち。攻撃の直後、地面から飛び出した複数の黒槍を躱すと、追撃せずに一度後退、妖気を沈めて息を吐く。

 

「ふぅ、はぁ」

 

テレサの息はわずか弾んでいた。初めて見える同格の敵、そして、慣れない妖力解放が彼女の体力を急速に削っているのだ。

 

「…………」

 

しかし、そんなテレサに対しダフルは息を乱していない。

 

ダメージこそテレサより多いものの、妖力解放による消費の少ないダフルは体力的にテレサより余裕があるのだ。

 

「………くす」

 

ダフルが小さく笑い、斬り飛ばされた両腕を再生する。今度は巨大な籠手のようになった両腕、それを彼女は構えた。

 

瞬間、大地がひっくり返る。

 

密かに髪の一部を地に打ち込み、それを持ち上げる事で地面を大きく掘り起こし、岩山の一部を丸ごと持ち上げたのだ。

 

たった今、テレサが立っていた大地が縦横100メートルを超える石壁となって押し寄せる。

 

「くっ…!」

 

テレサは再び妖力解放。身体能力を上げ、これをバックステップで対処した。

 

いや、しようとした。

 

だが、テレサが下がった瞬間、ダフルが壁を殴打。爆散した壁が数えるもの馬鹿らしい散弾となってテレサに襲い掛かって来た。

 

ーー避け切れない。

 

テレサは傷を負うものだけを選別し大剣で弾く。だが、ダフルの攻撃はここで終わらない。散弾に紛れて数十の触手が放たれる。

 

「ちっ…!」

 

ただでさえ対処しきれなかった攻撃が更に厄介さを増す。この一瞬にテレサは身体にいくつもの傷が生まれた。

 

しかし、これは本命ではない。

 

散弾と触手を対処中のテレサにダフルが跳んだ。

 

体勢が悪いテレサは自身に飛んで来た岩を大剣の腹で叩き、散弾としてそれを放つ。

 

だが、ダフルはその攻撃を当然のように無視。その身に岩を受けながらも真っ直ぐテレサの懐に飛び込み、巨大な拳を彼女に放った。

 

唸りをあげて右ストレートがテレサに迫る。

 

テレサは仕方なく、妖力を限界ギリギリまで解放、なんと素手でこれを受け止めた。

 

バキメキとテレサの左腕が異音と共に折れ曲がる。だが、攻撃は止めた。テレサは大剣を一閃、薙ぎ払われた大剣がダフルの両足を切断。ダフルの身体が倒れ込む。

 

そんなダフルに、大剣を翻し、二の太刀を放つテレサ。

 

これをダフルが左手でガード。だが、今、彼女の身体を支えるのは黒帯の触手のみ。当たり前だが先程までより力が弱い。

 

「(押し切れる!)」

 

テレサは決着を着ける為に、全力で大剣を押した。

 

そして、金属を引き裂いたような不快な音と共に、ダフルの左腕を両断、その身体に大剣を叩き込んだ。

 

 

しかし、次の瞬間、テレサの右肩に鉄柱が突き刺さる。

 

「がっ!?」

 

突然の攻撃、それにより斬撃が止まってしまう。

 

驚きダフルを見るテレサ、ダフルの口は三日月のように開いている。

 

ーーハメられたのだ。

 

「ぐぅ…」

 

二撃目の鉄柱がダフルの口から発射される。至近距離から顔面に迫るソレを、テレサは咄嗟に屈んで避ける。

 

すると、テレサの目の端に黒腕が映る。それはダフルの右腕。

 

「しまっ!?」

 

次の瞬間、ダフルのアッパーがテレサを天高く殴り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

「……なんだこれ」

 

ローズマリーがそう呟いた。彼女の視線の先には男の覚醒者の角……と思っていたモノがある。

 

「ギニャギニャ」

 

地面に刺さった角は本体が死んだにも関わらず、未だに時々こう鳴くのだ。しかも、かなりの妖気を角から感じる。

 

まるでこれだけ男のは別個の覚醒者のように。

 

「まぁ、いいか一応、砕いておこう」

 

ローズマリーは腰を落とし、拳を構えた。

 

ーーその時。

 

「思った通りだ」

 

背後からそんな声が掛かった。

 

「!?」

 

ローズマリーが地を蹴り、前方へと跳ぶ。そして彼女は空中で身を捻り着地、声の主を視認し、ギョッとした。

 

声の主は赤いドレス(・・・・・)を着た女だったのだ。

 

「…………」

 

女を凝視するローズマリー。そんな彼女の視線を受けて、女がどこか恥ずかしそうに頬を掻いた。

 

「やはり、ドレスなど私には似合わないだろう? いや、自分でも分かっているのだが、姉さんが似合うと進めて来てな、はぁ、私は姉さんのように美人ではないのに」

 

いきなり、現れるなり自虐を始めた女性にローズマリーは面食らう。だが、性格故か? 彼女は反射的にフォローの言葉を口にした。

 

「あ、いえ、とても似合ってますよ。ただ、ちょっと最近、ドレスを着た女の人に追い掛けられまして、それで警戒したように見てしまったんです、ごめんなさい」

 

「ああ、そうか、いや、こちらこそすまない、姉さんが迷惑をかけたな」

 

「……………」

 

ドレスの女性から聞き捨てならない台詞が出た。

 

「姉さん?」

 

「ああ、最近お前を追い掛けたという女というのはルシエラだろう?」

 

「はい、そうです…………つかぬ事をお聞きしますが、ラファエラさん、ですか?」

 

「ああ、そうだ」

 

ローズマリーは再び良くドレスの女ーーラファエラの顔を観察する。確かに、黒髪茶目(・・・・)の整った顔立ちは、どこかルシエラと似通っている。

 

タラリと、ローズマリーの頬を一筋の冷や汗が流れた。

 

「あ、あの、ルシエラさんはラファエラさんが戦士だと言っていたのですが? 一般人だったんですか?」

 

「いや、戦士だったよ、つい数日前までな」

 

「………妖気を全然感じないんですけど?」

 

「ああ、諸事情から長年妖気を押さえる生活をしていてな、自分の妖気を完璧に封じる技能を身につけたんだ」

 

ほら、と言ってラファエラが妖気を解放する。

 

その妖気の質は覚醒者、そして妖気の強さは深淵級。

 

 

ーーを、明らかに超えていた。

 

「………っ」

 

一瞬、呆然となり、だが、すぐにローズマリーは再起動、青ざめながらもラファエラに拳を構える。

 

しかし、構えたはいいが拳が震えた。

 

それもしょうがない。なにせ、ダフルを見ていなければ恐怖で竦み上がっていたかもしれない程、ラファエラの妖気は強大なのだから。

 

「………ここへは何をしに?」

 

ローズマリーは油断なく構えながら、硬くなった声で問い掛ける。

 

すると、ローズマリーの緊張を知ってか知らずか。

 

「ローズマリー、お前に会いに来たんだ」

 

そう言ってラファエラはローズマリーに笑いかけた。

 

「………なんで私の名前を知ってるんですか? 一応、初対面ですよね?」

 

「ん? ああ、確かに初対面だ。しかし、姉さんの記憶からお前の事は少し知っている」

 

「………姉さんの記憶?」

 

不可思議な事を言ってくるラファエラにローズマリーは不審な目を向けた。すると、ラファエラはおもむろにドレスの正面に着いた紐を解く。するとラファエラの腹部が露わになる。

 

「……ッ!?」

 

ラファエラの腹部を見たローズマリーが驚き、顔を引き攣らせた。

 

何故なら腹部から覗いたのは白くなだらかな皮膚ーたさではない。

 

そこにあったのは美しい女性の顔(・・・・)。穏やかに目を瞑るルシエラが、ラファエラの腹部に埋め込まれていた。

 

「どうだ、私と違って姉さんは美人だろ?」

 

そう言って、ラファエラが愛おしそうに自身の腹部を撫でる。その目にはとても穏やかで、だからこそローズマリーは彼女から強い狂気を感じ取った。

 

「……はい、そうですね。でもラファエラさんも美人ですよ」

 

ジリジリと後方に下がりながらローズマリーが言う。

 

「ふふ、お世辞でも嬉しいよ、さて話は変わるが、ローズマリーに聞いてほしい事があるんだ」

 

「………なんですか?」

 

「なに、私の目的を果たす為に協力して欲しいんだ」

 

ラファエラは笑みを深め、そして、再び口を開いた。

 

「姉さんが覚醒してから、私は化物になった姉さんを殺してやる事だけを願って生きてきた……その、つもりだった。だけど、気付いたんだ。私の本当の願いに」

 

「本当の、願い?」

 

「ああ、私はただ、昔のように共に笑い合える姉妹に戻りたかっただけ……それだけだったんだ」

 

そこでラファエラは優しい気な顔から一転、ドス黒い殺意を抱いた顔に変貌する。

 

「……ッ!」

 

「だから、その機会を永久に奪ったリフル達を許さない。絶対にこの手で殺してやる……しかし、残念ながら、それを成すには私は少し力不足なんだ。リフルは問題ないが、姉さんを殺したアイツに勝つにはもっと戦力がいる」

 

そこでラファエラはローズマリーを真っ直ぐ見つめる。その目は最高の獲物を見つけた狩人のように鋭かった。

 

「だから、お前を仲間にしに来たんだ、お前が覚醒すれば間違いなく深淵級になる。姉さんもそう言ってるからな」

 

そう言ってラファエラはゆっくりとローズマリーに歩み寄って行く。

 

それを見て、ここ最近こんなのばっかだなぁ、とローズマリーは涙目になり。

 

「…………ああ〜申し訳ありませんが」

 

ローズマリーは妖力開放。

 

「……遠慮します!」

 

凄まじい勢いで駆け出した。

 

それを見つめて、ラファエラが笑う。

 

「ふふ、そうか、でも悪いな」

 

ラファエラが腰を落とし。

 

「お前に拒否権はないんだ」

 

猛烈な勢いで地を蹴ると、圧倒的なスピードでローズマリーを追い掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

黒刃と化した触手の群れが縦横無尽に駆け巡る。

 

その攻撃は正に竜巻、触れるもの全てを両断する悪夢の連撃だった。

 

しかし、その連撃をヒステリアは避け続ける。

 

「くぅぅ、はぁ、ぜはぁ、かはぁ」

 

苦しげに息を荒げ、張り裂けんばかりに心臓が鼓動を刻み、全身から鮮血を滴らせながら、ヒステリアは連撃を避け続ける。

 

「くっ、粘るわね」

 

そんなヒステリアを前にリフルが忌々しそうに呟く。

 

この連撃を始めてから既に十分、ヒステリアは全身に傷を負いながらも致命的なモノだけは受けずに、これを凌ぎ続けていた。

 

「いい加減、しつこいわよ!」

 

怒りと共に振るわれる黒帯の触手。だが、それはやはりヒステリアに当たらない。

 

そう、何故ならヒステリアは。

 

「はぁ…はぁ、はっ」

 

リフルの攻撃を見切り始めていた。

 

この戦いを通して、リフルを観察し続けたヒステリアは彼女の攻撃パターンと癖を大まかにだが把握していた。

 

だからこそスピードが落ちた身体で避ける事が出来る。

 

「くっ(こいつ、私の攻撃を)」

 

そして、自分の攻撃が見切られ始めた事をリフルも分かっていた。

 

今、ヒステリアが負っている傷は全て数分前につけたもの、ここ数分は攻撃をノーダメージで避けられているのだから。

 

「ちっ」

 

リフルは舌打ちし、攻撃パターンを変える。多数の触手を地面に突き刺さし、それを持ち上げる事でヒステリアの足場を崩そうと目論む。

 

そして、それを実行しようとした瞬間、ヒステリアがリフルに飛び込んだ。

 

「なぁ!?」

 

多数の触手を地に刺したという事は、当然、今までよりも攻撃密度が落ちる。そのタイミングを狙われたのだ。

 

「くっ」

 

迫るヒステリアにリフルが慌てて触手を振るう。だが、既に攻撃を見切ったヒステリアはそれをあっさり回避。

 

迅速果断に、リフルの懐へ飛び込むと。

 

「はぁああッ!!」

 

妖力を限界まで解放し、ガラ空きの胴体に大剣を走らせた。

 

「ガッ、この」

 

上体を逸らし、両断は免れたリフルだが、脇腹を深く斬られてしまった。それに怒り、ヒステリアの背に触手を放つ。

 

ヒステリアは大剣でなんとか攻撃を逸らし、背中から地面に墜落。

 

「ぐぅ、が」

 

痛みに呻きつつも、リフルの追撃を転がり躱し、起き上がって剣を構えた。

 

「はぁ…はっ、はぁ、はぁ」

 

「……やってくれるたわね」

 

「はぁ、はぁ、ふふ…油断する、からよ」

 

息を乱しながらも、ヒステリアは確かに笑った。その姿は時間を稼いでいるようには見えない。

 

ーーむしろ。

 

「……あなた、まさか本気で、私に勝つつもりなの?」

 

そう、リフルを倒そうとしているように見えた。

 

「はぁ、ぜぇ…聞いて、なかったの? はぁ、はぁ…そう、言ったわよ」

 

「……そう」

 

リフルがユラユラと触手を泳がせながら呟く。

 

「……?」

 

触手を複雑にくねらせるリフル。今までにないパターンの動き、よく観察してもヒステリアにはなんの為にそんな事をしているのか分からなかった。

 

「でも、あなたじゃ私を倒せない」

 

「はぁ、はぁ、やってみないで、なぜ分かる?」

 

むしろ、それは自らの隙を晒すような行為、やはり、ヒステリアにはその意図が理解出来ない。

 

その為、ヒステリアは更に集中してリフルを観察する。

 

「ふふ、分かるわよ」

 

 

それが隙となった。

 

「……ッ!?」

 

唐突に聞こえた風切り音。

 

ヒステリアの背後から大量の鉄柱が飛んで来る。直前で気が付いたヒステリアがそれを跳んで回避、だが、そこで完全にリフルに隙を晒した。

 

「……ほらね、無理だったでしょ」

 

複数の触手が高速で振るわれ、その一本がヒステリアの右手を斬り落とす。

 

「がっ!?」

 

残った右手腕を大剣ごと失ったヒステリアに。

 

「うりぁあっ!!」

 

ダフが走り込んで棍棒を振るう。

 

「ギィがぁ!?」

 

そして、ダフの全力で薙ぎ払われた棍棒、それがヒステリアに直撃、弾けるような怪音と共にヒステリア腰から下を粉砕し、彼女を遥か遠くまで殴り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 




フラグは出来るだけ回収するようにしてるんだ(ゲス顔)

ラファエラ(エラエラ)さんほぼオリキャラに(白目)



……なんか、主人公勢、みんな誰かに殴り飛ばされてるなぁ。

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