天稟のローズマリー   作:ビニール紐

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○○○「せいぞん、せんりゃくぅぅぅぅうう!!」


第25話

「……絶対に許さないわよ」

 

珍しく、顔に青筋を浮かべ、アガサがそう断言する。

 

「もう、何度も謝ってるじゃないですか」

 

そんな、ブチギレているアガサに飄々とした態度でラキアが答えた。ダフの猛追から命からがら逃げ切ったアガサ。彼女はダフが追うの止めてからも走り続け、そして、偶然、先に逃げていたラキアに遭遇。

 

結果、ラキアが死んだ振りをし自身を囮に逃亡した事を知り怒っているのだ。

 

「……本当に許さないから」

 

「まだ言いますか……はぁ、もう良いですよ許してくれなくても、それでアガサさんはこれからどうするんですか?」

 

「……教えてあげない」

 

「何も考えてないだけですよね?」

 

「ぐ……しょうがないじゃない、こんな事になるなんて考えてなかったんだから」

 

図星を指されアガサがムッとする。

 

「ふふ、ちゃんと先の事を考えて行動しないと危ないですよ?」

 

そんなアガサに、やれやれ、といった調子でラキアが肩を竦める。初対面の印象は無口だが誠実、そんな風に見えたのに今ではお喋りで不誠実、と丸っきり印象が反転していた。

 

はっきり言ってかなりムカつく。

 

「じゃあ、そう言うあんたはどうするのよ! それだけ大口叩いてるって事は何か考えが有るのよね?」

 

「当然です、こんな事もあろうかと、ナンバー17、ナンバー25時代に組織の目が届かない地域に目星をつけてあります、ついでに数年分の妖気を消す薬と幾らかお金も隠してあります」

 

ふふん、とラキアが胸を張る。そんなラキアにアガサが呆れた目を向けた。

 

「………いや、なんでそんな事してんのよ」

 

「当然、組織から抜ける為に決まってるじゃないですか、まさか、アガサさんは一生戦士を続ける気だったんですか? もしかして、私戦うの大好きって人ですか?」

 

アガサの視線に逆に生暖かい目を返すラキア。いちいち行動がイラっとする。だが、怒ってばかりでは話が進まない。アガサは怒りをグッと抑えて会話を続けた。

 

「……そんな訳ないでしょ。私だって出来ることなら、のんびり暮らしたいわよ……でも組織から抜けたら粛清されるでしょ?」

 

粛清は恐ろしい、昔ナンバー8の時に一度だけ、アガサは粛清に参加した事がある。その時は逃亡者の末路と来たら、かつての光景を思い出しアガサはプルリと身体を震わせた。

 

「ええ、粛清、怖いですよね、だから組織を止められない気持ちも分かります」

 

「そうでしょ」

 

「ええ……でも、残念ながら私もアガサさんも組織から逃亡しましたよね?」

 

「…………」

 

「…………」

 

その場に痛い沈黙が訪れた。いや、痛いと思ったのはアガサだけだ、ラキアは今もニコニコしている。

 

「………ちなみに、組織の目が届かない場所ってどこ?」

 

努めて興味なさそうに、アガサが聞く。それにラキアが聖母のような……あくまような(・・・)優しい笑みを浮かべこう言った。

 

「それはですねぇ…………あれ〜、参ったなぁ、昔過ぎて忘れちゃいました。まあ、その内思い出すでしょう、アガサさんと別れた辺りで」

 

「…………」

 

「…………」

 

再び場に沈黙が訪れる。

 

そして、それを破ったのはまたアガサだった。

 

「…………わ、別れる必要あるの?」

 

今度は取り繕う余裕がなかったのか、震える声でアガサが言う。

 

そんなアガサにラキアはワザとらしく首を傾げた。

 

「え、でもアガサさんは私を許さない訳ですし、そんな私と一緒にいると不快な気持ちになるでしょう?」

 

私はアガサさんの為を思って言ってます。そんな内容の言葉を、ニヤニヤとしながらラキアが言う。随分と性格が悪い。

 

「…………」

 

そんなラキアとは対照的にアガサの顔はどんどん青くなっていく、自分が多数の仲間に嬲り殺しにされる光景でも想像したのだろう。

 

あるいはローズマリーに食い殺される光景かも知れない。

 

ーーだが、何にしてもこの瞬間、アガサの心は決まった。

 

 

 

「やだなぁ、許さないとか言ったのは冗談だから、一度囮にされたくらい、全然気にしてないんだから」

 

絶対許さないがなんだって? アガサは一瞬でフレンドリーな笑顔を作り、先の発言をなかった事にする。

 

意地を張っては生きて行けない。人生において、プライドなんてものは大して必要のないものなのだ。

 

 

 

 

 

左、右、とローズマリーが木々を避けながら疾駆する。

 

木々が生い茂る森、暗くなり始めた事もあり、そこは逃亡者に有利なフィールド。ローズマリーにとって願ってもない状況だった。

 

しかし、やはりと言うべきか、そんな追い風のような状況も、力量が離れていてはあまり意味がない。

 

暗い森もなんのその、ラファエラはローズマリーの妖気をしっかり補足しながら、彼女の倍の速度で接近、大した時間も掛けずにローズマリーに追い付くと。

 

「悪いが逃がさない」

 

そう言って、背後から攻撃を放って来た。

 

ルシエラ同様、溢れ出た強大過ぎる妖気のせいで細かい動きが予測出来ない。それどころか目視もしてないのでどんな攻撃が来たのかも分からない。

 

しかし、彼女の言動からこの攻撃にこちらを殺す意図はない筈、それを信じ、ローズマリーはノーガードで振り返った。

 

「ぐ…っ」

 

同時に、棒状のものがローズマリーの胴体に突き刺さる。

 

ーービンゴだ。

 

予測した通り、ラファエラの攻撃は致命傷にならないものだった。いや、腹部をぶち抜いているのだから、普通の攻撃型の戦士なら致命傷になるだろう。だが、ローズマリーからすれば今更、腹を貫通する程度の攻撃など大した事ない軽症なのだ。

 

「シィ……っ!」

 

受けた攻撃を気にせず、ローズマリーが振り返る動きを利用し、ラファエラに鋭い足払いを仕掛ける。それが彼女の出足を綺麗に刈り取った。攻撃直後で反応が遅れたせいだろう。

 

足を刈られ、体勢を崩したラファエラが、突撃の勢いのまま宙を舞う。だが、彼女は体勢を整える為に動かない。ラファエラは体勢が崩れたまま再び攻撃を放ってきた。

 

「(チャンスッ!)」

 

ラファエラの指が高速で伸び、ローズマリーの肩と腿を貫く、それをやはり気にせずローズマリーは全力で彼女の身体を蹴り上げた。

 

重低音が響き、物凄い勢いで天高く飛んで行くラファエラ。突進に加えローズマリーの蹴りの威力まで加算されたのだ当然の結果だ。

 

この機は逃せない。ローズマリーは脚の傷を再生させると方向変換、二度と行かないと誓った海へ脇目も振らず駆け出した。

 

あの海にはヤバイ生物がいる、正直行きたくない。だが、それでもラファエラから逃げ切るには妖気を限界まで抑えて海に潜るくらいしか方法がないのだ。

 

一歩、二歩、三歩、一気にトップスピードまで加速したローズマリーが見る見る内にラファエラから離れて行く。その間、ラファエラは何もしない。最高点に達した彼女は重力に任せ自由落下を続けている。

 

余裕か? ラファエラがなんの行動も起こさない事に疑問を抱きながらも、ローズマリーはただ走る。そう、理由なんてどうでもいい。なんにしても今は出来る限り距離を取りたいのだ。

 

ーーしかし。

 

「効果が薄いのか?」

 

突然、ラファエラの声が聞こえて来た。

 

馬鹿な!? ローズマリーの顔が強張る、振り返るまでもなく、妖気の位置的にラファエラは後方で自由落下の途中、だが、声はすぐ近くから発せられたもの。

 

ローズマリーは走りながら声の出処を探り、そして目が合った。

 

最初に腹部を貫いたラファエラの攻撃、それが残した棒状の杭、そこについた目と。

 

「………ッ!?」

 

「なるほど、妖気の強弱で侵食速度が違うのか」

 

杭についた口がそう言う。目は不気味な視線でローズマリーを観察していた。この視線には覚えがある、先程の男覚醒者のソレだ。

 

これは絶対身体に良くない。ローズマリーは逃げるの優先し、放置していた杭を引き抜き、捨てる。

 

引き抜く際、周りの肉が盛大に抉れた。まるで木が土に根を張るように、ローズマリーを肉体を得体の知れないものが侵食していたのだ。

 

しかし、それにも関わらずローズマリーは大した痛みを感じなかった。

 

「……痛みに鈍感になったのが裏目に出たか」

 

苦々しいくローズマリーが呟く。痛みで身体が硬直する事は少なくなった。それは良い事だ。戦闘中の硬直はそれが一瞬でも死に繋がりかねない。実力者同士の戦いでは特にだ。

 

しかし、痛覚が鈍い故に、自身の危険に気が付けないのもまた死に繋がる。身体にナニカが寄生する、なんて状況はそうそう起こらないだろうが、現状はあまり良いとは言い切れない。

 

改善出来たら早いとこ改善しよう、そうローズマリーは思った。

 

もちろん、改善する機会が訪れたらの話だが。

 

「……ああ、もう、ついてないなぁ」

 

ローズマリーは後方に感じる妖気に泣き言を漏らした。

 

ただでさえ強大だった妖気が馬鹿みたい上昇している。見るまでもない、ラファエラが覚醒体になったのだ。

 

地響きが鳴り響く。高所から高重量のものが落ちてきたような音、それはラファエラの着地音、それが意味するのは追いかけっこの再開である。

 

ローズマリーは更に妖気を解放し、足に力を込め、死ぬ気で走った。そんな彼女の背後から数十の物体が飛来、ローズマリーの頭上を通り、浜辺の手前に扇状に突き刺さる。

 

「…………」

 

何が目的だ? 走りながらローズマリーが思った。狙いが逸れたにしてはあまりにもノーコンな投擲、行く手を遮るにしては攻撃と攻撃の隙間が大き過ぎ、何より海に近過ぎる。ローズマリーはラファエラの意図が分からなかった。

 

しかし、そんなローズマリーの疑問も数秒後には解決する。

 

ーーとても嫌な形で。

 

地に突き立ったラファエラの攻撃、柱のようなそれが強い妖気を発し、ビキ、ボコと音を鳴らし急速に形を変えていく。

 

「……いやいや、冗談キツイよ、これ」

 

その光景を前に、ローズマリーが立ち止まり顔を引き攣らせた。それはとても見慣れたものだったから。

 

そう、それは覚醒者が覚醒体へと変じる姿そのものだった。

 

そして、その結果、ローズマリーの前に数十の覚醒者が現れ、彼女を包囲する。

 

「…………」

 

覚醒者達はみな同じ姿をしている、それはルシエラの覚醒体にそっくりだった。

 

「(全員、ルシエラさんレベル、とか……ないよね?)」

 

後方のラファエラ本体に注意を向けながらも、ローズマリーは前方のルシエラもどき達に意識を集中する。

 

そんなローズマリーに。

 

「それほど嫌か?」

 

ルシエラもどきの一体が声を掛け。

 

「案外、悪くないものだぞ」

 

更に別の個体がその言葉を引き継ぎ。

 

「覚醒するのはな」

 

そして、また別の個体が告げて来る。どの声も完璧にラファエラのものだ。ルシエラのコピーを大量に作り出し、それを操るのがラファエラの能力、そうローズマリーは判断した。

 

「……幾ら何でも反則過ぎません?」

 

判断したから思わずローズマリーはそう言った。

 

まあ、そりゃ、言いたくもなるだろう、なにせ覚醒者を量産し、操るなんて能力を見せられてはその恐ろしさが理解出来る者なら誰だってそう言うだろう。

 

「いや、そうでもない、これにも色々問題がある」

 

そう、言いながらルシエラコピーの一体がローズマリーに襲い掛かった。その速度は本物に比べれば遥かに遅い。だが、それでも楽観視出来る程は鈍くはなかった。

 

ローズマリーは振るわれた腕を掻い潜り、懐へ飛び込むと、その腹に掌底を叩き込んだ。

 

攻撃が当たったコピー体が吹き飛ぶ、それに合われてローズマリーも前進、コピーを盾に包囲網を抜けるつもりなのだ。

 

「……少々、動かし辛いな」

 

弾き飛ばされたコピーがそう呟く。すると盾にしていたコピーの腹をブチ抜き、鋭い爪がローズマリーに迫って来た。

 

「………っ!」

 

それをローズマリーは横に飛んで躱す、そこで彼女の目に飛び込んで来たのは突進するコピーの群れ。

 

コピー達の全身からは見覚えのある突起物が生えている。

 

これはヤバイ、ローズマリーは総毛立つような感覚を覚え、上に飛んだ。直後、ローズマリーが居た場所を多数の杭が通過した。

 

その時、ローズマリーは見た、杭に小さな目と口が生えているのを。どうやらコピー体も侵食する杭を打つらしい。

 

「…………」

 

宙を舞いながらローズマリーは周囲を素早く見回した。杭を放ったコピー達は、身体の大半を変換して射出した為か、その場で倒れて動かなくなる。

 

再生能力は高くないらしい、朗報だ。

 

しかし、凶報もまた存在する。残り全てのコピーが一斉にローズマリーに向かい跳躍したのだ。

 

ほぼ全方位から迫るコピー、しかも、その全身には数え切れない突起物、足場なしの空中ではどうやっても回避出来そうにない。

 

「ちょ、待って」

 

なので、ローズマリーはダメ元で攻撃の停止を要請。

 

「悪いが待たない」

 

しかし、当然、ラファエラはそれを拒否。

 

次の瞬間、全方位から数千の杭が発射され、ローズマリーの全身を貫いた。

 

 

 

 

 

 

太陽はとうに沈み、闇が支配する岩石地帯、そこをリフルがひた走る。数十の触手を脚とした速度は正に疾風、闇夜を駆ける黒い風だ。

 

しかし、そんなリフルは内心でこう思っていた。

 

ーー遅過ぎる、と。

 

ああ、確かに速い、自分はとても疾いだろう。覚醒者の中でも最上級、極々少数の例外を除けば最速だと確信している。

 

だが、そんな速度もこんな化物を相手にどれほど通用する? リフルは背後に迫って来る地響きに目を向けた。

 

リフルの遥か後方、暗い大地に鳴り響くそれは信じられない事に足音(・・)なのだ。それも巨大な覚醒者のものではなく、人間大の、小柄な戦士のもの、リフルも実物を見ていなければ到底信じられなかった。

 

だが、残念な事にこれが現実、まあ。出会った時に感じた、自分と比してなお巨大過ぎる妖気からすればこれ位当然の事なのかも知れないが。

 

「(あーあ、失敗したわね)」

 

逃げながらリフルは後悔する。

 

こんな事になるなら、欲を出さず今まで通りひっそり暮らして居れば良かった。あるいはもう少し三人でのんびりと暮らし、ダフルが成長するのを待てば良かった。そうしていればあれにも勝てたかも知れないのに。

 

「(……いや、難しいか)」

 

リフルは自分の考えを否定した。

 

可能は十分ある。しかし、成長するのは何もダフルだけではない、あれも年齢的に成長中に見えた。だから、例えダフルが成長しても結果は変わらなかったかも知れない。

 

ーーつまり。

 

「……組織を潰すのが遅過ぎたのか」

 

「りふる?」

 

突然の呟きに、己の腕の中で覚醒体を解いたダフが自身の名を呼ぶ、その手には大事そうにダフル抱えられている。ダフルは胸から下を失い苦しそうに目を閉じているが、身体は徐々に再生している、この調子なら死にはすまい。

 

「なんでもないわ」

 

ダフルの様子に安堵しリフルは微笑み、そして、少し昔を思い出す。

 

思えばこの数十年、色々な事があった。楽しい事、嬉しい事、悲しい事、悔しい事。そして驚く事。

 

驚く事と言えば、自分が母親になった事だ。

 

自分が子供を産むなど戦士になった時は思ってもみなかった。なにせ半妖になる施術で身体を切り開かれた自分は子供を産める身体ではなくなってしまったのだから。

 

しかし、そんな身体も覚醒により癒えている、だからという訳じゃないが、リフルは自分が覚醒した事を後悔した事はない。最初から他人の為に頑張るなんて性に合わなかった。覚醒した時は清々としたくらいだ。

 

ーーそして、驚く事はもう一つ。

 

「なあ、りふる、どうしたんだ?」

 

何より自分の伴侶がこんな醜男になるなんて想像もしてもいなかった。

 

「ダフ、あんた本当に不細工よね」

 

「ひでぇ、いや、それよりあいつがきちまう、おろしてくれ、おれがじかんをかせぐから」

 

「……見てくれはダメダメ、身体も臭い、頭は低脳、好きになる要素なんてなかったんだけどなぁ」

 

「り、りふる?」

 

自分の言葉に答えず、こんな状況で何を言ってるのか分からない、ダフの声にはそんな感情が籠っていた。それにリフルは溜息を漏らす。

 

「はぁ、相変わらず鈍いわね」

 

「わ、わりぃ」

 

「……まあ、良いわ……ねぇダフ、あたしのお願い、聞いてくれる?」

 

「おう、りふる、のならなんでも、きくぞ」

 

「本当になんでも?」

 

「ああ」

 

「本当に? 嘘つかない?」

 

「ああ、うそじゃねぇ」

 

「約束する?」

 

「ああ、する」

 

「……そう、じゃあ、その子をお願いするわ、お父さん」

 

リフルは走るのに使っていた触手の一部をダフに絡め、胸元から顔の近くまで二人を持ち上げる。そして二人の口に触れる程度のキスをした。

 

「り、りふる!?」

 

「絶対逃げ切ってね」

 

次の瞬間、リフルは長い触手を大きく振るい、限界まで遠心力を加えるとダフとダフルを遥かに前方へと投げ飛ばした。

 

「り、りふるうぅぅぅうう!?」

 

尾を引いてダフの叫びがリフルの耳に届く。しかし、それも数秒の事、直ぐにダフの叫びは聞こえなくなった。

 

「バイバイ、ダフ、愛してるわ」

 

恥ずかしがって面と向かって言った事がなかった。そして、それは最後まで同じ。その言葉はダフには届かない。聞かせるつもりはない独り言なのだから。

 

「……さてと」

 

リフルは家族に別れを告げると逃走を止め振り返る。更にその動きと連動させ背後に触手を走らせた。

 

放たれた触手が黒い刃と化し、鋭い斬撃となって振るわれる。

 

しかし、その黒刃はより鋭い刃に両断された。

 

それを成したのはもちろんテレサだ。彼女は多数の触手を斬り飛ばし、立ち止まる事なく前進する。早く自分を始末してダフルを追いたい、そんな内心が見え見えだ。

 

「舐められたものね」

 

リフルは足に使うものを除き全ての触手を束ねると巨大な剣を作り出し、直進するテレサに振り下ろした。

 

「く……っ」

 

予想以上の速度と大きさに、回避が間に合わない。テレサが大剣でそれを受け止める。瞬間、テレサの足が地に埋まり、周囲に蜘蛛の巣状の亀裂を走らせた。

 

しかも、リフルの攻撃はこれで終わらない。巨剣の一部が解け再び黒帯の触手となる。それが地に押されたテレサに放たれた。

 

「……ちっ」

 

舌打ちし、テレサが一瞬だけ妖力解放率を引き上げる。そのまま彼女は巨剣を力任せに跳ね除け、バックステップで触手を躱した。

 

「…………」

 

身体が重い、自分の動きにテレサは顔を顰める。傷はあらかた完治した、しかし、ダフルとの激戦でかなり体力を消耗していた。

 

その影響で集中力、反応速度が落ち身体が重く感じるのだ。

 

「行かせないわよ、絶対に」

 

そう言って、多数の触手を構えるリフル。全ての意識を戦う事に向けた彼女はテレサをしてそこそこ(・・・・)強そうに思えた。

 

「…………」

 

テレサは一度、リフルから距離を取る。そして、周囲の妖気を探り、ほどなくしてダフルを見つけた、今も遠ざかっているが、まだ知覚出来る範囲、しかし、現在地と逃亡速度から十分以内に方をつけねば追付けない。

 

「……はぁ」

 

ならば、さっさと倒してしまおう。どちらにせよ、逃すなんて選択肢はあり得ない。なにせリフルは()なのだから。

 

 

 

 

 

それから五分後、リフルはテレサの前に敗れる事になる。

 

しかし、深淵の意地で……いや、母親の意地でリフルは命を捨てて特攻、自身の命と引き換えにテレサの足に傷を付ける事に成功、十分の再生時間を稼ぎ、見事家族を逃す事に成功したのだった。

 




○○○ → アガサ+ラキア

……全国一億二千万のリフルさんファンの方、申し訳ありません。

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