天稟のローズマリー   作:ビニール紐

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テレサの弱点を潰していくスタイル。


第9話

言わねばならない。

 

そう、ローズマリーは思った。

 

今更という思いはあった。言うならもっと早く、自分が暴走する前に言うべきだったと。

 

しかし、秘密を話すのは勇気が要る。しかもローズマリーの秘密はかなり重い。それこそ話せば縁を切られかねない重大な秘密だ、必要な勇気もひとしおだろう。

 

 

だが、それでも。

 

それでもローズマリーは秘密を話す事を決意したのだ。

 

 

 

……そして、

 

「ああ、空が青いなぁ〜」

 

ローズマリーは空を見上げ、そんな当たり前の感想を口にした。

 

 

 

秘密を話す事を決意したローズマリー。

 

彼女は手術室を後にし、備品庫で新しい制服を拝借すると、そのまま、ヒステリアの担当地まで走り出した。

 

その速度は正に疾風、そんな速度でローズマリーは駆け抜ける。今の戦士で彼女を捕らえられるのはヒステリアだけだろう。

 

その疾走は本当に素晴らしい速度だった。

 

 

 

でもローズマリーは捕まった。

 

それはもうあっさりと捕まった。

 

ローズマリーの妖気を感知したテレサがちょっぴり妖力解放して追いかけて来たのだ。

 

 

ローズマリーの妖気が動いてる。それも自分の方向へ。それを感じ取ったテレサはローズマリーが自分に会いに来たと思ったのだ。

 

久しぶりの再会、妖気を近く(組織本部)に感じていたのに一向に会いに来てくれなかったローズマリー、そんな彼女がついに動き出したのだ。

 

それにテレサは期待に胸を膨らませ、ワクワクしながら何を話そうかとこの二ヶ月の事を振り返る。だが、特に目新しい話題がない。それに焦って何かあるだろうと記憶をほじくり返していると。ふと、気づいた。ローズマリーの妖気が離れて行っていることに。

 

途中までは此方に向かっていた。だが、彼女はあっさりと訓練場を通過、そのまま高速で離れて行くではないか。

 

そう、ローズマリーはテレサに会いに来た訳ではなかったのだ。

 

それにテレサは落胆する。そして同時に腹を立てた。だから彼女はローズマリーを追いかけた。

 

テレサは軽い妖力解放で身体を強化、ローズマリーの倍する速度で疾走すると僅かな時間で彼女に追いき、ローズマリーを捕縛してしまったのだ。

 

 

 

まあ、要するにさっきのローズマリーの呟きはただの現実逃避だということだ。

 

 

「……はぁ」

 

ローズマリーが溜息を吐いた。現在、彼女はテレサに引きずられて訓練施設まで向かっている……いや、正確には連れて行かれていた。

 

「ねぇ、テレサちゃん?」

 

ズルズルと踵で地面を削りながら、両手をガッチリ拘束され引きずられるローズマリーがテレサに話しかけた。

 

「なに、お姉ちゃん?」

 

ローズマリーに話しかけられテレサが嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

可愛い顔だが、漏れ出る妖気が半端ではない。まさか、金眼に “ならない” 程度の妖力解放でシルヴィに匹敵する妖気とは、さすがのローズマリーもこれには冷や汗が止まらなかった。

 

「ええと、自分で歩けるから手を離してくれるかな?」

 

「やだ、離したらお姉ちゃん逃げるでしょ?」

 

テレサが笑顔で言う。

 

だが、内面は違う。漏れ出る妖気が激しく騒ついている。

 

これは妖気の持ち主が怒っている証拠だ。

 

つまりテレサは笑顔で怒っているのだ。

 

「(か、顔と感情が合ってないッ!)」

 

笑顔の裏に鬼を見たローズマリーが顔を引き攣らせる。

 

 

「い、いや、逃げる訳じゃなくて、ちょっと会いたい人が居るんだよ」

 

「………私より?」

 

テレサの目が細まった。

 

同時に彼女の目が金色に染まる。彼女から放たれる妖気が更に増した。もう、完全にシルヴィ以上だ。

 

そんなテレサの妖気に思わずローズマリーの口から笑いが漏れた。

 

「は、ははは、いや、そういう訳じゃないよ、もちろんテレサちゃんに会いたかった。でもちょと、その人に言わなきゃいけない事があってね」

 

「それって今すぐ言わなきゃいけないことなの?」

 

「い、いや、絶対今すぐに言わなきゃいけないって訳じゃないけど」

 

……出来れば、早めに言いたいな。そうローズマリー言おうした時、テレサが割り込んだ。

 

「じゃあ、良いでしょ! それにお姉ちゃんの任務って私の先生だよね、任務をサボっちゃいけないんだよ? それとも他に任務が入ったの?」

 

「…………」

 

正論だった。それを言われては抵抗できない。

 

まあ、抵抗しても結果は同じになりそうではある。

 

なにせ妖力解放したテレサはローズマリーより力が強く、妖気探知による未来予知に等しい先読み能力を持ち、それでいて彼女より動きが速いのだ。

 

こんな相手からどう逃げろと?

 

「……そうだね」

 

ローズマリーは諦めに満ちた声でそう答えると視線をヒステリアの担当地がある方に向ける。

 

そして、彼女は心の中でヒステリアに謝った。

 

「(すいませんヒステリアさん…どうやら、直ぐには会いには行けそうにないです)」

 

所詮この世は弱肉強食、弱者(ローズマリー)の儚い抵抗など強者(テレサ)の前には無意味なのである。

 

そして。ローズマリーはテレサに引きずられて訓練施設へお持ち帰りされてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「(ああ、何故俺はこんな事をしているのだろう?)」

 

そう “元” テレサの指導員が内心で呟いた。

 

彼の目にはこちらの持つトランプを真剣に見るローズマリー、その横では一番にあがったテレサが「右、右だよ!」とこちらに聞こえる “ように” ネタバラしをしている。

 

そんなテレサに地味にイラつきなが元指導員は何食わぬ顔で手元のジョーカーの位置を入れ替えた。

 

 

 

 

 

こんな事になったのは三日前まで遡る。

 

……までもないので割愛する。

 

理由を説明するとすれば『二ヶ月振りに指導員に復帰したローズマリーによりまたテレサが甘やかされている』

……これに尽きる。

 

彼女が消えて二ヶ月、少しづつテレサの訓練時間を増やし、ついに元の訓練時間(一日12時間)に戻した元指導員の努力をローズマリーは全否定、彼女は復帰一日目にしてテレサの訓練時間を一日4時間に戻してしまったのだ。

 

で、現在は休憩時間、元指導員も巻き込んでトランプに興じているという訳だ。

 

 

「またビリだね」

 

笑顔の中に嘲りを滲ませてテレサが元指導員ーークルトに言う。

 

それに聞いたクルトの額に青筋が筋がいくつも浮かんだ。

 

「お前が、ローズマリーに手札を教えるからだろ」

 

それにクルトは声を押さえて返す。

 

正直、彼は怒鳴り散らしたかったのだが、つい最近訓練生に指導員が半殺しにされるという事件があったばかりなので、少しばかり躊躇したのだ。

 

だが、そんなクルトの態度が面白いのか、テレサの笑みが深まった。

 

「ええ〜私は右とか左とかしか言ってないよ? これだけじゃ私が言ってるのがジョーカーか普通のカードなのかは分からないよね?」

 

微笑と言えば聞こえは良いが完全にクルトを揶揄うニヤニヤ笑いを浮かべ、テレサが首を傾げる。

 

「(このガキ、うぜええええッッ!!)」

 

テレサが我が儘になっている、それも急速に。そう、クルトは思った。

 

ローズマリーが指導員になってからだ。これも全部奴が悪い。そう考えクルトがギロリとローズマリーを睨んだ。

 

するとクルトの言いたいことが伝わったのかローズマリーは困ったように、申し訳なさそうに苦笑し頬を掻いた。

 

「(コイツもこいつで)」

 

戦士としては優秀だ。彼女のナンバーは一桁上位である4だし、近くナンバー2になるのが確定している。

 

訓練生を強くするという面でも優秀だ。

 

ローズマリーが来てからテレサは飛躍的に強くなったように見える。戦士ではない自分にも分かるのだ、その成長はかなりのものと推測出来る。

 

だが、ローズマリーは指導員としては落第だ。

 

彼女は甘い、とにかく甘いのだ。

 

まるで愛娘を可愛がる母親……いや、娘を猫可愛がりする父親のようだ。本当にローズマリーは訓練生を甘やかし過ぎる。

 

それに元指導員として腹が立った。

 

戦士とは時に理不尽な命令にも従わなければならない。だが、その意識がローズマリーの指導では培われないからだ。

 

「(もっと訓練時間を伸ばせ、そして少しはテレサを怒れ! と言うかお前は “短期” 指導員だろ、なぜ半年もここに居る!?)」

 

クルトが内心でそんな文句を言っていると、澄んだ高い鐘の音が訓練場に響き渡った。

 

それは現在時刻を知らせる音、そして、遊び始めてこれで3時間が経過した合図だった。

 

「フッ、もう、充分休んだだろう、訓練に戻れ」

 

我が意を得たり、ニヤリとクルトが笑い、二人に訓練再開を促す。

 

遊びは3時間と決めていたのだ。

 

言い方が悪かったのか、クルトの言葉にテレサがムッとする。

 

「もう少しくらいいじゃん、ケチ」

 

「ふん、ケチも何も、決めたのはお前とローズマリーだろう」

 

「うっ」

 

クルトの返しにテレサが口籠る、そんなテレサ様子に苦笑するとローズマリーが口を開いた。

 

「そうですね、自分で決めた事くらい守らないといけないね、それじゃあ、テレサちゃんそろそろ再開しようか?」

 

そう言ってローズマリーが椅子から立ち上がる。テーブルのトランプはいつの間にか片付けられていた。どうやら彼女は決めた通り直ぐに再開するつもりだったようだ。

 

「……うん」

 

その言葉を受け、テレサが微妙に眉を曲げながら頷く。彼女は地に刺した大剣を引き抜きくと恨めしそうな視線をクルトに送った。

 

クルトはシッシと手で払う。

 

それに気分を害したのかテレサは顔を顰めると先を行くローズマリーを追いかける。

 

そのまま二人は連れだって訓練場の中央へと歩いて行った。

 

「…………」

 

そんな二人を見て、不意にクルトは寂しい気分となった。

 

「…………」

 

去り行く二人の背が故郷に残して来た妻と娘に重なったのだ。

 

彼女達は元気にしているだろうか?

 

手紙も届かぬ遠い故郷にいる家族を思い出し憂鬱な思いに支配される。

 

「………はぁ」

 

だが、沈んでいる暇はない。

 

クルトは暗くなった気分を溜息と共に吐き出し、残ったモヤモヤを頭を振って追い出すと、ペンを取り出し、報告書をまとめ始めた。

 

 

 

 

 

 

その場は静寂に支配していた。

 

「…………」

 

「…………」

 

テレサとローズマリーが向かい合う形で大剣を構えている。

 

二人の間には10歩程の距離がある。だが、そんなものクレイモアの中でも図抜け実力者である両者からすれば瞬く間に詰められる距離に過ぎない。

 

「(さて、どうしようか)」

 

大剣を上段に構えながらローズマリーがテレサを伺う。

 

テレサは正眼に剣を構え微動だにしない。カウンター狙い、あるいはこちらと同じように隙を晒した瞬間動くつもりか。

 

ローズマリーはテレサを慎重に観察しながら彼女の動きを予測する。

 

「(妖気の流れに偏りはないし、動きもない、これは先読み出来ないな)」

 

実に自然で美しい妖気の流れだ。ローズマリーにはテレサの次の行動がまるで読めなかった。

 

「(だけど、逆にこっちは読まれてるよね)」

 

ローズマリーは試しにほんの少し大剣を動かそうとする。すると、自分の中の妖気が腕と肩周りに集中したのが分かった。

 

しようとしまいが妖気を持つ者はこれから動かす箇所に妖気が集中してしまう。それはどう足掻いても避けられないモノ、身体の作り上起こる当然の現象だった。

 

つまり、動こうとしたら先読みされる。

 

事実テレサはほんの僅かな妖気の流れを感知し集中力を高めていた。

 

「(この場合は先に動くのは悪手、テレサちゃんが動くのを待つ………のが正解なんだけど)」

 

妖気感知による先読みでテレサは圧倒的にローズマリーより上だ。その点で競っても勝ち目はないし、テレサの訓練にならない。

 

ならば少し意表を突いてみよう。

 

ローズマリーは全身から力を抜き、漏れ出る妖気に蓋をするイメージで開放していない妖気をさらに鎮める。

 

「………?」

 

テレサの表情が、少しだけ動いた。

 

それを見たローズマリーは限界まで妖気を鎮めたままテレサ目掛けて踏み込んだ。身体の動きが鈍い、身体能力は無解放状態の7割程か?

 

だが、それに構わずローズマリーが上段から袈裟斬りを放つ、当然のようにテレサはこれを防ごうと大剣を掲げた。

 

それに対しローズマリーは手首を捻る。すると袈裟斬りの軌道が途中で変わり、掲げた大剣をすり抜け、テレサの脇腹へ。

 

「……っ」

 

危機一髪、テレサはその剣撃をバックステップで躱す。だが、その動きを見てローズマリーは確信した……先読みが機能していないと。

 

ローズマリーは更に踏み込み後方に飛んだテレサ追いつくと、多数のフェイントを織り交ぜた連続斬りを浴びせかかった。

 

「……くっ」

 

テレサが少し顔を歪ませて防戦に回る。

 

「(ふむ、なるほど)」

 

そのテレサの動きを見てローズマリーは思った。

 

意外とまだ隙があると。

 

以前からテレサには完成された剣の冴えを感じていた。しかし、それは妖気感知による先読みあってのモノだったらしい。

 

考えてみれば当たりまえか、テレサはまだ13歳、剣技を極めるにはいくら何でも早すぎる。

 

「(なら、しばらくはこうやって鍛えた方が良いかな? 純粋な剣技を高める事も必要だろうし)」

 

そう考え、ローズマリーは攻勢を強めた。

 

袈裟斬りからの逆袈裟、そこからもう一度袈裟斬りと見せかけての蹴撃。

 

意表を突いた蹴りがテレサの身体を跳ね飛ばす。直撃の寸前、大剣から離した左腕でガードしていたが、明らかにいつもより反応が遅かった。

 

「(やはりフェイントへの対応が不十分)」

 

相手のどんな動きも正確に予想できたテレサだ。フェイントへの対応力を身につけてないのは当然か。

 

吹き飛ぶテレサに追い縋り、ローズマリーが上段から真っ直ぐ大剣を振り下ろす。

 

速度はそれ程ではないが、地に足ついていないテレサにこれは躱せない。

 

そのまま大剣は吸い込まれるようにテレサの肩に向かい直撃の手前でスピードを落とす。寸止めする気のようだ。

 

 

ーーしかし。

 

「………ッ!?」

 

その時、ぞわり、と全身が総毛立った。この感覚はシルヴィの戦で感じたモノ、つまり命の危機が迫っている。

 

見ればテレサの目が金に染まっている。

 

それにローズマリーが気づくと同時に宙にいるテレサが大剣を振るった。

 

腕力だけで放たれた大剣、それが常軌を逸した速度でローズマリーに迫る。

 

ーーヤバイ。

 

 

「(間にあっ!?)」

 

そして、咄嗟に身を捻ったローズマリーの背中に剣撃が激突、彼女を水平に弾き飛ばし岩の壁に叩きつけた。

 

「ごふっ」

 

壁に激突したローズマリーが跳ね返って地に落ちた。彼女の背中には服の上からでも分かるほどくっきりと大剣の形に陥没している。

 

跡から見て確実に背骨が折れているだろう。

 

「ぐあ」

 

命の危機を感じ取った身体がローズマリーの意思に反して妖力解放する。

 

妖力解放により急速に傷が回復していく、同時に猛烈な飢餓感が発生、それに焦りを感ながらローズマリーは全力で妖気を抑えた。

 

「はあ、はあ、はあ…はあ……はぁ……ふぅ」

 

十数秒後、なんとか妖気を鎮めたローズマリーが立ち上がる。既に彼女から飢餓感は消え去り、その身の傷も癒えていた。

 

「(し、死ぬかと思った)」

 

ローズマリーは血で汚れた口元を袖で拭うと、その自分の行動に違和感を覚えた。

 

「…………」

 

ローズマリーが無言で掌を開閉する。軽く足で地を叩く。

 

身体には痺れがあった。

 

だが、以前妖力解放した時ほとではない。

 

以前は一度解放するとしばらく立っていられない程、身体の調子が悪くなったのに。

 

「(慣れ、なのか?)」

 

多少の痺れはあるが、妖力解放後にも関わらず思いの外、調子が良い。

 

そんな自分にローズマリーは首を傾げる。

 

その時、小さな声が遠くから聞こえてきた。

 

「お、お姉ちゃん」

 

優れた聴覚を持つローズマリーだから拾えた。そんなか細い声でテレサがローズマリーの名を呼んでいた。

 

見れば、テレサは泣きそうな顔だった。

 

「いや〜ごめんごめん受け損なっちゃったよ」

 

泣かせではいけない。そう思ったローズマリーは刺激しないように、なんでもない風を装って頭を掻きながらテレサに歩み寄る。

 

「だ、大丈夫?」

 

戻ってきたローズマリーを見上げてテレサが聞いてきた。その顔は珍しく青い。相当心配したようだ。

 

「大丈夫大丈夫、なんともないよ」

 

ローズマリーは心配するテレサを安心させるように言うと、彼女の頭を優しく撫でる。

 

「(……それにしても、恐ろしい一撃だった)」

 

ローズマリーはたった今受けたテレサの剣撃を思い出して内心で身震いした。

 

踏ん張れない空中、それも大勢不十分な状態から放たれた手打ちの斬撃、それがローズマリーを瀕死に追い込んだのだ。

 

咄嗟に身を捻らなければ、テレサの大剣が訓練用の物でなければ真っ二つにされていただろう。

 

いや、それどころか狙いが頭だったら訓練用だろうと即死していたはずだ。

 

「(……分かってはいたけど)」

 

テレサの能力は凄まじい。そして、何より恐ろしい。現時点でも妖力解放して戦えばあのシルヴィ相手でも単独撃破可能…いや、それどころか深淵の者が相手でも普通に勝てるのでは?

 

そう、思ってしまう底知れぬ潜在能力をテレサは持っていた。

 

「ほ、本当に大丈夫?」

 

「はは、大丈夫だよ、心配しでくれてありがとう、じゃあ、キリが良いし休憩しようか?」

 

そう言って、ローズマリーはどこか気落ちしているテレサの背を押しながら休憩所へと足を進めた。

 

 

 

 

 

「………大丈夫なのか?」

 

休憩中のローズマリーにクルトが話しかけて来た。

 

「………大丈夫ですよ」

 

ローズマリーはテレサが眠っている事を確認してから小声で答えた。

 

「信じられんな、絶対死んだと思ったのだが?」

 

「勝手に殺さないで下さい。まあ、確かに攻撃型の戦士だったら危うかったでしょうね」

 

「つまり、防御型なら大丈夫なのか?」

 

それを聞き、ローズマリーは自分が受けた痛みとダメージを思い出し渋い顔を作る。下手に大丈夫と言い切るのも危険な気がしてきた。

 

「……一概には言い切れません、場合によっては防御型でも死ぬでしょう、それくらいは重症でした」

 

「その割にはお前はピンピンしているようだが?」

 

「私は特別なんですよ」

 

自嘲の笑みを浮かべてローズマリーがそう告げる。クルトはそれを不審そうに見つめ、しかし、直ぐに頭を振った。

 

「まあ、どうでもいいことか」

 

「どうでもいいって、酷いですね」

 

「お前が死んでも俺は責任を問われんからな」

 

「うわ、本当に酷い」

 

ローズマリーが冗談交じりに責めるような視線を送る。それにそれを受け、クルトは鼻を鳴らすと、ローズマリーから離れて行った。

 

「………はぁ、私も少し寝るかな」

 

ローズマリーは椅子に身を預けるとゆっくりと目を閉じる。

 

それから数分後、静かな二つの寝息が聞こえてきた。

 

「………ふん」

 

戻って来たクルトがそれに鼻を鳴らし、薄手を毛布をローズマリーとテレサに掛けた。それから彼はいつも通り、ペンを取り出し、サラサラと報告書を書き始めた。

 

 

 

 

 

 




ツンデレ(誰がとは言わない)

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