ベストマッチ・ラボラトリー   作: 凛キチ

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クロニクルガシャット予約したので初投稿です


1.「よしこ」×「ニコ」

花家大我(はなやたいが)』。

 

仮面ライダースナイプに変身し、バグスターウイルスの根絶を目指して戦っている闇のドクター。それでいてこの私、西馬(さいば)ニコの主治医でもある。今人類を脅かしている恐ろしいゲーム『仮面ライダークロニクル』のクリアを目指して、CR(電脳救命センター…だっけ?)に所属するドクター達と共同戦線を張っている……ってな感じ。

天才ゲーマーN()の取り柄といったら文字通りゲームだ。クロニクル攻略に多いに役立っている自負はある。でも大我と一緒に戦い、バグスターを攻略するたびに、心のどこかがモヤモヤするようになっていた。……なんだろ、これ。ゲーム病はとっくに治ってる。でも…何か気になる。その何かがはっきりしないうちに初級と中級のバグスターは全て攻略、上級バグスターたちとの決戦は目前だ。

 

「大我の笑顔って、どんなんだっけ」

 

モヤモヤの正体に気づいたのもこのころだった。私の主治医(たいが)はいつも仏頂面。笑うと言ってもいわゆるスマイルとは程遠い表情ばかりだ。そこそこ長い付き合いなのに、大我が楽しそうにしている姿を見た記憶がない。確かにヘラヘラ笑っていられるような立場ではないし、ぶっちゃけた話大我(あいつ)に笑顔が似合う気がこれっぽっちもしない。……まぁそれはそれとして、あくまでただの興味の範疇だけど…大我の曇りのない表情(かお)を見てみたいという思いが日に日に強まった。

でも———彼が背負ったものは想像以上に深くて、目を背けたくなるほどに重くて、何も見えないくらいに暗かった。

今の私じゃ大我の心を晴れやかにするなんて到底無理な話だ。……待てよ?私も罪深き存在になれば大我と同じ立場になる。そこから一緒に光に向かって歩けばいい。

…ってなわけで私、西馬ニコは大我(あいつ)の堕天使になることにした。まさか本物の堕天使が現れ、あんなことやそんなことが起きるなんてこと、想像もしていなかったけど。

 

31.8話『にっこりKarteは誰の手に?』

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

上級バグスターに挑む日が迫っている。今日はそのための作戦会議だ。私は大我と共にCRへ急いでいた。あいつらを全員ぶっとばして、この恐ろしいゲームを終わらせてみせる。否が応でも私たちの気持ちは高ぶる。パラドクスの言葉を借りるならば、心が(たぎ)る…とでも言っておこうかな。

 

なんやかんやで病院に着き、いつもの様にCR(ここ)にいるドクター達と合流しようとした……そのとき、CRのドアが勢いよく開き、その向こうから外科医(ブレイブ)が私たちのいる方へ走ってきた。彼の表情からして、何か恐ろしいことが起きていることは容易に想像できた。

 

「おい、一体何があった!?」

 

ただならぬ事態を察知した大我は外科医に駆け寄る、私もその後に続く。外科医は二、三度深呼吸をした後、私たち2人の手を掴んで——こう言った。

 

()()()()()()()()()力を貸して!!」

 

「「…は?」」

 

思考が追いつかない。今、大我のことを名前で…つーか私のことニコ「ちゃん」って……きもっ。大我は驚きつつも

 

「お前…何か悪いものでも食ったのか?」

 

と尋ねた。すると外科医は説明を忘れてた!って顔をして、

 

「私、ポッピーだよ!身体は飛彩(ヒイロ)だけど、中身はポッピーなの!」などとほざいた。

 

いよいよ訳がわからない。目の前に広がるこの光景は一体なんなんだろうか。未だに状況を把握しきれていない私たちに、外科医は早口で説明する。

 

「だーかーらー!私が飛彩で、新檀黎斗(クロト)が私で、永夢が黎斗で、飛彩が永夢なの!!もぉ〜!!ピプペポパニックだよぉー!!!!」

 

外科医の情けない声がCRに響き渡った。

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

「あぁ〜ピヨる〜〜〜」

 

「くそっ、パラドめ…私が開発したガシャットをよくも」

 

「はぁ…なんでよりによって黎斗さんなんだ…」

 

「……(ケーキを食べる音)」

 

今日のCRに名前を贈るなら、混沌(カオス)ってのが一番しっくりくるよなぁ…なんてくだらない事を考えることで、私はひたすら現実逃避に勤しんでいた。だって…ほんとにカオスなんだもん!!

 

目の前には…壮絶にピヨる外科医、ガシャットをいじくり回すナース、隅で落ち込んでいる新檀黎斗、そしてホールケーキを黙々と食べ続ける永夢(エグゼイド)という極めて異質な光景が広がっていた。外科医…の姿をしたヘボナースが言うには、患者の体内でウイルスが突然変異を起こし、その際に得た特殊能力でその場にいたドクター達の人格がシャッフルされてしまい、そのせいで変身もできない状態らしい。

 

にわかに信じがたいことだが、今の状況からしてナースが嘘を言っているとは到底思えない。入れ替わり現象なんてあるんだ…としみじみ考えていた。大我も目の前の現実を受け止めきれていない様だが、このままでは一向に前に進まないのもまた事実である。

 

「おい、無免許医」

 

ケーキを運ぶ手を止め、永夢…の姿をした外科医【ここから先は紛らわしいので「永夢(飛彩)」と表記する。他も同様である】が大我の前に立ち、少し、ほんの少しだけ頭を下げた。

 

「お前に借りを作るなど死んでもごめんだが……患者の命が最優先だ。やむをえん、お前がバグスターを切除してくれ」

 

その手は震えていた。恋人の仇に対して依頼をするなど、天才外科医として、いや人間としてのプライドが許さないのだろう。それでも患者の治療を優先するあたり、やっぱりこいつもドクターなんだなぁと感心した。

 

「大我さん、僕からもお願いします!!」

 

「こうなってしまった以上一刻も早く感染源を叩くしかない。花家先生、急いでくれ」

 

「私からもお願い!大我、みんなを元に戻して!」

 

黎斗(永夢)と外科医(ポ)も一緒に頭を下げた。ヘボナース(黎斗)は頑として下げなかった。まぁそれはいいが、外科医の身体でポッピー口調を使われると心臓に、いや腹筋に悪い。こっそり動画撮っとこうかな…。

 

「言われるまでもねぇ、バグスターは俺がぶっ潰す…ん?…その前に、患者に会わせろ。……まさかな」

 

カルテに書かれた名前を見るやいなや、大我は足早に治療室へと向かった。いつもバグスター撃退にこだわって患者に興味を示すことは滅多にないのに、めずらしいこともあるんだね。大我が気にする患者がどんな人間か気になるから、私もそのままついていった。

 

この数分後、私の人生における最大の親友(ライバル)と対面することになろうとは……

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

患者の名前は津島 善子(つしま よしこ)。幻夢コーポレーションが発売しているRPGゲーム「タドルクエスト」シリーズの新作を買いに聖都へ出向き、そこでバグスターウイルスに感染したらしい。

 

大我の診断によると、感染しているウイルスは「アランブラ」。何の偶然かタドルクエストに登場する敵キャラである。 治す方法は極めて簡単。アランブラが現れたらぶっ潰す、シンプルイズベストだ。だから治療については心配していない、だって私の主治医は最強だから。

 

それよりも心配なのは、大我と彼女が知り合いだということ、そして大我は彼女にどう接するのか…ということだ。ポッピーが言うところによると、5年前医師免許を剥奪される前までは愛想もよく人気者だったらしい。現在、厳密に言えば仮面ライダーになってからの大我しか知らない私にとってはまるで未知の領域だ。…要は大我のイメージが崩れないか心配なのだ。

 

「まずは問診だな」

 

普段はそんなことしないけど、彼女…津島善子のケースがあまりにも特殊なものだから(ゲーム病の影響が人から人へ移るなんてことは普通はありえないらしい)、彼女自身に何か原因があると睨み、情報を聞き出すことにしたのだ。是非とも参加したかったけど、「お前は外で待ってろ」と言われ、あっさりつまみ出されてしまった。

 

だが、ここで諦める西馬ニコじゃない。ドアに張り付いて聞き耳を立てる。やがて彼女——善子と大我の会話が始まった。

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

「驚いたわ。まさか花家先生(私の主治医)がCRのドクターだなんてね」

 

関係ない。

 

「俺もまさか善子(あんた)CR(ここ)に担ぎ込まれるなんて思わなかったよ」

 

関係ない。

 

「先生…何か雰囲気変わったわね」

 

関係ない。

 

「5年も経てば人間変わっちまうもんさ」

 

関係ない、関係ない、関係ない…!大我が女子高生と話していようが私には関係ない。善子(あの子)の大我を見る目が恋する乙女のそれだとしても私には関係ない。かつて大我があの子の主治医で、彼女が私の知らない大我をいっぱい知ってたとしても私には関係ない…!関係ないってのー!!!…はぁ。何ムキになってんのよ、私。っていうか仮面ライダーとしての大我に関しては私が一番よく知ってるし?別に嫉妬なんかしてないしぃ〜 別にジェラシーなんか感じてないってばーっ!!疲れてんのかな……私。覗き窓から2人を観察している内に、見たくないものを見てしまった。

 

彼女と話している大我の表情(かお)は、いつもよりも少し、ほんの少しだけ緩んでいた。

 

「…っ」

 

心が曇っていくのを感じる。私の知ってる大我の表情は常に張り詰めている。あんな顔、私はただの一度も見たことがない。…そりゃあそうだ、久しぶりに会ったんだから口角ぐらい上がるでしょ。そう自分に言い聞かせ続けた。それでもこの気持ちは晴れない。恋愛感情?いや、そんな簡単なものじゃない。友達にゲームを貸して、そいつが隠しキャラを出現させたときのような、50m走のラスト1mで追い抜かされてしまったような、そんな気持ち。

 

RRRRRR…!!!

 

大我の聴診器(ゲームスコープ)が鳴り響く。アランブラ出現だ。私は葛藤を心の空きブロックに無理やり押し込めて、大我とともにバグスター討伐に向かった。

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

アランブラが現れたのは聖都噴水公園。この間ラブリカバグスターを追い払った所だ。私たちが駆けつけた頃には奴はもう縦横無尽に暴れまわっており、木や装飾は破壊され、美しい風景など見る影もなかった。

 

「……お、やっと来ましたか。レベル50へと昇華した私が倒せますかねぇ?」

 

「どれだけレベルが上がろうと、この俺がぶっ潰してやる」

 

『バンバンシミュレーションズ!』

 

「『第伍十戦術』、変身!」

 

「甘い!」

 

 

大我は颯爽と「ガシャットギアデュアルβ」を起動し、そのまま「ゲーマドライバー」に装填しようとする。その際に生じる隙をアランブラは見逃さなかった。杖から放たれた衝撃波が大我の左腕を襲う。手に持っていたガシャットギアは弾き飛ばされ、噴水の中に落っこちてしまった。

 

「やばっ…!!」

 

「行かせるものか!」

 

私は大慌てで拾いに行くものの、奴の撃ち出す光弾に邪魔されて近づくことができない。

 

「…もういい、危ねぇから下がってろ!!」

 

大我は私にそう言い捨て、両手にガシャットを構える。

 

「ふふっ…そんなレベルで私に勝つつもりですか?」

 

「お前くらいならこいつで十分だ」

 

『バンバンシューティング!』

 

『ジェットコンバット!』

 

「『第参戦術』、変身!」

 

大我は【仮面ライダースナイプ コンバットシューティングゲーマー レベル3】に変身し、「ミッション開始!」の掛け声と同時にアランブラへ敢然と立ち向かう。

 

スナイプは空高く飛翔し、腕に装着されたガトリング砲を(ターゲット)めがけて連射する。しかし、奴が張り巡らせたドーム状のバリアに全て防がれてしまった。周囲に大量の「MISS」が虚しく表示される。

 

「こんにゃろ…!!」

 

「くっくっく、やはりレベル3だとこんなものですかねぇ?」

 

スナイプは一歩も引かず砲撃を続けるも、バリアを突き破ることはできない。圧倒的レベル差は覆しようもなかった。

 

 

「だから言ったでしょう?その程度の力では敵わないと!!」

 

「っ……ぐわぁぁぁぁ!!」

 

奴の杖から放たれた電撃がスナイプに直撃する。レベルアップした影響で、威力も桁違いに上がっている。レベル3の性能(スペック)で耐え切れるはずもなく、無常にも地上に突き落とされ、そのまま変身が解けてしまった。……スナイプは完敗を喫した。

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

皆さんこんにちは。堕天使ヨハネこと津島善子です。世間を騒がせているバグスターウイルスに感染してしまい、CRで治療を受けている。今はベッドで絶賛寝たふり中。なんでそんなことしてるのかって?だって…だって…

 

「アランブラは俺一人で始末する!お前は大人しくここで待ってろ!!」

 

「はぁ〜!?何言ってんの、意味わかんないんだけど!」

 

「あいつは思った以上に危険だ!お前にチョロチョロされると……っ、目ざわりなんだよ!」

 

 

 

め ち ゃ く ち ゃ 気 ま ず い か ら ! !

 

 

私の元主治医である全身ボロボロの花家先生と、その助手らしき女の子(多分年上かな?)との壮絶な口喧嘩が行われていた。てゆーかあんたら病人の前で大声出すなっての……ああ、気まずい。

 

「ふざけんな…!」

 

女の子の声が震えている。人間がキレる直前に起こすリアクションだ。気づかれないように両手で耳を塞ぐ。だが彼女の決壊した怒号は、私の手の役割など無に帰してしまった。

 

 

「ふざけんじゃないわよ!!あんた前に言ったじゃん、俺のそばから離れるなって!なのに邪魔になったら置いてくってなにさ!」

 

「…あーはいはい!わかりました!どうせ私は邪魔者ですよ!笑いかける価値もない、ガシャット一つろくに拾えないお邪魔女は大人しくしてますぅー!ほら、愛しのバグスターが待ってんだろ!?行けよ、さっさとアランブラでもタランチュラでも倒してこいよこのバカー!!!!」

 

 

「あぁ、お望み通り行ってやるよ!!」

 

 

先生はそのまま出ていってしまった。それと同時に、彼女がへたりとその場に座り込む。しばらくして、彼女のすすり泣きが聞こえてきた。もう寝たふりも限界だ。わたしは勇気を出して話しかけてみることにした。

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

彼女の名前は西馬ニコ。花家先生と共にバグスターと戦っているらしい。彼女は泣きながらこれまでの経緯を話してくれた。今の先生を知らないヨハネ(わたし)には話を聞くぐらいしかできない。わたしはただ、彼女の絞り出す言葉を受け止めることしかできなかった。

 

 

「ぐすっ…私ね、この前大我から言われたの。俺のそばから離れるなって。危険な戦いなのに、患者なのに付いてきていいって言われたんだ」

 

「それがすっごく嬉しかった。近くにいていいんだ、必要とされてるんだ……って」

 

「なのに…今日は置いてかれた。邪魔だからって、目障りだって。やっぱり私…じゃまなのかな……たいがは……わたしなんかいないほうがいいのかな……っ、」

 

 

「ぐすっ…ひっく…!……ねぇ、よしこちゃん」

 

 

「わたしね、たいががわらってるの…みたことない」

 

「でも…あなたのまえでは、ちょっとだけわらってた。……よくわかんないけど、すっごくくやしかった」

 

「バカだなぁ…わたし。ちょうしのって、しっとして、いじはって……ほんと…ばかっ……!!」

 

 

彼女…ニコさんの気持ちは痛いほどわかった。誰かに必要とされる喜び、不要だと思われる悲しみはよく知っている。だからこそ、わたしは彼女の力になりたいと思った。

 

 

堕天使ヨハネだって、最初は誰にも認められなかった。 必要とされなかった。それでもわたしは堕天使でいたかった。違う自分を認めて欲しかった。

 

 

千歌は、好きに堕天していいって言ってくれた。

 

リリーやマリーも、グループの雰囲気に乗ってくれた。

 

曜と果南は、わたしのギルティコーディネートに興味津々だった。

 

ダイヤにルビィやずらまるも、呆れながらも私をアイドルとして認めてくれた。

 

 

仲間に恵まれた、助けられたわたしだから、今度はわたしが誰かを助けなきゃいけないんだ。……なんて言ってるけど、今回のケースはちょっと事情が違う。私が思うに…これは……

 

「……ニコさん。先生はあなたを邪魔だなんて思ってない。むしろ誰よりも大切だから、突き放したんじゃないか…ってわたしは思います」

 

「大切だから、失いたくないから…弱い自分のそばにいさせなくない、安全なところで待っててほしい……って」

 

「まぁもっとも、ニコさんの思いをないがしろにした罪は消えませんけどね」

 

 

「だから一緒に行きましょう、ニコさん!わたしたちの主治医の目、覚まさせてやりましょうよ!」

 

 

 

 

『……上等』

 

ニコさんの目に光が戻っていく。何か吹っ切れた証拠だ。

 

「やってやろうじゃん!!こちとら本気で関わってんの、危険を承知で付いてってんの!あの大我(バカ)にわからせてやるっ!ついでに天才ゲーマーNの名にかけて、あいつをニッコニコにしてやるんだから!」

 

そう言って素早く携帯を取り出し、SNSをフル活用して先生の居場所を探し出した。

 

 

「…オッケー、聖都スタジアムね。待ってろ大我!」

 

 

場所がわかるやいなや、ニコさんは勢いよく病室を飛び出す。わたしもそのあとに続く。ゲーム病のせいで身体が重い、多分高熱もある。でも、止まってられない。

 

 

「ちょっ…!?あんたは寝てなって!後はなんとかするから」

 

ニコさんは当然わたしを心配する。でも、堕天使にも意地はあるの。

 

「わたしは…大丈夫よ……。それに」

 

 

「……それに?」

 

 

EXCITEしたヨハネはもう、誰にも止められない。

 

 

「先生のそばにいたいのは…笑顔を見たいのは……ヨハネも同じなんだからねっ!!」

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

ブレイブとスナイプがレベル50への変身に使用する『ガシャットギアデュアルβ』は元々一つしかなく、檀…新檀黎斗の手によって複製されたばかりだ。噴水まで拾いにいく時間はない、外科医のガシャットを借りなければならないのだ。覚悟を決めた私と善子、2人でCRに赴く。なのに…

 

 

「おい檀黎斗!」

 

「新 檀 黎 斗 だ!」

 

「じゃあ新檀黎斗さんよ、ガシャットの調整まだ!?今すぐそれが必要なの!!」

 

「無茶なことを言うな。あと4時間はかかる」

 

 

1台目、つまり主に大我が使用していたギアは今までの連続使用による負荷、そして先日のパラドクスレベル99との戦いによって深刻なダメージを負い、これを機に新檀黎斗の手によってメンテナンスを行うことになっていたのだ。

 

しかしガシャット自体そうポンポンと直せるものではない。そもそもスナイプ以外が変身不可能になる事態など想定していないため、この非常事態に間に合うはずもなかった。

 

しかし、間に合わない以上大我のガシャットを取りに行くしかない。覚悟を決めて噴水に向かおうとすると、永夢(飛彩)が入ってくる。彼の身体は全身余すことなくずぶ濡れだった。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「これが必要なんだろ」

 

 

彼はそう言って私に「それ」を投げてよこした。

 

 

 

「無免許医に伝えておけ。これで借りは返したとな」

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

その頃聖都スタジアム前広場では、スナイプレベル3とアランブラの死闘が繰り広げられていた。埋めようのないレベルの差、先程の戦いのダメージが抜けきっていないのが重なり、かなり一方的な展開になってしまったが…

 

「いい加減諦めなさい。あなたにこの私は倒せません」

 

「うるせぇ…うぐっ…!!」

 

「しつこいですねぇ…もういいです、散りなさい!」

 

「うあぁぁああ!!!」

 

スナイプは強烈な一撃をまともに受け、はるか後方へ吹き飛ばされる。その拍子にゲーマドライバーがはずれ、変身が解けて大我の姿へ戻る。

 

 

「これで…終わりですね」

 

杖の先にどす黒いエネルギーが集中していく。その矛先は倒れている大我に向けられていた。そして無常にもそれが放たれようとしたその瞬間———()()()()()()()()()()()()()()()の飛び蹴りが炸裂し、アランブラは思い切り仰け反る。その向こうでは漆黒の衣装に身を包んだ美少女が大我のゲーマドライバーを回収し、こちらに走って戻ってくる。

 

 

 

「何が起き……!?」

 

コンクリートの床に突っ伏していた大我が顔を上げると、目の前に変身を解除したニコ、そして堕天使ヨハネが立っていた。

 

「お前ら…何で来た!さっさと帰れ!!」

 

大我は一瞬たじろいだがすぐに元の調子にもどり、2人に帰還を促す。だが美少女2人は聞く耳を持たないようだ。

 

「主治医が近くにいないと不安で眠れないのよ…これ、わたしの手術(オペ)に必要なんでしょ?」

 

大我(スナイプ)の手助けは私の仕事。…ほら、医者が自分のメス忘れんなっての」

 

そう言って善子はゲーマドライバーを、ニコはガシャットギアを手渡す。これで準備は整った。あとはバグスター共を始末するだけだ。

 

「………覚悟は決めたつもりだった」

 

大我はよろよろと立ち上がりながら、静かに語り出す。

 

「俺の患者は何があろうと俺が守る、俺が治す。それをこなす自信も覚悟もあった。けどアランブラ(あの野郎)に負けたとき、それが全部揺らいじまった」

 

2人の方をチラッと見やり、語り続ける。

 

「俺は弱いから、お前ら患者を危険に晒しちまう。そんな事なら置いてっちまうほうがいいと思った。患者(おまえら)のためにも、それが一番だってな…だが、いらぬ温情か」

 

 

「それでもお前らはついてくる。危ねぇって言ってんのに、性懲りも無く何度も何度もな」

 

「それが主治医(オレ)への信頼ってやつなのかどうかは知らねぇが」

 

「そこまでされちゃあ俺も腑抜けた答えは出せねぇよ」

 

「だから改めて言う。俺がお前を、いやお前らを必ず守る。槍が降ろうがなんだろうが守ってやる。病気になったんなら何万回でも治してやる。だから————」

 

 

「ゴチャゴチャうるさいですねぇ…消えなさい!!」

 

アランブラの杖にエネルギーが集中し、巨大な火球となる。それは勢いよく放たれ、3人は炎に包まれて——

 

 

「呆気ない幕切れでしたね。…ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ガッチャーン!』

 

 

 

 

『デュアルアップ!』

 

 

 

『スクランブルだ!』

 

 

 

『出撃発進!』

 

 

 

 

『バンバンシミュレーションズ!』

 

 

 

 

『発進!』

 

 

 

勇ましい変身音が鳴り響き、炎はかき消され、煙が晴れていく——2人は無傷だった。レベル50へと変身したスナイプに守られていたのだ。

 

「!?…ぐぅぅ…!!」

 

アランブラは悔しそうに唸る。大我(スナイプ)は自分のすぐ後ろにいる患者(2人)へ向けて言い放つ。

 

 

 

「だから…俺のそばから離れるな!!!」

 

 

BGM【B.A.T.T.L.E G.A.M.E 】

 

 

「ミッション…開始!」

 

スナイプはその場から()()()()()()、全身の砲塔から全力全開の砲撃を開始する。アランブラは慌ててバリアを発生させるものの、いとも簡単に砕け散り、砲弾をまともにくらう。砲撃ひとつとってもレベル3と50では雲泥の差だ。…まぁ、原因はそれだけではないが。

 

「な、何故だ!?バリアの威力が……」

 

アランブラは自らの魔法の脆さに慌てふためく。

 

 

MP(マジックパワー)を節約しないからよ」

 

そこにヨハネからのダメ押しがはいる。

 

「攻撃、防御、移動、etc…すべての観点から考えて配分を決めるのはゲーマーの基本。あなたは火力に頼っただけの雑魚キャラ。そんな奴にわたしの…わたし達の主治医は負けない!」

 

「その通り、わかってんじゃんヨハネ!ほら行け大我!そんな奴ぶっ飛ばせー!!」

 

 

 

「うぉぉぉぉぉっ!!」

 

女神の声援(エール)をうけたスナイプは雄叫びを上げながら弾幕を強める。「HIT!」「GREAT!!」の文字が目まぐるしく表示され、その勢いに耐えきれなかったアランブラはその場に転がる。

 

 

 

「うっ…ぐぅぅ……!!私が、負けるのか……?失うものさえ持たぬ憐れな男に…このぉ………わたしがぁっ…!!」

 

 

 

 

「言ったろ、自分(オレ)の患者は絶対に守るってな。絶対失くしたりしねぇ。『俺が失う仲間(もの)』はない!」

 

 

『ガッチョーン…キメワザ!』

 

『ガッチャーン!』

 

『BANG BANG CRITICAL FIRE!』

 

 

両腕から放たれた最大級の一撃がアランブラに炸裂し、凄まじい爆発が起こった———。

 

 

やがて煙が晴れ、『PERFECT!!!』の文字だけが綺麗に浮かび上がる。スナイプは遂にアランブラを打ち破ったのだ、

 

 

 

「ミッション…コンプリート」

 

スナイプは変身を解除し、改めて2人に向き直る。そして…その場に倒れ———。

 

「どわっ!……てか重い、重いって!ニコさーん!そっち持ってー!」

 

「わかってるっ!ホンットに重いわねコイツ……ったく」

 

間一髪2人によって支えられ、そのまま3人一緒にCRへと帰還する。

 

 

 

「……お疲れ様っ♡」

 

 

 

 

善子は誰にも聞こえない小さな声で、主治医の耳もとで囁く。沈む夕陽が3人を鮮やかに照らしていた。

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

ふふふ…ヨハネ、復活!!やはり堕天使は…不滅だぁーっ!…ごめんなさい、調子乗りました…。花家先生とニコさんのおかげでわたしのゲーム病は無事に治り、入れ替わり現象も無事収まりました。先生が言うには、私が幼少期から持っていた「違う自分になりたい」という強い願望がウイルスに作用し、バグスターに特殊な力、つまり入れ替わりの力が付与されてしまったらしい。完治した今となっては些細なことだけど、一応報告だけはしておくわ。

 

今日で退院し、今は沼津に帰るための電車に乗ってスマホを眺めている。映し出されているのは、梨子から送られてきた新曲の振り付け。今回はダンスに重点を置いているらしく、また病気によるブランクもあるため、今まで以上に気合いを入れなければならない。

 

わたしは…スクールアイドルだから。たくさんの人に輝きを届け、みんなを笑顔にするのが役目。それにヨハネの場合はリトルデーモンを増やすことも必要不可欠だ。

 

…それは置いといて、今回お世話になった2人に改めてお礼を言おう。車内で大声出すわけにもいかないから、心の中でそっと…ね。

 

ニコさん。貴方はわたしの…ヨハネの最大のライバル!今はそっちがリードしてるみたいだけど、負けないわ!「ドクターライダー花家先生」の初めて(の笑顔)を奪うのはこの堕天使ヨハネよ!

 

それと…花家先生?その、先生にも色々事情があると思うの。ニコさんや他のドクターさん達と一緒に、やり遂げなければいけないことがあるんでしょ?わたしはずっと応援してるから。だから…全てが終わったら、このヨハネに笑顔を献上なさい!それと……えっと………その……い、一度しか言わないわよ!?

 

わたしの…ヨハネの……け、眷属になりなさぁーい!!!

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

「少し寂しいかな…こんなに早く退院するなんて」

 

「病気が治ったのに居座る理由もねぇだろ」

 

「そりゃあ…そうだけど」

 

 

あれから2日ほど経った朝、今度こそ上級バグスターに挑むため、大我と共に決戦の地へ向かっている。善子の術後経過は良好で、あっさり退院してしまった。彼女が今話題のスクールアイドル「aqours」のメンバーであることを知ったのは、彼女がいなくなってからだった。

 

私は、アイドルっていうのは誰がを笑顔にするものだと勝手に思っている。それはきっとドクターにも言えることだろう。

 

……だからね、善子ちゃん。私は堕天使にならない。あなたや他のスクールアイドル、ドクターのみんな。私はそんな「誰かを笑顔にする役割を持つ人」を笑顔にする。そんな天使(ヒロイン)になるって決めた。どちらが大我の初めて(の笑顔)を奪うか…いざ勝負!さっそく地の利を活かして、こっちから仕掛けさせてもらうよ。

 

「た〜いがっ!」

 

「…あ?……おい、お前何やって……!?」

 

花家大我(鈍感野郎)の目をまっすぐ見つめ、顔を近づける。距離が縮まるたびに大我の顔に動揺の色が広がっていくのがわかる。そしてそのまま唇を————

 

 

 

 

「痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

——唇を通り過ぎ、無防備な耳に思いっきりかじりついた。

 

 

 

「やーい引っかかった引っかかった〜!何?キスすると思ったぁ〜〜??」

 

 

「てめぇ…何しやがる!!」

 

私は大我を置いて走り出す。

 

「悔しかったらここまでおいで〜っ!」

「こんにゃろ……待ちやがれ!」

 

 

 

 

 

 

大我は()()()()()()()怒りながら私を追いかける。少しくらい素の笑いが出てもいいと思うのだが、残念ながらそんなことはない。

 

怒った顔はいつでも思い出せる。悔しそうな顔も想像つく。でも大我(あんた)のカルテを作るには表情(データ)が足りないみたい。

 

……ねぇ、大我。

 

私はずっとそばにいるよ。ライダークロニクルが終わったって、外科医とのいざこざが解消されたって、離れてなんかやるもんか。…だからね、いつかその時がきたら……あなたが背負った荷物を降ろすその時には…とびっきりの笑顔を見せて。

 

私の(カルテ)に書き記す、最高の笑顔を。

 

 

約束だよ?…大我(せんせい)

 

 

 

see you next game.

 

 




もうすぐエグゼイドが終わる。するとどうなると思う?『困る』
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