では長話はさて置き、本編であります。
どうぞ。
―――三年前
あの男と出会ったのは、短大を卒業してから三ヶ月の事だ。
某大手企業の飲食店に勤め、支店経営をしていた店に行き、面接を受けた。
緊張はしたが、結果は見事合格だった。最初は自信に満ち溢れた僕は、夢のために努力しようと決意したが―――しかしこれは【悪夢】の始まりに過ぎなかった。
望んでいた希望は絶たれ、絶望へと変わっていった……
「限界超えろ、この出来損ない!出来なければこの場で死ね!」
「はい時間オーバー、減給♪」
「もっと床に顔を付けるぐらい、掃除しろ!」
あの男や彼の部下たちは新人だった僕に理不尽な暴力や罵声、恐喝を平然とした。
ストレス解消道具のごとし、人間的扱いはゼロに等しく、玩具としか見ていなかった。
これらは序の口であり、もっと恐ろしかったのは自分の部下に対して、何でもこなし、なおかつ狂信的で限界を超えた《完璧無欠》な部下を求めていた。自身が神様か新興宗教の教祖、完璧主義に自惚れた独裁者にでもなったかのように―――
儲かるのであれば食品偽装は朝飯前、それらの消費期限が切れた物や腐りかけた物、床下に落ちた食品ですら提供するモラルも欠片もない店だった。
嫌気が差した僕は、周囲の反対を押し切ってまで辞めることを決意した。
当然。周囲からは非難の声を浴びられたが、それでも正しかったと思っていたが―――
失った代償は多かった。夢と希望を無くし、自責の念にかられた僕は、塞ぎ込むようになり、自分の世界に閉じ籠った。
後で聞いた話だが、僕のような同世代や高校生、同じ原因で辞職した人達は珍しくなかった。辞職後、あの店は何度も問題を起こし続け、一年後には閉店したとの事だ―――
「郡司、お前…… さっきから顔色が変だけど大丈夫か?」
「……ええっ。大丈夫ですが」
タツミの掛け声で、我に返った僕は心配だった。
自分のせいでみんなに迷惑を掛けてしまったこと―――
そのせいで、みんなの大切な店、居場所を失いかねない事―――
もし自分の過去を知ったら、みんなは幻滅してしまうかもしれない―――
そして『あの頃』のように、元の自分に戻されてしまうのかもしれない―――
やっと見つけた“自分の居場所”を無くしてしまう事―――
それだけは嫌だ、失いたくない気持ちがいっぱいになった僕は、拳を握り締め、決意した。
「タツミさん」
「……郡司?」
僕は彼女の手を握り締め、頼んだ。
「…お願いします。何も聞かないで、信じていると言ってください」
僕の行動に、タツミや他のみんなも驚いた表情を隠せなかった。
数秒の沈黙が続き、彼女は口を開いた。
「郡司、お前を信じている」
その言葉を聞き、郡司は両手を放し、『ありがとう』と言い、微笑んだ。
『あの頃』から自分を偽り続けながら生きていた。
だけど今は違う。大切な居場所、大切な彼女と皆を守らんとする兵士の様に―――
昔に忘れてきた優しくて強かった自分を、取り戻せたからだ。
タツミ達に見送られるように、後ろを振り向き、ホールへと向かった。
「ちょ、ちょっとタツミ。郡司、一人で大丈夫なの!」
ソフィアの問いに彼女は答えず、ただ黙って彼の後ろ姿を見るのだった。
―――ホール
僕は《あの男》のいる席に近づいた。最初は恐怖で、怖気つきそうになったが―――
冷静さを保つため、静かに深呼吸を三回、気持ちを整え、声を掛けた。
「失礼します、お客様。他のお客様のご迷惑になりますので店内では、お静かにお願いします。なお当店は全席【禁煙席】となっていますので……」
「うるせーな! 吸うのは俺の勝手だし、一々命令するな!」
お客様は神様だから、と言う理由をつけて暴言紛いの口論を投げる。
相変わらず某HALOに登場した脳筋ゴリラのような横暴な態度に、口から漂うヤニ臭も同じく―――
「ったく、ふざけんな。……って」
ようやく僕の顔を見て、声を掛けた。
「…おい、郡司じゃないか。久しぶりだな、元気か?」
ニタリと嫌な笑みを浮かべ、不毛な口調で話し続けてきた。
「どうした? 久々の俺との再会に嬉しいだろう? 喜べよ?」
「…………………」
せせら笑う《あの男》を見た途端、あまりの恐怖で後ずさり、背筋がぞっと悪寒が走った。
「……そうか、そうか。ここで働いているのか」
男は席から立ち、後ずさりした僕を鼻で笑い、目の前に近づいた矢先―――
「感動たる再会のパンチを、喰らいな!」
そう叫び、一発のパンチを僕の腹に見舞った。苦痛のあえぎを洩らし、たまらず前のめりになった。次にシャツを掴んで引き起こし、思いっ切り頬を殴りつけ、床に倒れさせた。
暴言を吐きながら、倒れた僕を何度も殴る蹴るを繰り返した。
「どうした郡司、これが限界か?」
気を失いそうになった僕を見て、楽しそうに続けた。
「いや~、こっちは店が潰れて毎日ストレスが溜まりまくって、イライラしていたんだ。お前のせいでな! お前のようなクズさえ採用しなければ、俺の城は無くならずに済み、俺は帝王になれた!だから成れなかった怨みを、今ここで晴らしてやるぜ!」
ただ顔を殴られないよう、うずくまり身を守るのが精一杯だった。
そんな僕を見て、殴る蹴るを楽しんでいた。
どうにかしないと―――
だけど相手は止むことなく、殺す気満々で続けているし―――
反撃することすらままならない―――
「お前は本当に最高の【ストレス解消道具】だよな。今も昔もそうかもしれないな……
まぁ、もしかして前世でも来世でも存在価値なんて一つもないけどな」
「………ない」
「はっ、何だって?」
「僕には“郡司”と言う名前があります。それに誰彼の【ストレス解消道具】でも―――
存在価値がなく生まれていけない人間なんて、誰が決めましたか?」
言い放った言葉に、笑い始めた。
「ハハハハハハハハハッ! コイツは傑作だ。口だけは立派だな、郡司!」
店内に響くほど、再び高らかに笑う。
「さてそろそろ、楽しいショータイムは終わらせるか」
男は、僕の髪を掴み、無理やり起こすと―――
「それじゃ無茶苦茶楽しませたお礼に、原型を留めないぐらい顔をいたぶってやるわ!
それじゃ今度生まれ変わってくる時は、サウンドバックに決定だな! ……って、言い返せないか」
「…………」
僕は自分を責めた。悔しさでもあり、諦めでもあった。
「俺じゃなくて、自分の弱さを恨むんだな? 郡司!」
誰かを思い、守れるぐらいの強さと優しさがなかった事を応えるように、右目から一筋の涙が零れ落ちた。
登場人物紹介
郡司
本作の主人公。同人作家を目指す平凡なフリーターであり、ミリオタ青年である。
とある事件で一時期【自宅警備員】になっていたが、偶然見つけた【もんむす@カフェ】でバイト店員として働いている。担当はキッチンスタッフ。
タツミ
本作のヒロインであり郡司同様、【もんむす@カフェ】で働く調理人。
容姿が某「艦これ」の眼帯のカッコいい方に似ている(ただし、眼帯はしていない)。
種族はドラゴンで、オレっ娘である。
リリス
【もんむす@カフェ】で働くメイド。お淑やかな性格の持ち主な故、男女とも人気がある。
種族はラミア。
ソフィア
【もんむす@カフェ】で働くメイド。姉御肌の持ち主で仲間思い。種族はケンタウロス。
ポニーテールと巨乳を兼ね備え、スタイルがセクシーである。
スー
【もんむす@カフェ】で働くメイド。ムードメーカーで、誰とでも気さくに仲良くなれる。
種族はハーピー。なおボクっ娘である。
あの男
元飲食店の店長。郡司を非常に憎んでいる。