では、本編であります。
どうぞ!
―――タツミさん、皆さんごめんなさい。
もはや抗うほどの力はなく、思うまま《あの男》に委ね、諦めかけていた時だった―――
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
―――タツミさん彼女は、体当たりを喰らわす。
突如の想定外に驚いた《あの男》は慌てて、掴んでいた僕を放すも―――避ける余裕もなく体当たりを喰らい、勢いよく吹っ飛ばされた男は壁際にぶつかり、その場に倒れ込んだ。気絶を確認したタツミは、僕に近寄り、手にしたおしぼりで頬にできた傷口を拭いた。
「……タツミさん、どうして」
「郡司、あまり喋るな、痛いところがあったら言え!」
「心配しないでください。これぐらい何とも……」
「嘘つくな。正直に言え!」
「……顔と全身が少々、痛いです」
正直に伝えると、安心しろと訴えるように頷き、落ち着きながら彼女は、みんなに指示を出した。
「ソフィア、応急処置するから手伝ってくれ! リリスはあの男を取り押さえておいてくれ。スーは、警察に連絡してくれ」
「「「アイアイサー!!!」」」
タツミの指示で彼女たちは敬礼し、迅速に行動を開始した。全身に痛みが走り、立てなかった僕は二人に運ばれ、応急処置をしてもらった。
傷口に痛みは沁みるが、普段から手馴れていた二人の処置により、少しは大丈夫だった。
応急処置を終えると、僕は二人にお礼を言いたかったが、黙ったまま頭を下げた。それでもほっとした表情を浮かべてくれた。
「とりあえず一安心したけど、悪いが郡司、あの男は何者だ? お前にそうとう怨みを持っているようだが……」
「私も少し気になるが……」
そして二人は顔を合わせ頷くと、尋ねた。
「「郡司、正直に話してくれないか!!」」
もう、嘘は付けないようですね、と悟った僕は、頷いた。
「分かりました。全て話しますので、他の二人も呼んでください」
「分かった。私が二人を呼びに行くから、タツミは郡司の傍にいて」
「ああ、分かった」
ソフィアが二人を呼びに行ったが、僕は今、彼女と二人きりだったが―――何も話すことがなく、ただ視線を逸らすため顔を俯き、床を見詰め、いたずらに時が過ぎて行くのを待っていた。
みんなを集め、僕は全てを話した。
《あの男》との関係、以前働いていたこと―――
何一つ嘘を付くことなく、正直に話し終えると―――
「……郡司」
「ご…ごめんなさい。ぼ…僕はみんなを騙して」
僕は怯えた子羊のように、みんなに謝った。
震えているせいか上手く喋れなかった。そんな僕を見て、ソフィアが答えた。
「そりゃ最初は動揺して、びっくりしたけど… でも郡司は郡司だろう?」
その答えに驚かされたが、すぐに否定してしまう。
「…僕は何です? みんなが知っているっていうのは…」
「郡司?」
心配するスーが声を掛けるも―――
「こんな詐欺師を、いつかみんなを傷つけてしまうかもと思わないんですか?」
しばし沈黙が続くと思いきや―――
「大丈夫だ、郡司。お前はそんなことはしない」
タツミが声を掛けてくれた。
「お前が人を傷つけたり、貶めるなんて絶対にしない。だから信じている」
「…どうして、そう言い切れるのですか? どうして僕を信じていられるのですか?」
僕は怖くなり、受け止めることができなかった―――
「郡司、お前はいつも自分の事より、ひとのことを考えているし」
タツミの次に、ソフィアたちが答えた。
「それに、いつも優しいじゃん」
「人の役に立ちたいと、そればかり」
「努力家で真面目だしね!」
「みんな、郡司を知っている。だから信じている。どんな時でも繋がっているんだ。俺達が傍にいる。郡司が自分を信じられないなら、お前を信じている俺達を信じろ。あの時のように」
言葉を失うほど、僕は嬉しくて泣いてしまった。
誰かに認められ、誰かに必要とされ、信じてくれたことが、本当に、何よりも心の奥から喜べた。
「みんな、ありがとう…」
僕の言葉に、みんなはお互いの顔を見合わせ、微笑んでくれた。本当のことを打ち解けると、郡司が泣き止み、彼女達も安心したが―――
「郡司に、ドラゴン女~! さっきはよくもやりやがったな!」男が起き上がるのを見て―――
「……嘘だろう、さっきリリスが手足を濡れタオルで縛ったのに」
「何という、恐ろしい馬鹿力!」
「本当、冬のナマズみたいに大人しくならないのかしら」
ここにいる全員は、まさかこんな状況になるとは思いもしなかった、と正直な感想を述べたしかなかった。
直後、あの男は自力で拘束状態を解くと―――男の顔は真っ赤に、憎悪に目を細め、そして頭に憤怒の血が駆け上がり、凶暴化していた。
さらにチンピラのように、ボキボキと指の関節を鳴らし、いつでも【戦闘準備】完了と言わんばかりに、殴りつけようと襲い掛かろうとしたが―――
「「「「郡司(郡司さん)には指一本、触れさせない!」」」」
タツミを先頭に、ソフィア達が、郡司を庇おうと立ちあがる。
「どけ、さもないとお前たちも容赦なくぶち殺すぞ!」
大声を出して脅すも、彼女たちは引き下がる事はなく、挑発し続けた。
「それでも、俺は構わない!」
「あんたのような屑男に、屈すると思わない事だな」
「私たちは、例え殴られようと蹴られようと―――」
「郡司は、僕たちの大切な親友であり、仲間でもあり、大切な「家族」だ!」
そして口を揃え、こう答えた。
「「「「……だから、郡司を傷つけたら、俺達(私達)が許さないんだから!!!!」」」」
「……みんな」
この言葉を聞いた郡司は「ありがとう」と囁いた。
「戯言を言うな! 俺にとって従業員は全員、捨て駒同然の“奴隷”だ!」
無慈悲な言葉と伴い、男は怒り狂い、牙を剥いた猛獣の如く、拳を高らかに上げた。
「どんな事を言う思えば、仲間を大切にせず、自分優先な思考、恐喝しかできない脳筋ゴリラは、そんなものか。いやそれしかできない“可哀そうな男”だな」
フン、と鼻で笑うタツミ、彼女の挑発紛いの言葉に対し―――
「この化け物女どもが~~~……てめぇら全員ぶっ殺してやる!」
ソフィア達は恐怖のあまり目を閉じ、タツミは「来い」と臨戦体勢をしていたが―――不思議なことに、その拳が、彼女たちに振り落されることはなかった。
―――なぜならば傷だらけの彼が、拳を受け止め、阻止していたからだ。
「……郡司。お前」
僕の言葉に反応したソフィア達は、歓喜の声を上げた。
「「「郡司(郡司さん)」」」
「守られてばかりでは男として廃ります。だから…私がみんなを守ります!」
彼がニッコリと笑い返した。
例え倒れようとも彼女達を守ろうとした笑顔だった。
それに答えるようにタツミ達は、微笑み返したが―――
「ちっ、この欠陥品が! ただ大人しく喰われるだけの豚になれ! 郡司!」
苛立ちを隠せなかったあの男は、郡司の顔にパンチを見舞ったが―――
「……それだけか、元店長さんよ?」
「な、なんで効かないんだよ…なんで危険を冒してまで、こいつ等のために…」
「く、来るな…来るな! ヒィィィィィィィィィッ!」
男は、一瞬、何が起こったのか理解できなく、足が竦み、情けない声を洩らしながら、拳を握った彼の姿を目に焼き付けた。
「危険を冒す者こそが勝利するんだよ!」
攻撃を食らうも、郡司は拳を強く握り締め、英国特殊空挺部隊SASのモットーを叫んだ。全身の痛みを忘れ、この一撃を喰らわす事に集中していた彼は『ブチ切れて』いた。
その優しい口元に隠され、ずっと研ぎ澄まされていた彼の牙が剥く―――
それは自身で全てを終わらせ、忌々しい過去を断ち切ろうという気持ちを込めた拳―――
そして、愛する彼女と仲間を守るための“怒りの拳”でもあった―――
「グエェェェェェェッ!」
郡司渾身の右ストレートッ!が決まり、男は仰向け状態に倒れる。今度こそ、あの男は再起不能(リタイア)となったのだった。
「ふぅー…流石にやり過ぎたかな。流石に……」
「郡司ぃぃぃぃぃっ!?」
力尽きて前のめりで倒れる郡司の目の前に、飛び込んできたもの。それは、涙目になりながら自分に駆け寄るタツミの姿。それを確認した時、彼はほっと安堵の笑みを浮かべながら、意識を失った。
好きな特殊部隊のモットーと伴い、某奇妙なパロディーが少々というのがありましたが、後悔はありません。
では、次回で最終回でありますのでお楽しみを。
それでは最終回まで、ダスヴィダーニャ(さよならだ)。