ヴェルフが魔剣を強くするのは間違っているだろうか 作:カブタロウ
初のステイタス更新から一年。
ヴェルフは薄っすらと霧が立ち込め、あちらこちらに枯れ木が乱立する場所に立っていた。
視線の先には
ダンジョン10階層だ。
太刀を構えオークに突撃する。二匹のオークはヴェルフを押し潰さんと振り下ろすが、二つの棍棒の僅かな合間をぬって片方のオークに飛びかかる。身体を回転させ太刀を大きく振りかぶり遠心力を最大限のせた一撃を見舞う。逆袈裟に切り上げられたそれは胴体を切断し心臓を切り裂く。そしてヴェルフが地に着地した所にインプの群れが押し寄せにくる。しかしヴェルフにたどり着く前に無数の銀閃がインプ達に襲い掛かる。その中心には双剣を持った茶髪の青年がいた。青年は舞うように双剣を薙いで瞬く間にインプ達を全滅させる。その様子を一目見たヴェルフはもう片方のオークと対峙する。オークは躱されぬよう棍棒を横に振るがヴェルフは巨体故に出来る脇のスペースに潜り込む。そして
「セイッ!」
肋骨の隙間を狙って太刀を刺突。見事に心臓を貫いた。
「いや〜割と楽だったな。」
「……調子に乗るな。」
ヴェルフは同行者に注意をする。
ヴェルフは10階層に行くにあたってパーティを組んでいた。
名前は『グリードリ・ダン・モーントル』呼び名は『ダン』。茶髪の双剣使いでやけに前向きな青年でありヘファイストス・ファミリア所属のヴェルフの親友となった人物である。
出会いはいたって偶然だった。
最初は打った武具を店に持っていったときだ。ヴェルフが武具をカウンターに置いたとき同時に隣から武具をカウンターに置かれた。そいつが『ダン』だった。
そのときはあまり記憶に残らなかったがその晩、『豊饒の女主人』のカウンター席の隣に座った男も『ダン』だった。
それから付き合いだしたのだが長く一緒にいればいるほど変な奴だった。
奴はダンジョンに出会いを求めている。昔から英雄譚ばかり読んでいていつしか英雄のような運命的な出会いに憧れるようになったようだ。曰く、「ハーレム目指さねぇ奴は男じゃない!」らしい。
ヴェルフのよく行く『豊饒の女主人』に通っているのも可愛い女の子を見る為でしつこく言い寄って店から摘み出されることもしばしばある。でもその無駄なくらいのポジティブ思考で口説くのを諦めないのだから手に負えない。
正直バカだろう。しかし戦闘の腕は確かでパーティを組んでそのことが分かった。それにそのポジティブ思考で何度か助けられたこともある。だからバカでも友として今まで一緒にやってきたのだ。
この日もいつも通りヴァリスとステイタス上げに10~12階層のダンジョンに潜っていた。
すると唐突にダンが言い出した。
「なあ、明日からさ、13階層に行ってみねぇ?」
「……ハァ?」
思わず聞き返す。
13階層とは『
これぐらいあいつでも知ってるだろう?死にに行くつもりか?…ああ、ダンはダンジョンに出会いを求めるようなバカだったな……。
「大丈夫だって!俺達ならいけるいける!サラマンダー・ウールだって買えるだろ?」
確かに収入が上がってきたからサラマンダー・ウール(『精霊の護布』。これは火の強い耐性がある。)を買うことも出来るしそれがあればヘルハウンド辺りの階層はなんとかなる。しかしダンジョンは不安定要素の塊だ。ミノタウロスに出喰わすことや13階層の横穴に落ちて帰れなくなることもあるだろう。
「お前もしミノタウロスと
「ん?そんときゃあ、お前の『魔剣』があるだろ?」
こいつは俺の魔剣を知っている。『洗礼』の時に見たのと(ちなみに他のファミリアへの口止めはちゃんとしてある。)12階層出現の中で最強のモンスターの『インファント・ドラゴン』と出喰わした時に使ったのを見たのだ。
……まあ『魔剣』も強くなって二回までなら使えるようになったし『洗礼』の時より威力も上がった。『魔剣』を使えばミノタウロスも屠ることもできないことはないと思う。
「ハァ……」
溜め息をつきダンの顔を見る。その瞳はこの先の『未知』を見たいとキラキラしていた。こうなったあいつは誰にも止められない。
「ちょっとだけだ。しっかり万全の準備をして13階層で三~四体殺したらすぐ戻る。それでいいな。」
「応っ!ありがとな!ヴェルフ!よーし張り切っちゃうぜー!」
そう言ってダンは12階層のモンスター『シルバーパック』や『アーマードコア』目がけて突っ込んで行く。
「……ハァ…………」
もう一度深い溜め息をつくと「オラオラオラオラ!」と暴れるダンに加勢する。
ーーダンジョンは油断した者に牙を剥くーー
_______________________________________________________
翌日
ヴェルフはサラマンダー・ウールの着用、ポーションの補充、魔剣の装備など思いつく限りの完璧な準備をしてダンと待ち合わせる。
「おースマンスマン。遅れたわ。」
「お前そんな調子で大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。問題ない。」
めちゃくちゃ不安になったヴェルフであった。
もはや足に染み付いたダンジョンの道のりを歩いて「中層」に向かう。途中、『キラーアント』やら『ウォーシャドウ』が襲ってくるが敵ではない。
そして12階層最深部、13階層の入り口にたどり着く。
「さあ!行くぞ!」
「何度も言うようだが少しだけだぞ。」
「分かってるって。」
「本当に大丈夫なんだろうな……」
若干ペースを崩されながら階層の間を結ぶ坂を下りた。
13階層の通路を気配を探りながら進む。基本的な構造は前までと変わらないが通路は上層よりも狭く所々に横穴が空いている。その穴の底は暗闇に包まれており底が見えない。
しばらく歩きダンジョンの奥に進んで行くと少しだけだが魔物の唸り声であろうものが聞こえてくる。
『グルルル……………』
途端に緊張感を張り巡らせる。極限まで鋭くなった感覚は至る所の気配を察知する。
『キュイキュイ…』
『キュウー………』
近くにいる。
すると通路の暗闇の奥からニ対の目が浮かぶ。その目の持ち主はゆっくりと姿を現す。その体は犬に酷似しており口からは獰猛な牙がのぞく。
『ヘルハウンド』だ。
さらに背後から三匹ほどの角を持った兎がトマホークを握って姿を見せる。
『アルミラージ』。
いきなりのピンチだ。だが想定していなかったわけではない。アイコンタクトを交わし打ち合わせどおりにヴェルフはヘルハウンドへ、ダンはアルミラージへ向かう。
ヘルハウンドが『
「チッ……」
中層のモンスターは一筋縄では行かないようだ。
ヘルハウンドは炎の攻撃をやめ自分の四肢を使って飛びかかる。身体を捻って牙を躱しヘルハウンドを逆袈裟に切り上げるが毛を僅かに切り裂くのにとどまる。
速い。これでは闇雲に攻撃しても当たらないだろう。ならば…
ヴェルフは太刀を地面と水平に構え、刺突をしやすい体制に構える。刺突は一撃の隙が大きいが攻撃の出だしが一番速い。これで相手の隙を突く…!
ヘルハウンドはジグザグに走って頭を噛み砕かんと横から飛びかかってくる。ヴェルフはしっかりと見極め僅かに身体をずらして攻撃を回避し
「ハッ!」
太刀を突き出す。刃先はヘルハウンドの右後ろ脚を捉え切り裂く。
『ギャオウ!?』
空中で身体の一部を失ったヘルハウンドはバランスを崩して着地に失敗する。そしてすかさず太刀を振り下ろす。太刀はヘルハウンドの首をはね、そこからは血が溢れる。
ふと横を見るとダンがアルミラージを一匹殺したところだった。
『アルミラージ』。角を生やした兎型モンスターだ。非常に愛くるしい姿をする裏腹、とても好戦的な性格をしておりひっかかって命を落とした冒険者は多数。だがこのモンスターは一匹の力はさほど強くない。集団で現れた時に真価を発揮するのだ。基本的な戦闘パターンは標的を囲み、連携を上手く繋げ角を使った突進を絶え間なく繰り出すか、ダンジョン内に散在する『
ダンはその俊敏を遺憾なく発揮し逆にアルミラージを翻弄する。そしてアルミラージが闇雲にトマホークを投げた隙を斬りつけていき、ダメージが蓄積し弱った時にトドメをさす。
時間はかかったが比較的安全に戦闘できた。
それを見届け、ヴェルフは帰還するために魔石を回収しながら声をかける。
「おい、魔石回収したら帰…る……」
振り向くとダンの背中は遠くなっていた。
急いで近づき肩を掴む。
「ちょっと待ーーー」
ドタドタドタドタ‼︎
モンスターの群れであろう無数の足音が聞こえてくる。
「ッ‼︎、ヤベェな…… 」
ダンは双剣を構えて来たるべき敵に備える。
「ふざけろ……」
ヴェルフは口癖を呟き魔剣に手を伸ばす。
そして通路の奥から魔物の群れがかなりの勢いで迫ってくる。魔物は皆、鬼気迫るように
ヴェルフらが来るか……!と自分の得物を振り上げると魔物は横を
ヴェルフは不審に思って通路の奥の更に奥を見据える。すると耳にまるで牛のような荒い鼻息が聞こえてくる。
『フー、フー……』
最悪の想定が頭をよぎる。しかし状況証拠からその想定が限りなく現実味を帯びてくる。冷汗で太刀を握る手が滲む。思わず手が震える。思い起こすのは昨日の会話。
ーー『ミノタウロス』と
この階層の魔物にヴェルフ達以上の脅威を植え付ける存在は死の宣告を突きつける死神のように少しずつ姿を見せる。
ヴェルフ達の背を優に超える巨体。
全身を覆う赤い剛毛。
頭頂部に生える二対の鋭角。
Lv2、15階層出現モンスター。その強靭な皮膚と筋肉は生半可な攻撃を無効にし、バカみたいな怪力は冒険者を容易くねじ伏せる。
中途半端なとこで終わりましたが、今週中に次話を投稿します。
待っていてください。