ヴェルフが魔剣を強くするのは間違っているだろうか   作:カブタロウ

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第十話になります。お楽しみください。
少々見苦しい点がございますがよろしくお願いします。


第十話 鍛治師の『冒険』

ヴェルフ達は最大の『絶望』と対面していた。

自分達のステイタスでは攻撃をする事も防ぐことも敵わない。

覆せない『差』。

圧倒的な『恐怖』。

刺激される野性的『生存本能』。

ミノタウロスはヴェルフ達に強烈な『咆哮(ハウル)』を浴びせる。

気力が失せる。

希望が消える。

ヴェルフは自分の命の終わり、体にまとわりつく『死』の雰囲気を鮮烈に感じ膝をつく。

 

「うらぁああああああああああ‼︎‼︎」

 

もう一人の男から遠吠えが発せられる。

目の前に意識を向けるとダンがミノタウロスに対し襲いかかっていた。はためく赤色と煌めく銀閃がミノタウロスの周囲を駆け巡る。

自分も戦わないと、と腰の『魔剣』に手を伸ばすが手が震えて掴めない。

 

「クソッ!……クソォッ‼︎」

 

次第にダンがミノタウロスに押されていく。少しずつスピードが鈍り集中が散漫と成っていく。そしてミノタウロスの腕による決定的な一撃を受けてしまう。ダンは攻撃された勢いそのままに壁にぶつかり地面へ落下する。ーーどうやら脚を痛めたようだーーその場に座り込み反抗的な眼差しをミノタウロスに向け双剣を構える。

 

ミノタウロスが一歩ダンに近づく。

 

早く、早く魔剣を握れ!言う事を聞け!

震えて力が入らない手を罵倒するが僅かに指が動くのみ。

 

また一歩、また一歩とミノタウロスは近づいていく。

 

仲間の危機を更に感じたヴェルフはやっとのことで魔剣を掴む。

 

「おらぁあああああああああ!」

 

無我夢中で魔剣を二回振るう。

爆炎が飛び出しミノタウロスを石斧ごと業火に包み込む。更に何かが砕けた音がする。

ヴェルフの魔剣は二度の行使により刀身を弾け飛ばさせる。

 

「やったか……」

 

そして炎からゆらりと現れる巨大な蹄。

魔剣の攻撃はミノタウロスの天然武器(ネイチャーウェポン)を砕きつつところどころ火傷を残したが致命傷には至らない。

 

「なっ!?」

 

驚愕に目を開く。

確かに魔剣には《スキル》の影響でミノタウロスを屠る力はあった。しかしヴェルフの鍛治の腕で出来た“鈍ら”の刀身では魔剣本来の真価を発揮できず、その威力をかなり減衰させていたのだ。12階層程度のモンスターならいざ知らず、15階層Lv2モンスターにもなるとその威力では屠るに至らない。

想定外の出来事に思考がついていかない。

ミノタウロスは足取り変わらずダンに近づく。

ダンも驚いているようだ。

 

ヴェルフは見ていることしかできなかった。

 

ミノタウロスはその巨腕を振り上げ無防備な冒険者に狙いを定める。

振り下ろす。それはまるで断頭台の刃のようだった。

 

 

 

ボキッグチャ!

 

 

 

骨と肉が弾ける音がする。

ダンがいた所にあるのは複数の肉塊と砕けた骨、そして血を浴びた双剣とひらひらと宙を舞う千切れかけのサラマンダー・ウール。

壁には赤い絨毯が敷かれているかのように血が付いている。

何があったのか理解できなかった。ただ佇む。

ミノタウロスは次の敵に振り返る。その体は元々の赤い毛を更に紅く染めていた。

ヴェルフは理解した。今まで起こったこと全てを。

そこから何があったのかはヴェルフ自身覚えていない。ただ一つ覚えているのは持参した魔剣を全て使い宿敵(ミノタウロス)の隙をついて眼球から脳へとダンの双剣の片方を貫通させた事だけだった。

 

 

 

 

 

_____________________________

 

 

 

 

バッ!

ヴェルフは飛び起きた。どうやら眠っていたようだ。しかも全身に包帯を巻かれている。だが今までの記憶が曖昧としていて何故自分が眠っていたのかわからない。取り敢えずベッドの上から周りを見渡す。

視界に映るのは木で作られたであろう壁に部屋に散在する複数の植物やハーブ。自然をイメージして作られているようで窓からの日差しが相まって不思議な安心感がある。しかし

 

「ここは…どこだ?」

 

このような部屋は今まで見た事がない。従って自分のいる場所がわからない。ヴェルフは今自分が置かれている状況を考える。

まず、この見覚えのない部屋。これは自分が何かしら昏睡していた状態で連れてこられたのだろう。誘拐の線も考えられるが快適な部屋に加え応急処置を施された体を見るに怪我をして倒れていたところを助けて貰ったと考えるのが妥当だろう。とそこまで推測したところで部屋のドアが開いた。

 

「目は覚めましたか?」

 

ドアから現れたのは腕に包みを抱えた婉美なエルフの女性だった。エルフの特徴の尖った耳に優れた容姿に加え、目は透き通る碧眼をしており肩までかかる程度に伸びた緑色の髪をしている。

相手はエルフだ…対応を間違えないようにしないとな。

 

「ハイ、応急処置をありがとうございます。」

 

「そうですか…。良かったです。」

 

かなり無愛想で何を考えているのか分かり辛い。この言葉遣いで大丈夫だよな…?

取り敢えず挨拶を交わす。

 

「ヘファイストス・ファミリアの『ヴェルフ・アルゲース』と申す者ですが、貴女の名は?」

 

「私はアストレア・ファミリアの『リュー・リオン』です。」

 

アストレア・ファミリア。

探索系ファミリアでありながら所謂、自警団のような活動をしているファミリアだ。オラリオの民衆に人気があり、逆に素行が悪いファミリアの敵でもある。色んな意味で有名なファミリアだ。そしてこの『リュー・リオン』という女性はそのファミリアのエースでありヴェルフ自身も何度か耳にした事がある有名人であった。

名前も聞いてヴェルフは驚き機嫌を損なわせないよう注意して一番気になっている事を尋ねた。

 

「ところで、私はこんなところで眠っていたのですか?」

 

「えっ、何も覚えていないのですか?」

 

「すいません。記憶が曖昧としていまして……」

 

「そうですね…まずここはファミリアのホームです。そして貴方は血まみれでダンジョンに倒れていました。大怪我をしていて急ぎダンジョンから帰還させたのですが、運が良かったですね。私達のファミリアがそこを通らなければ今頃血の匂いでよって来たモンスターに食われていたでしょう」

 

血まみれ……()()()()()?……何か頭に引っかかるが思い出そうとすると割れるような頭痛が襲う。もう少しで何かが分かる…!

 

「そういえば貴方が握っていた『サラマンダー・ウール』にモンスターに刺さった双剣を回収しておきました。貴方の持ち物でしょう?」

 

そう言って抱えていた包みを開いてヴェルフに見せる。

それを見た途端に走馬灯のように記憶が蘇る。

この双剣の持ち主で親友の『ダン』。

13階層での戦闘。

想定外のモンスターの遭遇。

飛び散る赤色。

そして『ミノタウロス』。

 

「うわぁああああ、ああ、ああああ!?」

 

全てを思い出したヴェルフは頭を抱え発狂したように叫ぶ。

 

「っ!?どうしました!?」

 

包みの中を見た途端叫びだしたヴェルフに驚き、リューは取り敢えず宥めようと声をかける。

そして数秒が経つ。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、すみません。少し、取り乱しました。」

 

ヴェルフは呼吸を荒げ、顔を青ざめさせている。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「ハイ、見苦しいところをお見せしました。失礼します。」

 

そう言ってヴェルフはベッドから降り包みを持ち上げる。

 

「顔が優れないようなのでもう少し休んでいったらーーー」

 

「…ありがとう。でも俺には『やらなければならない事』があるんだ……」

 

リューの言葉を遮り焦燥した様子で部屋を出て行った。

 

 

「どうしたんだ……?」

 

リューはヴェルフが出て行いったのを不審に思った。

 

____________

 

 

ヴェルフはありったけのインゴットを買い、工房に籠っていた。

悔しさのままに剣を打ち、そして壊して打ち直す。それを何度も繰り返した。こんな時慰めてくれたのも『ダン』だった。しかしもういない。

 

ガン!ガン!ガン!ガン!

 

荒々しい音が轟く。

いつしか悔しさは憎しみへと変わっていた。

 

あの『ミノタウロス』を殺せる剣を!全てを殺せる剣を!

 

そして打ち上げた剣。

カテゴリーは太刀に属するが前使っていた太刀より刀身がとても細い。すぐ折れそうな外見ながら触れる物全てを切り刻むような鋭さを持ち合わせている。今までで一番の武器だ。

ギラリと獰猛さを感じさせる輝きを放つ刀身を見つめ取り憑かれたように柄をつかむ。最低限の荷物を持ってダンジョンに向かおうとする。

しかし外から急に工房のドアを開けられた。立っていたのは団長『椿・コルブランド』。

 

「ヴェル吉、聞いたぞ。連れが死んだらしいな。」

 

「……だったら何なんだ。とにかく今はそこを退け。」

 

「そんな装備でダンジョンに行くつもりか?尚更退けないな。」

 

「アンタには関係無いだろう。」

 

そう言って椿を押し退けようと近寄るが、いきなり衝撃を喰らい吹っ飛ばされて目に映る景色が目まぐるしく動く。そうして工房の壁に激突し地面に腰を落とす。視線を上げると脚を伸ばした椿がいる。

 

「てめえっ!」

 

瞬時に太刀を抜きヴェルフのステイタスでは考えられない速度で振る。

椿は今武器を持っていない。攻撃を躱すだろうからその間に通るか、と考えるがその予想ははずれる事になった。

素手で掴まれたのだ。しかも片手で。太刀は椿の「耐久」を破り血を滴らせるが「力」でしっかりと握られびくともしない。

 

「クソガァ!ドケェ!俺は命の限りモンスターを殺すんだ!」

 

「ハァ…、女々しいな……」

 

椿は太刀を握りながら嘆息する。

 

「何だと!」

 

「大方、友の復讐をしてダンジョンで心中でもするつもりか?ヴェルフよ。」

 

「うるせぇ!黙れ!」

 

ドン!!

 

椿の拳がヴェルフの鳩尾を叩く。

 

「ガハッ……」

 

太刀を手放しその場に崩れ落ちる。

椿は太刀を地面へ突き立て吼える。

 

「ヴェルフ!お主の向上心は何処へ行った!お主の夢は復讐なんぞで止まっていい物じゃなかろう!」

 

「お主の(やぼう)は何だったんだ!思い出せ!」

 

その言葉にラキアの外壁で叫んだ夢を思い出す。

 

『絶っっっっっっっっ対、最高の魔剣を創ってやる‼︎‼︎』

 

高らかに夢を叫んだあの日に決意したはずだ。家を捨ててまで挑戦した夢を必ず叶えると。こんなところで復讐に走って野たれ死ぬ訳にはいかない。でも親友の死はどうやっても割り切れない。夢の為には犠牲も厭わないと決めていても忘れられない。

 

「じゃあ、どうしろって言うんだよ……」

 

思わず口から溢れた。

 

「その言葉を待っとったぞ。」

 

そして地面に突き立てた太刀を引き抜きヴェルフの前に改めて突き立てる。

 

「友の死を割り切れとも忘れろとも言わん。全てを飲み込んで『乗り越えろ』。この剣を『復讐』の為ではなく『過去の因果を断ち切る』為に使え。」

 

「こんな剣でいいのか……?」

 

「自分で生み出した(武器)に罪はない。(鍛治師)が使わなくてどうする。」

 

と、椿は破顔する。

その言葉を心に刻みヴェルフはゆっくりと、けれどしっかり立ち上がる。そして強く太刀の柄を掴む。その顔つきは憑き物が落ち、新たな決意を固めた顔だった。

 

「団長…、俺の『冒険』を見ていてくれ。」

 

椿は深く頷いた。

 

 

_____________________________________

 

 

 

ヴェルフはサラマンダー・ウールをはためかせ腰に『お守り』を据えてダンジョンを駆ける。駆け抜ける。その後ろには見守るように椿がいる。

Lv5の椿がいるからか進路の邪魔をする魔物は圧倒的に少ない。偶に出てくる魔物はすれ違い様ヴェルフの一刀のもとに切り捨てられる。

そしてあっという間に「中層」へとたどり着く。

 

人という生き物は気持ちによって大きくポテンシャルが左右される。

以前来た時とは心構えが違う。「冒険」に燃えるヴェルフにとって中層のモンスターですら敵ではなかった。

 

15階層。

運がいいと言うべきか悪いというべきか、『ミノタウロス』とは階層を降りてすぐ遭遇できた。

出会い頭に浴びせられる『咆哮(ハウル)』。

だが無視する。以前は気力を無くされたが今のヴェルフの心まで届かない。

 

「だあぁあああああああああ!」

 

一閃。

その刃は的確に眼球を斬りつける。

 

『ブモォオオオオオオオオ!』

 

片目を潰され怒り狂う。

ヴェルフ目掛けて石斧を振り回しダンジョン壁やら床を砕く。

ヴェルフは砕けてできた石ころを拾って距離を取る。

そしてミノタウロスがこちらを向いたとき、

 

「フンッ!」

 

石ころがもう片目を潰す。鍛治によって鍛えられた「器用」は投げた石ころを目標に当てさせる。

 

『ブオォォオオオオオオオオ‼︎‼︎」

 

視覚を完全に潰されたミノタウロスは嗅覚と聴覚を研ぎ澄ませる。だが

 

ズチャ

 

鼻に強烈な痛みが訪れ、匂いが血で溢れる。鼻を潰された。

 

ザシュ

 

耳に何かがが突き刺さる。鼓膜が破れ片耳が機能しなくなる。

 

バシュ

 

もう片耳に激痛。痛み以外感じられなくなる。

何もわからない恐怖にひたすら暴れる。

ヴェルフはその様子を見ながら隙を捉えて『ある一点』を何度も切る。斬る。切る。

 

これがヴェルフの戦い方だ。相手の感覚器官を潰し“弱点“を切って殺す。卑怯と言われようが圧倒的強者と戦うには手段を選べない。

そして『ある一点』とは脊椎動物が故の弱点、首の後ろに存在する『頚椎』という部位だ。神経の束がありそこを斬られれば死ぬ。

少しずつ切り口が大きくなり刻一刻と迫る死のカウントダウン。

 

しかし野生の本能だろうか、あと一太刀で死ぬというときに、感じるはずの無い気配を感じ振るった石斧はヴェルフを捉える。

 

「なっ!?」

 

ヴェルフは攻撃をやめ、太刀で受け止める。

 

バキッ!

 

太刀が中心から真っ二つに折れ、ヴェルフの体を吹き飛ばす。

ミノタウロスは吹っ飛ばした方向に頭を向け自身の最大の武器である二対の角を構える。そしてその巨大からは考えられない速度で肉薄する。その先には折れた武器を持つヴェルフが。

 

その時、ヴェルフの目には全てがスローモーションに見えていた。

自分に真っ直ぐ向かってくる赤い猛牛(ミノタウロス)。自分の手には使い物にならない太刀。極限に高められた集中力の中で敵を倒す術を考える。

そしてヴェルフは腰の『お守り』に手を伸ばした。その手に握られたのは一振りの片方だけの双剣。

ヴェルフは見る。ミノタウロスが来た瞬間に跳ぶ。移りゆく視界の中に大きく開いた傷口を見る。

 

「喰らえぇえええええええええええええええええええ‼︎‼︎」

 

ガリゴリガリ!

 

まるで岩に無理矢理物をねじ込む様な硬質な音を立てて剣は頚椎に突き刺さる。

神経の束を断たれたミノタウロスは突進の勢いのまま倒れ地面をめくり上げながら失速する。

ヴェルフは腰から地に落ちる。そのまま大の字に寝そべる。

 

「フッ…」

 

それを見ていた椿は口元に笑みを浮かべヴェルフに近づくのだった。

 

 

 

 

________________________________

 

 

 

ヘファイストス・ファミリアホームーー執務室ーー

 

 

赤髪の鍛治神は微笑み、目の前の青年にステイタスを記した紙を手渡す。

 

 

「これが貴方のステイタスよ」

 

 

 

 

 

【ヴェルフ・アルゲース】

 

Lv2

 

力: B 716 →I 9

耐久: D 541→I 6

器用: A 801→I 11

敏捷: D 512→I 5

魔力: G 235→I 2

 

 

 

《魔法》

暴走憤怒(フィアフル・エクスハティオ)

付加魔法(エンチャント)

・敏捷、力に大幅な上昇補正

・一定距離の魔法発動の強制終了(シャットダウン)

・耐久に大幅な下降補正

・詠唱式『荒ぶる怒りを我が身に、猛き力を我が元に、全ての破壊を我が意思に』

・制御不能

 

 

《スキル》

魔剣製造(スィクロプ・メイス)

・魔剣作製可能

・作製時における魔剣能力強化

・作製時の叩く回数に応じて補正上昇

 

【鍛治】: I

 

 

 

 

そしてその青年は工房に向かい折れた太刀と双剣をインゴットに溶かして一振りの大剣を打った。

その刀身は武器にあるまじき荒々しさがありながらどこか芸術的な美しさを感じさせる。柄には千切れたサラマンダー・ウールが結びつけてある。

その剣の銘はーーーーー

 

 

魔剣『(グリード)(モーント)

 

 

 




第一章完結。ここまで読んでくれた人達に心からお礼申し上げます。
次回は第ニ章です。
かなり文字数が多くなりました。スイマセン。
最後のルビはあまり触れてくれないでほしいな〜…なんて。
これからもよろしくお願いします。
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