ヴェルフが魔剣を強くするのは間違っているだろうか 作:カブタロウ
第十四話になります。楽しんで行ってください。
第十四話 変化する環境
ヴェルフは目を覚まし腰を起こして飛び起きる。腰が痛い。
自分の寝ていた場所は工房に無理矢理括り付けたような寝台(のようなもの)だった。どうやら気絶していて此処に運ばれたらしい。
ふと、前を見るとそこには
大量のインゴットが積み重ねられできた山がある。
ヴェルフは めのまえが まっーーーーー
になりかけたところで正気に戻る。あれはなんだと考えていると手にクシャっと紙が触れた感覚がした。その紙を見るとこう書いてあった。
ーーヴェルフ・アルゲース様へ
これを読んでいるということは目を覚ました様ですね。ひどく驚かせた様で申し訳ありません。
本題なのですが目の前にインゴットの山があると思います。それはヘルメス・ファミリアが用意させて頂いたものです。
何故かと言いますと私達もここまで早く魔剣が壊れる事は想定外であり、この様なペースで行くとヴェルフ様と練り上げた報酬の額や試験における予想される出費などの
これからのご健闘をお祈りしています。ーーアスフィ・アル・アンドロメダよりーー
……そういうことだったのか。若干貰いすぎな気もするが頂いたものを返すのも忍びない。最大限活用させてもらおう。
ヴェルフは寝台から降り、首や腰を回して身体をほぐし近くに掛けてある鍛治用の手拭いを額に巻いた。
そして適当にインゴットを炉に放り込み金床の前に座り込む。インゴットを取り出してハンマーを振るう。その頃、ヴェルフの頭の中は剣以外何も考えない。幾度か打つとみるみるうちに形が変化していき剣を形作っていく。しかし打つ槌は止めない。『鍛造』により打つたび剣の物質に含まれる空気が抜け、物質の結晶がより強く硬くなる。時々飽和量を過ぎた手拭いから滴る汗が赤い剣へと落ち、ジュッと音を立てて蒸発した。
一振り一振りに自分の想いを槌にのせ剣へと伝える。
三回程少量のインゴットを足して造形を進め、数時間時間をかけて鍛治師の手で鉱石が武器へと昇華した。しかしその剣は普通とは異なる。ヴェルフの特有のスキルによってできた魔剣である。魔剣は誰でも振るだけで効果を発揮できる神秘的で画期的な武具だ。ヴェルフはそれを更に改造を加え従来とは比べられない耐久を得させたという他と一線を成す剣と言える。
苦労の末にそのような魔剣をもう一つ打ってこの日は眠った。
翌日
ヴェルフは朝起きてすぐに鍛治に取り掛かる。テストプレイヤーにいち早く魔剣を届ける為に。
寝起きから頭を一瞬で切り替え、辺りが明るくなり始めた頃、炉に火をつける。
インゴットを熱して打ち上げるのは『最大威力』の魔剣。これは先日打った魔剣とは違い耐久力を犠牲にし極限まで威力を高めたものだ。ただし本当に威力が凄まじいので使用には注意が必要だが。
半日かけて魔剣を打ち肩の力を抜くと凄まじい疲労感が押しかかる。……しかし魔剣一つで半日もかかるか?と自分で自分を不思議に思いふと出来上がった魔剣に目を向けるとそこには“二振り“の魔剣があった。
「ん?」
どうやら自分でも意識していないうちに二振り打ってしまったらしい。途中からアドレナリンが出て記憶が飛んでいたようだ。
ヴェルフにはこういうことが昔から多々あった。他の鍛治師にもこんな事がある。……………と思いたい。
どうせだから残さず全部渡すかと思い魔剣計四振りを包みに包んで工房を出た。
大小様々な石造りの工房が乱立する路地を背にロキ・ファミリアホーム『黄昏の館』へと向かう。
その時、
「チッ、調子に乗りやがって…」
という声が出たがヴェルフはそれに気付かなかった。
___________________________________
ヴェルフは大きな門を前に空を見上げていた。…いや、正確にはある種芸術を思わせる華美な塔を見ていた。
『黄昏の館』だ。
「すげぇな……綺麗だ。」
ヴェルフは物作りの職人なのでこういった美術的な造形物には理解が得られた。
二分程見上げていてふと周りを見ると自分が怪しげな目つきで見られていることに気付いた。
……道の真ん中でホーム見てたらそりゃ不審者と思われても仕方ないか。
気を取り直し門を守る装備を固めた衛生兵に話しかける。
「ヴェルフ・アルゲース、魔剣を届けに来ました。」
「ああ、『あれ』か。よし、入れ。」
割とあっさり検問を通りホームに入っていく。ホームを歩く中、ヴェルフはあることに気付いた。
「しかし、これ誰に渡したらいいんだ?」
いきなり問題にぶちあたる。
取り敢えず主神に会えばなんとかなると思い、主神が居るであろう一番高い塔の最上階目指して歩き始めた。
……しかしロキ・ファミリアは沢山の眷属を抱えているのでよく団員とすれ違うのだがみんな俺のことを『あれ』で納得している。一体何をやったんだ?
何と無く疑問を残しつつガラス張りの空中回廊や長い螺旋階段を歩く。…外面は良く出来てるのに実用性は皆無だな。遠い。歩き辛い。だが
途中、著名な芸術家が描いた絵画やヴェルフ自身が敬愛する彫刻家の作品などがありロキは芸術に長けていてよく言われているように何よりも娯楽が好きな神だと予測した。
そして辿り着いた神の間。
目の前のドアは自身のファミリアのホームのドアより一回り大きく過多と思えるほど派手な装飾がなされていた。
比較的装飾が少ないところを探し拳を当ててノックする。
「神、ロキ様。テストプレイヤーを申し込んだ『ヴェルフ・アルゲース』という者なのですがお邪魔してよろしいでしょうか?」
「おう、あんたか。入れ。 」
神らしからぬ不敵な声色に驚きながら部屋に入る。
そこには小柄な一柱がいる。実際に見るのは初めてだがこの神がロキのようだ。
「自分があの魔剣打ったんか。えらいもん創ったなー」
「恐縮です。」
珍しいイントネーションをしている。
「うちのアイズたんがいきなり派手にぶっ壊したからなぁ。スマンな。」
一瞬ロキがあの『剣姫』を『アイズたん』と呼び頭が真っ白になりかけたが持ち直す。
「魔剣は誰にお渡しすれば良いでしょうか?」
「んーどうせやからアイズたん本人に受け取ってもらおか。」
そう言ってロキは机の上のベルをチリンと鳴らす。すると数秒してロキ・ファミリア団長『フィン・ディムナ』が入室して来た。
「何か用かい?ロキ。……おっとそこの
いきなり大物が登場し、面食らいつつも返事を返す。
「ハイ、魔剣を渡しに来ました。」
「フィン、アイズたん連れてきてくれんか?頼むわ。」
「そういうことか。分かったよ。」
そしてまた部屋から出て行く。
「まー待っとってな。多分すぐ来るで。」
言った通りにフィンが部屋を出てすぐまたドアが開け放たれる。
いつか見た、透き通り流れる様な金髪が宙に煌めく。
テストプレイヤーでありその魔剣を3日ほどで壊した張本人『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインである。
第一印象を悪くしないようこちらから挨拶を交わす。
「テストプレイヤーを申し込んだ『ヴェルフ・アルゲース』です。これからお願いする。」
「あ、…こちらこそよろしく。」
「ヴェルフ、言うたか?スマンがこれでも忙しいんで早速本題に入ってくれんか?」
「分かりました。…それではヴァレンシュタインさんこれがーーー」
「……アイズでいい」
「……それではアイズさんと呼ばせてもらう。改めてアイズさん、これが
「分かった。」
アイズはヴェルフの
「よし!ヴェルフとか言う奴、何度も急がせるようで悪いがスケージュール押しとんねん。出てってくれんか。」
そうしてヴェルフは部屋を出てそのまま『黄昏の館』を後にした。
______________________________________
緊張したな。変なとこ無かったと、思いたい。
受け答えに失敗したら今後の鍛治師生命に関わる大事を乗り切り緊張が抜けたヴェルフは鍛治で凝り固まった身体を動かす為にもダンジョンに向かうことにした。一度工房に戻り装備を取りに行く。
ーーダンジョン『中層』ーー
ズバッ!
『ギャオン!』
太刀の一振りで『ヘルハウンド』を斬り伏せる。
「久しぶりだが割と動けるな……」
ヴェルフはダンジョン『中層』にて探索をしていた。Lv2にもなりここら辺ではよっぽどの事がない限りピンチにはならない。……いや、まあ、一回あったんたがその時は『魔法』でーーーってこの話はまた後日。
安全マージンを充分すぎるほど取り、危険になりそうなら逃げる。そんな事を繰り返しモンスターを狩って行く。
ふと、魔石を回収していると魔石が入らない事に気付く。どうやらもう入らないようだ。……急いでたから小さいの持ってきたのが失敗だったか。それより無意識って怖い。
そうして肩に食い込むバックパックの紐に苦しみつつ帰ーーー
ドォオオオオオン‼︎‼︎
ダンジョンが揺れる。
何だ何だ!地震か!?ダンジョン崩れたらヤバいぞ!
そんな事を考える内に地震は収まった。
「何だったんだ?」
今度こそヴェルフはダンジョンから帰還した。
そしてギルド資料室。
誰かの日記から重要な文献まで様々な書物があるそこでヴェルフはすっかり慣れてしまった勉強会に励んでいた。…慣れって怖い。
「中層辺りの範囲は大体終わったかな。どうする?一応『深層』の範囲やる?」
「…………いや、行く予定無いから良い。」
エイナとは長い付き合いの中ですっかり敬語が取れ、仲のいい友人になっていた。(スパルタだが普段はとても優しいのだ)
「…じゃあヴェルフさんがもう少し先に行くって言うまで勉強会はお休みだね。」
「分かった。(やっと…………終わった…………)そう言えば今までのお礼含め一緒に食事どうだ?奢るぞ?」
「あー、(この後簡単な仕事だけだしいっか)うん。行くよ。」
「そうか、どこに行く?」
「うーん最近仕事ばっかだしどっか良さげな酒場ないかな、なんかむさ苦しくないとこ。」
「じゃあ『豊饒の女主人』はどうだ?」
「えっ、あそこ高いよ?」
「大丈夫だ。知り合いいるからそこそこまけてもらえる。」
「そっか、じゃバベル前の広場に集合でいい?」
「了解した。」
食事の約束をする。……実は勉強に苦言を言わず乗り切ったご褒美として何度か食事に行った事のある仲だったのだ。なかなかエイナの話は面白くいい酒の肴になる。(前みたいに酔って暴走はしないが)
その後エイナと『豊饒の女主人』に向かう。
「あの酒場に知り合い居たんだね。」
「ああ、まあ色々あってな。」
「ふーん、あ、あそこだね。 」
そして『豊饒の女主人』に入店する。
『いらっしゃいませー!』
いつも自分が座る席に着きその隣にエイナが座る。
「へー結構綺麗だね。」
「まあ店員が全員女性だからな。」
そんなことを喋っているとあの聞きなれた声が聞こえてくる。
「こんばんは、ヴェルフさん。」
「ああ、こんばんは。シル。」
「あら?その隣の方は?」
若干シルのいつもの笑みに凄みを感じるが気のせいだろう。そのまま紹介する。
「俺の冒険アドバイザーの『エイナ・チュール』だ。」
「どうも、ご紹介を受けたエイナです。」
「そうですか……」
シルは訝しげにエイナを見る。
「なにかしら?」
「……まあ楽しんで行ってくださいね。何か注文ありますか?」
「これとこれを頼む。」
そうしてエイナと飲み、ギルドの同僚の話を肴にしながらその晩は更けた。
ヴェルフは未だ気付かなかった。ある視線に。
「フン…見てロヨ。オメェは調子に乗りスギタ。」
遅くなってすみません。
感想・批評お待ちしています。
次回も楽しみにしてね!
これからもよろしくお願いします。