ヴェルフが魔剣を強くするのは間違っているだろうか 作:カブタロウ
「俺は今からこの家を出て行く。 」
食堂の食器とフォークがあたる音がやむ。食堂は静寂に包まれた。
「なっ⁉︎……どういうことだ!!」
ヴィルが顔を真っ青にした後すぐに真っ赤にし、ヴェルフに吠えた。
ヴェルフはそんな親父の様子を苦笑混じりに眺め、言葉を続けた。
「どうにもこうにも俺はこの家を見限った。『ヴェルフ』の名も捨てオラリオで鍛治師をする。だから俺はこの家を出て行く」
「ふざけるな‼︎そんなことは認めない‼︎」
「あんたが認めなくてもこのラキア王国は認めてんだよ」
ヴェルフはあらかじめつくっておいたニセの戸籍表を見せる。
ちなみになぜラキア王国に戸籍という概念があるかというとこの王国の主神である戦神ガレスは根っからの戦好きであるが戦が強い訳ではない。よってただでさえ強くない自分の王国からの有用な人材を流出させてしまうと自軍の戦力の減少を招く。
それをひどく恐れているため『クロッゾ』のような有名な家系は戸籍を書くことを義務化されている。ヴェルフがニセの戸籍表をつくっておいたのはこの頭の固いクソ親父を説得するためである。
「なっ!?…えっ?……ど、ど、どうするつもりなんだ!この大量の魔剣の注文をどうするつもりなんだ!」
ヴィルは激しく動揺し、聞きづらい言葉を言った。
実際問題この戸籍は偽物なのでそこを突かれたらお終いだったが、ひどく頭に血が上ったヴィルの思考回路はヴェルフが普通に戸籍の変更を申し出たところで「魔剣製造」という重要な人材をガレスが手放すわけないということも考えられなかった。
対するヴェルフはこの状況が予想通りと、口もとに嘲笑を浮かべる。
ただただ儲けをヴェルフに頼りきっていてそれが家出すると言ったらヴィルが激しく動揺することはわかっていた。ヴェルフは相手の思考回路が正常になる前に狂わせようと追い討ちで口撃する。
「ハッ……知るかよ。あんたが勝手に注文を引っ張ってきたんだろう?自分でどうにかするのが『責任』ってやつじゃないのか?」
「家出なんて………!させるかァアアアア‼︎‼︎」
逆上したヴィルがヴェルフ目指して組み伏せようと突進してくる。
冷静だったヴェルフはヴィルの突進をしっかり見極め、体を捌き、脚をかけて背中から逆に組み伏せる。そしてとっさにヴィルの腰に差してある魔剣を奪い取り、ヴィルの目の前で床に叩きつけ粉々に壊す。
「ちなみにさっきの魔剣でこの家に魔剣は残っていない。精々頑張るこったな。」
「なっ…あっ………アアアア!………アア‼︎あ…………あ……………」
今度こそヴィルは顔面蒼白になり、力なくへなへなと床に座りこんだ。
ヴェルフはその様子を蔑むようにみつめ、話すことはもうないと言わんばかりに持ってきた包みを持ち、背中を向け食堂を出ていった。
包みの中には家中の魔剣と旅の用意が入っていたのだった。
静まりかえりあまりの展開に阿鼻叫喚となり、ヴィルのブツブツとした小言が響く食堂で一人ガロンは目を細め、出ていった「孫」の背中をずっと見つめていた。
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ヴェルフは振り返らず、自分を育ててくれた家から駆け出す。
目は少しだけ潤んでいた。
今では魔剣を打てしか言わない家族だが仮にも自分に鍛治師の誇りを教え、不自由なくここまで育ててくれたのだ。家出をするのはヴェルフにとって苦渋の決断だった。
『家族』をとるか、『夢』をとるか。
ヴェルフは『夢』を選んだ。至高の『魔剣』をつくるという果てしない野望を。
だが育ててくれた恩と鍛治師としての矜持や誇りを忘れないようクロッゾ家の家訓であるこの言葉は覚えておこうと思った。
「鉄の声を聞け、鉄の響きに耳を貸せ、槌に想いを乗せろ。」
ヴェルフは走りながらその言葉をつぶやくと、顔を上げ、ラキア王国の外壁に登り、朝日に向かって決意を叫ぶ。
「絶っ対、最高の魔剣を創ってやる‼︎‼︎」
「……よしっ」
地平線に自分の声が響いたと確信し、決意を固めたヴェルフは拳を握りしめ、高ぶる気持ちを抑えこみ、外壁から早朝のラキア王国を眺める。
「これで見納めだ」
その光景を目に焼き付けると、顔を見られないよう深めにローブを羽織る。そして外壁を降り『オラリオ』へと向かう馬車をひく小太りの商人に話しかけ、
「すいませんが、この馬車に乗せていただきたいのですが……」
高そうな葉巻をくわえ、踏ん反りかえっている商人は大きな包みを抱えているローブの男を見て、
「乗りたいのなら金を払ってくれ」
ローブの男は持っていた大きな包みに手を突っ込み、数十ヴァリス商人に渡す。
「いいだろう。乗っていけ」
ヴェルフは商人の馬車へと乗り込み、包みを下ろして馬車の揺れに体を委ねる。ふと周りを見るとほとんど荷物がなく、ヴァリスの山だけがあった。
おそらくこのヴァリスでオラリオの魔石製品と交換してそしてラキアで売り捌くのだろう、そんなことを考えた。
商人が衛生兵を突破ししばらくしてから、少しだけ空いている窓から外を見た。ラキア王国の外壁が見え、自分がラキア王国から出たことを実感した。そしてヴェルフは壁に背中をかけ、目を閉じた。
ガタン‼︎
急に大きく馬車が揺れる。一瞬で目が覚め、襲撃か!と反射的に包みから剣を取るが、
「おっと…。すまないな、少し石に引っかかった」
ヴェルフは何もなかったと安堵したが、
「うおっ‼︎クソッ!モンスターか!」
ヴェルフは商人の焦った声を聞き、迷わず魔剣を取る。すぐさま馬車から飛び出て、状況を把握する。
出てきたのは「ゴブリン」の群れのようだ。
7~10匹のゴブリンたちが馬車の前を通せん坊している。基本的に外界に生息するモンスターはダンジョン内のモンスターより大分弱いのでそこまで問題ではない。
ヴェルフは剣を上段へと振り上げゴブリンら目掛けを振り下ろす。暴風が巻き起こりローブがめくれ上がるが、気にせず、風がカマイタチという無数の刃となって敵を切り刻む。
一振りにして魔剣は粉々に砕け散ったが、ゴブリンらは一匹残らず血だらけの肉塊となり、極小の魔石を残して灰となる。
商人は腰を抜かしていたが、ゴブリンが死んだことを理解すると立ち上がり、ヴェルフの顔を見て驚く。
ラキアの一番有名な魔剣鍛治師だったからだ。
ヴェルフはあちゃーと額に手を当て、
「すまないが、俺のことは秘密にして欲しいのだが…」
と自分のことを口止めさせる。無理ならと、数千ヴァリス渡そうと包みに手を伸ばすが
「いえいえ。命の恩人の願いならばどんなことも承りますよ」
と、最初の頃とは180度ほど態度が変わっていて少々面食らったが、口止め出来たので良しとする。そしてヴェルフは馬車に乗り込んだ。
数時間経っただろうか。ヴェルフは武器の手入れをしていた手を止める。
「お客さん。そろそろですよ」
ヴェルフは窓から外を見る。そこにはラキアとは比べられないほど巨大な外壁がそびえ立っていた。壁の内側からはガヤガヤと住民の声が聞こえる。
「ここがオラリオか……。楽しみだ」
ここで俺の夢が始まると期待に胸を膨らませ、なんのファミリアに所属しようか、どうやって『万能者』アスフィ・アル・アンドロメダとコンタクトをとろうか、など色々考えつつヴェルフはつぶやいた。
今回は少し会話が多かったですかね?次回からもっと字数を増やしていきます。
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