ヴェルフが魔剣を強くするのは間違っているだろうか   作:カブタロウ

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やっちまいました。
第五話です。お楽しみください。


第五話 魔剣の力

「……んっ」

 

朝、ホームの窓から朝日が差し込みヴェルフの目覚めを促す。

 

「ふぁ、……頭痛い……」

 

大きく欠伸をすると頭痛で頭をおさえる。どうやら昨日の歓迎会の酒が残っているらしい。二日酔いというやつだ。ヴェルフは寝袋をかたずけるとホームの共有の洗面所へと向かう。洗面所に着くと少々錆びついている蛇口をひねり水を出す。水をすくって少しばかり水を飲むと顔を洗う。自分の服の袖で顔を拭うと執務室へと向かう。昨日の夜に主神から「連絡があるから執務室にきて」と告げられていたからだ。執務室のドアの前に立ち、前見た団長の行動をなぞる。数回ノックし

 

「ヘファイストス様、ヴェルフ・アルゲース入ります」

 

「いいわよ。入って」

 

ほとんど間を空けずに答えが返ってくる。ヴェルフは両開きのドアを開け部屋に入った。

 

「おはよう、ヴェルフ」 「お目覚めか?ヴェル吉」

 

執務室には主神のヘファイストスと団長の椿・コルブランドもいた。ヴェルフは主神だけでなく団長もいることに驚くが二人に挨拶を返す。

 

「おはようございます。主神、団長。」

 

ヘファイストスはその様子を満足気に見ると、当初の目的である連絡を述べる。

 

「貴方は私の眷属(ファミリア)になりました。よって工房を与えます。そしてダンジョンに潜ると共に作品を打ちあげて提出してもらいます。これはファミリアの義務です。」

 

ヘファイストス・ファミリアの方針は『切磋琢磨』。自分の技術を隠蔽し、自分だけの作品を創る。

そのこと異議のないヴェルフは主神に首肯を返す。

その様子を確認した椿はヘファイストスに続けて連絡を伝える。

 

「ヴェルフ・アルゲースに与えられる工房は北東のメインストリートの31番地だ。地図を渡すので荷物はこの工房に運べ。……連絡は以上だ、退室する」

 

その他諸々の連絡事項を伝えた椿はヴェルフとすれ違い、部屋を出て行く。……と思ったが振り返り、

 

「ヴェル吉よ。後でホーム前へ来てくれ」

 

それだけ言うと今度こそ部屋から退室した。

 

「ふふ、『アレ』ね…….」

 

主神を意味深に笑みを浮かべる。ヴェルフはその笑みにそこはかとなく不安を感じる。

 

「最後に一言……」

 

ヘファイストスは息を吸い込み、たっぷりと間を空け、

 

 

 

 

「ダンジョンで死なないでね?」

 

______________

 

ヴェルフは地図を受け取り執務室から出てくると、ホームの食堂で朝食を食べる。さっさと荷物をまとめ包みを作ってホームを出る。ホームの前には団長がいた。

 

「おお、ヴェルフか。待っとったぞ」

 

「はい、ただいま参りました。何か用件でも?」

 

 

ヴェルフは団長が待つ程の用件はなんなのか聞く。

 

「なーに、ファミリアの『洗礼』を受けてもらうだけだ」

 

「『洗礼』?」

 

団長曰く、簡単に言えば武器の勝負らしい。まず、指定の金属(インゴット)を受け取り、一日かけて一つ武器を打つ。そしてその武器を使い団長と決闘(デュエル)をする。団長はハンデとして一歩も動かず手だけで勝負し先にダメージを与えた方の勝ちというものなのだそうだ。

ヴェルフは思う。馬鹿正直に突っ込んで勝てる筈がないだろう。相手はLv5の冒険者であり、上級鍛治師だ。勝てる要素がない。考えうるに新人の武器を圧倒的に叩き壊し、慢心とプライドを捨てさせるのが目的だと思われる。勝負が始めから決まっている決闘(デュエル)だ。しかしヴェルフは極度の「負けず嫌い」だった。鼻っから相手の予想通りに負けるつもりは毛ほどもない。どうすれば相手(Lv5)に一矢報いることができるのか策を講じる。

 

「本気でくるんだぞ?」

 

椿の挑発にイラッときたヴェルフは下衆い策を思いつく。

 

そうだ。魔剣を使おう。

 

ヴェルフは口もとを不敵に歪めた。

 

 

________________________________

 

 

《洗礼』の金属(インゴット)を受け取ったヴェルフはメインストリートをごった返す冒険者に押されつつ、脇に逸れ、路地裏を歩く。ここの辺りはヘファイストス・ファミリアの工房が多く、工業地帯となっておりひっきりなしに槌の音が聞こえて屈強な鍛治師が行き交う。地図を見ながら入り組む路地を進み、自分にあてられた工房を見つける。その工房は周りの工房と同じ石製でラキアの頃の工房より一回り小さい。ヴェルフは工房へ入ると包みを広げ工房を「自分の工房」へと改装する。

改装を終えたヴェルフは炉に火をくべ、金属(インゴット)を放り込む。工具の中から「相棒」を取り出すと炉の中から赤く染まる金属(インゴット)を金床に置く。そして槌を振るい早速鍛造を始める。

ヴェルフの《スキル》魔剣製造(スィクロプ・メイス)は魔剣の製造を可能にするだけでなく、叩けば叩くほど能力が上昇する。団長(Lv5)に一矢報いるには相当の時間をかけねばならぬが、ヴェルフは無表情にけれど心は熱く一心不乱にインゴットを叩く。

インゴットは叩かれる度に姿を変え最初は棒状に、次に先端から広がっていき物を切る刃ができる。ヴェルフの相棒は少しずつ力の向き、振るう強さ、タイミングを変えただの金属を剣、さらには『魔剣』へと昇華させる。

 

「………」

 

鉄の声を聞け、鉄の響きに耳を貸せ、槌に想いを乗せろ

 

カァン カァン カァン カァン

 

工房には金属同士がぶつかり合う音が反響する。工房の光源は炉の火と天井の小さなランプ、そして小さな窓のみ。炉から溢れる赤い光はヴェルフの顔を照らし汗を滲ませる。顎をつたい、滴り落ちた汗のしずくは床に弾けて染み渡る。

 

カァン カァン カァン

 

時計の無い工房は時間感覚を狂わせる。おそらく数時間過ぎた頃だろうか。

ヴェルフは唐突に槌を振る手を止め、未完成の剣を金床へ下ろす。

 

「もうこんな時間か、……」

 

工具を片付け、水につけておいたタオルで気持ち良さげに顔を拭う。水の冷んやりとした冷たさは鍛造で荒ぶった心を落ち着かせ、ヴェルフの体温を下げる。

申し訳程度につけられた小さな窓からは昼時の暖かな陽気が差し込んでいた。

 

 

 

 

 

ヴェルフは軽くシャワーを浴び、下着を変えて昼食を作る為の食材探しに市場へと向かう。朝はダンジョンに行く冒険者で溢れていたメインストリートだが、昼になると人が減り、平然としていた。朝とのギャップに面食らうヴェルフだが気をとりなおすとオラリオの市場を目指す。オラリオの市場はどんなものなのか想像しながら歩いているとーーーー

 

「さぁさぁ買った買った‼︎巨黒魚(ドバメス)丸々二匹で三五〇〇ヴァリスだ!」

「お家秘伝のポーションあるよ!ちょっとお高いが効果はお墨付きだ!」

「誰か僕のファミリアに入って下さぁぁぁぁい!」

「シャガ丸くんの新しい味発売だよ!」

 

想像を超える余りの喧騒に思わず耳を塞ぐ。ていうかオラリオは何時でも何処かが騒がしいのか?

ヴェルフはおっかなびっくり歩きながら市場を見渡す。

屋台には色とりどりの野菜が並び、新鮮な魚がいたる所で跳ねている。装飾品(アクセサリー)の店や巨大な魚をさばいてみせる店もあり活気に溢れていた。

ヴェルフの鼻腔にはジャガ丸くんを揚げる香ばしい匂いが漂ってくる。ふとその匂いのする方に足を向けると金髪の女性が鈴の鳴るような澄んだ声で

 

「……ジャガ丸くん小豆クリーム味を一つ下さい。」

 

と注文するのが見えた。甘いものがそこまで好きではないヴェルフはそのような甘さを極めたような味が存在するのか……?と思い、それを注文した人を一目見ようと足を止める。

その人が振り向いた瞬間ヴェルフの時間が止まった。

後ろからも見えた流れるような金髪と同色の瞳。その周りの人と一線を成す圧倒的美貌。その事から美形の種族で知られる「エルフ」を連想するが特徴の無い事から人間(ヒューマン)であることに気づく。ヴェルフの脳裏に浮かぶのはラキアの頃に見たオラリオの情報誌。

 

ーーアイズ・ヴァレンシュタインーー

『剣姫』

Lv5の上級冒険者でオラリオ最強の一角。寡黙であり戦闘狂という噂もある。その優れた容姿からファンや求婚する男性も多い。(すべて玉砕されている。)ーー

 

ドン!!

 

「ちょっとそこのにいちゃん!こんなとこで止まってんじゃないの!」

 

肩にぶつかると同時に掛けられた言葉で我に返り、声の主を見る。その声の主は鞄を抱えたガタイのいい女性で、「オカン」という代名詞がぴったりのドワーフだった。頭を軽く下げて謝罪すると女性はふん!、と鼻息荒く去っていった。

ヴェルフは直ぐ『剣姫』がいたところに視線を戻すがそこにいたのは幼女神(ヘスティア)だった。

 

「おじさん!僕に塩味をくれたまえ!」

 

「ハハッ、分かったよ。四〇ヴァリスだ。………ほれ、プレゼントだ。」

 

ジャガ丸くんの屋台の旦那は元気なヘスティアの様子に気をよくしたのか、おまけを付けていた。というかなんでこんなとこにヘスティアが?それに一体、あのロリ神はいつ働いているんだろうか?偶に帰ってきては遊んで寝てまたどこかへ行って。神のいう「ニート」ってやつなんだろうか。

 

「ん?そこにいるのは何時ぞやのヴェルフ君じゃないか。どうしたんだいこんなところで?」

 

あなたに聞きたいんですけどね。

内心の動揺を抑え、答える。

 

「腹が空いたので、食材探しにきました。」

 

「そうかそうか!ならあそこの食堂に行くといいよ!あそこは美味いんだ!アレを食べた後甘いシャガ丸くんを食べると天にも登る気分だよ!神だけど!」

 

ヘスティアはある食堂を指差すと別れを告げ去っていった。

ヴェルフは元々自分で料理するつもりだったが、外食でもいいかと思い食堂に立ち寄る。

入れば、無愛想な店主が一人で切り盛りをしていた。

 

「お前はイケる口か?」

 

「は?……いや、割となんでも食えるが」

 

そうして答えたのが運の尽き、目の前には煮えたぎる真っ赤なナニカがあった。

 

「食え」

 

店主の眼光に負け、ヴェルフは吹っ切れ勢いよく書き込んだ。

 

 

____________________________________________________________

 

 

腹を満たしたヴェルフは夕食の材料を買い込み、自分の工房へ戻った。

剣をもう一度熱し赤く染めあげる。気持ちを切り替え剣を叩く。叩く度に火の粉が飛び散り、だんだんと窓の光が月の光に入れ替わる。

外は静寂に包まれ、オラリオの南東部の娼婦街が光を灯し始めた頃。

剣を水につけ刀身を露わにする。刃は薄い灰色で月の光を浴び鈍く輝く。ヴェルフはこの『魔剣』に銘をつける。

 

 

 

天焦がす荒ぶる爆炎

魔剣『天爆』ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ誰も起きないような早朝、ヘファイストス・ファミリアのホーム前には同じファミリアの人でごった返していた。その中心にいるのは対峙するそれぞれ剣を持った女と男。

『洗礼』を受ける男、ヴェルフ・アルゲースは女、団長、椿・コルブランドを見る。椿は負けるはずがないと少なからず「油断」しているようだ。

それもそのはず恩恵(ファルナ)を得たばかりの新人(ルーキー)が一矢報いるましてや『魔剣』を打つなどあり得ない。実際オラリオには『ヴェルフ・クロッゾ』の名は周りつつも、「顔」までは出回っていなかったので椿が知らないのも当然だった。

ヴェルフは手の魔剣を握りしめる。椿の剣は光輝く白刃をしており自分との技術の差を感じる。一矢報いるなら決闘(デュエル)開始直後の一瞬だろう。

 

「ヴェル吉よ、準備はいいか?」

 

椿が問う。ヴェルフは答える。

 

「…ああ。」

 

椿は足元の石ころを掴むと

 

「この石が地面に着いたら決闘(デュエル)開始だ。」

 

天高く放り投げる。

騒がしかったファミリアの皆は押し黙り、場を緊張が包む。

石ころは刻一刻と地面に迫り、ヴェルフは手を汗で滲ませる。

 

心の中でカウントする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今だ‼︎‼︎

 

 

ヴェルフは一瞬で肉薄し剣を振りかぶる。対する椿は瞬時に判断し剣が来る位置を予測し剣を構える。ヴェルフは剣がぶつからないギリギリで足を止めた。椿はここで臆病風に吹かれたかと思い呆れて構えを崩す。千載一遇のチャンスに裂帛の気合いを持って『魔剣』を振り下ろした。

 

「天爆ぅうううううう‼︎‼︎」

 

ヴェルフの魔剣は炎を吐き出し、椿の体を包み込む。魔剣自体が魔剣の威力に耐えられなかったのか爆発四散する。ヴェルフのステイタスでは耐えきれず爆風で身体を吹き飛ばす。

椿がいた場所は今ももうもうと黒煙を昇らせている。

ヴェルフは自爆のダメージで気絶しかける頭を気合いで起こし事の顛末を見届ける。黒煙が晴れたとき、椿はーーーーーー

 

 

 

 

 

『無傷』だった。

ダンジョンで鍛え上げられた「勘」で嫌な予感を感じた椿は剣から炎があがるのを視認した途端に剣を一振り。その剣圧は炎を弾いたのだった。

ヴェルフはそれを見るとやり切ったという達成感がある顔をするが僅かに顔に悔しさを滲ませ目を閉じた。

 

 

 

 

……いや、少し訂正しよう。『天爆』の炎は椿の「火の耐性」がある袴を僅かに焦がしたのだ。

ヴェルフ苦肉の策は確かに成功を遂げていたのだった。

椿は焦げた部分を見つめ、気絶したヴェルフに目を向けると

 

「……面白い奴だ」

 

と呟いた。

 

 




椿さんはゴライアスぶった切ったんだからこれぐらい強くていいと思うんだ。
第五話にしてやっとまともな戦闘シーンである。次回はバトル多めにしたい(切実)
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