ヴェルフが魔剣を強くするのは間違っているだろうか   作:カブタロウ

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第八話です。お楽しみ下さい。


第八話 迷宮都市オラリオ

満点の星空が広がる深夜、オラリオは日中とは違った賑わいを見せる。

あらゆる酒場に冒険者がごった返し、暗かった娼婦街も鮮やかな光を灯して薄着のアマゾネスの女性が(金づる)を探して練り歩く。

 

「聴いて驚け!俺の武勇伝!あの時俺はゴブリンに対してこう……」

「ぬわぁぁぁぁぁん、疲れたもぉぉぉぉん」

「あら、いい男だね。……どう?ヤってくかい?」

「俺のファミリアにはいってぇぇぇぇ!」

 

そんな中、ヴァリスが詰まった大きな包みを持つ一人の青年があっちへふらふらこっちへふらふらとふらついていた。

 

ドン‼︎

 

強面のドワーフと肩をぶつける。

 

「あぁん?そこのあんちゃ…ん…………。」

「………」(チラッ

 

その青年の顔色はすっかり青ざめ、幽鬼の様な顔をしていて死んだ目でドワーフの冒険者を見つめる。

 

「うわぁーー!?でたァああああああああああ!?」

 

全力で逃走する。

 

この世の終わりのような表情の青年の名は「ヴェルフ・アルゲース」。新人(ルーキー)の鍛治師兼冒険者であり、低ステイタスながらダンジョンで大暴れした人物である。

このヴェルフという人物がここまで追い詰められているのには理由がある。

それはバベルでのエイナの『勉強会』だ。ギルドでも有名なこれはスパルタであることで知られている。耐えきった冒険者は今までおらずヴェルフはそれに耐えた唯一の冒険者だ。しかし反動は大きく大量の魔石を換金した後の自我は殆どはっきりしていない。

ヴェルフはやっとの思いで自分の工房にたどり着き、すぐ死んだように床で眠りについた。

 

 

……余談だがその日を境にある都市伝説がオラリオに飛び交う事になる。

『夜道に現る黒い死神』

ーーこの死神は人を斬る。その太刀で目に映る人全てを。そして死体は包みに隠して証拠を残さない。あったら最後、次はない。ーー

だから良い子のみんなは夜お外に出たらダメだよ?」

 

『はーい』

 

この話は長くの間オラリオの子供達を恐怖させる怪談となった。

(そして神の笑い話になった。)

 

______________________________________

 

 

 

「くっ、ふぁぁあ」

 

朝に目を覚まし体を伸ばして欠伸を一つ。窓の外の様子から今は朝。

床で眠ったからか顔に煤がついているようだ。目を手で擦ると手に黒い線が出来た。

一旦シャワーを浴びて気持ちを切り替える。

そして浴び終えたヴェルフは椅子に腰掛け顎に手を当てて呟く。

 

「今日は何をしようか……」

 

ヴェルフは今日、ダンジョンには行かないつもりだった。早朝とはいえない朝の時間帯では道に冒険者が溢れているからだ。この調子ではダンジョンに向かうだけで一苦労だろう。人混みが嫌いなヴェルフは他にすることはないか考える。

 

そういえばこの日はステイタスの更新日だ。ヘファイストス・ファミリアのホームに行くとしよう。ついでにインゴット買っていくつか武器を打つか。

ヴェルフは服装を整え朝食を済ませヘファイストス・ファミリアに向かうのだった。ーーーー

 

 

 

ステイタスの更新日は眷属(ファミリア)によって時間が違う。大抵一カ月に1~2回だが恩恵(ファルナ)を授かって半年以内の新人(ルーキー)は優先され一週間に一回は更新される。ヴェルフもその中の一人である。

新人(ルーキー)は死にやすい。ダンジョンに慣れておらず、低ステイタスの内ではどう頑張っても少しリスキーな戦いになる。しかしステイタスの伸びは高い。なのでこまめに更新をされるのだ。逆に大体半年を過ぎると充分にステイタスが上がりダンジョンに慣れてくる。そしてステイタスの伸びが(普通は)著しく低くなる。一カ月に一回ぐらいでないと成長を実感できない。ーー

 

ーーとは団長の椿・コルブランドの談だ。自分だけ更新の頻度が多いのを疑問に感じて問うた。ていうか最近団長に会っていない?そんなことはないか。

路地を歩いてホームにたどり着く。三日ぶりに見るホームは久しぶりに見たかのような錯覚を覚えた。そして武具が並ぶ店内を通り奥の執務室の前に立った。

 

______________

 

鍛治系二大ファミリアの一つ、ヘファイストス・ファミリア主神。ヘファイストスまたの名をヘーパイストスと呼ばれる鍛治神は今日という日を数少ない楽しみにしており、美しい笑みを浮かべていた。

 

「ふふ、まだかしら?」

 

この日は最近ファミリアに入ったばかりの新人(ルーキー)であるヴェルフのステイタス更新日だ。

この子は大成する。面白そう!と超越存在(デウスデア)の勘で感じ取ったヘファイストスはヴェルフがどんな経験値(エクセリア)を積んだのか気になって仕方がなかった。執務室の机で書類に軽やかにペンを走らせていながらもその楽しげな微笑みが崩れることはなかった。

やがて

 

トン、トン、トン、トン

 

「ヘファイストス様、ステイタス更新に参りました『ヴェルフ・アルゲース』です。入ってもよろしいでしょうか?」

 

ああ、来た。あの子だ。

 

「良いわよ、入って」

 

ドアから出てきた燃え盛るような赤い髪に思わず心が跳ねる。

こんなに興奮するのは何百年前だったかしら?下界に降りた頃かしら。

『こっち』に来て良かった!天界で代わり映えのない日々を過ごしただ武具を打つ生活の何倍も『楽しい』!

でもそんなはしたない心を子供たちには見せられない。威厳がありつつ優しさを感じさせる声で彼に言葉をかける。

 

「待ってたわ。早速ステイタスの更新をしましょう。さぁ寝そべって」

 

彼は上着を脱いで台へ寝そべる。私は針を取り出し彼の背中に刻んだ恩恵(ファルナ)を見つめる。そして指を刺して神血(イコル)を垂らす。波紋が浮かび私にしか見えない彼の経験値(エクセリア)を取り出す。

 

 

その経験値(エクセリア)に笑ってしまう。

何!この子!たった二回のダンジョンでこのステイタスで三九体も倒してしまうなんて!やっぱり面白い!

有用な経験値(エクセリア)恩恵(ファルナ)に刻む。やがて波紋が無くなりステイタスが更新される。

その神聖文字(ヒエログリフ)共通言語(コイネー)に書き変える。

 

【ヴェルフ・アルゲース】

力: I 20→I 45

耐久: I 15→I 46

器用: I 19→I 47

敏捷: I 13→I 34

魔力: I 18→I 21

 

《スキル》

魔剣鍛造(スィクロプ・メイス)

・魔剣製造可能

・作成時における魔剣能力強化

・鍛造時の叩く回数に応じて補正上昇

 

 

____________

 

 

俺は主神からステイタスの紙を受け取る。

 

「一気に上がったわね。一体どんな無茶をしたのかしら?」

 

主神の問いかけに「エイナ」の顔を思い出し背中に冷や汗を滲ませる。

 

「いや、少し調子に乗ってしまいました。」

 

「そう…まあ死ななかったら良いわ。」

 

エイナの二の舞いにならずホッと安堵する。

 

「でも死ぬことのないようにね。」

 

「……ハイ。」

 

 

そして執務室を出た。

 

 

 

ホームを出るとピークを過ぎたのか道の通行人はまばらだった。

 

「インゴットを買いに行くか。」

 

ヴェルフはヘファイストス・ファミリア御用達のインゴットを扱う店に向かった。

その中でインゴットを選びながらこんなことを考えていた。

 

ーー金属は武具の本質である。金属がなければ鍛治師は存在できない。元々金属というのは加工のしやすさから大昔に装飾品として使われていた。それから闘争の歴史を経て今の「武具」という形になった。金属の性質は今までで判明されているのに叩くと伸びる性質がある。且つ強い衝撃で割れづらい。その叩くと伸びるという加工のしやすさと圧倒的強度で下界の人々は凄まじい発展を遂げた。言わば金属は繁栄の象徴であると共にその凶暴性から争いの象徴でもあるのだ。ーー

 

とヴェルフは思う。そしてその金属を扱うことに誇りに思う。いっそう良い武具を打てるようになろうと決意する。

インゴットを買うと「青の薬舗」へ訪れる。前の探索で殆ど使いきったのだ。

 

「失礼する。ポーションを三つ程くれ。」

 

店員なんだろう犬人(シアンスロープ)が答える。

 

「……一八〇〇ヴァリス……」

 

カウンターにヴァリスを置いてその場を立ち去る。ヴァリスを置いた後犬人(シアンスロープ)の女性の耳が嬉しそうに動いていたのは気のせいだろう…。

 

 

_______________________________________________________

 

ヴェルフは帰路に着き、工房に戻る。

 

「今回は久しぶりに防具を打つか…」

 

多めに仕入れたインゴットをまとめて炉の中に入れる。

しばらくして取り出し叩いて五つほどの塊に固める。そしてまずはブレストプレートを作製する。全体を打って金属を薄く平らに仕上げ、胸の形に合うよう内側を叩いて反らせる。後は冷まして紐をつけたら完成だ。その調子でレッグやアームを作製していく。

完成した装備一式。若干小さく装備の数は少なく、軽装(ライトアーマー)の部類に入る。装飾はなく実用性を重視した一品。ヴェルフは銘を打つ。

 

 

白銀の雷徒亜魔

【ヴェルフ・アルゲース】

 

 

…なかなか微妙なセンスをお持ちのようで…。

 

 

 

 

 

冒険者がダンジョンから帰還し酒場が繁盛する頃。

自信作ができたヴェルフは残るヴァリスを持って『豊饒の女主人』へと足を運んだ。ダンジョンで多くの収入を得たからお祝いみたいなものだ。(その後は勉強会が待ち受ける)そのあとの事を考えて若干テンションを下げるが今はハッチャケるか!と前向きに考える。(人はそれを現実逃避という)そして『豊饒の女主人』のドアを開けた。

 

『いらっしゃいませー!』

 

店内のウェイトレスが元気に来店を告げる。それにしてもこの『豊饒の女主人』という酒場、ヴェルフがシルと知り合いでなければ来ることはなかっただろう。なぜなら店員が全員女性なのだ。店内の客も圧倒的に男性が多い。この店の雰囲気は少し気まずいなと思いながらカウンターの端の方に座り適当に飲み物を頼む。

 

「ヴェルフさんですか?」

 

横から声を掛けられる。そこには見覚えのある薄鈍色が。

 

「ん、シルか。」

 

「ヴェルフさんですね!お久しぶりです。」

 

「久しぶり、シル。」

 

この酒場唯一の知り合いであるシルと会話を交わす。

 

「ダンジョン3層で死にかけたんですか!」

 

「まあ、やり過ぎた。」

 

「いけませんよ。安全第一で死なないでくださいね。」

 

そんなたわいもない話で談笑しながら食事をとる。

その二人の楽しげな雰囲気に周りの目が優しくなっているのに彼らは気づかない。

何十分か過ぎた頃に話を切り止める。

 

「そろそろ逝くか……」

 

「この後何処かへ?」

 

「ちょっと『勉強』に。」

 

「そうですか…またのご来店お待ちしています。」

 

「ああ、また来るよ。」

 

そう言ってヴァリスを置いて『豊饒の女主人』を後にした。

ヴェルフはバベルを見上げ意気込む。生きて帰るんだ……。

そしてバベル、詳しくは「エイナ」の元へ行った。

 

 

_______________________________________________________________

 

 

バベルーー資料室ーー

 

「今日はダンジョンの地形について学びます。ヴェルフさんの行く『上層』はあまり変化はないけど10層ぐらいから変化し始めます。このあたりは霧が出ていて見通しが悪い。そして初の迷宮の武器庫(ランドフォーム)が現れます。戦闘の前にに壊しておきたいね。そして『最初の死線(ファーストライン)』と呼ばれる13層からは横穴ができます。これはとても危険でどこに落ちるか分からないから絶対落ちたらダメだよ。ちなみにこの階層には『ヘルハウンド』が出現するからサラマンダー・ウールを着用するように。後、偶に『バッドバット』が大量発生して天井が壊れることがあるから注意して。それからーーーーー」

 

エイナの教えを必死にメモを取ってついて行く。恥ずかしいところを見せたくないという最早ただの意地で食らいついている。

 

「今日はこれでおしまい!最後の確認テストだよ。赤点とったら追試もあるから頑張って!」

 

ヴェルフは持てる知識を最大限に発揮して目の前のペーパーテストに答えを書き込んでいく。

追試を免れたヴェルフは工房に着くと寝床を確保し眠りにつく。

 

オラリオは今日も平和だ。

 

 

 

 




今回はダンジョン成分ありませんでしたね。そして若干のコメディ(?)
あんまり面白くなかったかも。
次回からは短めの外伝を挟んで急展開します。楽しみにしていて下さい!
感想・批評お待ちしています。
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